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Alive In World Online  作者: 一狼
第11章 The Fool
57/83

55.支配された都市とAliveOutと土曜創造神

 崖から飛び降りた俺は空中でトリニティを引き寄せ落下の衝撃に備える。


 胸の中でトリニティが喚いているがそれに構っている暇は無いので無視する。

 無論、俺もなんの勝算も無しにトリニティを助けるために崖から飛び降りた訳じゃない。


 まずは空中でジャンプする事を可能にするジャンプ戦技で多段ジャンプを行いながら落下速度を落とす。

 落下中なので思ったよりも速度は落ちず足に多大な負荷が掛かるも僅かばかり周囲の風が弱まるのを感じた。


 だがそれでもこのまま地面に落下すれば大ダメージは免れないだろう。

 地面に落下すれば(・・・・・・・・)だが。


 俺の目に映るのは地面ではなく水面。そう、崖の下にあるのは激流の川だった。

 野営をしていた場所に川があった事から崖の下にはそこに繋がる川があるのではと予想していたのだ。

 そして見事俺はその賭けに勝った。


 俺はトリニティを抱いたままなるべく着水のダメージを減らす為丸まって落ちる。

 激しい水飛沫とともに俺達は激しい水流に飲まれ上下感覚が分からなくなる。

 おまけに思ったよりも装備の所為で身動きが取れず、トリニティも水中で暴れまくるせいで互いに溺れてしまった。


 そう言えば衣服を着たままの水泳ってかなりの技術を要するって聞いた事があったな。

 俺は気が遠くなるのを感じながらそんな事を思い出していた。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「う・・・ここは・・・?」


 目を開ければ知らない天上が見えた。


 俺は起き上がり周囲を確認する。

 そこは小さな殺風景な部屋でベッドが2台並べられ、俺とトリニティがそれぞれ寝かされていた。


 どうやら俺達はあの崖から飛び降りて助かったらしい。

 だがこうして建物の中に居ると言う事は誰かが運んでくれたと言う事だ。


 それはありがたい事だが、助けてくれた人物が善意で助けたのか悪意を持って助けたのかで状況が変わってくる。

 俺はまずは身体の確認を行った。


 怪我は・・・無し。いや、心なしか後頭部に痛みがあるような・・・

 後は体に奴隷の首輪などを付けられた様子も無し。少なくともいきなり最悪な状況は免れていると思っていいか。


 身に着けていた装備は外され壁際に寄せられていた。

 俺は立てかけられてあったユニコハルコンを手に取り抜く。


「ユニコハルコン、状況を説明できるか?」


【主よ、まずは無事で何より。

 状況だが、主たちは崖から川に落ちた後流されたまでは覚えているだろう。

 暫く流された後、主たちは2人の男女に助けられた。助けられた近くの場所には町があり、主たちはそこへ運ばれた】


「そいつらはどんな感じだった?」


【気絶している主たちを心配していた。我の見た感じだと悪い奴ではないと思えたな。

 お人好しと言う訳ではないが、善良な人物であろう】


 ふむ、それならばこの状況はそれほど警戒するほどでもないか。


 それにしても意外と役に立っているな、ユニコハルコンのこのお喋り機能。

 普段は煩いだけだが、こうして俺達が気を失っている間の状況が把握できるのなら使い勝手は広がるな。


 暫くこの後の状況をどうするか考えていると、トリニティも目を覚ました。


「あれ・・・ここは・・・?」


「よう、目が覚めたか」


「あ! 鈴鹿! 良かったぁ・・・アルカディアに来たら2人とも居ないんだもの。あたしだけがはぐれちゃったのかと心配したよ」


 トリニティは俺の姿を確認すると安堵した表情を見せる。

 まぁ、俺もアルカディアに転送された時に2人の姿が見えなかったから少しだけ心許なかったから気持ちは分からないでもない。

 そう考えると、俺もトリニティとアイさんと一緒に居ることが当たり前だと慣れてしまってることに気が付く。


「あ、そう言えばアイさんは・・・?」


「いや、俺も転送された時は1人きりでアイさんの姿は見ていない」


「そっか・・・みんなバラバラに飛ばされちゃったんだ。そう考えると鈴鹿と合流できたのは運が良かったのかな?」


 そうだろうな。アルカディアがどれくらい広いか分からないが、全く見知らぬ土地で直ぐに合流できたのは幸運だったと言えよう。


「それで、ここは?」


「いや、俺も良く分からん。どうやら助けてもらったらしいが・・・」


 俺が言い終わる前に、部屋に2人の男女が入ってきた。

 男は俺よりも身長が高く190cmもありそうだ。

 体格はひょろりとした痩せ型で手には身の丈もある杖を持っていた。

 女は男とは逆に小柄で150mちょい位の身長をしていた。

 栗色の髪をポニーテールにしており、背には短弓と矢筒を下げている。


「あ、目を覚ましたのね。良かった、気が付いて。貴方達がスターダスト川の上流から流れてきたのを見つけた時は驚いたわ」


「うん、ビックリしたよ。まさか川から人が流れて来るとは思わなかったからさ」


「ここに運ぶのも苦労したのよ。ラオは見た目通り力仕事に向かないからね」


「酷いよ。確かに僕は力は無いけど運ぶのに苦労したのはユリアじゃない。

 自分よりは力があるからって僕に彼女を任せ、自分は彼を運ぶって聞かなくて。その所為で彼を頭から落っことしたじゃないか」


 ・・・後頭部が痛かったのはその所為か。


 と言うか、普通は逆じゃないのかよ。

 ユリアはそれとも男はどうでもいいと思っている節があるな。男女の扱いに差がありそうだ。


「取り敢えず礼を言わせてもらうよ。助かった。崖から落ちた所為で思うように泳げなかったから溺れて気絶してしまってな。

 まぁその所為で余計な力が掛からずに流されて助かったみたいだが」


「うん、助けてくれてありがとう」


 俺とトリニティは素直に礼を言う。

 ラオとユリアは俺達の礼を受けとりながらも俺達が川に流された状況が気になったようだ。


「崖から落ちたって・・・貴方達何処から流されてきたのよ」


「スターダスト川の上流って、確かホイルフォー山だったよね。って、あんな所から流されてきたの!?」


 2人は俺達が流されてきた場所が山からだと知って驚いていた。

 どうやら俺達が転送された場所は思ったよりも普通じゃなさそうだった。


「あんな所って言われても今の俺達には良く分からないんだが。

 ここってアルカディアで合っているんだよな? 俺達はエンジェルクエストを攻略してアルカディアに来たばかりなんだ」


「正確にはもう1人いるんだけど、ちょっとはぐれちゃったみたいなの。何か知らないかしら?」


「あ、貴方たちアルカディアに来たばかりなの? でもそれっておかしいわね。普通なら七曜都市のどこかの転送陣に現れるはずなんだけど」


「うん、そうだね。来たばかりという事はまずはアルカディア人に案内されるか僕達の仲間が保護しているはずなんだ。

 それが町の外からと言うのはおかしいよね」


 やっぱり・・・転送先がいきなり丘陵や山などと言うのはおかしかったんだ。

 思った通り、転送先は町中でチュートリアルと言う訳でもないが案内があるっぽいな。

 ただ・・・ちょっと気になったのが、「保護」という言葉だ。


「その話、もう少し詳しく教えてくれない?」


 トリニティも気になったのか早速盗賊(シーフ)として情報収集を始めていた。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 俺達はお互い自己紹介をし、俺達はアルカディアに来た経緯を話す。


 アルカディアに来る人たちの理由はほぼ決まっており、異世界人(プレイヤー)であれば更なる力を求めて、天地人(ノピス)であれば楽園又は不老長寿を求めてアルカディアを目指すそうだ。


 因みにラオは異世界人(プレイヤー)でエンジェルクエストと言うグランドクエストをクリアした先の新たなステージを望み、天地人(ノピス)ユリアは楽園を求めてアルカディアに来たそうだ。


「鈴鹿達のように人を探してアルカディアに来るっていうのは無いわけじゃないけど、珍しいわね」


「うん、そう言う人が増えてきたのは最近だよね。やっぱりアルカディアから戻った人が居ないと言うのが問題になって来てるんだ」


「因みに鈴鹿が捜しに来た幼馴染って誰? もしかしたらあたし達も知っているかもしれないわ」


「ああ、ここじゃディープブルーって名前だったか。知っているか?」


 ユリアとラオは唯姫――ディープブルーの名前を聞くと明らかに動揺し態度が挙動不審になった。

 その様子に俺は2人が唯姫の事を知っていると判断した。それも悪い方向で。


「知っているのか!? ディープブルーは今何処に居る!!」


「ちょ、ちょっと! 鈴鹿、落ち着いて!」


 思わず2人に詰め寄る俺にトリニティが止めに入る。

 その時の俺の表情は鬼気迫るものがあったと後に2人は語っていた。


 それはそうだろう。その為だけに俺はわざわざ面倒くさいエンジェルクエストを攻略してアルカディアまで来たんだから。

 それも唯姫に良くない事が起きているとなれば尚更だ。


「あ、うん。ディープブルーの事は知っているよ。と言うか、あたし達のクラン『AliveOut』のメンバーでもあるから。ただ・・・」


「ただ?」


 ユリアはそこまで言っておきながら口籠ってなかなか先を話そうとはしない。

 イラついて蓋毘詰め寄ろうとする前にラオが続きを話す。


「ユリア、いつかは分かる事だから黙っていてもしょうがないよ。

 鈴鹿くん、ブルーさんの事を話す前にまずはこのアルカディアの状況を説明するよ。ブルーさんも関係のあることだし」


「・・・分かった。説明を頼む」


 取り敢えず俺の落ち着いた様子を見て安堵したユリアはアルカディアの現在の状況を話し始めた。


「まずはここ神秘界と呼ばれているアルカディアは、八天創造神が治めている世界と言うのは知っているよね。

 天と地を支える世界(エンジェリン)じゃ神秘界(アルカディア)は争いの無い理想郷と言われているけど実際は全然違ったわ」


「まぁ、ある意味理想郷だけどね。但しそれは神にとってのだったんだよ」


 そのあたりは予想は付いていた。

 『知恵と直感と想像の使徒』のソフィアテレサの考えと一致する。

 神秘界(アルカディア)は八天創造神の為に創られた世界だと。そして俺の予想では八天創造神はArcadia社の幹部ではないかと。


 Alive In World Onlineの現在の状況――意識不明者を出しておきながら放置している状況は明らかにArcadia社の上層部が関わっている。

 23年前のAngel In事件の真の黒幕がArcadia社の幹部、そしてその幹部が行方不明、神秘界(アルカディア)に捕らわれたプレイヤー、神秘界(アルカディア)を支配する八天創造神、これらを繋ぎ合わせれば簡単に想像が付く事だ。


神秘界(アルカディア)には7つの都市があり、それぞれ八天創造神が1神ずつ支配しているわ」


「支配って具体的には?」


「そのまんまの意味よ。絶対服従。どんな命令も従わなければならない。

 アルカディア人は何の疑問も持たず命令を受け入れているけど、いくら神だからって平気な顔をして人の命を奪うのはおかしいわよ」


 トリニティの質問に苦々しい顔をしながら答えるユリア。

 聞くところによると、仲間同士で命の奪い合いをさせそれを眺めて悦んでいる神や、実験と称して人々を攫って行く神も居るらしい。勿論戻ってきた人など1人も居ない。


「その絶対服従って自分の意思とは無関係に体が従う訳じゃないよな?」


「もしそこまでの強制力があるとしたら今あたし達はここには居ないわよ」


 どうやら第四衛星都市ハレミアでエチーガの野郎が使っていた強制命令権(マスターコマンド)みたいな力は無いみたいだな。


「勿論それをどうにかする暴力的な力はあるけど。

 八天創造神に従う絶対的な力を持つ兵士、それが神秘界の騎士(アルカナナイト)よ」


「そしてそれが僕達が神秘界(アルカディア)から脱出する鍵でもあるんだ」


 神秘界の騎士(アルカナナイト)

 それはタロットのアルカナをモチーフにした八天創造神を守る騎士であり、神秘界(アルカディア)天と地を支える世界(エンジェリンワールド)を繋ぐ唯一の扉を開く鍵を持つ守護者でもあると言う。


 天と地を支える世界(エンジェリンワールド)から神秘界(アルカディア)に来るのにはエンジェルクエストを通せばだれでも来れるが、逆に神秘界(アルカディア)から天と地を支える世界(エンジェリンワールド)に戻るには八天創造神の許可が居るらしい。

 勿論その帰還が認められたことは一度たりともない。


 それ以外の帰還となると、八天創造神が神秘界(アルカディア)を作った際に非常用出口として緊急避難口(エスケープゲート)を使っての帰還になる。

 因みに緊急避難口(エスケープゲート)離魂睡眠(ログアウト)も兼ねており、異世界人(プレイヤー)はそのまま現実世界(リアル)に戻れると言う。


「いや、待て。最近神秘界(アルカディア)に来た異世界人(プレイヤー)はまだ大丈夫だが、かなりの長い間、半年以上もここに居る異世界人(プレイヤー)は・・・」


「うん、最近来た異世界人(プレイヤー)異世界(テラサード)・・・現実世界(リアル)の状況を聞いているから知っているよ。

 その人たちはもう、現実世界(リアル)に戻ることを諦めてAIWOn(ここ)に骨を埋める覚悟でいる人も居るよ。

 その人たちは神秘界(アルカディア)よりも天と地を支える世界(エンジェリン)の方が良いって帰還することに協力してくれているけど。まぁ、中にはやけになって暴れたり八天創造神側に付く人も居るね。それも仕方ない事だと思うよ」


 ラオの言葉に俺はどう声を掛けていいのか分からずにただ黙っているだけだった。

 ラオ自身は4か月とまだ2か月ほど余裕があるが、そうのんびりした時間があるわけでもないし、現実世界(リアル)での体も半年持つとも限らないのだ。


「まぁ、そんな訳で八天創造神に対抗する手段として結成されたクランが『AliveOut』。

 神秘界(アルカディア)唯一のクランで、神秘界(アルカディア)からの脱出を目的としたクランよ。

 何でもクラン名はこういった閉じ込められた状況を打破したことのある最強のクラン名の一部を借りたってクランマスターが言ってたわ」


 『AliveOut』の目的は神秘界(アルカディア)からの脱出と言う事で、一番の目標は神秘界の騎士(アルカナナイト)の討伐兼鍵の入手。

 既に何体かの神秘界の騎士(アルカナナイト)を倒して鍵を入手していると言う。


 次点の目標として八天創造神の活動の妨害。主に異世界人(プレイヤー)天地人(ノピス)への絶対服従行使を阻害する事や、重要施設と思しき場所の破壊を模な行動としていると言う。


 どちらかと言うとゲリラ活動がメインとしたクランだな。


 神秘界の騎士(アルカナナイト)の撃破は強力な冒険者が居ないと倒せないほどの強さなので『AliveOut』の精鋭がこれに当たり、他のメンバーは新たに神秘界(アルカディア)に来るエンジェルクエストの冒険者の保護や、八天創造神に捕らわれた仲間の救出などが主な活動だ。


「その仲間の救出部隊にディープブルーが居た・・・?」


 いや待て。居る、じゃなく、居た?

 俺の疑問を裏付けるかのようにユリアは恐る恐る口にする。


「・・・うん。土曜創造神に捕まった大勢の人たちの居場所が判明してね。それで救出するためにブルーちゃんを含むメンバーが向かったの。

 特に土曜創造神はかなりたちの悪い創造神で暴虐非道な事ばかりするって情報だから実力のあるブルーちゃん達が向かう事になったの」


「ブルーさんは天と地を支える世界(エンジェリン)でも『八翼』の二つ名で知られた人だったしね。

 でも、彼女たちは戻ってこなかった」


 俺はその言葉を聞いて思わずラオの胸ぐらを掴んで壁に叩きつける。


「当然救出に向かったんだろうな!!」


「勿論向かわせたさ! けど、その人たちも戻ってこなかった。

 救出部隊のリーダーはこれ以上の被害を出さないためにも土曜都市へ救出に向かう事を禁じたんだ。もっと詳細な情報を入手するまでは手を出すなって」


 ギリッ


 どこのどいつだ。そんなふざけた命令を出した奴は。


「おい、その救出部隊のリーダーとやらは何処に居る。仲間を見捨てるような奴はぶん殴ってやる」


「な・何を言っているんだよ、鈴鹿くん。リーダーだって苦渋の思いで決断したことなんだよ」


「ふざけんな! 仲間を見捨てて苦渋も何もあるか! さぁ言え! そいつは何処に居る!」


 更に締め付けを強めラオに迫る。

 そこへトリニティが俺に近づき手を振り上げる。


 バシンッ!!


 振り抜いた手は見事俺の頬を叩き、一瞬目の前に星が飛ぶ。


 どう見ても普通の平手打ちじゃない威力で叩かれた。


「落ち着きなさい、鈴鹿。貴方は大勢の人を犠牲にしてたった1人の女性を救出しろってでも言うの? そんなことをユキって人が知ったら喜んでくれるの?」


 トリニティに詰め寄られ俺は言葉に詰まる。


「鈴鹿の言っていることは全部ユキを中心に言っている事じゃないの。その為に仲間を犠牲にしろって鈴鹿の方がよっぽど仲間を見捨ててるじゃない。

 ユキの事で頭が一杯なのは分かるけど、少しは落ち着きなさい」


 そう言われて俺は頭を冷やす。

 トリニティの言う通り俺の怒りは唯姫を中心に考えており、その為の犠牲ならいとわないと言うものだ。

 はは、確かに俺の方が仲間を見捨ててるわ。トリニティが引っぱたいてまで頭を冷やせと言う訳だ。


「悪い・・・頭に血が上り過ぎていたみたいだ」


「ううん、僕の方こそゴメン。鈴鹿くんのこと考えればもう少しオブラートに包んで言った方が良かったんだ」


 まぁ、それでも俺は怒り狂ったと思うが。

 俺ってこんなにも短気だったのか。

 ・・・ああ、短気だったな、そう言えば。現実世界(リアル)では唯姫の事で光輝の石ころ野郎と良くぶつかってたな。

 そう考えればこの2か月間、よくも爆発しないでいられたもんだ。


「あの、ねぇ、ブルーちゃんって鈴鹿の恋人?」


「いや、恋人と言うよりも幼馴染だよ。大切な、な」


「ふぅ~ん・・・幼馴染ねぇ」


 ユリアはそう言いながら俺の顔を見て意味ありげに笑っていた。

 ・・・俺は嘘はついてないぞ。嘘は。


「鈴鹿も冷静になったことだし、この後の事を考えましょ。

 あたし達の目的はディープブルーの救出。そして神秘界(アルカディア)からの脱出。ユリアたちには出来ればそれに協力してもらいたいんだけど」


「でも、リーダーがまだ手を出すなって・・・」


「それは『AliveOut』のメンバーは、でしょ? あたし達は違うわよ。あたし達はあたし達の理由で行動する。

 まぁ、ユリアたちはその救出部隊の今後の作戦に影響があるからリーダーさんとやらにあたし達の事を報告してもいいわよ。

 寧ろそっちがあたし達の行動に作戦を合わせなさいよって言うわ。ね、鈴鹿」


 ラオが救出部隊のリーダーの命令に従って協力は出来ないと申し出るが、トリニティはどこ吹く風だ。

 寧ろこっちが勝手に動くからそっちが作戦を合わせろと言う始末。


 ははっ、言うようになったじゃねぇか、トリニティ。


 俺は思わず笑みを浮かべる。


「うちの情報担当者がこう言ってるんだ。そのリーダーさんに早く伝えた方が良いんじゃないのか?」


「えええっ!? ちょっと待ってよ。直ぐにリーダーに連絡なんて取れないよ。各都市を転々としているから何処に居るか分からないし」


「ぷっ、ぷくく・・・いいわね、凄くいい。トリニティ、貴女凄く良いわ」


 狼狽えるラオとは対象にユリアは何かがツボにはまったのか笑い声を上げトリニティをべた褒めする。


「ラオ、あたしは鈴鹿達に協力するわ。貴方は取り敢えずはこの都市に居る『Alive Out』のメンバーにこの事を報告してきなさい」


「えええっ!? そんな、面倒を全部僕に押し付けるつもりなの!?」


「だってあなたは反対なんでしょ?」


「そりゃあそうでしょ。リーダーだってこのままじゃ良くないのは分かっているから土曜創造神の拠点は精鋭部隊と一緒に襲撃するって計画してるじゃない。

 そこへ僕達が勝手に動くと計画に狂いが生じるでしょ」


 ああ、神秘界の騎士(アルカナナイト)を対象とした精鋭部隊を救出に回すのか。

 確かにそれなら成功率が上がるだろうが、その分神秘界(アルカディア)からの脱出が遅くなるから調整に手間取っているわけか。


「だから鈴鹿達はそんなことは関係なく動くって言っているのよ。こっちの計画を待っていたら何時まで立っても想い人は助けることが出来ないって、ね」


 想い人って・・・バレバレじゃないか。

 そんなにわかりやすいか?


「ああ! もう、分かったよ。僕も一緒に行くよ。鈴鹿くんたちが勝手に行動してこっちの計画が大きく狂うのは困るから僕が間に入って調整を取らせてもらうよ」


「そうこなくっちゃ、流石はラオね」


 うーむ。何だかラオには悪い事をしたな。

 ラオは流石に何も言わずに向かうのは上手くないと言う事でこの事をこの都市に居る『AliveOut』のメンバーに報告だけはさせてもらうと。


 おそらくこの後も『AliveOut』に色々関わりが生じるから俺としてもそれは構わなかったのでラオに報告を頼んだ。


 そうして俺達は唯姫を救出すための作戦を練る。







次回更新は8//25になります。

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