51.最後のログアウトとユニコハルコンと聖都アリア
「それより、鈴鹿くんは一度離魂睡眠して異世界に戻った方がいいわよ。
多分・・・これが最後の離魂睡眠になると思うから」
そうか。エンジェルクエストも残り2つ。
おそらく『天界の使徒』をクリアすれば残りはAの使徒だけだ。
最後のAの使徒も、トリニティの仕入れた情報にだと25個のクエストをクリアした後自動で開始されるのではないかと言う噂だ。
だとすればアイさんの言う通り最後の離魂睡眠になるわけだ。
この前離魂睡眠したばかりだが、この後の日程を考えればここで現実に戻っておくのは間違いじゃない。
取り敢えずは長老の言葉に甘えてゆっくり過ごし、折を見て現実に戻るとしよう。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ゆっくりしよう、とは言ったものの、実際にはスノウのあれこれの指示のついでの採掘現場の手伝いなどで離魂睡眠をする機会が延び、ようやく一息が付けたのは4日後の深夜だった。
この時間だと現実世界では丁度夜が明けるところな。
トリニティやアイさんに離魂睡眠をすることを告げ、他のロゼッタやドワーフ達にも一度異世界へ戻ることを話し俺は里で拠点としている長老の屋敷で離魂睡眠を行った。
因みに、長老はオリハルコン鉱石が必要分揃ったので、早速ユニコハルコンの打ち直しを始めるとの事だ。
補佐にはロゼッタともう1人の腕の良い鍛冶師が付くみたいだ。
――2059年6月9日(月)――
もう長期間のログイン―ログアウトも慣れたもので、この微妙な体の変化も少し体を解せば大体感覚の調整が取れるようになった。
まぁ、それでも約1週間もの体の鈍りは、修練等で鍛え直さなきゃ完全にとはいかないけど。
さて、と。親父も会社へ来ているだろうから、いつものように俺の体の健康をチェックしている綾辻さんからの簡単な検査を受けてから親父の研究室へと足を運ぶ。
「そうか。次のログインでいよいよアルカディアか」
「ああ、残りのエンジェルクエストを考えればこれが最後になるだろう。
俺も唯姫同様にアルカディアに行けば意識不明状態になるはずだ」
流石に分かっているとは言え、自分の体を置き去りにすると言うのは覚悟が要る。
いや、俺の覚悟なんかより残された親父達の方が一番辛いか。
よくよく考えれば遠い将来こうなることは目に見えていたはずだ。
それなのに親父達は何も言わずに支援してくれている。とてもありがたい事だ。
なんとしてでも唯姫を必ず連れ戻さないとな。
因みに今回はアイさんとは別でログアウトしている。
最後のログアウトと言う事で出来るだけ家族一緒の方がいいだろうと配慮してのことだ。
「鈴鹿。前にも言ったと思うが、今回のこの事件を企てたArcadia社の幹部共は現在行方不明だ。
俺と篠原とで調べた予想だとそれこそAIWOnの世界に居ると思われる。
それこそアルカディアに居るんだろうな。未だに何を企んでいるかは不明だが。
用心しろよ。お前は敵の懐に入り込むことになるんだ」
「分かってる。少なくとも俺の目的はそいつらの逮捕や撃破じゃない。唯姫を連れ戻すことだ。
とっとと緊急脱出用のゲートでも見つけて逃げて来るさ」
「・・・少し不安だが、まぁ仕方がない。1つだけアドバイスをしておこう。
いいか鈴鹿、Alive In World Onlineは普通のゲームじゃない。決して自分を見失うなよ。例え何があっても」
「あ、ああ・・・」
親父の真剣な眼差しに思わず俺は上ずる。
なんか意味深なアドバイスにも変な勘繰りを入れてしまうほどに。
「さて、そうと決まれば今日は仕事を全部キャンセルして鈴鹿と一緒に居るか」
「・・・って、はぁっ!? いいのかよ!? 今会社に来たばかりなんだろ!?」
「おいおい、息子が男を魅せて己の命を掛けようとしている時にのんびり仕事なんかしてられるかよ。
お前の雄姿を決して忘れないためにも今日と言う一日は一緒に過ごさせてもらうぞ」
「待て、その言い方だと俺が死ぬこと確定じゃないか。
俺は戻ってくるから! そんな気遣い無用だから!」
「はっはっはっ、何を遠慮しているんだか。さぁ、母さんが待っている。今日は一日家族団欒だ!」
なんか妙なテンションの親父に連れられ、俺は5日ぶりの我が家へと戻った。
ただ、家に戻ったら親父のテンションが急降下する羽目になったが。
理由としては鬼と化したお袋に睨まれていたからだ。
「お・父・さ・ん? 仕事を放って何をやってるのかしら?」
「あ、いや、ほら、鈴鹿が、ね? 最後のログアウトになるかもしれないから、さ?」
仁王立ちするお袋の前で親父は蛇に睨まれたカエルの如く正座させられていた。
「それで? 別に仕事が終わってからでも鈴鹿と一緒に過ごせるわよね? 寧ろお父さんが仕事を放っておいて鈴鹿に影響が出たらどうするのよ」
「え、えーと、その辺は大丈夫だと思うよ。俺が居なくてもAIWOnの研究は出来るようになっているし」
「でも仕事を放りだしていい事にはならないわよね?」
「・・・ハイソウデスネ」
一通り説教をして怒りが収まったのか、お袋は今日ばかりはしょうがないわねと溜め息を付き親父を許すことにし、今日一日は家族孝行をするように厳命した。
「そう・・・もうそんなところまで来たのね。お母さんはね、本当は鈴鹿が危険な目に遭っているかもしれないと分かった時からAIWOnにダイブするのは反対だったのよ」
お袋は俺の方を見て心配そうにし、そっと抱きしめてくる。
「お袋・・・すまん。こればかりは、どうしても・・・」
「分かっているわ。私だって唯姫ちゃんが目覚めない事には気が気でないもの。
でもね、可愛い息子が目を覚まさないかもしれないって分かってて笑顔で送り出すことなんて出来ないわよ」
・・・そりゃあ、そうだ。
下手をすれば本当に意識が戻らないまま死んでしまうのかもしれないと分かっていて、はいそうですかなんて送り出せるはずがない。
俺は馬鹿だな。何が黙って支援してくれることが有りがたいんだか。
お袋にこんなにも心配かけてるじゃねぇか。
「いい、鈴鹿。私は決して生きて帰ってこいなんて言わないわ。だってそれが当然なんだもの。
だから私が言えることは必ず唯姫ちゃんを連れ戻してきなさいと言う事よ。貴方はその為に行くんでしょ?」
「・・・! ああ、必ず連れ戻す」
お袋はもう一度俺をギュッと抱きしめる。
その後は親父とお袋と一緒に次の・・・最後のログインまで一緒に過ごした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――AL103年5月15日――
俺が再びAIWOnこと天と地を支える世界へ帰魂覚醒するが、長老達はまだユニコハルコンの打ち直しをしていた。
何でも聞くところによると、不眠不休でぶっ続けで打ち直しを行うんだとか。
俺は最初その話を聞いた時は長老の年齢も相まって大丈夫なのかと心配した。
だが流石伝説の鍛冶師だけあって、久々に鍛冶道具を持った時は若き頃をも勝るほどの鬼気を発し周囲を圧倒したほどらしい。
まぁ、こうなれば俺に出来ることは無事にユニコハルコンが打ち直しされることを祈っているだけだ。
錬成火山の採掘もユニコハルコンを打ち直しするだけのオリハルコン鉱石を採掘し終えたので、後は定期的に採掘する予定だ。
その為スノウを使っての特急便は必要なくなり、当初の予定通り打ち直しが終わるまで里でのんびり過ごすことにした。
と、そこでそのスノウが見当たらない事に気が付いた。
騎獣縮小の首輪が壊れてしまったのでもう小さくすることは出来なくなったスノウ。
10mもの巨体をおいそれと里の中に入ることが出来なくなったので、スノウは里の外で過ごすことになっていた。
のだが・・・里の外にはスノウの姿が見当たらない。
そう言えばアイさんの姿も見えないな。
「トリニティ、アイさんとスノウを見かけないけど何処に居るんだ?」
丁度里の外でグリュー達警備団と朝鍛錬をしていたトリニティを見つけたので聞いてみた。
「あ、鈴鹿、おはよう。もう異世界の用事は終わったんだ」
「ああ、当分は天と地を支える世界に居ることが出来るよ。
まぁ、エンジェルクエストを攻略すれば目的のアルカディアだから異世界へ戻る暇はないだろうがな」
トリニティたち天地人には俺達異世界の事情は知らない。
異世界人がアルカディアに行くことで異世界へ戻れない事を。
これまで旅を共にしてきた仲間に隠し事をするのは気が引けるが、流石にこれはおいそれと話していいような内容じゃない。
天地人は創られた幻想――NPCだとはな。
「そっか。まぁ鈴鹿は他の異世界人と違って結構長めに天と地を支える世界に居たからあまり変わらないのかもしれないけど。
あ、そうそう、アイさんとスノウだけど、アイさんの取りこぼしのあるエンジェルクエストを受けるためにスノウを借りてプレミアム共和国に向かったわよ」
ん? エンジェルクエストの取りこぼしなんてあったっけ?
俺達は3人纏まってエンジェルクエストの攻略をしていたから取りこぼしなんて無かったはずだが?
もしそうだとしたら俺も取りこぼしをしていたことになるはず。
プレミアム共和国・・・あそこに居る26の使徒は確か『探求の使徒』と『正しい答えの使徒』と『偽りの答えの使徒』と『神託の使徒』の1人で4つの使徒を兼務している怪しい占い師だったよな?
って、ああああああ! そう言えばアイさんだけが『偽りの答えの使徒』に引っかかり『神託の使徒』のOの使徒の証を貰えてなかったっけ!
「そっか、もう一度『探求の使徒』の受け答えをすることで『神託の使徒』の神託を授かりに行ったわけか」
「そう言う事。多分明日の夕方頃には戻って来ると思うわよ」
ふむ、丁度そのころにはユニコハルコンの打ち直しも終わっているかもしれないな。
となれば、明後日には聖Alice神山へ向かう事が出来るか。
それまでに準備を終えておく必要があるな。
「鈴鹿、折角だ。貴様も鍛錬に参加しろ。刀は使ってこそ研ぎ澄まされるもの。鞘に仕舞いっぱなしだと錆びついてしまうぞ。
それに団員たちに稽古をつけてやって欲しいのもあるしな」
と思考に耽っていた俺にグリューが俺にも朝鍛錬に加われと言ってきた。最後のセリフはぼそりと呟いていたがちゃんと聞こえているぞ。
それっぽいことを言っているが、白銀鼠を相手した俺の実力を直に見て知っているグリューはこれ幸いとばかりに団員の実力向上に一役買ってもらおうと言う魂胆らしい。
おそらくトリニティも見た目のとは裏腹の実力を知られているが為に朝鍛錬に参加させられたのだろう。
のんびり過ごすつもりだったが、まぁ良いだろう。
グリューの言う通り、鞘に仕舞いっぱなしだと刀――力も錆びつくからな。
適度な運動も必要だろう。1日中体を鍛えているわけでも無いし。
グリュー達警備団との朝鍛錬を終え、その後は里の中をぶらついて他の鍛冶師の武具を眺めたりドワーフの子供たちに冒険譚を聞かせたりと過ごしていた。
変わった所ではアーシェがこっちの世界でも普及し始めた異世界のボードゲーム――将棋を里のドワーフと指しており、そこへ俺が加わり、更にはトリニティも加わっての気が付けばドワーフの隠れ里VS俺達の将棋大会が開催されてしまったりもする。
因みに勝敗は9勝8敗で辛うじて俺達の勝利だ。
意外にもトリニティはこういった戦略を必要とするゲームは得意でほぼ全勝していた。
アーシェも頭の回転が良く、かなりの勝利数を稼いでいた。
そして俺が一番足を引っ張っていたりする。
おかしい、異世界の遊具なのに俺が一番下手くそなんて納得がいかないぞ。
昼間はそんな感じでのんびり過ごし、また夕方には警備団と鍛錬を行う。
夕食時にはそのまま警備団と一緒にすることになり、そこへアーシェやトリニティの綺麗どころ(?)が加わりなし崩し的にどんちゃん騒ぎの宴会となった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――AL103年5月16日――
「うぼぁ~~~~~、頭イテェ・・・・」
どうやら昨夜は飲み過ぎたらしい。
二日酔いで頭がガンガンする。
「ぁう~、ぁう~、何これぇ~、ふらふらするよ~」
見ればアーシェも二日酔いで頭を抱えて蹲っていた。
どうやら15歳の立派なレディとは言え、アルコールを飲むのは初めてのようだ。
「はい、お水。少しはすっきりするわよ」
トリニティが冷たい水を俺達に渡す。
よく見ればここは宴会をした食堂のままだ。
昨日は酔い潰れてそのままここで一晩を明かしたらしい。
俺達の他にも警備団の団員たちがそこらで雑魚寝状態だ。
「サンキュ。
・・・トリニティ、お前は大丈夫そうだな」
「そりゃあそうよ。あたしはまだ未成年よ? 飲んだとしても少ししか口にしてないわよ」
「優等生かっ!?」
思わず突っ込んだ俺は間違ってないと思う。
そう言えばトリニティはまだ14歳だったな。この世界に限らず、ファンタジー世界の成人年齢は大体15歳くらいだからトリニティのような歳でもほぼ成人扱いなんだよなぁ。
「ほら、2人ともシャンとして。
予定ではユニコハルコンの打ち直しは今日中に終わるんでしょう? アイさんも戻って来る予定だし、明日の出発の準備をしておかないと」
俺達はトリニティに促されガンガンする頭を抱えながらノロノロと動き出す。
そうだった。ユニコハルコンも打ち直しを終わった後の使い具合も見ないといけないし、アイさんからシャドウゲージに仕舞ってある旅の備品の在庫状況も確認しておかないと。
昼頃になるとアイさんが戻ってきて、しっかりとOの使徒の証を授かってきたと報告を受ける。
アイさんも加えて明日の出発の準備を整え終わる頃、グリューから長老様がユニコハルコンの打ち直しが終わったと告げられた。
鍛冶場から出てきた長老はげっそりとはしていたものの、しっかりとした足取りで俺の前まで歩を進める。
補助をしていたロゼッタ達は鍛冶場の中で精根力尽きてぐったりしていた。
長老は打ち直しをしたユニコハルコンを差し出す。
「かつては友の為に打ちし刀じゃが、今回は友の意思を継ぐお主の為に打った刀じゃ。
打ち直しとは言え、最早新たな刀と言っても良かろう」
「ありがとうございます」
俺はユニコハルコンを受けとり鞘から抜き、その刀身を天にかざす。
そこには以前よりも新品同様になったユニコハルコンがあった。
いや、それだけじゃない。
明らかに以前とは違い、その刀身からただならぬ気が発せられていた。
まるで生きているかのようにその刀身で己の存在を主張している。
「すげぇ・・・まるで生きているかのようだ」
【うむ、主よ。我には意思があるから生きているかと言えば生きているのだろう】
「・・・なんか言ったか?」
俺は思わず周囲を振り返り聞き返すが、誰も何も言っていないと首を振る。
疑問に思いながらも俺は再びユニコハルコンを見るとまた声が聞こえてきた。
【どうしたのだ、主よ。まさか我に不満でもあると言うの―――】
語りかけてくる声を無視し俺は黙ってユニコハルコンを鞘に仕舞う。
すると声は聞こえなくなる。
再び鞘から抜くと声が聞こる。
【酷いではないか、主よ。これまで主の力になって来たと言うのにこの扱いは―――】
鞘に仕舞う。
声が聞こえなくなる。
鞘から抜く。
【主よ。この不当な扱いには抗議するぞ。そもそも我が意見を述べれない事をいいことにこれまでは扱いが雑すぎたと思うのだが?】
「なんっだこれっっ!!? ユニコハルコンから声が聞こえるっ!!!?」
まさか意志ある刀ではあったと思うユニコハルコンがここまで明確に意思を表示したのはあまりにも予想外だった。
「ほっほっほっ。元々ユニコハルコンは意思がありニコと心を通わせておったのじゃが、永い時を経てその力も失われておったのじゃろう。
ユニコハルコンの主が新たにお主になったのも上手く心を通い合わせる事が出来なかった要因の一つでもあるのかもしれぬ」
なるほどな。ユニコハルコンを打ち直しすることによって元々眠っていた意思が完全に目覚めた、と。
しかも俺の為に打ち直しをしたので心を通い合わせ易くなったんだな。
「え? マジでユニコハルコンに意思があるの? 凄いじゃない。これって本物の知性の剣じゃないの」
「へぇー、凄いじゃん、鈴鹿。でもボクらには声が聞こえないから鈴鹿が独り言をしているようにしか聞こえないのは間抜けっぽいけどね」
トリニティはユニコハルコンに意思があることに目を輝かせているが、お前以前は武器に意思があるなんて信じてなかったじゃないか。
まぁあの時は旅を始めたばかりだし、トリニティも俺達に心を許してなかったから俺達の言う事は信じられなかったのだろうけど。
今は純粋に新たな仲間(?)が出来た事に歓んでくれている。
それとアーシェ。的確に突っ込むな。俺も周囲から見たらそうなんじゃないかと思っていたんだから。
【ふむ、主よ。相変わらず賑やかな仲間だな。これからも我もこの中に加われると思うと嬉しいぞ】
これまで喋れなかった鬱憤が溜まっていたのか、ここぞとばかりに話しかけるユニコハルコン。
「お前は鞘から抜かないと意思表示が出来ない上に、俺が通訳しないと会話に加われないじゃないか。
まぁ、何はともあれ改めて宜しく頼むぞ。ユニコハルコン」
【うむ。改めて宜しく頼む。我が主よ。
それと新たに生まれ変わったので、ユニコハルコン・デラックス・スーパー・ブレイドと呼んでもら―――】
「黙れっ!」
余計な事を抜かしそうなユニコハルコンを鞘に押し込め会話を強引に斬る。
そんな様子を見ていたアイさんが一言。
「何か大変そうね」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――AL103年5月17日――
「長老様、ユニコハルコンの件助かりました」
「なに、儂の方こそ最早この世には居ないとは言え、友の力になれた事に感謝しておるよ」
今は亡き師匠を思い浮かべているのか、長老は感慨深げに俺と別れの握手をする。
「鈴鹿、いろいろありがとう。あたいを助けてくれたことは勿論、白銀鼠討伐とか採掘とか里にとっては随分と助かったよ」
「俺は少し手を貸しただけだよ」
「それでもだよ」
ロゼッタも助かったと感謝の意を述べる。
特にロゼッタにとっては長老の補佐をしたことが何よりも堪えがたい経験を得たと喜んでいた。
「何か困ったことがあったら訪ねるがよい。里は何時でも貴様たちの力になるぞ」
「機会があったらそうさせてもらうよ」
グリューにはそうは言ったが、俺達はこれから二度と天と地を支える世界に戻ることが出来ないアルカディアに向かい、唯姫を助けた後そのままAIWOnから脱出するから里に来る機会はもうないだろう。
まぁ俺が来れなくても、トリニティが来る機会があるかもしれないからそのように言っておく。
俺が長老たちに別れの挨拶をしている隣では、トリニティとアーシェがグリューの息子・ロゼッタの弟のボジョーに泣き付かれていた。
どうやら里に居る間に随分と懐かれたらしい。
トリニティは兎も角、アーシェは見た目は幼女だからな。歳の近い子供として認識されていたのかもしれない。
そのことをアーシェに言えば怒りが爆発するから言わないけど。
何とかボジョーを宥めて俺達はドワーフの隠れ里を後にする。
スノウの背に乗って目指すのは聖Alice神山―――の麓にある聖都アリアだ。
「一度、麓の町で情報を集める、でいいのよね?」
トリニティはまずは情報収集と言う事で一番近場の町での調査を提案してくる。
「ああ、情報はあるに越したことはないからな。ここまで来て失敗は出来ないし、何よりアーシェの事もあるし」
そう言って俺はチラリとアーシェを見る。
これから向かう先に長年求めていた母親に会えると言うことで、アーシェは普段よりも表情が強張っていた。
「確か聖都アリアって元々都市と言うより宿場町だったんだよな」
「そうね。最初は聖Alice神殿の巡礼者が聖Alice神山を登るために体を休める場所として出来たのが宿場町ね。
けど人が集まるところに富も生まれる。そこから商人や巡礼者の護衛などが沢山集い、都市にまで発展したのよ。
元々は巡礼者が休むための地として出来たから、最初に訪れた巡礼者の名前を取ってアリアって名前になったらしいわ」
「聖Alice教徒が集まる都市か・・・もしかして町の至る所には聖Alice教徒だらけだったりするのか?」
「そうらしいわよ。だから聖都アリアには盗賊ギルドなんて無いから情報収集に時間が掛かると思うわ」
聖Alice教は人々の安寧の暮らしとモンスターの討伐が教義なんだっけ?
人々の安寧の暮らしを脅かす盗賊ギルドは必要ないって事なんだろうな。
果たしてそうなんだろうか?
清廉潔白なのはいいことなのだが、人は善と悪を抱える矛盾した生き物だ。
善と悪のバランスによって成り立っているのを無理やり一方行だけに偏らせれば歪みが生じないだろうか?
これから向かう聖Alice神殿で一波乱ありそうなのは気のせいだと思いたいが、これまで巻き込まれたトラブルの賜物が俺にそう予感させる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
AIWOn AQ攻略スレ222
225:名無しの冒険者:2058/12/13(金)01:06:30 ID:Sne9G6nD10
『天界の使徒』ありゃあ反則だろう
226:名無しの冒険者:2058/12/13(金)01:18:33 ID:Sa4oh5shO
>>225 どうしたん?
227:名無しの冒険者:2058/12/13(金)01:25:15 ID:F0kSb6C0nT
『天界の使徒』って確か聖Alice神山の山頂ある聖Alice神殿に居るんだよな?
よく登ったな。俺には無理無理
228:名無しの冒険者:2058/12/13(金)01:42:22 ID:OkitSitLow
あー、『天界の使徒』は挑戦するのに勇気がいるよなぁ
229:名無しの冒険者:2058/12/13(金)01:51:10 ID:006anDm
少なくともログイン間もないプレイヤーなら可能じゃない?
230:名無しの冒険者:2058/12/13(金)02:10:19 ID:sUo5tONan0t
エンジェリンワールドのしがらみが増えれば増えるほど攻略が難しくなりますからね
231:名無しの冒険者:2058/12/13(金)02:21:33 ID:Sa4oh5shO
ああ、そう言う事
確かにアレはやっかいだね、強さで攻略できるわけじゃないし
ある意味RPGの意味を無くしている使徒だよ
232:名無しの冒険者:2058/12/13(金)02:33:30 ID:Sne9G6nD10
>>229 それは無理! 速攻で攻略するのにあのくそ坊主が邪魔!
233:名無しの冒険者:2058/12/13(金)02:40:54 ID:Kumo5Ttl910
いやいや、ある意味もっともRPGに相応しい使徒だと思うよ?
234:名無しの冒険者:2058/12/13(金)02:42:22 ID:OkitSitLow
確かにAIWOn内で『生きている』からしがらみが増えるね^^;
235:名無しの冒険者:2058/12/13(金)02:55:20 ID:Pggy954NG
確かに! ちゃんと『ロールプレイ』をしているか判断されるな
ゲームだからって好き勝手やってると痛い目を見ると
236:名無しの冒険者:2058/12/13(金)02:59:15 ID:F0kSb6C0nT
で、どういう使徒なんだ?
237:名無しの冒険者:2058/12/13(金)03:03:30 ID:Sne9G6nD10
すいません、好き勝手やって痛い目見た者です ハゥィ(´゜ω゜`)ノ
結果、死んじゃったよ ノォォ━━━━━(゜д゜;)━━━━━ッ!!!!
238:名無しの冒険者:2058/12/13(金)03:14:10 ID:006anDm
うわぁ・・・あれってよっぽどじゃなければ死なないんじゃなかったっけ?
239:名無しの冒険者:2058/12/13(金)03:20:22 ID:OkitSitLow
いや、意外と判断基準が厳しいから一概にもそうとは言えないよ
240:名無しの冒険者:2058/12/13(金)03:22:19 ID:sUo5tONan0t
つまり現実世界同様、品行方正な生き方をしなさいってことですね
次回更新は6/27になります。




