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Alive In World Online  作者: 一狼
第10章 Alive
50/83

49.警告の使徒とTの使徒の証とドワーフの里

大神鈴鹿、XXXの使徒により女になる。

大神鈴鹿、模倣の使徒を攻略。

大神鈴鹿、『正体不明の使徒』達と戦う。

大神鈴鹿、巫女スケルトンロードと『正体不明の使徒』と三つ巴になる。


                       ・・・now loading

 26の使徒の1人、Wの刻印を持つ『警告の使徒・Warning』。

 本名はアーシェリア・アリアージュ。15歳。

 半年ほど前に女神アリスより『警告の使徒』に任命され、現在は各地を放浪してエンジェルクエストの試練を行っていると言う。


 見た目はどう見ても幼女――は言いすぎか。だが小学生並みの幼児体型だからそう見えても仕方がない。

 胸なんかはつるぺたすとーんだから尚更幼さに拍車を掛けている。

 尤も幼女の姿で巨乳なんてのは殆んどがオタクメディアの産物でしかない。


 そんなアーシェリア――愛称アーシェは今俺達と行動を共にしている。

 残りの少なくなったエンジェルクエストの攻略に付いて来ているのだ。


「で、何で俺達に付いて来てんだ?」


 未だ名前すらも判明していないTの使徒、その使徒の証を手に入れる為にスノウに乗って目的地まで飛行中なのだが、目的地に着くまで暇だしアーシェも逃げ道はないんだ。

 この際だから理由を問いただそうと俺はアーシェに問い詰める。。


「えー、説明したじゃない。ボクも一緒だと危険が減るよ?」


「それは聞いた。だから俺達に付いてくる理由だよ。わざわざWの使徒の証まで渡してさ」


「んー、言わなきゃダメ?」


 首を可愛げに傾げながら「どうしても?」と言った感じで聞き返してくる。

 まぁその仕草はワザとらしくしているので絆されることは無いが、人には言えない事の1つや2つあるから無理に聞き出すつもりはない。


「無理に問いただそうとは思わないけど、理由位知っておきたいじゃないか」


「そうよね。何となく予想は付くけど、知っているのと知らないのじゃトラブルに遭った時の対処の仕方が違うものね。

 下手をすればアーシェを見捨てることだってありうるし」


 まぁ同行する時点でトリニティの言うように見捨てることはまずないのだが、確かに予測不能のトラブルが起きた時に対応の仕方が変わるのはあり得る事だ。


「はぁ、しょうがないか」


 アーシェも元々隠し通すつもりはないのか、観念して俺達に付いてきた理由を話し始めた。


「まず何で鈴鹿達かというと、今現状で最もあるエンジェルクエストの攻略に近いのが鈴鹿だったから。

 鈴鹿達に付いて行けばそのエンジェルクエスト――目的の使徒に近づけるから」


「やっぱり」


 トリニティは予想していた通りだとため息をついた。

 分かってはいたが、利用されているのだと知れば流石にいい思いはしないだろう。


「鈴鹿達はエンジェルクエストの残りが3つなんでしょ? だから一緒に付いて行くのが一番早いじゃん」


「だとすれば、アーシェの目的の使徒は『天界の使徒・Heaven』、か?」


 Tの使徒は名前すらも不明で、使徒本人すらも見たことが無いと言われている使徒だ。これは除外されるだろう。

 そしてAの使徒は残りの25個の使徒の証を揃えてから始まるクエストらしく、これも除外だ。

 もしアーシェがAの使徒が目的だとしたら、近づいた理由が「あるエンジェルクエストの攻略が近い」じゃなく、「全部のエンジェルクエストの攻略が近い」になるからだ。


 後は消去法で残った『天界の使徒・Heaven』がアーシェの目的になる。


「まぁ、ね。『天界の使徒』は聖Alice神山の山頂にある聖Alice神殿本殿にいるらしいから一筋縄じゃいかなくて。

 だからここで鈴鹿達に会えたことが幸運なんだよね」


 聖Alice神山は標高3,000mで登るのも一苦労する山だ。

 だが幸いにも俺達にはスノウと言う心強い仲間がいる。空からひとっ飛びで一気に聖Alice神殿に向かう事が出来るのだ。

 確か富士山が3,700m位だからそう考えれば俺達に一緒に居たいと思うのは当然だろう。

 しかも直ぐに『天界の使徒』に向かえると言うおまけ付き。


 まぁ、アーシェが俺達と一緒に行動したいと理由は分かった。分かったのだが、肝心の目的である『天界の使徒』に近づく理由はなんだ?


「それで、肝心の『天界の使徒』に近づく理由はないかしら?」


 俺の考えを代弁するかのようにアイさんがアーシェに問い詰める。


「・・・ボクはただお母さんに会いたいだけなの」


 アーシェが『天界の使徒』に会いたいのは母親に会いたいが為だった。


 アーシェは母親と2人暮らしで炎聖国にある小さな町で過ごしていたのだが、アーシェが10歳の頃に突然母親が行方不明になったと言う。


 残されたアーシェは孤児院に引き取られそこで15歳まで暮らすことになる。

 勿論アーシェは母親の行方を探すのだが、子供の力では手掛かりすら掴むことは出来ない。

 だが、ある日孤児院に訪れたAlice神教神官がアーシェの母親を見たのだと言う。


 そのAlice神教神官からもたらされたのはアーシェの母親は聖Alice神殿で26の使徒『天界の使徒・Heaven』の任に付いているのだと信じられないような事に話しだった。


 そこでアーシェは母親に会う為聖Alice神殿に向かう事を決意した。


 勿論孤児院の院長は大反対した。

 15歳で成人とは言え、何の力も無い女1人で聖Alice神殿に向かうのははっきり言って自殺行為に等しい。


 だが、何の因果かアーシェは突如『警告の使徒』に任命されたのだと言う。

 この『警告の使徒』は危険を察知する能力に長けており、女1人で旅をするのに適した使徒だった。


 そうして院長を説得してアーシェは母親に会う為に聖Alice神殿に向かう事になった。

 それが約半年前の話しになる。


「なるほどな。アーシェの母親が『天界の使徒』か。母親が行方不明になったのもその使徒になった影響かもな」


「でも何も言わずに突然居なくなるって何か怪しくない?」


「それはボクも考えたけど、26の使徒になるって普通じゃいられないから。もしかしたら本当に何かあったのかもしれない」


 アーシェも当時急に『警告の使徒』になった所為で色々大変だったみたいだ。


 ・・・『刀装の使徒』になったハルトはそうでもなさそうだったけどな。


「ま、理由は分かった。こっちとしても『天界の使徒』に会いに行くのは決定事項だからな。ついでにアーシェも届けてやるよ」


「それにアーシェを連れて行けば『天界の使徒』のクエストも楽にクリアできるんじゃない?」


 あー、親子の感動の再会の恩を売って手心を加えてもらう訳だ。


 トリニティの言う通りそういう手もあるな。と言うか、ここでアーシェを仲間に加えたのはある意味幸運でもあるな。


「そこは否定しないよ。寧ろそれを餌に一緒に連れてってもらうようなものだし」


 アーシェもそれは承知の上で付いて来てるわけだ。

 ま、アーシェにとっても俺達にとっても互いに利害が一致しているから何の問題は無いな。


 そうこうしているうちにスノウは始源の森を越えて、さらに南にある目的地の朽ちた宮殿に辿り着こうとしていた。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 Tの使徒の証は始源の森の南にある朽ちた宮殿の内部にある玉座に座ることによって入手できるらしい

 但し、何か入手には条件が課せられる、と。


 その条件は未だに不明で、あっさりTの使徒の証を入手できた者も居れば、全く反応が無く入手できなかった者も居るらしい。

 ただ、入手できなかった者もしばらく時間を置いて訪れると入手できたりすると言う話だ。

 かと言って時間を掛けたからと言って必ずしも入手できるとは限らないと。


 入手した者に共通して言えることは、エンジェルクエストを開始して直ぐに訪れてもほぼ入手不可能だと言う事だ。


 その為、アイさんは始源の森の近くなのに『始まりの使徒』を攻略した後に直ぐに個々の朽ちた宮殿に来なかったのだ。


「さて、と。俺達は無事に入手できるかな?」


「鈴鹿だけダメだったりして」


「あー、あり得そう。なんか鈴鹿はこういう時にトラブルを持ってくるからね」


 アーシェが茶化し、それにトリニティが同意する。


 って、トリニティよ、俺がトラブルを持ってくるって・・・俺だって好きでトラブルを呼んでいるんじゃないぞ。

 つーか、Tの使徒の証の入手条件にトラブルは関係なくないか?


「3人ともお喋りはそこまでよ。この辺は今は何もないけど油断してると痛い目に遭うわよ」


「了解」


「そうね。周囲の警戒をしておくわ」


「はーい」


 アイさんに注意をされ、俺とトリニティは周囲の警戒を怠らないようにする。

 特にトリニティの祝福(ギフト)危険察知(センスデンジャー)はこういう時に役に立つ祝福(ギフト)だ。

 最近は使い慣れて来たのか、精度もかなり上がっている。


 そして返事はおざなりだが、アーシェも一緒に周囲を警戒してくれる。

 冒険者でないアーシェはほぼ戦う力が無いが、『警戒の使徒』の能力はトリニティの危険察知(センスデンジャー)の上位互換でもあるので余程の事が無い限り奇襲されることなど殆んど無い。


 つーかS級祝福(ギフト)危険察知(センスデンジャー)の上位互換って、どれだけだよ。

 まぁアーシェに話を聞くところによると、身に迫る危険が分かるのに加えその危機の状況の詳細が分かるらしい。

 これもある意味反則だよなぁ。


 スノウが見えてきた朽ちた宮殿の前に降り立ち、俺達はその場に降りる。

 騎獣縮小の首輪でスノウを何時もの小型竜にして、俺は目の前の宮殿を観察する。


 朽ちた宮殿と言うだけあって外見は既にボロボロだ。

 今にも崩れ落ちそうなのだが、不思議とその宮殿は幻想的な存在感を醸し出していた。


「あれ? 待って、宮殿の入り口前に誰かいるわ」


 いざ朽ちた宮殿内に張ろうとしたが、その前にアイさんが気配探知で察知したのか入り口前に誰かが倒れているのを見つけた。


 近づいてみると子供くらいの身長にずんぐり体型の女がうつぶせで倒れていた。

 ドワーフだ。


 王都エレミアや他の町なんかでは男ドワーフは見たことがあるが、女ドワーフを見るのは初めてだな。


 その女ドワーフはよく見れば体のあちこちに大小の噛み傷があった。


 野生動物かなんかに襲われたか?


 気を失っている女ドワーフに近づいて俺はユニコハルコンで傷を癒していく。

 傷を癒したが直ぐに目を覚ます気配はない。


 どうしたものかと考慮していると、トリニティとアーシェが同時にある一方方向を見定める。


「鈴鹿、何か来るわ」


「生命反応多数。軽く100は超えているね。警告内容によれば小型のモンスターらしいけど」


 2人が反応したと言う事はそれなりに危険ではあると言う事か。


「鈴鹿君、宮殿内部に避難しましょう。怪我人も居る事だし、今は戦闘より回避を優先させましょう」


「この宮殿が攻撃されると言う事は?」


 アイさんが朽ちた宮殿内に避難しようと提案するが、こちらに向かってくるモンスターが宮殿ごと攻撃しないとは限らない。

 ここまでボロボロなんだ。下手をすればあっさりと倒壊すると言うことだってある。


「大丈夫よ。この宮殿はこう見えて結界で守られているから。Tの使徒の加護にね」


 なるほどな。だからこんなボロでも健在なわけだ。おまけに妙な雰囲気まで醸し出している訳だ。


 そうと決まれば俺達は朽ちた宮殿内に入る。

 女ドワーフを背負って宮殿内に入ろうとしたところで、こちらに向かってくるモンスターが目に入った。


 鼠のモンスターだ。

 但し大きさが小型犬くらいある。


「うわっ、灰色鼠じゃん!」


 同じくそれを見たアーシェが慌てて宮殿内に入る。

 俺が最後に入りしっかりと扉を閉めると、外で突撃しているらしい音が響き渡った。

 とても鼠の攻撃とは思えない攻撃音だが、アイさんの言う通りならこの中は安全だ。


「あのモンスターを知っているのか?」


「うん。1匹1匹はD級くらい弱いんだけど、厄介なのは一度噛み付いたらなかなか離れないのと、大量の群れで行動するモンスターだね」


「1匹見かけたら100匹いると思った方がいいって言われているわね」


 アーシェの説明にトリニティも捕捉する。


 って、1匹見かけたら30匹いると言われるGよりもひどいじゃないか。


 所謂群生タイプのモンスターだな。

 この手のモンスターの厄介なところは引くことを知らないと言う事と、ほぼ無限湧きと錯覚するほどの大量の物量による継戦力があることだな。


「ま、暫くすれば引いて行くだろう。俺達はその間にTの使徒の証を手に入れようぜ」


「そうね。ドワーフさんもまだ目を覚まさないし、暫くはこの中で休憩にしましょう」


 朽ちた宮殿内部も予想通りボロボロで、かつては煌びやかな装飾を施されと思われる外壁などは見る影も無かった。

 だが不思議な事に壁や柱が崩れるなどと言った事は見受けられなかった。

 これもTの使徒の加護のお蔭なのだろう。


 俺達はそのまま奥に進み、目的である玉座を見つけた。


 その玉座はボロボロの宮殿とは違い、そこだけが劣化していない眩い輝きを放つ豪華な玉座が佇んでいた。


「へぇ、これがTの使徒の証を授ける玉座かぁ。確かにこれだけのものだと信憑性も増すね」


 トリニティの言う通りこの玉座を見れば確かに何かあると思うのは当然だな。

 これまでこの地を訪れたエンジェルクエストの攻略者たちは期待を胸に座ったんだろう。


 アイさんが闇属性魔法のシャドウゲージから休憩用に椅子やテーブルや飲み物を取り出す。

 他にも女ドワーフ用にシートや毛布を取出し、俺は背負った女ドワーフを寝せて毛布を掛けてやる。


「さて、早速だがTの使徒の証を授かろうか。誰から先に行く?」


「え、そこは鈴鹿からでしょ? まずは危険が無いか確かめないと」


 いや、危険があればお前(トリニティ)やアーシェが気が付くだろうよ。

 ・・・まぁいいか。別に誰が先だろうが結果は変わるわけじゃなさそうだし。


 俺は周囲から浮いている玉座に意を決して座る。

 すると首にかけている使徒の証が淡い光を放つ。


 どうやら無事にTの使徒の証を授かったっぽい。

 使徒の証を展開して時計の様な魔法陣を浮かび上がらせる。

 見ればちゃんとTの使徒の証に光が灯っていた。


 続いてトリニティとアイさんも玉座に座り、無事にTの使徒の証を授かることが出来た。


「で、結局Tの使徒って誰だったわけ? あたし達それらしい人物に会ってないよね?」


「さぁな。人とは限らないかもな。例えば・・・この玉座がTの使徒だとか」


「えー、流石にそれは無いでしょう」


 俺も言っててそれは無いと思ったが、流石に何の脈絡も無くTの使徒の証を授かればそう思っても不思議じゃないと思う。

 いや、何の脈絡もないわけじゃないか。でなければエンジェルクエストの最初の方で簡単に使徒の証が手に入るはずだし。


「ねぇねぇ、Tの使徒の証の特殊スキルを使って見れば? それだと何か分かるんじゃない?」


 特殊スキルはその使徒の特性を色濃く出すからアーシェの言う通り使って見れば何かしらわかるかもしれない。

 だがトリニティがそれを否定する。


「残念だけどそれは無理ね。

 特殊スキルを使おうにもそのスキル名が分からないのよ。これまでTの使徒の証を手に入れた人たちも色々それらしいスキル名を挙げたんだけど、特殊スキルが発揮されたことはないって聞くわ」


 あー、使徒名=特殊スキル名だからか。

 確かに使徒の名前が分からなければ使いようがない、か。

 天地人(ノピス)の冒険者だけならともかく、異世界人(プレイヤー)の冒険者が居てもわからなかったか。

 現実世界(リアル)の検証力をもっても分からないとなると殆ど名前を判別するのは無理っぽいな。


 ただ・・・アイさんはもしかしてTの使徒の証について何か知っていないかな?

 そう思ってアイさんを見てみると・・・


「まぁ良いじゃない。何にしてもTの使徒を証を手に入れたんだし。これで残りはあと2つ。ゴールは見えて来たわよ」


 はぐらかされてしまった。何か知っているっポイが、まぁアイさんの言う通り問題は無いか。特殊スキルも分からなければ使いようがないし、気にすることも無いか。


 取り敢えず俺達は女ドワーフが目覚めるまで休憩がてら暫くの間くつろぐことにした。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「あれ・・・? あたい灰色鼠に襲われて死んだんじゃ・・・?」


 暫くすると女ドワーフが目を覚ました。

 どうやら灰色鼠に襲われた時の記憶が混乱しているらしい。


「いや、あんたは生きているよ。俺達が通りかかったから宮殿内部に避難することが出来たんだ」


「そうか、助かったよ。まさかこんな辺鄙なところに人が通りかかるとは、あたいも大概悪運が強いよ。

 申し遅れた。あたいはロゼッタ。見ての通りドワーフだよ」


「俺は鈴鹿。こっちの2人はトリニティとアイさんだ。そこのちっこいのはアーシェ。こう見えても『警告の使徒』なんだぜ」


 俺の言葉にロゼッタはアーシェを見て驚いていた。

 まぁ、見た目は小さな子供にしか見えないからな。


「ねぇ、何でこんなところに居たの? ここら辺ってこの宮殿以外に何も無いはずよ」


 確かにトリニティの言う通りここは朽ちた宮殿以外何も無いからな。

 言われてみればエンジェルクエストの攻略者でもない限りここに居るのはおかしい。


 そう思いロゼッタを見てみると少し言い難そうに口をもごもごしていた。

 そんなロゼッタにアイさんがフォローをする。


「大丈夫よ。私たちはこう見えても口が堅いから。貴女方の住む場所は言いふらさないわよ」


 その言葉にロゼッタは目を見開いて驚いていた。


「・・・もしかして知っているのか?」


「大昔錬成火山に町があったことを考えればね」


 少し考えたロゼッタは意を決して何故ここに居たのかを語る。

 と言ってもそんなに壮大な物語でもないが。


「あたいはここから東にあるドワーフの隠れ里に住んでいるんだ。

 ドワーフと言えば鍛冶を営む者って認識だけどそれは間違ってはいない。で、あたい達は鍛冶をする為の鉱石をここから南にある錬成火山で採掘している。

 だけど、今その錬成火山に灰色鼠が住み着いているんだ」


 あー、なるほどなぁ。ここまで聞けばおおよその見当が付く。

 おそらく灰色鼠を避けて鉱石を採掘しようとして見つかって襲われたと言ったところだろう。


「仲間と一緒に錬成火山に採掘に行ったのだが、灰色鼠に見つかって襲われたんだ。

 あたいは仲間を逃がすために囮になってこの宮殿まで来た。ここは何故かモンスターが入ってこないからな。一種の避難所として役に立っているんだ」


 ほらな。にしてもドワーフとは言え、女で囮とはロゼッタは度胸があるな。


「で、宮殿の中に辿り着く前に入り口で力尽きたと」


「そうだな。思ったよりも傷が深くあと一歩のところで力尽きてしまった。

 ・・・そう言えば傷が癒えている。鈴鹿達が治してくれたのか?」


 ロゼッタが不思議そうに自分の体を見ていたので俺がユニコハルコンで治したことを言うと、急に目を輝かせ俺に迫ってきた。

 否、ユニコハルコンに目を付け手にしようとしてきた。


「おおおっ!? 何だこの刀は! こんな刀は見たことが無い! 武器としての作りは言うに及ばず、その刀身に込められた魔力もまた不思議な力を感じる」


 もっとじっくり見せてくれとばかりに手を伸ばすが当然おいそれと渡せるものじゃない。

 俺がユニコハルコンを左右にひょいひょいと避けると、ロゼッタはまるで子供が手を伸ばすように左右にぴょんぴょん飛び跳ねる。


「あー、それでこの後どうするの?」


 このままでは埒が明かないと思ったらしいアーシェが問いかけて来るが、俺達の用はこれで終わったので当然次の目的地である聖Alice神山へ向かおうとした。

 が、それを止める者が居た。


「ねぇ、折角だからドワーフの里に行ってみない? ロゼッタもいいでしょ? 何だったら里に戻るまでの護衛として雇って見ない?」


「おいトリニティ、何を言っているんだ。俺は一刻でも早くアルカディアに行きたいんだが?」


「鈴鹿こそ何を言っているのよ。ドワーフの隠れ里よ。隠れ里。鍛冶の粋を極めたドワーフが住む隠れ里よ。里で作られている武具はそれこそ一級品でしょうね。

 鈴鹿のそのユニコハルコンも手入れをしていると言っても専門じゃないでしょ?

 ここでドワーフの手で整備してもらうのも悪くないんじゃないの?」


 そう言われてしまえばぐうの音も出ない。

 師匠から免許皆伝代わりに貰ったユニコハルコンもかなりの激戦を潜り抜け意外とガタがきているのかもしれないし。

 手入れをしていると言っても素人に毛が生えたくらいのものでしかない。


「アーシェだって早くお袋に会いたいよな?」


「ボクは構わないよ。もう5年も待ったんだ。今さら1日や2日過ぎたってお母さんは逃げないよ。それにドワーフの隠れ里にボクは興味があるね」


 裏切り者がおる。ここに裏切り者がおる。


「そうね。折角だから隠れ里に行って各自の武具の整備してもらいましょう。この後のエンジェルクエストの事も考えれば万全の状態で挑むべきだしね」


 そしてアイさんまでそんなことを言ってくる。

 確かにこれまでのエンジェルクエストの攻略で武器だけでなく防具もかなりボロボロだ。

 『天界の使徒』だけでなく最後のAの使徒のことも考えればこの際だから隠れ里で装備の見直しもありか。


 そこまで考えた俺は仕方なしにドワーフの隠れ里息を決めた。

 俺だってドワーフの住むところを見たいと言う気持ちはあるんだぜ?


「分かったよ。ロゼッタ、里に俺達を連れてってもらえるか?」


「あ、うん。助けてくれたからあたいとしては連れて行ってもいいけど・・・寧ろ灰色鼠から守ってもらえるんだからこっちからお願いしたいくらいだよ。

 ただ・・・里の仲間が何ていうか・・・もしかしたら里に入れず追い出されるかもしれない」


 隠れ里って言うくらいだからな。得体のしれない人物を里に近づけたくないのは当然だろう。


「ま、そこは近くに行ってからだな。どうしてもダメだったらしょうがない。諦めるさ」


「すまないね。あたいとしては里に招待したいんだけどね。特にその刀をじっくりねっとり拝見したいし」


 どっちかっていうと後半の理由が本音なんだろう、ロゼッタさんよ。


 そんな訳で俺達はロゼッタに連れられドワーフの隠れ里に向かう事にした。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 ロゼッタを先頭に俺達は朽ちた宮殿から東に向かって徒歩で進む。

 スノウに乗ってドワーフの里まで行く事を提案したが、空を飛んでいくと飛び越しかねないと言う事で徒歩での行軍だ。


 寧ろ空からの方が見つけやすいと思うんだが・・・?


因みに宮殿から出るときは灰色鼠が居ない事をアイさんが気配探知で確認済みだ。

 だがいつまた襲い掛かってくるか分からないので警戒は怠れない。


 朽ちた宮殿の周りは本当に何も無い。

 砂漠とまではいかないが見渡す限りの荒野だ。


 暫く進んでいくと突然ロゼッタが歩を止める。


「居るんだろ、親父」


 その言葉に反応するかのように岩陰から滲み出るように1人のドワーフが現れた。


「ロゼッタか? 無事だったのか!

 心配したぞ。仲間を逃がすために囮になったと聞いた時はもう命は無いかと思っていたが」


「あたいも死んだと思ったよ。だけどこいつらがあたいを助けてくれたんだ。

 まぁあたいが死んでも弟のボジョーがいるだろう」


「だからと言って死んでいいわけでは無いぞ」


 ロゼッタの親父さんは呆れながらにロゼッタに苦言を言い、その後で俺らを見定めるかのように目を向ける。


「娘が世話になった。こんなガサツな娘でも死なれると困るからな」


「いや、大したことはしていないよ。それより親父さんはこんなところで何をやっているんだ?」


 こんな何も無い荒野で1人だけ・・・いや、なんとなしだが他にも複数の気配を感じるな。


「見張られているわね」


 アイさんがポツリと呟く。

 どうやら俺の感じた気配は間違っていないらしい。

 余程隠れるのが上手いのかと思ったが、先ほどのロゼッタの親父さんが出てきたのを見れば何かアイテムを使っているのだろう。


「鈴鹿。親父は里の警備団の団長なんだ。矢鱈無闇に里に人が近づかないように見張っている」


「・・・ロゼッタ。生きていたのは嬉しいが、この者たちを連れて何処へ行こうとしていたんだ?」


「あたいを助けてくれた礼に里へ招待したんだ。武具の整備や購入も目的の1つになる」


 その言葉を聞いたロゼッタの親父さんの顔が追強張るのが分かった。


「・・・それはならん。里に外部の人間を招くわけにはいかないのだ。

 ドワーフの隠れ里の技術はおいそれと外へ出すことのできない代物だ。それはお前も良く分かっているだろう」


「それはそうなんだけどね。だけどまるっきり全部が全部拒絶してるわけでも無いだろう?

 何事にも例外は付きものだ。鈴鹿達なら構わないと思うけど」


 助けた影響もあるだろうが、ロゼッタはまだ会って間もない俺達の事を信じてくれるのはありがたい。

 だが、ロゼッタの親父さんにとってはそうではないからなぁ。


「・・・ダメだ。お前を助けてくれた事は感謝するが、素性の知らぬ者を里には招くことは出来ない」


 思った通りの反応だ。

 ロゼッタは俺達を里に連れて行こうと食い下がるが、これ以上はロゼッタにも迷惑が掛かるな。

 ドワーフの作った武具は正直興味が湧くけど、ここは引いた方が双方の為だろう。

 トリニティやアイさんの方を見れば同じような反応をしているのが見て取れた。

 アーシェはどっちでもいいような態度だったが。


「いや、ロゼッタ。お前のその気持ちだけで十分だよ。親父さんも一緒だから俺達の護衛はここで終わりだ」


「いや、待て鈴鹿。まだちゃんとした礼をしていない。それにその刀を見せてくれる約束はどうした」


 いや、それこそ待てよ。そんな約束はした覚えはない。


 その言葉に反応したのか、ロゼッタの親父さんは俺の腰に差した刀――ユニコハルコンを目にし、驚愕の表情をしていた。


「・・・貴様、その刀をどこで手に入れた?」


「師匠からの餞別だよ。免許皆伝代わりのな」


「その師匠の名を聞いても?」


「剣姫一刀流開祖・ニコ」


 ロゼッタの親父さんは暫く考えた後、俺達に少しの間ここに残るように指示をして一度里の長老へ確認すると言ってこの場から姿を消す。


「・・・何なんだ、一体?」


 ロゼッタの親父さんは姿を消したが、こちらに刺さるような視線は消えていない。

 ま、何人か残って俺達を警戒しているのだろう。


「すまんな。もっとこうすんなり話は通るかと思っていたんだが」


「うーん、ちょっと残念ね。ドワーフの技術の粋を集めた里に行ってみたかったんだけどなぁ」


「寧ろその頑固さが流石ドワーフって感じみたいだけど」


 トリニティの何がそうさせるのかは分からないが、それ程ドワーフの隠れ里に行きたかったんだろうな。

 ちょっとしょんぼりしている。

 逆にアーシェはドワーフの特性に感心していたが。


「長老・・・あたいの爺さんの事だけど、もう100年以上も前から生きている伝説の鍛冶師なんだ。今はもう武具を打つことは無くなったけど。

 親父もその後を継いで鍛冶師になろうとしたけど、才能が無かったんだ。

 それでも次期長老として里の皆を纏めていくために警備団を設立した。鍛冶師としてではなく、別の道で里を守ろうとしている。

 まぁ、その所為か融通が利かなくなっているのは否めないけどな」


 あー、なるほどなぁ。

 自分が鍛冶が出来ないからこそ、里の仲間を守る意識が人一倍強んだな。


 それと何でロゼッタが1人で囮になったのかは疑問だったが、長老の孫として里の仲間を守るためでもあったんだな。

 万一のことがあっても後継者の弟が居るらしいし。


 それから1時間ほどが経っただろうか?

 ふらりとロゼッタの親父が戻ってきた。


「長老が貴様に会いたいそうだ」


 思いがけない答えに俺は戸惑う。

 さっきのロゼッタの親父さんの態度を見れば芳しくないだろうと思っていたんだが。

 どうやら長老さんは俺をご指名らしい。

 まぁ、十中八九ユニコハルコンの事だろうけど。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 AIWOn 異種族スレ221


105:名無しの冒険者:2059/5/1(木)01:06:30 ID:DWLU58Fn

 女ドワーフ最高・・・! あのふくよかな体・・・ぷにぷにしたい!


106:名無しの冒険者:2059/5/1(木)01:18:41 ID:ELEIN106Fn

 うわぁサイテー


107:名無しの冒険者:2059/5/1(木)01:22:01 ID:Hirin9Es56s

 おまわりさーん、ここに変態が居まーす


108:名無しの冒険者:2059/5/1(木)01:24:25 ID:Mp539Lrin

 >>105 通報しました


109:名無しの冒険者:2059/5/1(木)01:30:02 ID:dd9cc44o

 え? 何々? どう言うこと?


110:名無しの冒険者:2059/5/1(木)01:35:41 ID:ELEIN106Fn

 ドワーフって小っちゃいよね?

 で、女ドワーフって見た目が童顔なのよ

 すなわち105はロリコン!!


111:名無しの冒険者:2059/5/1(木)01:38:59 ID:Re2p09N78

 まぁ場合によっては体型はふっくらしているけどね


112:名無しの冒険者:2059/5/1(木)01:46:02 ID:dd9cc44o

 納得


113:名無しの冒険者:2059/5/1(木)01:56:30 ID:DWLU58Fn

 何を言う! 彼女たちはれっきとした大人だ!

 決して俺達は罪を犯しているわけでは無い!


114:名無しの冒険者:2059/5/1(木)02:05:41 ID:ELEIN106Fn

 その理屈で行くならエルフだって犯罪じゃないわよ!?

 なのに誰も彼もロリロリロリロリ言うし!


115:名無しの冒険者:2059/5/1(木)02:12:02 ID:dd9cc44o

 今度はこっち!?


116:名無しの冒険者:2059/5/1(木)02:15:59 ID:Re2p09N78

 あー、また始まった。

 女ドワーフVS女エルフ


117:名無しの冒険者:2059/5/1(木)02:21:01 ID:Hirin9Es56s

 どっちも幼女だからねぇ

 ヨウジョスキーには堪らないだろうさ


118:名無しの冒険者:2059/5/1(木)02:26:02 ID:dd9cc44o

 ところでドワーフと言えば鍛冶だろ

 何処か腕のいい鍛冶屋知らないか?

 最近武器を新調しようとしているんだが中々良いの見つからなくて


119:名無しの冒険者:2059/5/1(木)02:30:25 ID:Mp539Lrin

 それだったらアムルスズの火鎚屋

 もしくはドワーフじゃないけど風流月雅


120:ケモモフ命:2059/5/1(木)02:36:33 ID:km0Nmfm2L

 ドワーフやエルフより良い種族がいるニャ!

 それはケモモフニャ!

 ケモモフこそ一番だニャ!!!


121:名無しの冒険者:2059/5/1(木)02:37:25 ID:Mp539Lrin

 サンクス


122:名無しの冒険者:2059/5/1(木)02:42:01 ID:Hirin9Es56s

 うわぁ・・・また厄介なのが入って来た・・・









次回更新は6/23になります。

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