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Alive In World Online  作者: 一狼
第9章 Unknown
49/83

48.スケルトンロードと召喚従魔師と始まりの正体不明の使徒

 ナイトハートは切り落とされた左腕から血を流しながらもすぐさま斬りかえし剣を振るう。

 だが攻撃された巫女スケルトンロードは容易く剣を弾き返す。


「くっ、何なんだ、このモンスターは!」


 流石にこれにはナイトハートも混乱していた。

 そりゃあそうだろう。召喚された味方だと思っていたモンスターが、実は敵だったともなればパニックにもなるだろうよ。


 カタカタカタカタッ!


 巫女スケルトンロードはその後も追撃の手を緩めずナイトハートを攻撃する。

 最強のアンデット系モンスターであるスケルトンロードらしく、魔人と言えどナイトハートにほぼ一方的な状況になりつつあった。


 最強の七王神の巫女神フェンリルを模したスケルトンロードな上に、ナイトハートは左腕を切り落とされているからなぁ。


「いつまでも調子に乗るな!

 モード岩石の使徒・Rock、潰せ、岩圧隆起!」


 巫女スケルトンロードを中心に挟み込むように左右から地面が隆起し押しつぶそうとする。

 だが巫女スケルトンロードは事もなげにその押しつぶそうとする岩盤を叩き砕く。


『神降し・アメノタヂカラオ』


 刀を握り込んだままの拳で左右の岩盤を砕き、その破片を足場にして一気にナイトハートの上空へ駆けあがる。

 そしてそのまま二刀流戦技が放たれた。


『桜花十字閃』


 巫女スケルトンロードの放った攻撃はナイトハートの鎧ごと斬り裂き胸に十字の傷跡を付ける。


「がはっ・・・馬鹿な・・・」


 ナイトハートは信じられないと言う表情を見せながらそのまま地に伏せてしまった。

 と言うかこれ、エンジェルクエスト的にはどうなるんだ? 最終的に俺が倒した訳じゃないから『正体不明の使徒』のクリアにはならないよな。


 カタカタカタカタ


 巫女スケルトンロードはナイトハートに向かって何かを言っているようだが、さっぱりだ。

 そして改めて巫女スケルトンロードは俺に向き直り刀を突きつける。


 巫女スケルトンロードは俺に助太刀したわけでは無いんだろうな。

 おそらく漫画とかでよくある「こいつを倒すのは自分だ」的なノリなんだろう。


 で、邪魔者は排除したから改めてジパン帝国の時の決着を付けようと言う意味で刀を突きつけられている訳だ。


『ルクスミラージュ』


 確か光属性魔法の幻影を投影する魔法だったはず。

 巫女スケルトンロードが呪文を唱えるとその姿が巫女服を着たスケルトンから黒髪のポニーテールをした美少女巫女へと変化した。


 もしかしてその姿は巫女神フェンリルの姿なのだろうか。

 そして同時に俺は何故巫女スケルトンロードがこの王都に潜伏しながら刀狩りを続けれたのか納得する。

 今のように人の姿の幻影を被せ周囲の目を欺いていたのだろう。


『テレパス』


 ん? 聞いた事のない魔法だな。名前からして携帯念話(テレボイス)みたいに念話を届ける魔法か?


『あー、あー、聞こえる? 剣姫流の少年』


 巫女スケルトンロードと思われる声が頭に響く。

 予想通りに念話を発する魔法だったらしい。


「ああ、聞こえているよ。わざわざ俺の相手を倒してくれてどーもってお礼でも言っておいた方がいいか?」


『礼には及ばないわ。少年を倒すのはあたしの役目なのだから』


「うわぁ~お約束過ぎる展開・・・どこの野菜の星の王子様だよ。

 ついでに言えばお礼云々は嫌味だよ。つーか、余計な事をすんなよなぁ。こっちはエンジェルクエストの相手を横取りされてクエストが攻略できなくなったじゃんか」


『それこそあたしの知ったことじゃないわ。あたしの目的はただ一つ。少年とあのアイって女性を倒すことのみ』


「召喚者はもういないぜ。そこまで義理堅くなくてもいいんじゃないのか?」


『確かに召喚された目的は少年たちを倒すことだけど、それだけじゃないわ。

 少年とアイには何か惹かれるものがあるのよ。何かが』


 惹かれるって何だよ。俺はお前に惹かれる要素なんて一つもないぞ?


「そんな理由で付け狙うのかよ・・・このくそ忙しい時にそんな理由で相手なんかしてられっかよ。出来れば後日改めてやりあうから今日は引いてくれないか?」


『そうはいかないわよ。折角ここで出会えたんですもの。

 それに貴方達と再戦する為にこうしてこの2本の刀も手に入れたのよ。世界樹から生み出された神木刀ユグドラシルと勇猛神ブルブレイヴの加護を持つ素戔嗚(スサノオ)の太刀。

 ここで使わなきゃいつ使うのよ』


 もしかしてこの巫女スケルトンロードも戦闘狂(バトルジャンキー)の類いか?

 なんか最近俺の側にはそれっぽい奴ばっかり集まるのは気のせいだと思いたい。


 巫女スケルトンロードはそう言いながら一気に間合いを詰めて左右の刀を振るう。


『桜花四連撃!!』


 刀戦技の桜花一閃と二刀流戦技の四連撃を合わせた戦技だ。

 魔法剣と並びこうした戦技の複合技は巫女神フェンリルが開祖であり尤も得意とする技だったと言う。

 その噂に違わず巫女神フェンリルを模した巫女スケルトンロードの攻撃は鋭かった。


 ギギギギンッ!!


 俺は辛うじてその4連撃をユニコハルコンを左右に素早く振ることで弾き返す。


『やるわね・・・ならばこれならどう?

 ファイヤージャベリン!

 サンダージャベリン!

 ――桜花雷炎十字!!』


 何時の間に呪文を唱えていたのか、巫女スケルトンロードが次に放つのは巫女神フェンリルお得意の魔法剣だ。


 右の刀に纏った火属性の魔法と左の刀に纏った雷属性の魔法を俺の前で十字に斬りつけ同時に魔法を発動させる。

 斬撃と魔法を同時に行う攻撃だ。

 こうしてみるとシンプルながらも魔法次第では攻撃力もある使い勝手のいい攻撃方法だ。


 勿論俺もそれを黙って見ている訳じゃない。


「アイスブリット!」


 氷の弾丸にライフリングを刻んだ俺のオリジナルアイスブリットをMAX回転で放ち、巫女スケルトンロードの放つ左右の剣が交差する点を狙い炎と雷の魔法攻撃を散らす。

 と、同時に二刀流戦技の十字斬りの威力も削ぐ。


 そして雷炎を散らすことによって相手の視界を遮り、左右の高速ステップで十字斬りを躱しながら左右から攻撃を叩き込む。


「剣姫一刀流・刃翼!!」


 巫女スケルトンロードも十字斬りが躱されたのを悟り、すぐさま刀を引き上げ迫りくる俺の斬撃を弾き返す。


『・・・以前に比べて大分強くなったわね。男子三日会わざれば括目して見よ、かしら?』


 一度引いて間合いを取った巫女スケルトンロードは面白そうに俺を見ていた。


 おお、確かに以前と比べて巫女スケルトンロードと渡り合えている。

 あれから幾度もの実戦を経て俺もそれなりに力を付けていると言う事か。


 とは言え辛うじて渡り合えるだけであって、おそらく巫女スケルトンロードの本気には叶わないのだろう。

 何せアイさんとも互角にやりあうほどの巫女神フェンリルのスケルトンロードだからなぁ。


 出来ればこのまま上手く捌き斬りながら隙を見て逃げ出したいところだ。

 尤も特殊スキルEscapeのデメリットで逃げ出すことなんか出来やしないが。


 周囲では騒ぎが大きくなってきているのが分かる。

 このまま放っておけば次々召喚モンスターが現れ被害が大きくなるだろう。

 その前に召喚者であるアレストを叩かなければならない。


 そこまで俺の気持ちを読んだのか、巫女スケルトンロードは俺のその姿勢に難色を示した。


『でも肝心のやる気が見えないわね。周囲の状況も気になるのだろうけど、目の前の敵に集中した方がいいわよ?

 でないと命取りになるわよ。彼らみたいにね』


 巫女スケルトンロードが差す言葉の先には兵士を引き連れた騎士達がいた。


「隊長!? くっ、総員戦闘態勢!

 そこの2人! 抵抗を止めて大人しく我々に従え!」


 隊長?


 その騎士の視線の先には地に伏せているナイトハートが居た。


 ああそうか。確かにナイトハートは『正体不明の使徒』だが、王国の騎士でもある。

 この騎士らはナイトハートの部下なのだろう。

 そしてナイトハートが倒れているのを見て俺達がやったと判断して拘束しようと駆けつけたと。

 それでなくともこの王都にモンスターが溢れかえっているにも拘らず、それに輪をかけ暴れまわっていれば拘束対象にもなるか。


『残念、貴方たちに従う理由はありません』


 巫女スケルトンロードは美少女の幻影を解き、騎士達の前に骨の姿を晒す。

 それを見た騎士達は思わず後ずさりをした。


「か・刀狩りのスケルトン!?」


「なっ!? マジか! 大隊長もやられたあの刀狩りか!!?」


「そ、総員後退! 後退だ!!」


 噂の刀狩りのスケルトンを目の前にして騎士達は距離を取ろうとする。

 だが恐怖に引きつられたせいで騎士達の動きは一歩遅かった。


『神降し・タケミカヅチ。

 ――桜花五月雨十字・飛雷』


「避けろぉ――――――――――!!!」


 俺の叫びも虚しく、雷を纏った巫女スケルトンロードの放った飛ぶ雷の斬撃は容赦なく騎士や兵士たちを上下に分断し焼き焦がした。


『あら、1人だけ免れた人がいるわね。でもあたしの邪魔をする者は容赦しないわよ』


 見れば1人だけが斬撃の射程外に居たのか女騎士がへたり込んでいた。

 そこへ巫女スケルトンロードは瞬動で間合いを詰めて一撃を振るう。


 俺は瞬(瞬動)でその間に割り込み、その一撃を防いだ。

 だが、タケミカヅチを降ろした巫女スケルトンロードは雷を纏っており、その刀も同様だ。


 巫女スケルトンロードの攻撃を防いだものの、纏った雷が俺の体を舐める。


「ぐぅぅぅっ!」


 俺は咄嗟にユニコハルコンの治癒魔法を使用して雷による体の痺れと火傷を治す。

 そして強引にへたり込んでいる騎士を引きずって距離を取る。


「てめぇ・・・人を傷つけないスケルトンだったんじゃねぇのか?」


 確か噂じゃ刀狩りでは死者はおらず抵抗した者以外は怪我人はいなかったはず。

 それはおそらくこの巫女スケルトンロードは意図的に避けていたはずだ。


『それは目的の刀を手に入れるまで出来るだけ騒ぎを起こしたくなかったからよ。

 目的の刀が手に入ったのなら制限を掛ける必要もないし、刀の性能を見る為に武芸者に戦って殺しもしたわ。

 言っておくけど、あたしには人を殺すのにためらう理由なんてないわよ? だってあたしスケルトンだし』


 コイツはスケルトンらしくなく、どことなく人間臭いからそれなりの倫理観を持っていると思ったが、やっぱりモンスターはモンスターか。


「ああ、そうかい。よぉく分かったよ。お前をこのまま野放しには出来ないってな。

 いいぜ、お前の望み通り全力で相手してやるよ!」


『そう来なくっちゃ。でなければあたしが召喚された意味が無いからね』


「おい、お前はさっさと撤退して他の騎士達にここには近づかないように言っておけ。巻き込まれたらただじゃ済まないと」


 俺の言葉にへたり込んでいた女騎士はコクコクと頷き転がるようにこの場を離れて行った。

 それを確認した俺はユニコハルコンを構え巫女スケルトンロードへと立ち向かう。


 再びぶつかる俺と巫女スケルトンロード。


 全力で相手をするとのたまったのはいいものの、だからと言ってこの巫女スケルトンロードと互角に戦えるのかと言えばそうでもない。


 辛うじて互角だったのがようやっと普通の互角に戦えると言った感じか。

 しかも巫女スケルトンロードは全力を出してはいないのだ。


 俺の通常攻撃で倒せるほど柔なモンスターじゃない。

 唯一通じるのは剣姫一刀流の奥義だろう。


 3つ目の奥義なら確実に倒せるのだが、これは今の俺には使えない。師匠すらもほぼ使用不可能な奥義だ。

 なら残りの2つ、天衣無縫と百花繚乱。確かに辺りさえすればダメージは与えられるんだろうが、この剣姫二天流を操る巫女スケルトンロードには当たる姿が想像できない。


 しかも百花繚乱は今の俺には使徒の証の特殊スキルの使用が前提だ。


 ここは使徒の証の特殊スキルを使用するべきか・・・?

 本来の目的である『正体不明の使徒』を前にそれは避けたいんだが。


『神降し・ヒノカグヅチ!

 バーニングフレア・クアドラプルブースト!

 ――天牙十字閃・火鎚!!』


 げっ、これは拙い!


 ヒノカグヅチの炎を纏い、火属性魔法の特大の火炎球を四倍掛けした魔法剣による刀戦技の天牙一閃と二刀流戦技の十字斬りの複合技だ。


「特殊スキル起動! Labyrinth! Power!」


 俺は咄嗟に特殊スキルを使用した。

 Labyrinthの力により炎を纏い巫女スケルトンロードの炎の攻撃を緩和し、Powerの力で天牙一閃の攻撃を力技で押し戻す。


「おらぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 流石に『力の使徒』の特殊スキルだけあって完全に巫女スケルトンロードを上回っていた。

 しかも俺の場合はクエスト内容が内容だったので力の増幅は5倍にも及ぶ。


『ようやく本当の力を見せてくれたわね。それでこそ倒し甲斐があるわ』


 やっべー。思わず特殊スキルを使ってしまった・・・

 もうこうなったら出し惜しみをしている暇は無いな。この24分以内に片を付けて早急に『正体不明の使徒』を何とかしないと。


 と、そう思っていたのだが、運がいいのか悪いのか何故かこの場に新たな『正体不明の使徒』が現れた。

 ナイトハートとは違い、影衣とやらを纏わないで素の状態で俺の前と巫女スケルトンロードの前に立ちはだかる。


「僕が召喚したモンスターとは別のモンスターがいるから気になって来てみれば・・・これはまた随分と変わったスケルトンだね。しかもその保有する魔力は桁違いだ」


 しかもその様子から察するに王都中にモンスターを召喚しているアレストだと思われた。

 どうやらアレストの目的は巫女スケルトンロードらしい。

 その魔力に惹かれてここへ来たようだ。


 だがそうなるとアレストに向かった筈のアイさんはどうしたんだ?

 別の『正体不明の使徒』の妨害にあっているのか、別のトラブルに巻き込まれたのか。


「丁度いい。これも僕の手駒にしよう。さぁ、僕に――召喚従魔師(サモンテイマー)の力に従うんだ」


 アレストが巫女スケルトンロードに手を翳し召喚従魔師(サモンテイマー)の力で従えようとする。

 だが、巫女スケルトンロードは少しだけ身じろぎをするだけで何の反応も示さなかった。


『――っ、あたしはスケルトンロードよ。あたしを従えていいのは『不死者の王』唯1人。貴方のような雑魚じゃないわ』


「なっ!? 僕が雑魚だと!? たかがスケルトン如きが生意気な! こうなったら意地でも従えて見せます!

 召喚(コール)・ドラクネア! 召喚(コール)・フルメタルリッチ!」


 アレストの前に2つの召喚陣が現れ、そこから上半身が女竜人(ドラゴニュート)を思わせるアラクネと、全身を甲冑に身に着けたリッチが出現する。

 その姿だけでかなりのモンスターだと思える。


 特にアラクネの方は竜人(ドラゴニュート)だけでなく、その肌や下半身の蜘蛛の部分にも竜の鱗が張り巡らされ、蜘蛛の姿をした竜にも見えた。


 リッチの方も見た目は魔法使いのようにローブを纏っているのだが、体全体を覆う鎧を着ていた。いや、よく見ればただの鎧じゃなく矢鱈滅多らと豪華な装飾を施していた。(名前がリッチだからか?)

 おそらく接近戦もこなす万能型リッチなのだろう。


 2体のモンスターはアレストの命令に従って巫女スケルトンロードに襲い掛かる。


『たった2体だけであたしを屈服させられるとでも? 舐めないでよね!

 しかも最強のアンデットであるあたしにリッチをぶつけて来るなんてバカにしてるでしょう!』


 どうやら巫女スケルトンロードのプライドを刺激したらしく、これまで俺に向いていた敵意がアレストへと向かった。


 アレストの参戦により状況は混乱を極めたが、これは俺にとってまたとないチャンスだ。

 巫女スケルトンロード相手に使徒の証を使ってどうしようかと思っていたが、好都合だ。

 俺は2体のモンスターが巫女スケルトンロードを相手しているうちに俺はアレストを狙う。


「剣姫一刀流・瞬刃!!」


 瞬(瞬動)の移動速度で刀ごと体当たりで斬りつける攻撃をアレストに叩き込む。

 だが当然俺と巫女スケルトンロードの戦いに割って入ったアレストは俺のことも警戒しており、俺が攻撃の動作をすると同時に再び召喚を行っていた。


召喚(コール)・マザースライム!」


 瞬間、アレストの目の前に5m大の巨大なスライムが現れた。


 瞬刃の動作に入っていた俺は止まることが出来ず、マザースライムに突っ込んでしまう。

 おそらく通常ならマザースライムの体内に取り込まれるんだろうが、『力の使徒』の特殊スキルを有した俺の瞬刃は勢いを殺されながらも突き抜けることが出来た。

 スライム特有の腐食の酸も『迷宮の使徒』の特殊スキルで炎を纏っていたお蔭で大事には至らなかった。

 多少の火傷はユニコハルコンで治す。


 そしてマザースライムを突き抜ける際に核を斬り裂く事が出来たので、マザースライムは形を保てずに地面へと溶けてなくなる。


 とは言え、アレストを狙った瞬刃が防がれたので目の前に無防備な姿を晒すことになる。

 流石にマザースライムを突き抜けて来るとは思ってはいなかったが、アレストは直ぐに次の対抗手段として別のモンスターを召喚していた。


召喚(コール)・ベルセルクベア!」


 狂戦士(ベルセルク)の名を冠する巨大な熊が俺の目の前に立ち塞がり、その巨悪な爪を振り下ろす。


「させるかよぉぉぉっ!!」


 その直前に1人の男が乱入してきてベルセルクベアの爪をいなす。

 俺はその隙にベルセルクベアから距離を取り、一度態勢を整える。


 乱入してきた男はそのままベルセルクベアとやりあいその場に足止めをしていた。

 バスターソードを片手で振り回し、左手には短杖を盾代わりにしてベルセルクベアの攻撃を逸らしていた。

 所々で呪文を唱え魔法剣を発動している。


 魔導戦士(マジックウォーリア)か? 剣と杖を同時に扱う奴も珍しいな。


 そして男の他にも女狼人(ウィーウルフ)が横合いから現れベルセルクベアをぶん殴る。


「螺旋拳・烈火!!」


 魔法剣とは違う火属性の魔力を纏った拳がベルセルクベアにたたらを踏ませる。の放つ拳には魔力が籠っているのだ。


 俺はその女狼人(ウィーウルフ)には見覚えがあった。

 クラン『月下』の魔想闘士(マギフィスト)ウルミナだ。


 その後方からはアルフレッドとジャド達が居た。


「おい、ゴウエン! 一人で突っ込むなよ! ウルミナもだ! 相手は『正体不明の使徒』なんだぞ!」


 どうやら召喚モンスターを倒して回っていたアルフレッドたちが偶然俺達を見つけ加勢に来たみたいだ。

 だがゴウエンとやらは相手が『正体不明の使徒』だろうとお構いなしに突っ込んできたみたいだ。


「ああ!? 俺がコイツを目の前にして大人しくしているわけねぇだろがっ!!

 会いたかったぜぇ、アレスト!! まさか再び会えるとはな。あの時の礼をたっぷりさせてもらうぜ!!」


 訂正。どうやらアレストとは因縁があるみたいだな。それも結構根が深そうな。


「大丈夫ですよ。『正体不明の使徒』と言ってもデュオさんに・・・いえ、クオちゃんに倒される程度の使徒なんですから。

 あたし達が負けるはずがありません」


 ウルミナも油断なく構えて目の前のベルセルクベアに拳を叩き込む。


「おい鈴鹿、大丈夫か?」


「ああ。すまん、助かった。ただでさえ刀狩りのスケルトンとやりあっている時にアレストが現れたからな。

 しかも使徒の証の特殊スキルを使用中。悪いが時間が無いからアレストが召喚するモンスターを任せてもいいか?」


 俺に駆け寄って来たアルフレッドはドラクネアとフルメタルリッチを相手している巫女スケルトンロードを見て顔をひきつらせていた。


「あ、ああ。こっちは任せておけ。

 ・・・別の意味で持っている奴じゃねぇのか? 鈴鹿の奴」


「まさか刀狩りまで引き寄せるとは、鈴鹿殿はうちのサブマスターに劣らずトラブル体質でござるな」


 そんなつもりはないんだがな。


 ジャドは相変わらず忍者姿だったが、この場においては場を引っ掻き回すのには丁度いい人物だった。


「頼んだぜ!」


 後のことはアルフレッドたちに任せ俺はアレストへと向かう。

 アレストの前にはベルセルクベアが3体に増えて守るように立っている。

 ゴウエンとウルミナは3体のベルセルクベア相手に奮戦していた。


「ちっ、何だこの熊公! 普通のベルセルクベアじゃないな!?」


「それはそうさ。僕が蠱毒法で作り上げた強化ベルセルクベアなんだよ。そう簡単に倒されては困るよ」


 確かベルセルクベアはB級下位のモンスターだったはず。おそらく蠱毒法とやらでA級上位まで引き上げられているのだろう。

 ゴウエンが何級かは分からないが、それならば手古摺るのも頷ける。


「そう? 所詮は貴方の作ったモンスターでしょう? 貴方の強さは魔人や使徒に胡坐をかいているだけで貴方自身には何の脅威も感じないわ」


「言ってくれるじゃないか、たかが獣風情が」


 ウルミナって意外と毒舌だな・・・その挑発に乗っているアレストも沸点が低すぎ。

 アレストは追加でモンスターを召喚しようとするが、それを邪魔するのはアルフレッドとジャド。そしてゴウエン達に参戦する俺だ。


 もう既に特殊スキルを使用しているから遠慮は無しだ。


「特殊スキル起動! Start! Fang! Zone! Bout! Labyrinth!」


 Fangで神狼(フェンリルイド)化し、StartとPowerで更に身体能力を上げる。

 Zoneで感覚を鋭くし、Boutで魔闘気を纏い、更にLabyrinthで四属性の力をを持たせる。


 はっきり言って過剰戦力もいいところだ。

 だがその効力は桁違いだ。これまでの特殊スキルを遥かに上回っていた。


 目の前のベルセルクベアを一撃で粉砕し、返す刀でアレストを斬る。


「なっ!!?」


 これにはアレストも驚愕し躱そうとするものの、避け損なって右腕を切り落とされる。


 ・・・と言うか、今の俺の状態の攻撃を右腕だけで済ましているのもある意味驚きだな。


「まてや、こらぁ!! そいつは俺の獲物だ! 横からしゃしゃり出て手を出すんじゃねぇ!」


 ゴウエンも何だかんだ言いながらベルセルクベアの1体を屠りアレストの前に踊りでる。


「ウルミナ、残りのベルセルクベアを頼んだ!」


「分かりました!」


 後ろからはアルフレッドがウルミナの援護をしていた。

 ジャドは・・・いつの間にか姿が見えない。おそらく忍者らしくどこかに潜んでアレストか巫女スケルトンロードの隙を伺っているのだろう。


「ちっ、仕方がない。ここで僕がやられるわけにはいかないんだ!

 ――魔獣憑依召喚! 魔狼神月王!!」


 流石に神狼(フェンリルイド)化した俺とゴウエンの相手をするのに危機を覚えて慌てて切り札を切ってきた。


 アレストの足下に召喚陣が現れると同時に、狼の獣人へと変化していく。

 体の一部を獣と化す獣化魔法やモンスターを憑依させその力を使う魔獣憑依魔法があるが、これはそれらとは異なりが違うみたいだ。

 見た目は狼人(ウィーウルフ)だが(但し体毛が真っ黒)、名前からして強力なモンスター――この場合は魔狼――を召喚と同時に融合させる召喚魔法か?


 憑依と違いモンスターと融合ともなればかなり危険な魔法なはずだ。

 いや、アレストは人間でありながらモンスターの力を持つ魔人だ。これくらいはどうってことないのだろう。


「はははっ! これで君たちの勝ちは無くなった!

 僕が融合したのは神狼フェンリルと双璧を為す魔狼ヴァナルガンド! 力とスピードは他のモンスターとは比べ物にならない! そして何よりもその再生力は最早不死身と言っていいくらいだ!」


 確かに切り落としたはずの右腕が再生しているな。


「ゴチャゴチャうるせえよ。御託はいいから掛かってきな」


 ゴウエンは杖を握っている左手で器用に中指をおっ立てる。


 ヒュ~、あの状態のアレストを挑発する、か。

 なかなか胆が据わってらっしゃる。


 だがゴウエンの言うのは尤もだな。見れば向こうの巫女スケルトンロードの抑えも最早聞かなくなっている。

 竜の鱗を持つアラクネ――ドラクネアや全身鎧のフルメタルリッチは既にボロボロだ。

 あの巫女スケルトンロード相手によくここまで持ったと言うべきか、この2体を相手に巫女スケルトンロードが強かったと言うべきか。

 ・・・あれ? これだとどちらも巫女スケルトンロードの強さがけた外れだと言っているようなものか。


 兎も角、こっちは余裕こいている時間は無い。

 今回の事件のラスボスポジションのアレストには悪いが、後ろには巫女スケルトンロードが控えているんで速攻で終わらす。


 ・・・いや、ここは一撃だけ入れて『正体不明の使徒』のクエストにも噛んでいると言う事を証明した後、ゴウエンに任せればいいんでないか?


「そもそも何故神狼フェンリルが最強の神獣なのだ? 違うだろう。魔狼ヴァナルガンドこそが最強の神獣だ! その力篤と見せてあげるよ!」


「うるさい」


 ぼぎゅっ!!


 どさっ。


 俺の放った無造作の一撃が魔狼(ヴァナルガンド)化した体の2/3を吹き飛ばし、胸から上と左上が残ったアレストが地面へと落ちる。


「「「え?」」」


 あまりの光景に攻撃を放った当の本人である俺、攻撃を喰らったアレスト、アレストを倒そうと意気込んでいたゴウエンの3人は思わず唖然としてしまった。


「えー・・・っと、ゴウエン、後は任せた」


 スチャっと右手を上げて後はゴウエンに任せて俺は巫女スケルトンロードの方へと向かう。

 あまりに居丈高な態度だったアレストに思わず攻撃を放ったんだが・・・うん、俺は悪くない。


 後ろの方では「そんな馬鹿なっ!?」と呻きながら体を再生しているアレストが居たが、あくまで治ったのは見た目だけで中身はスカスカだ。

 体力やら気力やら魔力やらは根こそぎ消失したっぽい。


 そのチャンスを見逃すジャドではなく、アレストの影の中から現れては鎖の束縛魔法で動きを封じていた。

 それをゴウエンがボコボコにしているのがチラリと後ろを見た時に映っていたことを言っておこう。


『ふふふ、ようやく本気になってくれたのね。これは乱入してきたあの使徒には感謝しないといけないかしら? これであたしも全力を出せるわ。

 ――神降し・アマテラス』


 げっ、アマテラスって日本神話の最高神じゃねぇか。

 つーか、スケルトンでありながら太陽神を降ろすなよって言いたい。


 アマテラスをその身に宿した巫女スケルトンロードが太陽の如く神々しい光を放つ。


 おそらくだが、今の特殊スキルフルブースト状態の俺は巫女スケルトンロード・アマテラスVerの相手を出来るくらい強くなっているだろう。

 特殊スキルの使用数から言っても『災厄の使徒』よりも確実に。


 だが、残りの時間が約10分くらいか・・・? 下手をすればもっと少ないかも。


『さぁ! 最高の舞踏会を始めましょう!!』


 確かに舞踏会、だな。

 巫女スケルトンロードが使う流派は剣姫二天流。

 俺の使う流派は剣姫一刀流。


 共に体捌きを主体とし、魔法剣を使う者同士。

 お互いのステップがリズムを刻み、撃ち合う刀が音楽を奏でる。


 まるで本当に踊っているような錯覚に陥る。


『あははっ、楽しいわね! 貴方もそう思うでしょう!? これほどの全力、そう出せるものじゃないわ!』


「ちぃ、巫女神フェンリルが戦闘狂(バトルジャンキー)だったって話は聞かないぜ!?

 お前の望みは俺とアイさんを倒すことじゃなかったのかよ!? いつの間にか目的と手段が入れ替わってねぇか!?」


『そんな些細な事は今はどうでもいいのよ。野暮な事は言わないで!』


 ・・・目が逝っちゃってるよ。骨だから目は無いんだけど。


 Zoneのお掛けで間延びした時間を高速で動き回り、お互いの刀を打ち合う。

 スピードの方は辛うじて俺が上だが、手数では巫女スケルトンロードが上だ。


 このままだとジリ貧で時間ばかりが削られていく。

 特に時間に不利なのは俺の方だ。


 このジリ貧状態の打開策はお互い持っているが、問題はそれを放つタイミングだ。

 俺の方は既に前準備は終わっている。

 巫女スケルトンロードの方は・・・?


 骨状態なのに何故かニヤリとしているのが分かる。


 どうやら向こうも準備完了、そしてお互いの切り札のぶつかり合いを望んでいる、か。


 本当ならここでぶつかり合うのは愚策なんだろうな。上手くタイミングをずらし空振りさせてからこちらの切り札を放つ。それが良策なんだろうけど、何故か俺も切り札のぶつけ合いを望んだ。


 巫女スケルトンロードの戦闘狂(バトルジャンキー)の雰囲気に引っ張られたかな・・・?


「いいぜ、お望み通り力と力のぶつけ合いと行こうじゃないか!」


 一度お互い距離を取り、俺はユニコハルコンを鞘に納め、巫女スケルトンロードは二刀を高く掲げタイミングを伺う。


 そして同時に瞬(瞬動)を使い互いの距離を一瞬で詰める。


「剣姫一刀流奥義・百花繚乱!!!!」


天空の劫火(ソレイユ)

 ――神威劫火五月雨十字!!!!』


 巫女スケルトンロードの放つ一撃が俺の融合魔法剣を纏ったユニコハルコンを弾く。


 おそらく火属性魔法の最高峰と思われる魔法を刀戦技・神威一閃と五月雨、二刀流戦技・十字閃の複合戦技で放つ最強の一撃。


 だが俺の攻撃はまだ終わってはいない。

 奥義・百花繚乱は高速で連続に鞘に融合魔法を掛け、高速で連続に居合切りを放つ連続魔法剣だ。

 一撃が防がれてもほぼ同時の連続攻撃が巫女スケルトンロードの一撃を押し返す。


 ガガガガガガガガガガガガガガガガガッッ!!!!!!


 その状態がほんの1秒にも満たない間拮抗し、耐えきれなくなった巫女スケルトンロードが体勢を崩し俺の連撃が巫女スケルトンロードの体を打ち付ける。


 連撃を放ち終えた俺はオーバーヒートする頭に眩暈を覚えながらもボロボロになって地面に膝を付き動かなくなった巫女スケルトンロードを見てようやく終わったことに安堵した。


「おにーさん!! 避けて!!!」


 思わず声のした方を見れば、そこには第四衛星都市ハレミアで見た事のある少年に間違われやすい少女がいた。


 何であの子がここに居る?

 今はモンスターやら使徒やら巫女スケルトンロードやらでここは戦場なんだぞ?


 一瞬、目を離した。

 たったそれだけで巫女スケルトンロードには十分な時間だった。


『神降し・オオクニヌシ!

 ファイヤージャベリン!

 アクアランス!

 ウインドランス!

 ストーンジャベリン!

 サンダージャベリン!

 アイシクルランス!

 ホーリーランス!

 エネルギージャベリン!

 ――八千矛神!!!!!!!!』


 ズドムッッッッ!!!!!


 ほぼゼロ距離で放たれた突き技――いや捨刀術か?――にらしくない音を鳴り響かせ俺の体を貫いていく。


「がはっ・・・・・・!!!」


 右腕と右上半身が吹き飛んだ。


『油断大敵。残心がなっちゃいないわね』


 巫女スケルトンロードも俺の連撃で左腕や左足が砕けているって言うのに、なんて奴だ。

 こいつはこれを狙ってたのか・・・!!


(とど)めよ』


 残った右腕でもう一刀の素戔嗚の太刀を引き寄せ最後の一撃を放とうとする。


 やべぇ・・・完全に油断した。


 まだ特殊スキルの時間内で神狼(フェンリルイド)が切れてなかったから辛うじて意識は保っていられる。

 けど流れる血が多すぎた。


 このままだと確実に出血多量で死亡だ。

 いや、その前に巫女スケルトンロードの一撃で死亡か?


 八千矛神の威力は凄まじく一直線に巨大な穿たれた傷跡が残されており、その余波を受けてゴウエンやアルフレッドたちは吹き飛ばされていた。

 なんとか起き上がってこちらに駆け寄ろうとしているのを俺はぼんやりとみていた。


「申し訳ないが彼に止めを刺すのは遠慮願いたい」


 その声に反応して巫女スケルトンロードの動きがピタリと止まる。


「彼は我々にとって必要な人材ですので」


 ここに来てまた新しい闖入者か!?


 声のする方を見ればそこには金髪の男か女か分からない中性的な奴が立っていた。

 見た年齢からして20代の若者に見える。


「お・・・まえ、何を、した・・・?」


「いえ、大したことはしてません。不死モンスターの活動力である黄色の生命力(アンデットオーラ)を一時的に止めたに過ぎませんよ」


 いや、それだけでも十分凄すぎるのだが。

 ・・・何者だ?


「ああ、自己紹介が遅れましたね。私は『正体不明の使徒』のビギニングです。再生(リバイバル)生存(サバイバル)を司る『始まりの正体不明の使徒』です」


 なっ!? じゃあこいつが他の『正体不明の使徒』を蘇生している統括者か!?

 そう言えば、第四衛星都市ハレミアで悪事を働いていたエチーガの野郎に強制命令権(マスターコマンド)を与えたのは金髪の中性的な奴だったって話だ。もしかしてこいつの事なのか!?


 と、ここで特殊スキルの効果が切れて俺の体は元の人間の体に戻り、複数の特殊スキルのデメリットが降りかかる。

 おまけにほぼ右半分が吹き飛んでいて人間の体に戻った反動で一気に倦怠感や酩酊感が襲ってきて目の前が暗くなり始めた。


「ああ、これはいけませんね。このままでは命に関わります」


 そう言ってビギニングが手を翳すと瞬く間に俺の体は元に戻った。


「なっ・・・!?」


 たったあれだけであの大怪我を治しただと・・・!?


「一体どういうつもりだ。何故俺を治した」


「先ほども申しあげたとおり貴方は・・・いえ、今回の事件に関わった冒険者の方々は我々にとって必要な人材ですので。

 特に貴方のような激しい戦闘を経験した人物は命を失うには惜しすぎる」


「自分らで争いの火種を起こしておきながら人の命を奪うのは惜しいだと?」


 ・・・いや、逆だ。

 こいつの言い分が正しければ、命を失うほどの激戦を経験した者が必要だから王都を襲うような真似をしたと言う事か・・・?


「まぁ、貴方方は色々言いたいことがあるでしょうが、我々にも色々都合があるのですよ。

 ああ、安心してください。アレストさんが倒された以上我々はここで引き上げます。これ以上の戦闘はありませんよ」


 確かに向こうにはゴウエンやアルフレッドたちにボコボコにされたアレストが転がされていた。

 ああ、ナイトハートも八千矛神の余波を受けてボロボロになって吹き飛ばされているな。


「では。貴方がアルカディアに行けることを我々は心より願ってます」


「待て。『正体不明の使徒』の元締めをこのまま逃がすと思っているのか? 今ここでお前を逃がせばまた同じことを繰り返すだろう」


 ここから立ち去ろうとするビギニングを俺は重い体を無理やり立たせユニコハルコンを構える。

 今の俺は戦えないまでも時間稼ぎは出来る。

 時間稼ぎの間にアルフレッドたちが来ればビギニングを確保することも可能なはずだ。

 確かナイトハートの言が正しければこいつは戦闘力が皆無なはず。


「まぁ、人材が不足しそうなときには何処か大都市での大規模戦闘をすることになりますが・・・それは随分と先のことになりますよ?」


「だからと言ってはいそうですかって帰すと思っているか?」


「困りましたね。私は一切の戦闘が出来ないんですが・・・仕方ありませんね。少々強引ですがこの場を辞させていただきます」


 ビギニングが手から何かを地面へ落すとそこから急に木や草が急激に生えて視界を遮る。

 慌ててユニコハルコンを振るい切り落とすとそこには既にビギニングの姿が無かった。


 周囲を見渡せば駆け寄って来たアルフレッドたちの向こう側、ナイトハートを引き寄せアレストの傍らに立つビギニングが居た。


 そして俺にしたように、ナイトハートとアレストに手を翳すと2人とも息を吹き返し蘇った。

 ナイトハートは切り落とされた左腕を再生してだ。


「ぐ・・・まさか私がああも簡単に倒されるとは・・・精進が足りないと言う事か」


「ああっくそっ! 僕をこれほどコケにした人間はデュオ以来だよ! 彼女もろとも皆殺しにしてやる!」


「ナイトハートさんは相手が彼女であれば仕方がありません。彼女に敵う人物はそう多くありませんから。

 それとアレストさんは自重してください。これ以上の戦闘は最早無意味です。それこそ本末転倒になりかねませんので」


「ぐっ・・・分かりました。

 おい! 覚えておけ。魔人は、・・・『正体不明の使徒』はお前たち天地人(ノピス)異世界人(プレイヤー)を見ていると。精々短い生を謳歌しておくといい」


 アレストは捨て台詞を残してビギニングに引きつられこの場から消え去った。


 瞬間移動の類い・・・か?


 時空魔法の使い手は七王神の1人にしかいないはず。

 何が戦闘能力が皆無、だ。戦闘能力以上に脅威な能力を有しているじゃないか。


「はぁっ・・・!? 倒したはずのアレストの野郎が生き返りやがった・・だと?」


「わけ分かんねえ・・・一体全体何がどうなっているんだ?」


「不覚です。おそらくあの人物がボス・・・まさか目の前で取り逃がすとは」


「今のは・・・影渡りとは違う空間移動でござるな。ただ者じゃないでござるな」


 俺の元に駆けつけたアルフレッドたちはいきなり現れたビギニングやその能力の行使に戸惑いを隠せないでいた。


 ビギニングを逃がしたのは痛かったが、ともあれ一応王都の襲撃はこれで終わりのはずだ。

 まだ残っている召喚モンスターも直に騎士団や兵士や他の冒険者たちに殲滅されるだろう。


『・・・興が削がれたわね』


 ビギニングが去ったことによりそれまで動きを抑えられていた巫女スケルトンロードが動き出した。


 突然動き出したスケルトンにアルフレッドたちは驚愕し慌てて構えを取る。

 だが俺は向こうはもうそんなつもりはないだろうと予想していた。

 僅か数分刀を交えただけだが、巫女スケルトンロードの気持ちがなんとなしに分かるのだ。


「お前のやりたかった俺はこの様だ。まだやるか? 今なら何の抵抗も無しに倒せるぜ」


『いいえ。次に会う時までその命を預けておくわ』


 俺のワザとの挑発もさらりと受け流し、巫女スケルトンロードは八千矛神で放った神木刀ユグドラシルを拾い、人間の幻影を被せ王都の町中へ紛れ込んでいった。


 このまま王都に潜伏し続けるのか、それとも俺とアイさんを狙う為影から追いかけて来るのか。

 どちらにせよ、近い将来巫女スケルトンロードとは決着を付ける時が来るのだろうな。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 ――AL103年5月8日――


 特殊スキルの後遺症(デメリット)でほぼ1日何もできないような状態だったので休養に充てて、俺はその間にアイさんと共に離魂睡眠(ログアウト)して親父にAIWOn(アイヲン)の報告をしていた。


 7日に帰魂覚醒(ログイン)したが、『正体不明の使徒』との戦闘の後始末と言う事で、デュオたち共に王宮やら騎士団やらの事情聴取を受けてほぼ1日拘束されてしまった。


 本来であればもう数日掛かるのだが、そこはデュオ達『月下』の後ろ盾で俺とアイさんとトリニティは解放させてもらっている。


 悪いが俺にはそんなに時間を掛けている暇は無いからな。

 唯姫のタイムリミットが約半年とは言え、予想に反していつその寿命が切れるか分からないのだ。

 人によっては1ヶ月しか過ぎてないと言うだろうが、俺にとってはもう1ヶ月が過ぎたのだ。


「相変わらず慌ただしいわね。でも・・・大切な人の命が掛かっているものね」


「悪いな。後のことは任せてしまって」


「構わないわよ。鈴鹿の証言で『正体不明の使徒』の詳細も分かったしね。後のことは任せなさい」


 正直、『始まりの正体不明の使徒』を取り逃がしたのは痛かった。

 だが俺が持ち帰った情報が今後の『正体不明の使徒』の対策に大いに役立つことは間違いない事だ。

 王宮や騎士団にしてみればもう少し詳細を聞き出したいところだが、後のことはデュオに任せて俺達は残りのエンジェルクエストを攻略することにしたのだ。


「結局今回は美刃さんは来なかったわね」


「どうも異世界(向こう)の生活が忙しいらしいわ」


 トリニティが言ったようにクラン『月下』最大の戦力であるS級冒険者の美刃さんは今回は帰魂覚醒(ログイン)してこなかった。


 デュオ達の方の『正体不明の使徒』――デュオとトリニティの兄であるソロとの戦いは熾烈を極めたらしい。

 なんせソロの『正体不明の使徒』としての能力は七王神の力を再現するものだったとか。


 はっきり言ってチートとしか言いようがない能力だと思う。

 その為、ソロは余程の事が無い限り使徒として動くことが無いらしい。

 美刃さんが居ればかなり違ったんであろうが、それはもし・たら・ればの話だ。


 まぁ、その闘いの途中でビギニングが介入して決着を預かったので致命的な損失までは免れたらしい。


 本当、ビギニング・・・いや、『正体不明の使徒』達は何を考えているのやら。

 激戦を経験させ、俺達に何をさせようと言うのか。


 特にビギニングの最後の別れ際の言葉――アルカディアに行くことを願っている・・・?

 ・・・まさか、な。


 ああ、因みに離魂睡眠(ログアウト)した際に、唯姫の母親(おばさん)に美刃さんの事を聞いてみたが何でも元夫とのトラブルでAIWOn(アイヲン)にログインする暇が無いのだとか。


 ・・・美刃さんって、バツイチだったのか。

 まさかVRMMOのやり過ぎで離婚したとかじゃないだろうな・・・?


「さて、名残惜しいが俺達はもう行くぜ」


「ええ、気を付けて。トリニティも元気でね」


「うん。お姉ちゃんも元気でね」


 他のメンバーは後始末に大忙しで見送りに来たのはデュオのみだ。

 俺達はデュオに分れの挨拶をして、王都の中央の転移陣で水の都市ウエストヨルパへ転移する。


 王都で必要な補充品を揃えていたので水の都市では余計な買い物をせず、直ぐに外へ出てスノウを元の大きさに戻して次の目的地、始源の森のさらに南へと向かう。


「うわぁぁ~~これ凄い! 最高の景色だね!!」


「なぁ、お前本当に付いてくるつもりか?」


「なによぉ~ボクは命の恩人だよ? そんなに蔑ろにすると傷つくなぁ」


 そう言ってスノウの背中ではしゃいでいるのは巫女スケルトンロードの時に声を掛けて警告を促したあの時の少女だ。

 既にスノウに乗せておきながら言うのもなんだが、この少女は本当に付いてくる気らしい。


 事態が片付いて昨日の取り調べが終わった時に俺達に接触してきたのだ。

 どういう訳か、俺達のエンジェルクエストの攻略の旅に付いて行きたい、と。

 本来であればそんなことはお断りなのだが、少女の正体を知って認めざるを得なかった。


「いいのかなぁボクの能力は役に立つよ? それはおにーさんに渡したWの使徒の証でも証明できるでしょ?」


 そうなのだ。この少女は行方の分からなかった『警告の使徒・Warning』だったりする。

 何が目的なのかはしらないが、アイさんはこの少女に邪な気はないと判断した。


 しかも旅に付いてくる手土産としてクエストも無しにWの使徒の証をすんなり渡してきたのだ。

 流石に使徒の証だけ貰ってはいそうですかとは言えず、仕方なしに動向を許可した訳だが。


 因みにあの戦いの時ちゃっかり巫女スケルトンロードが八千矛神を放つ前に逃げおおせていたりする。


「ねぇ、あなたの目的って何なの?」


「うーん、今はそれは言えないね。ま、いずれ話すからそれまで少しの間だけどよろしくね!」


 少々珍妙な同行者が増えたが、少女の能力が有能なのはその通りなのだからな。正直残りの旅に危険が回避されるのはありがたい。


 そう、使徒の証は残り3つ。


 万一間違いが起こらないように万全を期す必要があるのだ。


 俺達の目的地であるアルカディアはもうすぐそこだ。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 【誰も】Tの使徒の正体スレ33【見たことない】


397:名無しの冒険者:2059/04/15(火)16:38:56 ID:Sa4oh5shO

 結論。Tの使徒って実は幻


398:名無しの冒険者:2059/04/15(火)16:41:15 ID:Mdi93KnG2

 いやいやいや、使徒が居なきゃ使徒の証はもらえないでしょ


399:名無しの冒険者:2059/04/15(火)16:55:41 ID:Kumo5Ttl910

 ループループループ!


400:名無しの冒険者:2059/04/15(火)16:57:22 ID:U4ohuZo8

 何べん同じ話し繰り返すんだよw


401:名無しの冒険者:2059/04/15(火)17:07:50 ID:BnyUSn1Bcp

 でも実際使徒と会ってないのに使徒の証貰えるよ?


402:名無しの冒険者:2059/04/15(火)17:14:09 ID:A6B64AFwr

 Tの使徒の証を貰える宮殿の玉座に何かヒントがありそうなんだけどね


403:名無しの冒険者:2059/04/15(火)17:21:15 ID:Mdi93KnG2

 そう言えば誰か特殊スキルを使用した人はいないのかな?


404:名無しの冒険者:2059/04/15(火)17:25:41 ID:Kumo5Ttl910

 過去ログ嫁


405:名無しの冒険者:2059/04/15(火)17:30:56 ID:Sa4oh5shO

 Tの使徒の名前が分からなきゃ使えないよ


406:名無しの冒険者:2059/04/15(火)17:34:09 ID:A6B64AFwr

 後はその玉座で使徒の証を貰えた人と貰えない人の差を比べれば分かるんだろうけど

 誰か検証してくれないかな?


407:名無しの冒険者:2059/04/15(火)17:36:22 ID:U4ohuZo8

 >>406 むりぽ

 検証厨が挑んだけどトリガーが全く不明


408:名無しの冒険者:2059/04/15(火)17:41:15 ID:Mdi93KnG2

 あー、そっか。そう言えばそうだったね

 名前が特殊スキルの起動キーだったっけ


409:名無しの冒険者:2059/04/15(火)17:47:50 ID:BnyUSn1Bcp

 時間、ルート、PT数、etc・・・

 どれも当てはまるものが無いんだっけ?


410:名無しの冒険者:2059/04/15(火)17:55:56 ID:Sa4oh5shO

 結局Tの使徒の証を貰えるかもらえないかは今のところは運次第だな








ストックが切れました。

暫く充電期間に入ります。


                          ・・・now saving



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