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Alive In World Online  作者: 一狼
第9章 Unknown
48/83

47.覚悟と騎士と召喚モンスター

「『正体不明の使徒』はそれぞれ別の使徒の力を扱う事の出来る方式(モード)を持つ形を持たない使徒なんだ。故に『正体不明』の使徒。

 そしてボクはその方式(モード)を2つ同時に扱う事の出来る使徒、2方式(ツーバイモード)を司る『合成の正体不明の使徒』なんだよ」


 って、なんじゃそりゃ――――!!

 ただでさえ使徒の能力がバラバラなのに、それを2つ同時使用なんてありかよ!


 剣技の使徒と達人の使徒のSwordMasterって言うだけあって、その剣閃はS級冒険者の美刃さんに匹敵し、底の見えない脅威はアイさんを髣髴させる。


 実際ジェニファーが振るった一閃により、俺の背後にあった建物が文字通り上下に分断された。

 達人の剣技に加え、魔人化した麒麟(ジェラフィン)の膂力が加わればこれぐらいの芸当は可能なのだろう。


 ってか、これマジシャレにならん。


 辛うじて俺が勝っているのは剣姫流による体捌きのみで、出来るだけ剣が交わらないよう避ける方向で動いている。


「剣戦技・トライエッジ!」


 斬撃を飛ばす戦技・エアスラッシュじゃないにも拘らず、ジェニファーの剣戦技は空を切りながらも衝撃波が俺を襲う。


「ちぃ! 刀戦技・桜花一閃!」


 衝撃波を斬り裂き、その余波が俺の背にある建物に三爪の傷跡を残す。

 そしてその衝撃波を放ったジェニファーは空高く舞い上がっていた。


「でぇぇりゃぁぁぁぁ!! 拳戦技・爆拳!!」


 頭上からの一撃は地面を穿ちクレーターを作り上げる。

 文字通り爆発する拳だ。

 おそらく空中で究極の使徒と拳撃の使徒のモードへ切り替えたんだろう。


「うーん、中々当たんないね。流石は剣姫流ってところかな?」


 爆発の中心からジェニファーが首を傾げながらも面白そうにこちらを見ていた。


「そいつはどーも」


 軽口は叩くが、実は結構ヤバかったりする。

 出来れば今は引いて、この情報をデュオ達に届けたいんだがな。


 ・・・仕方がない。出来れば使いたくは無かったんだが。


 俺は懐から球状の物を取出し地面へと叩き付ける。

 地面へ叩きつけられた瞬間に辺り一面に煙が蔓延した。


 俺が叩き付けたのは煙玉だ。一応、緊急時の為に所持していた。

 勿論、この煙だけではジェニファーから逃れられないだろう。

 実際、ジェニファーの放つ剣閃は煙を吹き飛ばす。


「こんなもの!」


 だが、既にそこには俺の姿は無い。


 煙玉を使ったのは一瞬だけでも視界を遮れば良かったからだ。

 俺が次の一手に使ったのはEの使徒の証の特殊スキル・Escape。

 その一瞬で俺はこの場から離脱することが出来たのだ。


 但しこの特殊スキルのデメリットは、この後の24時間は戦闘があれば必ず戦わなければならないと言う事だ。

 逃走率0%になってしまい、戦闘に勝利し続けなければならないと言うある意味地獄スキルでもある。


 この戦闘を逃げ出せたとしても、『月下』のクランホームに着くまでに再び戦闘へ巻き込まれれば今度は逃げることが出来ない。それが別の『正体不明の使徒』なら尚更だ。

 ジェニファーですら厄介なのに他の『正体不明の使徒』と鉢合わせをしたのなら、単独で撃破することが出来るかどうか。

 それを考えれば出来れば使いたくは無かったんだがな。


 俺は背後で雄叫びを上げているジェニファーを置き去りにして脱兎の如く戦闘区域から離れ、出来れば他の『正体不明の使徒』と遭遇しませんようにと祈りながら『月下』の仮クランホームへと向かった。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 俺が『月下』の仮クランホームへ戻るころにはすっかりと陽が落ちて辺り一面暗闇が降りていた。

俺が部屋へと駆込むように入ると主だったメンバーは既に戻って来たらしく、全員が揃っていた。


「おう、どうした鈴鹿?」


 息を上がらせて戻ってきた俺をウィルは訝しげに見る。


「どうもこうもねぇよ。魔人・・・ありゃあ『災厄の使徒』と別の意味で厄介だぞ」


「お前・・・まさか一戦やらかして来たのか!?」


「ああ、成り行き上仕方が無くな。とは言っても情報を持ち帰る方を優先したからまともにぶつかってはいないがな」


「お前もデュオと同じでどこかしらトラブルメーカーの素質を持っているんじゃないか?

 情報を集めに出た矢先にいきなりこれかよ」


「俺だっていきなり当たるとは思わなかったよ」


 俺とウィルのやり取りを聞いていたトリニティは心配そうに俺に声を掛けてきた。


「ちょっと、大丈夫だったの? 鈴鹿がそんなに言うほどなんだから魔人ってかなりヤバい存在なんじゃ・・・」


「まぁ、その辺りも含めて俺が体を張って手に入れた情報を教えるよ。そっちの方はどうだったんだ?」


「ああ、うん、盗賊ギルドでは魔人のまの字すら出てこなかったね。その代わり『正体不明の使徒』の情報が少し出回っているみたい」


「何か最近王都で『正体不明の使徒』の目撃情報が相次いでいるのみたいなのよ」


 シフィルとは別の方向から情報を集めたトリニティが補足する。


「あー、それはそうだろうな。魔人の情報を集めれば『正体不明の使徒』の情報が出てくるのは至極当然だな。

 なんせ、複数いる魔人の正体は全部『正体不明の使徒』らしいぜ」


「はぁぁっ!?」


 俺の持ってきた情報にトリニティが驚愕の声を上げ、他の者も同様な表情で俺を見る。


「おい、鈴鹿。詳しく話せ」


「言われなくても」


 俺は冒険者ギルドへ行って、ジェニファーに襲われる流れまでを話した。

 その過程で魔人は最低5人。そしてその正体は『複数の使徒能力を使う正体不明の使徒』だと言う事を話した。


「はぁぁぁぁ、通りで『正体不明の使徒』の姿や能力が一致しないわけね・・・『正体不明の使徒』が複数いる上、使う能力がバラバラな上複数所持しているんじゃね・・・」


 シフィルはため息をつきながらも額に手を当てて俺から聞きだした情報を頭の中で整理していた。

 そして同様にウィル達も『正体不明の使徒』の対応をどうすべきか頭を悩ませている。


「それでこの後どうするかだけど・・・」


「いやちょっと待て、鈴鹿。さっき『正体不明の使徒』の中にアレストの名前を上げたな」


「あ、ああ」


「この前王都を襲った召喚従魔師(サモンテイマー)だ。デュオの村を襲った、デュオの兄の仇の。デュオが倒したはずじゃ・・・」


 ああ、どこかで聞いた事があると思ったら、そうか、今日のデュオとの情報交換で出ていた召喚従魔師(サモンテイマー)か。


 って、何やらとんでもなく重大なことを言わなかったか?


「・・・え? ソロお兄ちゃんの・・・仇・・・?」


 ウィルの言葉に反応したのはトリニティだった。

 小さい頃の事はよく覚えていないと言っていたが、本当に覚えていないらしい。

 思いがけない事実にトリニティは動揺していた。


「この前、大量のモンスターを召喚し王都を襲ったクソ野郎だ。だが、デュオが間違いなく葬ったはず」


「そっか・・・お姉ちゃん仇を討ったんだ・・・」


「ああ、だが奴は生きていた。しかもデュオの兄の仇が同じ魔人として一緒に居るだと・・・? 一体何がどうなってやがる」


 確かに。デュオの兄貴は自分を殺した奴と同じ魔人、同じ『正体不明の使徒』となって一緒に行動をしていることになるんだよな。


「もしかして『正体不明の使徒』の中には『正体不明の使徒』を蘇らせる能力を持つ奴も居るんじゃないの?」


 『正体不明の使徒』を蘇らせる『正体不明の使徒』ってややこしいが、ティラミスの言う通りその手の能力を持った『正体不明の使徒』が居てもおかしくないな。

 なにせ既存の使徒に捉われない複数の使徒能力を持っている使徒だからな。


「だが、相手がアレストだったら話は早いんじゃないのか? 他の『正体不明の使徒』はどうだか知らねぇが、アレストの野郎はまた同じことを王都で仕出かすだろうよ」


「そうだな。ならば私等は王都をモンスターの手から守ればいい。何度蘇ろうとも。

 私はこれから王宮へ行き、王都の警備強化を陳情してくる。何処まで聞き入れてくれるが分からないが、打てる手を打っておくことに越したことは無い。

 ウィルは冒険者ギルドへ行き、同様に出来るだけ冒険者にも対処してもらうよう打診して来い。シフィルは盗賊ギルドで情報操作と協力体制のネットワーク構築を頼む。

 残りのメンバーは他の『正体不明の使徒』や、その蘇らせる『正体不明の使徒』の対処だ」


 ハルトの言葉を受け、ピノが今後の行動の指示をそれぞれに出す。


 聞くところによると、そのアレストは魔王信者で世界の破滅願望を持っているとの事だ。

 ならば再び王都へ現れたその者の行動は同様に王都中へモンスターを召喚するだろうと目に見えている。


 流石に『月下』だけで王都中のモンスターを対処できるわけでは無いので、ピノは王宮や冒険者ギルドへ協力をお願いするわけだ。


「あの・・・それでソロお兄ちゃんはどうするの・・・? やっぱり倒すのかな?」


 今後の行動が決まっていく中で、トリニティがそろそろと手を上げデュオの、トリニティの兄貴の処遇をどうするか聞いてきた。


 魔人として『正体不明の使徒』として王都を蹂躙するのなら勿論のこと倒さなければならない。

 だがトリニティの目の前でそのことを言うのは憚られた。


「勿論倒すわよ。王都を、そこに住む人々の生活を脅かすのならね」


 声のする方を見れば、そこにはデュオが立っていた。


「デュオ、もう大丈夫なのか?」


「ええ、心配を掛けてごめんなさい。大丈夫よ」


 ウィルが心配そうにデュオに声を掛ける。

 だが、その心配をよそにデュオは俺達に見せた時のような狼狽した姿ではなく、しっかりとした芯の入った姿を見せていた。


「ソロお兄ちゃん・・・いえ、魔人ソロは倒さなければならないわ」


「でも、お姉ちゃん・・・」


「トリニティ、これは決定事項よ。

 彼が悪事に手を染める前に、もしかしたらもう手遅れかもしれないけど、これ以上の犠牲を出さないためにもあたし達が彼を止めるのよ」


 デュオの決意にトリニティも感化され腹を括るのが見て取れる。


「うん・・・そうだね。あたし達が止めてあげなきゃ」


「そう言う訳だから、彼はあたし達が相手をするわ」


 デュオとトリニティがソロの相手か。

 後衛の戦力としてはデュオは申し分ないが、前衛を担うトリニティが心許ない。

 同じことを持ったのか、ウィルが自分も一緒に行動すると申し出てきた。


「俺も一緒に行くぜ。言っておくが自分たち兄妹のことだって言っても嫌でも付いて行くからな」


「・・・もう、分かったわよ。その分前衛を頼りにしているからね」


 多分いつもこんな感じでウィルはデュオを手助けしているんだろうな。

 デュオはそんなウィルを渋々認めながらも、心なしか微笑んだ表情をしていた。


「情報をくれたデュオの兄は別として、鈴鹿の話だと相手は私達『月下』の事も調べているらしい。

 もしかしたら夜間襲撃があるかもしれないから警戒を怠るな。

 私は王宮へ行く。ウィルは・・・デュオと一緒だからハルトが代わりに冒険者ギルドを頼む」


 そう言ってピノは夜遅くにも拘らず王宮へ向かった。

 まぁ、この瞬間にもアレストがモンスターを召喚しないとも限らないからな。

 ウィルの代わりにハルトも冒険者ギルドへ向かい、シフィルも盗賊ギルドへと向かう。


 残ったメンバーは夜間パトロールとかもしたいところだが、いざと言う時に戦えないと話にならないので明日に備え体を休めることにした。

 特に俺とトリニティとアイさんは昼間に『模倣の使徒』との戦闘があったからな。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 ――AL103年5月5日――


 昨日のうちに各部署へ連絡を入れているので、今日は『月下』のメンバーは各々で『正体不明の使徒』――主に召喚従魔師(サモンテイマー)である魔人アレストを捜索することになる。


 そして別行動としてデュオとトリニティとウィルがデュオの兄貴であるソロを捜し倒す段取りだ。


「ウィル、いざと言う時はこれを使え」


 俺は2人を心配して付いて行く(正確には1人だが)ウィルにある物を渡した。

 これは上手く使えば『正体不明の使徒』にとってはテキメンな効果を発揮するからだ。


「いいのか? 確かにこれは幾つもの使徒の能力を使う『正体不明の使徒』には有効だが、鈴鹿の方が一番必要なんじゃないのか?」


「構わないよ。元々俺の所有物じゃないし、本来の所有者は別にいるからな。その本人は頑として受け取ろうとはしないけど」


「そうか、有りがたく使わせてもらうぜ」


 デュオとトリニティの方でも準備が整いウィルを合流する。


「トリニティ、気を付けろよ。この中でお前が一番弱いんだから」


「あ、ムカ。そんなことはあたしが一番分かってるよ。そう言う鈴鹿こそアイさんの足を引っ張らないようにね!」


 どうやら余計な事を言ったな。ここんところ戦闘面でも急成長しているトリニティに気を付けるよう注意を促したのだが、プライドを傷つけたらしい。

 お返しとばかりにアイさんを引き合いに俺に注意を促してきた。


「分かっているよ。デュオ、トリニティの事を頼むな」


「あのね、あたしの妹なんだけど。そんなの当然でしょ。と言うか、いつからトリニティは鈴鹿の所有物扱いになったのかしら?」


「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!?」


「あー、これまでずっと一緒に行動してきたからな。つい」


「鈴鹿も真面目に返さないで!?」


 まぁ、デュオの悪ふざけをスルーしつつトリニティをからかいながら緊張しているであろうトリニティをリラックスさせる。


 因みに今日もスノウは『月下』の仮クランホームで留守番だ。

 但し今日はここに襲撃してくるかもしれないジェニファーに対する護衛の意味合いも兼ねていた。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 王都に潜伏しているであろう魔人アレスト+他の魔人を捜索する為、二人一組(ツーマンセル)又は三人一組(スリーマンセル)で行動をすることになる。


 そして今回は『月下』の幹部以下のメンバーも召喚モンスター対策として王都を警戒することになっており、同様に単独硬度はせずに数人で組んで動く事になっている。


 俺はアイさんと組んで一番目標のアレストを捜索し、王都を練り歩く。


「鈴鹿君、行動は慎重にね。今日は昨日みたいに特殊スキルのEscapeが使えるとは限らないんだから」


「分かっているよ。少なくとも今日はEscapeは使用できないし、逃げるつもりはないからな」


 Eの使徒の証の特殊スキル・Escapeのデメリットは妖刀・水無月の力で無効化してるので戦闘になっても逃げることは可能だ。

 が、今日は更々逃げるつもりはない。

 昨日は情報を持ち帰る為、敢えて逃げたのだ。決して敵いそうにないから逃げたわけでは無い。断じて違う。


 俺達が警戒して歩く王都はこれから起こるであろう騒動とは裏腹に、平和そのものだった。

 いや、平和であろうとしているのだ。


 ここ1ヶ月弱の間に王都の平穏は乱されっぱなしだったのだ。その時の痛みと向き合い前を向こうと必死に住人は生きているのだ。


 そんな王都の平穏を守るため、王国も冒険者ギルドも行動を起こしていた。

 よく見れば王都の至る所に騎士や兵士、所々に周囲を警戒して歩く冒険者が目に入ってくる。


 昨日のピノたちの陳情が届いて直に行動を開始したのだろう。

 一介の冒険者如きの戯言を良く受け入れたものだ。それだけ『月下』が信用に値するのか、それともそれだけ魔人を警戒しているのか。


「鈴鹿君!」


 突如アイさんの叫び声が響き渡る。

 それと同時に俺に襲い掛かる黒い影。

 アイさんが声を掛けてくれたおかげで間一髪その黒い影の攻撃を躱すことが出来た。


「いきなり奇襲とはやってくれるな」


 改めてその黒い影を見れば平均的な成人男性の体格だ。但しどうやら鎧の上から黒ずくめ状態なのではっきりしたことは言えないが。

 と言うか、鎧の上から黒ずくめの格好かよ。まぁ、『正体不明の使徒』の能力?で黒ずくめになれるから動きを阻害することは無いんだろうが。


 そして右手には抜身の剣を下げ、左腕には円盾(バックラー)を嵌めていた。


 周囲の住民は突然の黒ずくめの襲撃に慌てて避難をする。


 そんな周囲の騒ぎなどお構いなしに『正体不明の使徒』は無言のまま一気に間合いを詰めて剣を振るってきた。

 俺は手を掛けていたユニコハルコンを抜き放ち『正体不明の使徒』を迎撃する。


 見たところ『正体不明の使徒』はステライル騎士道流の流派らしいのだが、流派にない防御術――左腕に嵌めた円盾(バックラー)で俺の攻撃をいなしつつ隙を作って攻撃を仕掛けてくる。


 ステライル騎士道流は基本や型に忠実でどちらかと言えばお飾りの流派とも言えるのだが、この『正体不明の使徒』の放つ剣筋はお飾りどころか実戦でも通じる精度を誇っていた。


 俺はステップを駆使し『正体不明の使徒』の剣を避け、逆にそのステップを利用して剣姫流の技を解き放つ。


「剣姫一刀流・刃翼!」


 『正体不明の使徒』の目の前を左右に高速移動し、同時にユニコハルコンを左右から叩き込む。

 その姿は刃の翼で包み込むように見えるだろう。


「くっ!」


 『正体不明の使徒』は剣と盾を上手く使い左右からの攻撃を弾き返す。

 だが俺の攻撃が思いのほか鋭かったのか、『正体不明の使徒』は完全には防ぎきれず黒ずくめの衣装を斬り裂く。

 それと同時に黒ずくめの衣装は黒い霧となり消え去り『正体不明の使徒』の正体が露わになる。


 そこに居たのはエレガント王国の印の入った鎧を着た騎士だった。


 ・・・マジか? こいつの着ている鎧は間違いなく王国の物であり、この男は間違いなく王国の騎士だ。

 だがその正体は『正体不明の使徒』だと・・・?


「む、影衣(かげころも)を斬り裂いただと・・・? 流石は鈴鹿殿と言ったところか」


「俺の事を知っているのか?」


「知っているとも。エンジェルクエストを攻略中の冒険者の鈴鹿殿とアイ殿であろう。現在はクラン『月下』と共に行動をして、我々『正体不明の使徒』の目的を阻止しようとしている。

 その実力は未知数。何せエンジェルクエストの攻略速度が並外れているからな。最も警戒すべき対象と言えよう。

 クラン『月下』も警戒対象と言われてはいるが、私にとっては貴殿らが一番警戒すべき相手だ。特にアイ殿、貴殿は放ってはおけない存在だと私の勘が告げている」


 おいおい、情報が駄々漏れじゃねぇか。

 まぁ、盗賊ギルドなんかは直ぐに調べれば分かることだから駄々漏れって訳でもないが、『正体不明の使徒』間ではそれに匹敵する情報網があるってことか?

 しかもこの『正体不明の使徒』はアイさんを一番に警戒している。そう言った点ではこちらも要警戒な相手なわけだ。


「『正体不明の使徒』はかなりの情報網をお持ちなようね。それとも貴方の騎士としての力なのかしら? 水晶騎士団第三部隊所属、ナイトハート=ブレイヴハートさん?」


 おそらくエレガント王国の騎士からはじき出したんだろうが、見ただけで直ぐに相手の正体が分かるなんて流石はアイさんだな。

 それはナイトハートも思ったらしく、より一層アイさんに警戒を抱いていた。


「ほう・・・流石はアイ殿だな。こちらの情報は既に掴んでいると。努々油断しないようにしないとな。

 改めて自己紹介をしよう。私は水晶騎士団第三部隊所属、ナイトハート=ブレイヴハートだ。そして魔人でもあり『正体不明の使徒・Unknown』でもある。

 故あって貴殿らの相手は私が致す」


「この時に備えて王宮に入り込んでいたのかしら?」


「いや、これは狙ったものじゃない。生来『正体不明の使徒』は個々で行動をしている。ジェニファー殿の冒険者然り、アムルスズ殿の鍛冶屋然り。

 そして私は元々騎士として王国に仕えていた。いや、だったと言うべきか」


 そう言うナイトハートは遠い目をして語りだす。


「私はかつて騎士団の仲間と共に魔力溜の調査とモンスターの討伐の任を受けて向かったのだが、そこには膨大な魔力溜から異常発生したモンスターが跋扈していた。

 本来なら騎士団として王国に被害が出ないようモンスターを討伐するのが役目なのだが、仲間は私を囮にして逃げ出した。

 私は孤軍奮闘しながら最後までモンスターと戦ったよ。だが結果、私の命は失われ仲間はのうのうと生きながらえた。

 だから私は仲間を恨み、人を恨んだ。そうして気が付けば魔人として生まれ変わっていた。そして魔人となった今、ハッキリと分かる。人間など生かすべき価値も無い存在だと」


「あんたのその身に降りかかった不幸は同情するよ。だがあんたの考えは極端すぎる。あんたが恨むのはその騎士団の仲間であって他の人たちには何の関係も無いだろう」


「騎士団の仲間にはとっくに怨みは晴らしているよ。奴らには私が生きて帰ったことで驚かせつつ、同じようにモンスターの群れに放り込んでおいた。騎士団として仲間と協力すれば生きて帰れる程度の群れにな。

 だが、結果は己の命を優先して各個撃破され全滅した。人間はその程度の生き物だ。

 だから私は騎士としての地位を保ちながら人間を管理している」


「魔人だから人間を支配できる立場にいるとでも言うつもりかよ」


「そうだ。魔人だからこそだ。

 そうして私個人で活動しているところへ同じように魔人となった仲間がいることが分かった。そして魔人が女神アリスより『正体不明の使徒』として任を受けていることも。

 そのほかの『正体不明の使徒』を統括している仲間から我ら『正体不明の使徒』達への集合が掛かった。

 王都を蹂躙せよ、と」


 人間に絶望し魔人となったナイトハートにとっては躊躇う必要もない命令だな。

 だからこそ、こうして命令を実行していると。

 その為の一番の障害になりうるのが俺でありアイさんであると。


 そしてナイトハートの話の中からも分かる通り、『正体不明の使徒』達を繋ぐ人物がいる。

 とは言ってもあくまでまとめ役であって、お互いに協力体制を築いていたわけじゃなさそうだ。

 さっきの話の内容からすると、個々で活動しているらしいな。


 まぁ、ジェニファーみたいな奴がいるとなれば納得できるな。


 だが今回はそれまで個々で活動していた『正体不明の使徒』を纏め上げ、王都を襲撃するように命じた。


 ジェニファーやナイトハートもここで叩いておかなければいけないが、頭であるその『正体不明の使徒』を統括している奴も倒しておかないとマズイな。


「その『正体不明の使徒』を統括している奴の事も教えてくれればありがたいんだがな」


「ふむ、残念だが詳細は教えられない。ただこれだけは言っておこう。その者は戦闘能力が皆無だ。よって貴殿らが警戒する必要はない」


 俺達の予測では『正体不明の使徒』の中に蘇らせる能力を持っている奴が居るはずだ。おそらく蘇生能力を持つが故に対価として戦闘能力が無いんだろうな。そしてその蘇生能力を持っている奴が『正体不明の使徒』を統括している奴だろう。


「オーケー、要はお前を倒して居場所などを聞き出せばいいわけだ」


「ふっ、出来るものならやってみるといいだろう」


 そう言いながらナイトハートは剣を構え一気に間合いを詰めてくる。

 先ほどと同様に俺のユニコハルコンとナイトハートの剣が互いにぶつかり合う。

 そして俺は剣姫流のステップで、ナイトハートは円盾(バックラー)で互いの攻撃を躱す。

 これが互いの武器だけの攻撃なら円盾(バックラー)でいなすより攻撃を直接躱す俺の方が有利なのだが、相手は『正体不明の使徒』だ。当然一筋縄じゃいかない。


「なかなかやるな。だが我が『正体不明の使徒』だと言う事を忘れてもらっては困る。

 モード氷塊の使徒・Ice。爆ぜろ、氷瀑裂破」


 俺の周囲の空気が凝結し、ダイヤモンドダストのように煌めきだす。

 そして一気に氷刃の弾丸を形成し、散弾となって降り注いだ。


「ちぃっ!」


 咄嗟に腕をクロスして顔や喉を防御し致命傷だけは避ける。

 後は防刃の性能も持つ黒のコートで氷刃を防ぐ。

 その他の素肌を晒している部分はユニコハルコンで即時治療を施す。


「モード爆炎の使徒・Explosion。燃やせ、炎雅抱擁」


 氷刃を防ぎきった所へ今度は炎の牙が周囲に吹き上がり、俺を包み込むように炎が巻き起こる。


 俺は素早く呪文を唱え、迫りくる炎に氷の散弾の魔法を纏った魔法剣を解き放つ。。


「アイスブリット!

 ――剣姫一刀流・氷華瞬刃!」


 弾丸形態の俺のオリジナルアイスブリットに剣姫流一刀流の瞬刃を使い、炎の壁を一気に突き破る。


「ほう、私の使徒の二連撃を逃れるか」


「けほ、お前騎士のくせに魔導師(ウィザード)並みの魔法を使うのかよ」


「そうだ、それが私の『正体不明の使徒』の能力だ。我は炎・氷・風・岩の4つの属性を司る『属性の正体不明の使徒』」


 地水火風の魔法の基本4属性を使徒の力で拡大させて使う能力か。

 その能力故に遠距離攻撃に特化していると思われるが、ナイトハートは騎士でもあるから接近戦も得意と来てる。

 こりゃぁ、結構厄介だな。


「だが、倒せない相手ではないな。ジェニファーと比べればお前は汎用性があり過ぎて対応がしやすいよ」


「何だと・・・?」


 流石にこれにはプライドが傷つけられたのか怒りの表情を滲ませていた。


「何度でも言ってやるよ。お前は倒せない相手じゃないんだよ」


「・・・貴殿の戯言に付き合っている暇は無い。貴殿の後にはアイ殿が控えている」


「それは俺を倒してから言うセリフだな」


 俺とナイトハートの戦いが始まってから、アイさんは攻撃には参加せず俺達の戦いを見守っていた。

 別に文句があるわけじゃない。アイさんの事だから何か考えがあってのことだろうけど。


「・・・! 動いた。王都のあちこちで召喚モンスターが現れたわ。召喚者のアレストは・・・東の貴族区域に居るみたいね」


 どうやらアイさんは気配探知か魔力探知を使いモンスターの動向を探っていたようだ。

 しかしこの使徒を相手している状況で召喚従魔師(サモンテイマー)のアレストが動くか。

 いや、アレストが動くからナイトハート達他の使徒が動いているのか。

 その言葉を裏付けるかのようにナイトハートも状況の変化に気づいた。


「ふむ、予定より少し遅れてるな。・・・だが問題は無いか。私はこのまま貴殿らの相手をしよう

 貴殿らのようなイレギュラーに召喚モンスターを倒しまわってもらっては困るからな」


「・・・なるほどな。お前の目的は俺達の足止めか。って事は、『月下』の他の主要人物には別の魔人を宛がっているな」


「ご明察。『月下』のハルト、ティラミスにはジェニファー殿が、シフィル、ピノにはアムルスズ殿が、デュオ、ウィルにはソロ殿向かっている。

 他のクランにも足止めをしたいところだが、一番厄介なのが『月下』なのでこちらを優先させてもらっている」


「ちぃ、ってことはアレストはフリーなわけか。

 ・・・アイさん! ここは俺に任せてアレストを止めてくれ!」


「勿論そのつもりよ。鈴鹿君にはここを任せるわよ」


 どうやらアイさんもそのつもりだったらしい。だから一切手を出さずアレストの同行を探っていたわけだ。


「悪いがそうはさせない。ここでアイ殿を逃がせば私が自ら来た意味が無い!」


 この場を離れようとしたアイさんをナイトハートがそうはさせまいと俺に背を向け一気にアイさんに迫る。


「貴方は私を過大評価しすぎね。そして鈴鹿君を過小評価しすぎ。言っておくけど鈴鹿くんは貴方が思っているよりも強いわよ」


 そう、背を向けたナイトハートの隙を見逃す俺ではない。


「剣姫一刀流・瞬刃乱舞!!」


 周囲のフィールドを縦横無尽に駆け巡り瞬刃を連続で叩き込む乱舞攻撃だ。

 瞬刃乱舞でナイトハートを逆に足止めする。


 その隙にアイさんは東の貴族区域に向かって走り去る。


「くっ、余計な手間を・・・! 鈴鹿殿には悪いが直ぐに叩き伏せてアイ殿を追わせてもらう」


「言ったろ。出来るものならやって見ろ!!」




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 ナイトハートの基本四属性による攻撃は確かに厄介だが、応用が利かないのか又は練度が足りないのか大味の攻撃しかしてこない。

 仕掛けてくる攻撃もありふれたものだ。対処もし易い。


 だからこそ倒せない相手ではないとナイトハートの動揺を誘い、つけ入る隙を大きくする。

 それに見事乗っかったナイトハートは俺に決定的な攻撃を放てないでいた。

 更にアイさんが先行し、そちらを気にしているのも大きな要因だ。


「どうしたどうした、それが『正体不明の使徒』の限界か!? たった1人の人間も倒せないでよくもまぁ人間に絶望した何て言えるよな!」


「黙れ! 人間風情に我々『正体不明の使徒』の――魔人の何が分かる!」


「分かんねぇよ。勝手に絶望して勝手に恨んでそんなん分かるわけねぇだろ! 関係ない人たちからすれば迷惑のなにものでもねぇよ!」


 俺の放つ瞬刃がナイトハートの脇腹を何度も打ち付けて脆くなった鎧ごと斬り裂く。


「ぐっ!」


 ナイトハートは慌てて離れて治癒魔法を唱え傷を癒す。

 騎士団は簡単な治癒魔法を覚えさせられるからこの程度の傷なら致命傷にはなりえない。

 まぁ、それでも完全に傷を塞ぐわけじゃないからナイトハートにとっては結構な痛手ではあるがな。


 流石に不利を感じてきたのかナイトハートの焦りが滲み出始めてきた。

 その証拠にナイトハートは近づいてくるモンスターをアレストが召喚したものと判断し、手駒として使おうと命令をする。

 それが間違いだとも知らずに。


 周囲の様子を見渡せばどうやら王都のあちこちで召喚モンスターが現れ騎士団や兵士、冒険者らが駆けずり回っているのが聞こえてくる。


「丁度いいところに来たな。貴様は右から回り込んで鈴鹿殿を牽制しろ。私は左から回り死角を突く」


 おそらく召喚されたモンスターは仲間である他の『正体不明の使徒』でも命令できるようにアレストに召喚されているのだろう。

 そのことを信じて疑わないナイトハートは近づいてきたそれ(・・)の行動に気が付くのが遅れた。


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?」


 それ(・・)は手にした刀を一振りし、ナイトハートの左腕を鎧ごと断ち切ったのだ。


「な、何をする!? 貴様、アレストの召喚を受けたモンスターではないのか!?」


 カタカタカタカタッ!


 何を言いたいのか分からないが、少なくとも「違う」と言っているように感じる。

 だってそれ(・・)はアレストが召喚したモンスターじゃない。別の者に召喚された不完全な召喚(?)によるされっぱなし召喚モンスターだからな。


「・・・はぁ、何もこんな時に現れなくても」


 それ(・・)は英雄の亡骸を使用して造られると言う、アンデット系の最強の名を冠するスケルトンロードだ。しかもそれ(・・)は英雄の亡骸を使用したのではなく、巫女神フェンリルを模したと言う。

 そう、ジパン帝国の港町ロングネスで出会った、俺を倒すために召喚された巫女装束を着た意思のあるあの時の巫女スケルトンロードだ。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 Alive In World Online雑談スレ941



386:名無しの冒険者:2059/05/31(土)15:55:32 ID:ZGMF01sA

 いや、AIWOnがヤバいって噂マジらしいよ


387:名無しの冒険者:2059/05/31(土)15:56:32 ID:sUo5tONan0t

 >>385 ですから詳細をお願いします


388:名無しの冒険者:2059/05/31(土)16:00:02 ID:HkOj33sSn

 もしかして実際に被害に遭ってるとか?


389:名無しの冒険者:2059/05/31(土)16:02:11 ID: VR36936Dsk

 >>383 いや、Angel In事件は本当にあった話だぞ

 何故か残っている記録は殆んど無いが


390:名無しの冒険者:2059/05/31(土)16:05:09 ID:Re2p09N78

 そうなんだよ! 実際俺のダチが目を覚まさなくなったんだ!


391:名無しの冒険者:2059/05/31(土)16:10:41 ID:J02GnA474

 でもちょっと変だね

 普通はどんなゲームだろうとVRギアを外せば意識は戻るんだけど

 それはあのAngel In事件も例外じゃないはずだよ

 まぁ、あれはベッドタイプのVRギアだったし外すと死んじゃう仕組みだったらしいけど


392:名無しの冒険者:2059/05/31(土)16:12:32 ID:sUo5tONan0t

 >>390 それはVRギアを外した状態でも、って事ですか?


393:ピンクパンダ―:2059/05/31(土)16:18:13 ID:pin9panD10

 いや、益々胡散臭くなってきたんだがw

 VRギアを外した状態でも意識不明って幾ら進歩した今の技術でも不可能だろ


394:名無しの冒険者:2059/05/31(土)16:20:21 ID:M369sekI69

 記録が無いんじゃ話にならないよ

 そもそもデスゲームのAngel In事件が本当にあったとしたら当事者もいるんでしょ?

 1人くらい名乗り上げてもいいと思うんだけど


395:名無しの冒険者:2059/05/31(土)16:26:56 ID:MyaA5neKo

 うーん、魂が取られるんなら今の技術云々はあまり関係ないのかも

 それってオカルトの分野でしょ?


396:名無しの冒険者:2059/05/31(土)16:33:09 ID:Re2p09N78

 普通じゃないからおかしいんだって!

 VRギアを外しても目を覚まさないってどう考えても異常だろ!


397:名無しの冒険者:2059/05/31(土)16:38:56 ID:MyaA5neKo

 あー、でもそれってアルカディアに行ったからだよね?

 普通エンジェルクエストを完全攻略できる人ってそんなにいないよ

 それにもしそれがAIWOnの不具合なら運営からも何かしら注意勧告があるんじゃ?










次回更新は4/29になります。

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