表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Alive In World Online  作者: 一狼
第6章 Valiant
34/83

33.老人と炎神と魔王因子

「何じゃ、騒がしいと思ったら来客じゃったか」


 執務室から出てきた爺さんは入口のところで騒いでいたマクレーンとゴールド、シルバーに目を向ける。


「ゴールド、シルバー、任務に忠実なのはいいことじゃが、せめて穏便に済まそうとしないと政務に影響がでるぞ」


「え? いやだって、あんたが決して中に入れるなって・・・」


「はっ、申し訳ありませんでした!」


 不満をあらわにしたゴールドをシルバーが無理やり抑え込み爺さんに向かって敬礼をする。

 とは言っても、爺さんも取り立て責めているわけでは無いみたいなので狐人(フェネックス)の兄妹を軽く流していた。

 そんな爺さんは俺達の方を一瞥し、ある一点でその視点が止まる。


「おお、トリィじゃないか。こんなに大きくなって、元気そうじゃな!」


「え? え?」


「わははっ、トリィは小さかったからワシの事は覚えておらんか。

 それにしても随分と女らしくなったのう。お嫁さんに行くのも時間の問題か?

 ああ、冒険者として活動しているからそれどころじゃなさそうじゃな」


 そう言いながら爺さんはトリニティの頭をわしゃわしゃと撫でまくる。

 トリニティは自分のことを言われているのだが、爺さんの言う通り爺さんの事は覚えてないらしく為すがされるままでいた。


「おっと、こうしている暇はないんじゃったな。すまんがもう行かねばならん。

 トリィとは積もる話もしたいところじゃがまたの機会にでもしようか。ではまたな」


 爺さんは颯爽と去って行った。

 たったそれだけの事なのだが、俺はあの爺さんの放つ雰囲気が忘れられなかった。

 何気ない仕草、動作、言動、それらが印象的だった。

 年齢から滲み出る風格と言うか、引き付ける何かが爺さんにはあった。

 それだけではない。多分実力的にも相当なものだと思えた。


「トリニティは何も覚えてないのか?」


「うん・・・多分小さい頃助けてもらったお爺ちゃんだと思うけど、その時の事はよく覚えてないの」


「その辺りの事はデュオなら知っているんじゃないのか?」


「うーん、どうだろう? お姉ちゃんは小さい時の事はあまり話さないんだよね」


 まぁいいか。取り敢えず今は爺さんよりも色ボケ国王・・・もといアーノルド国王との対面が優先だ。


 だがそこで後方で棒立ちになっているアイさんが目に映る。

 何やら動揺していて顔が真っ青になっていた。


「え・・・うそ・・・な、何で・・・? え? え? 何で彼が・・・? え?」


「ちょっ・・・アイさん? どうしたんだよ?」


「え? え? あ、ううん、何でもないわ。そう、何でもないわ・・・」


 いや、顔を真っ青にして何でもないわけがないだろう。

 今までこんなに動揺しているアイさんを見たことは無い。

 いつもならキリッとしていて俺達を後方から見守るように佇んでいるのだが、今はその面影が見る影もなくなっていた。


「・・・なんだ、また来たのか。何度来ても俺は諦めないぞ。マクレーン」


 アイさんの動揺に対処している暇も無く、執務室から2m以上もの筋肉隆々の牛人(ミノタウロス)――アーノルド国王が現れた。

 アーノルド国王はマクレーンを見るなりしかめっ面をして嫌悪を露わにする。


「それはこっちのセリフだよ。いい加減諦めろ。俺は何度でも姫を取り戻しに来るぞ」


「ふん、今日こそは姫は絶対に渡さん。今度こそ返り討ちにしてくれるわ」


「お前が姫関係で俺に一度でも勝ったことがあるのか? 今日も叩きのめしてやるよ」


 アーノルド国王は流石にこの場では戦えない為、演習場で決着を付けようと申し出る。

 マクレーンも慣れたもので、アーノルド国王が身支度を整える為この場を去ると同時に演習場へと向かい始めた。


「トリニティ、お前はアイさんに付いていてくれ。流石にこのままのアイさんを戦いに駆り出すわけにはいかないからな」


 『勇者』の従者としてマクレーンの手伝い――共にアーノルド国王を倒さなければならないので直ぐにでもマクレーンの後を付いて行かなければならないのだが、アイさんをこのままにはしておけない。

 俺はトリニティに小声で指示を出す。


「あ、うん。こんなアイさん初めて見た。どうしちゃったんだろう」


「さっきの爺さんが何か関係しているのかもな。あの爺さんの事は後でアーノルド国王にでも聞いてみるか」


「そうだね。あたしも会のお爺ちゃんの事は気になるから。

 それであたし達ここで待っていればいいのかな? それとも一緒に演習場に行った方がいい?」


「・・・一応、演習場に来てもらう。もしかしたら一緒に居ない事で『勇敢な使徒』のクエストに参加していないって事になるかもしれないからな。

 直接戦闘には参加しなくてもいいが、一緒の演習場に居た方がいいだろう」


「うん、分かった」


 トリニティはふらつくアイさんを支え、俺達はマクレーンの後を付いて行き演習場へと向かう。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 俺達は演習場でアーノルド国王を待っている。

 前面に出て戦うのは『勇者』マクレーンとその従者である俺とハーティー。

 アイさんとトリニティは援護と言う名目で後方に位置する。

 ついでにスノウも小さいままトリニティ達の前に構えている。


 演習場には俺達の他にも兵士たちがこちらの様子を伺っている。

 多分『勇者』と『牛魔王』の戦いを見るために集まって来たんだろう。

 他には直ぐ治療できるように衛生兵らしき姿も見えた。


「待たせたな」


 30分ほど待ってアーノルド国王が現れる。

 手には巨大な戦斧を持ち、漆黒の鎧を纏っていた。


「・・・なぁアーノルド。いい加減目を覚ませよ。どうやったっておめぇと姫は結ばれることはねぇよ。

 こんな争いは不毛なだけだぞ」


「ふん、今さら説教か? 悪いが俺の姫への想いは誰にも邪魔はさせない。例えそれが神だとしても。

 俺は愛の障害を乗り越えて姫を必ずや手に入れるのだ!」


 こうして見れば、恋愛ものでよくある良い話なんだがなぁ~

 種族間の障害、国同士での問題、それらを乗り越えようと愛する者の為に立ち向かう。

 アーノルド国王とミューレリア姫の悲恋の物語。

 2人は障害があればあるほど盛り上がってしまうロミジュリ状態なんだろうけど、こうして見てみればはた迷惑極まりないよな。


「はぁ~~~、やっぱ駄目か、こりゃ。相変わらず盲目状態だな。

 まぁいいや。今回もとっとと片づけて姫を連れて帰ろう」


 そう言いながらマクレーンは背中の剣を抜く。

 俺達もそれに合わせて各々の武器を構え得た。


「我が愛に一片の曇りなし!!」


 アーノルド国王は間合いを詰め、マクレーンに戦斧を振り下す。

 マクレーンは紙一重で避けるが、どうやら斧戦技のグラビティスラッシュらしく戦斧の振り下した衝撃は周囲に広がっていた。


 マクレーンもその重力場に衝撃を受けバランスを崩されるも、崩れた体勢から流派の剣を放った。


「テライト閃剣流・トライエッジターン!!」


 マクレーンは流石は『勇者』とも言うべきか、三大剣流派とも言われる鋼斬剛剣流とテライト閃剣流とヴァーラント獣剣流を使いこなしているのだ。

 その時その時の状況に応じて流派を使い分けているマクレーンのA級上位実力を兼ね備えていた。


 マクレーンの放った剣閃が三条の曲線を描き、返す剣で同じように三条の曲線がアーノルド国王の体を切り刻む。

 アーノルド国王漆黒の鎧に阻まれてそれほどダメージを受けなかったが、マクレーンに集中していたその隙をついて俺とハーティーの攻撃が斜め背後から放たれた。


「ファイヤーブラスト!

 ウインドブレス!

 ブリッツスパーク!

 ――剣姫二天流・三元疾爪!」


「アイスブリット!

 ――剣姫一刀流・氷華一閃!」


 ハーティーのトライエッジに3種の魔法剣を乗せた剣姫二天流が、俺のオリジナルアイスブリットの魔法剣を刀戦技・桜花一閃で放つ剣姫一刀流がアーノルド国王に突き刺さる。


 前面のマクレーンに集中していたことにより俺達の攻撃はもろに食らうも、アーノルド国王は平然としてマクレーンを巻き込みながら戦斧を振り回す。


「トルネードスラッシュ!」


 その場で一回転、二回転、三回転と竜巻のように戦斧を振り回し周囲に斬撃の他に衝撃波を撒き散らす。


 俺はユニコハルコンを縦に構えながら戦斧をいなすが、回転数が上がるごとに踏ん張りが利かなくなり後方へと弾き飛ばされた。


 ハーティーの方を見ると俺と同様に飛ばされていたが、なんとマクレーンは一合ごとに剣で戦斧をいなしながらその場に立ち残っていた。


 剣速では勝るものが無いと言われるテライト剣閃流だけあって、アーノルド国王の戦斧は全て弾き飛ばされていた。


 埒が明かなくなったアーノルド国王は戦斧をトルネードの回転から一転して縦に振り下す。


「バーンアックス!」


 火属性の炎熱を纏った戦斧が振り下されるも、マクレーンは剣戟を戦斧に当てながら軌道をずらしそのまま胴を薙ぎながら脇を抜けていく。


「ちっ、相変わらずかってぇ鎧だな」


「ぬぅ、貴様こそ相変わらずちょこまかと動き回る。男なら少しは俺の攻撃を受けて見ろ。

 肉体を持ってして戦いは成り立つのだ」


「おめぇは馬鹿か? てめぇの戦斧をまともに食らったらそれこそ肉片すら残らねぇよ。

 大体種族からして違うんだから戦い方も違うに決まっているだろうよ」


 片や素早さに分がある鼠人(ラトス)。片やタフさや力に分がある牛人(ミノタウロス)

 そりゃあ戦い方も違うに決まっているわな。


「ち、戦いの美学が通じない輩はこれだから・・・

 だが、今回の従者は中々面白い者を連れてきているな。まさか剣姫流とは」


「それについては俺もちょっと驚いている。滅多に使い手のいない剣姫二天流だけでも驚いているのに、まさか剣姫流の派生流派が存在するとはな」


「くくく、良いぞ。これぞ愛の障害を乗り越えるに相応しい戦いだ!

 貴様らを退けてこそミューレリア姫の真の愛を掴むのだ!」


 アーノルド国王は雄叫びを上げて気合を入れ直す。


 何か一人で盛り上がっているなぁ~

 マクレーンはこんなのを30回以上も相手しているわけか。

 そりゃあ面倒くさくなってくるわな。


「はぁ~、最後にはどうやっても負けてしまうのに元気なこって」


「確かにこれはウザいな。何度も相手しているマクレーンには同情するよ」


「だろ? そう思うだろ?」


「ですが、隣国の姫を攫っている以上どうしても相手しなければなりませんものね・・・」


「そうなんだよ・・・ここまで来るとワザとやっているとしか思えないんだよな」


 マクレーンの愚痴に俺とハーティーが相槌を打つも、結局はどうやってもこの色ボケ国王を相手しなければならないのには変わらないのだ。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「よう! 面白い事をやってんな! 俺様も混ぜろや!!」


 唐突に降って湧いた人物が乱入してきた。


 『勇者』と『牛魔王』、それに従者の戦いは一進一退を極め膠着し始めた頃、その人物は文字通り空から降って湧いてきたのだ。


 地面へ軽やかに着地をした後俺達を一瞥し、獰猛な笑みを浮かべた猿の獣人・猿人(グルモンク)は拳を打ち鳴らし既に臨戦態勢を取っていた。


「げ、マジか。こんな時に乱入かよ」


 マクレーンはその猿人(グルモンク)を見る鳴る露骨に嫌な顔を見せた。


「誰だ?」


「炎聖国の国王・ゴーグロット=セイテン=フレイドだよ。アーノルドの喧嘩仲間だ。

 前にも2回ほど乱入されたことがある」


 はぁ!? いやいやいや、何で隣国の王様が単身で乗り込んできているんだよ。

 幾ら喧嘩仲間って言っても限度があるだろう。

 と言うか、王様同士で喧嘩仲間って何なんだよ!?


「炎獣戦線以来、炎聖国王は『牛魔王』を気に入って度々単身で遊びに来ていると言う噂を聞いたことはありましたが・・・まさか本当だったとは」


「もしかしてあの炎聖国王もその炎獣戦線で名を上げた口?」


「ええ、『炎神』の二つ名を持ってますよ」


 それは多分、火属性の攻撃を持つことからも来てると思うけど、性格そのものも炎みたいなんだろう。

 喧嘩仲間、俺様も混ぜろ、単身隣国に乗り込む。これらの事を考えれば頷ける。

 ここで俺達が終わるのを待っていろって言ったところで納得はしないだろうな。


「ゴーグか。今はお前を相手している暇は無いと言いたいところだが・・・お前は納得しないだろうな」


「あったりまえよ! 久々に来てみれば『勇者』が居るじゃねぇか! これで戦わないなんて『炎神』の名が廃るってもんよ」


「俺としては姫との愛の戦いを邪魔はされたくないんだがな。まぁいい。これも試練だ。纏めて相手してやろう!」


 向こうではアーノルド国王とゴーグロット王の話し合いが纏まっているが、こっちの都合はお構いなしか。

 武器を持っていないところを見ると徒手空拳なのだろう。


「ハッハー! いくぜいくぜ! 俺の拳が大地を揺るがす!!

 ストーンブラスト!!」


 ゴーグロット王の拳が淡い黄色の光に包まれる。

 そしてそのまま地面をぶち抜き地柱を巻き起こす。


 うおぉ!? 自分の手に魔法剣を掛けやがった!?


 地柱により粉塵が巻き起こり、辺り一面が土煙により視界を遮られる。

 その隙をついてゴーグロット王が真正面から俺に向かってぶん殴りに来た。


「ちぃっ!」


 俺はユニコハルコンを回し、柄頭で拳の側面を打ち付け軌道をずらしながら返す刀で逆袈裟をお見舞いする。


「おおっとっ!?」


 だがゴーグロット王は素早くバックステップで躱し、そのまま背後に居るマクレーンに向かって回し蹴りを放つ。

 マクレーンはその小さな背を更に屈め回し蹴りを躱す。

 ゴーグロット王は躱された回し蹴りの勢いのまま、今度はマクレーンと向かい合っていたアーノルド国王に突進していく。


 おいおい、何だよこの王様は! 見境なしかよ!

 手当たり次第突っかかって行っているじゃねぇか。


 てっきりアーノルド国王とぶつかり合うものだと思っていたが、ゴーグロット王の相手はこの場に居る全員と言う事か。

 ああ、そう言えば『勇者』とも戦いたいと言っていたな。マジ面倒な展開になってきた。


 図らずとも三つ巴の状況になった訳だが・・・こちらの目的はアーノルド国王を倒してミューレリア姫を連れ帰る事。

 その為にはゴーグロット王の横やりは邪魔でしかない。

 ここで俺達『従者』が取るべき手段はゴーグロットの相手と言う事になるな。


 俺はハーティーとアイコンタクトを取り、2人でゴーグロット王への前に立ち塞がる。


「おお? お前らが俺の相手をしてくれるってか。いいねぇいいねぇ、その身の程知らずの勇気。俺様を少しでも楽しませてくれよ!!」


「ったく、余計な邪魔はいらないんだよ。

 あんたみたいな性格は嫌いじゃないが、邪魔されるほど暇じゃないんでな。悪いが早々に退場してもらうよ」


 俺とハーティーの連携でゴーグロット王を攻める。

 ハーティーが正面に立ち二刀流で動きを翻弄し、俺がサイドやバックから鋭い一撃をお見舞いする。


 だが流石は二つ名持ちで俺の攻撃は紙一重で躱され、ハーティーの攻撃も両の拳で弾かれていた。

 手甲を付けず、傷だらけになるのにも関わらず掌打や裏拳でハーティーの剣を弾き続けるのはある意味圧巻だったが、攻撃を弾かれまくっているハーティーには少々プライドが傷ついたらしい。


「鈴鹿、少しの間時間を稼いでください。こうなったら意地でも攻撃を当てます。

 弾く事の出来ない大技で叩き伏せますよ」


「了解」


 まぁ、ハーティーだけでなく、俺も少しばかり躱され続けているのにはちょーっとばかしムカついていたからこっちも本気を出していくぜ。


太陽炉(ソルレス)


 ハーティーは太陽を掴む手(ソルハンドラー)で魔力を増幅し、呪文を唱え始める。

 俺もハーティーの呪文詠唱の時間を稼ぐため剣姫一刀流の技を放つ。


「剣姫一刀流・瞬刃!」


 瞬(瞬動)で一気に間合いを詰めながらすれ違いざまに全体重を掛けたユニコハルコンの攻撃をぶちかます。


「ぐおぉっ!?」


 驚いたことにこの瞬刃の攻撃すらゴーグロット王には瞬時に躱され、掠り傷しか付けれなかった。


 俺は瞬刃で着地の瞬間、振り向きながらゴーグロットに向かって氷属性魔法を放つ。


「アイシクルジャベリン!!」


 瞬刃の攻撃を躱して体勢を崩している所への攻撃だ。

 今度ばかりはダメージを与えれるかと思った矢先、ゴーグロット王の拳が炎に包まれた。

 そしてそのまま裏拳で氷を砕き何事も無かったかのように大地を踏みしめる。


「ハッハー! 面白い技を使うじゃねぇか。んーっと、こうか?」


 次の瞬間、ゴーグロット王は瞬動で一気に間合いを詰め体重を乗せた拳を繰り出して来た。

 俺は慌てて体を捻って躱すも、肩に拳が掠め錐もみ状態で吹き飛ばされる。

 視界が回る中、何とかバランスを取って無様な着地だけは免れる。


 マジかよ・・・このおっさん、俺の瞬刃を真似しやがった!


「もっと俺に技を見せろや。面白れぇ技だったら俺が使ってやるよ」


 多分決してハッタリなんかじゃないんだろうな。

 これまでに培ってきた戦闘経験がそれを可能にしているんだろう。

 ただの戦闘馬鹿(バトルジャンキー)って訳じゃないか。


「鈴鹿!」


 丁度背後では準備を終えたハーティーがハイステップでゴーグロット王に向かって間合いを詰めていた。

 俺も再び瞬刃で一気に間合いをゼロにしながら今度は攻撃の為じゃなく、牽制としてユニコハルコンを奮う。


 狙うは足下。


 身を地面すれすれまで下げ、ユニコハルコンを掬うようにゴーグロット王の足下目がけて振るう。

 ゴーグロット王はこれまでもそうであったように、回避を主とし他戦闘方法を取っている。

 その習性の為か、俺の地面すれすれの攻撃をこの後ハーティーの攻撃が来ると分かっていても紙一重で躱す。


 当然足下の攻撃故、ハーティーの攻撃を躱す体勢にはなれずもろに攻撃を受けることになった。


「剣姫二天流・四元双牙!!」


 ズガァァァァァァァァァァンッッ!!


 魔法剣を纏った2本の魔剣が交差し、二刀流戦技・十字斬りの斬撃と同時に大爆発が巻き起こりゴーグロット王を吹き飛ばした。


「すっげー、何なんだ今の攻撃は?」


「空間一点発動型の火属性と水属性で水蒸気爆発、風属性と雷属性で暴風雷を交差させる剣姫二天流の奥義とも言える大技ですよ。

 欠点は呪文の詠唱が複雑すぎて実戦で使うのは難しいって事ですね」


 そう言いながらハーティーは残心の構えを崩さずに吹き飛ばされたゴーグロット王を警戒する。

 いや、あれを食らって無事な生き物なんて・・・居たよ。


 ゴーグロット王は何事も無かったかのように起き上がり自分の胸に付いた血だらけの十字の傷跡を撫でる。


「ハッハー! やるじゃねぇか、おめぇら。

 まさか剣姫二天流だったとは思わなかったぜ。剣姫流は手ごわかった記憶があるからな。これだったら遠慮なく本気を出しても死なねぇな!」


 ゴーグロット王が力を込めると同時に体から炎が溢れだし包み込んだ。

 一瞬火達磨になったのかと思ったが、炎に包まれた状態で尚悠然とこちらへと歩みを進めいていたのでこれはそう言う技か何かなんだろう。


「ハーティー、あれは何だか知っているか?」


「あれはゴーグロット王の祝福(ギフト)炎纏装(フレアジャケット)ですね。

 完全に火の精霊と化すS級の火精化(サラマンデス)とは違い、炎を纏うだけのB級の祝福(ギフト)ですが、あれは火属性の攻撃を完全に無効化しますね。

 あの炎纏装(フレアジャケット)が『炎神』の二つ名の由来ですよ」


 あー、確かにあの姿を見れば『炎神』と言っても過言ではないな。

 ゴーグロット王はその手に纏った炎で胸の傷を焼きながら止血する。


 少なくともB級の祝福(ギフト)である以上、まだ勝ち目はあるはずだ。

 完全に精霊と化す火精化(サラマンデス)は物理攻撃が無効になるが、こっちは肉体に炎を纏っているだけで攻撃が通じなくなったわけでは無いのだ。


「ま、向こうがそれだけ本気になって俺達の相手をしてくれればこっちとしてはありがたいな」


「ですね。『勇者』と『牛魔王』の一騎打ちがしやすくなります」


 火属性魔法は使えない。水属性魔法や氷属性魔法は炎の温度によるが効果はあまり期待できない。

 となれば、今のゴーグロット王に効果的な魔法は土属性魔法や雷属性魔法ってところか?

 後は光属性魔法もあるが、こっちはあまり得意じゃないんだよな。


 俺が近づいてくるゴーグロット王に注意を払いながら対応策を練っていると、ハーティーも同じ考察をしていて左右の剣に光属性魔法と雷属性魔法の魔法剣を掛けていた。


 さっきまでとは違い、悠然と近づいてくるゴーグロット王に俺達は魔法剣を携え襲い掛かる。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 無差別に動き回っていたさっきまでとは違い、どっしりした構えから攻撃を繰り出すゴーグロット王。

 迎え撃つ体勢になった為攻撃が通りやすくなったのだが、炎纏装(フレアジャケット)がこれまた厄介だった。

 俺達の攻撃自体は何の問題もないが、纏っている炎の熱が地味に効いているのだ。


 炎による火傷も然ることながら、炎から噴き出る熱により近づく事すら容易ではなかった。


「ハーティー、あれ水をぶっかけて消すことって出来ないのか?」


「・・・出来ますが、一時凌ぎにしかなりませんね」


「いや、それだけでも十分だ。俺がタイミングよく攻撃を仕掛けるからハーティーはゴーグロット王の炎を消すことに専念してくれないか」


「確かにこのままじゃ埒があきませんね。分かりました。例え炎を消したとしても蒸気熱がありますので気を付けてくださいよ」


 炎纏装(フレアジャケット)の対策を建てた俺達はすぐさま実行に移し、ゴーグロット王に攻撃を加えていく。


「ハッハー! やるじゃねぇか。だが、これならどうかな?」


 ゴーグロット王は火属性魔法を次々唱え、自らの炎纏装(フレアジャケット)に取り込んでいった。

 そしてその膨れ上がった炎を操り、ハーティーの放つ水属性魔法を打ち消していく。


 ちぃ、あれじゃまるで炎の塊じゃないか。


 最早纏っている炎が大きすぎて近づく事すらままならなくなり、遠距離からの攻撃しかできなくなっていた。


 ハーティーの月を壊す者(ルナブレイカー)で炎を消せないかと思ったが、あれは魔法に対する能力であって、祝福(ギフト)に対しては何の効果も無いそうだ。


 これは身の危険を顧みず、怪我を負うのが前提で攻撃を仕掛けなければと思い覚悟を決めようとしたのだが、唐突にゴーグロット王がその足を止めた。


「あー、ここまでか。アーノルドの野郎、結局はいつもと同じじゃんか」


 ゴーグロット王の視線の先にはマクレーンとアーノルド国王の決着が着くところだった。


「鋼斬剛剣流・衝覇竜剣斬!!」


 マクレーンの放った斬撃は、攻撃を防ごうとした戦斧や籠手、漆黒の鎧を破壊しながらアーノルド国王に振り下された。


「ガハッ・・・!」


 頑丈な鎧のお蔭で致命傷にはならなかったものの、アーノルド国王は力尽きたかのように地面に横たわる。


「く・・・最早これまでか・・・」


「はぁ・・・出来れば茶番は無しにしてもらいたいんだがな」


 マクレーンは剣先を突きつけ、ため息交じりに降伏を促す。


 とその時、一人の少女が演習場へと駆けこんできた。


「待ってください。これ以上アーノルド様を傷つけないで下さい。もしこれ以上されるのであれば、今度は私が相手になります」


 そう言ってアーノルド国王の前に立ちふさがったのは羊人(ウルクル)の少女だ。

 年の頃は10歳くらいか? ふわふわの柔らかそうな髪に申し訳程度に付いている渦巻き状の角、おっとりした雰囲気にそれに似合う純白のドレス。


 まさかとは思うが、あの少女がミューレリア姫か?


「姫、こんなところに来てはいけない。俺はこんなところでは負けない。必ずや勝利を姫に届けて見せよう」


 そのまさかだった。

 え? ミューレリア姫って10歳の少女なの?

 アーノルド国王って獣人だから判別しにくいが、どう見たって30歳のおっさんだよな?

 え? アーノルド国王ってロリコン・・・?


「ああ、アーノルド様。私はどんなに引き離されようとアーノルド様をお慕いしております」


「ああ、俺もだ。何度引き離されようと俺は何度でも姫を迎えに行こう」


 俺とハーティーはアーノルド国王とミューレリア姫とのやり取りを呆然として見ていた。

 マクレーンはと言うともう何度も同じ状況を経験しているのであろう。

 呆れた眼差しで2人の茶番を見ていた。


 そう、茶番だ。


「アーノルドの野郎、ここぞと言う時にわざと攻撃を受けてピンチに陥り姫さんとのやり取りを堪能しているんだよ」


 見ればゴーグロット王も炎纏装(フレアジャケット)を解いて呆れた様子で2人を見ていた。


 ・・・なんだそりゃ。


 だが俺は何となく納得もしていた。

 『牛魔王』とまで呼ばれたアーノルド国王に『勇者』と言えマクレーンが何度も勝っていると言う事実。

 マクレーンも結果が分かり切っている(・・・・・・・・)戦いに辟易していたからだ。


 これは確かにいい加減にしろって言いたくなるよな~


 演習場の後方で戦いの推移を見守っていたアイさんとトリニティも呆然とてこちらを見ていた。


「ああ、『勇者』様。アーノルド様にこれ以上攻撃をしないで下さい。私はアーノルド様の身の安全の為なら遺憾ながら国に戻りましょう」


 遺憾ながらって・・・マクレーンは勅命で来ているのに・・・

 何かこうしてみるとマクレーンも可哀相だな。茶番の演出者になってしまって。


 ミューレリア姫はマクレーンに目に涙を溜めながら訴える。

 そしてその視線がこちらに向いたところでピタリと止まった。


 ・・・今ふと気が付いた。そう言えば今涙目で訴えている姫は10歳の少女なんだよな。

 って、あ、何か嫌な予感がするんだけどぉ・・・


 そう思ったのもつかの間、ミューレリア姫はさっきまで寄り添っていたアーノルド国王は何のその、一目散に俺に目がけて走ってくる。


「ああ、勇者様。私を助けに来て下さったのですね。私を救いだしてくださる勇者様を今か今かとお待ちしておりました」


「いや、ちょっと待て。あんたさっきまでアーノルド国王をお慕いしているって言ったばっかじゃん!?」


「いいえ、目が覚めたのです。私が本当にこの身を捧げるのは貴方様だと言う事に。

 私の運命のお相手はあんな獣臭い牛男ではなく勇者様だと言う事が今ならはっきりと分かります」


「いやいやいや、本人を前にそれは酷いんじゃない!? 幾らなんでも気持ちが変わりすぎだよ!?」


 ミューレリア姫の突然の豹変にマクレーンもハーティーも口をあんぐりと開けて呆然としていた。

 そして事態が呑み込めたのか、マクレーンが大声で笑い出した。


「ぶひゃひゃひゃひゃひゃ!! マジか、これ!? アーノルドの奴、姫を寝取られてやんの!!

 マジサイコー!! グッジョブだ、鈴鹿!」


 マクレーンは腹を抱えて笑い転げながら俺に向かって親指を立ててこれまでにない笑顔を見せる。


 つーか、これって寝取られに入るのか? いや、寝取ってないよね!?


 隣を見ればゴーグロット王も腹を抱えて笑っている。

 ハーティーは未だに状況が呑み込めず、何故ミューレリア姫の心変わりが起こったのか分からないでいた。


 まぁ、原因はロリの王の証なんだけどな!!


「ああ、勇者様、勇者様」


 ミューレリア姫はこちらの事などお構いなしにその身を寄せてくる。

 ただでさえ恋に恋をしているような姫がロリの王の証にやられたのだ。

 その身の寄せ方は今まで慕ってきた少女たちとは違い、一線を越えるんじゃないかと思うほどだった。


 ふと何やら凄まじい殺気を感じてそちらの方を見ると、真っ赤になって今にも爆発しそうな憤怒の表情でこちらを見ているアーノルド国王の姿があった。


「貴様・・・!! 姫に何をした!! よくも・・・よくも姫を誑かしたな!! 殺す!!!!」


「いや、ちょっと待てよ!? これは俺の所為じゃなく、アイテムの所為であって・・・」


「問・答・無・用!!!」


 マクレーンに受けたダメージはものともせずに、アーノルド国王はさながら猛牛のように俺に向かって突進してくる。

 俺は咄嗟にミューレリア姫を抱えて突進してくるアーノルド国王を躱す。


「ああ、勇者様。あの悪漢から私を助けてくれるのですね」


「姫さんは黙っててくれないか!?」


 ミューレリア姫はお姫様抱っこにうっとりしながら両腕を俺の首に絡めてくる。


 こんな時に何をやっているんだよ、この姫さんは!?


「ハッハー! 面白くなってきたじゃねぇか! まさか炎獣戦線の時の『牛魔王』の姿が見れるとは思わなかったぜ」


 ゴーグロット王の言葉によりアーノルド国王を見れば、体から漆黒の瘴気が溢れ出ていた。

 その瘴気はさながら燃え盛る嫉妬の炎のように揺らめいている。


「久々に一丁相手してもらおうじゃねぇか!」


 そう言ってゴーグロット王は再び炎纏装(フレアジャケット)を纏わせアーノルド国王に向かって行く。

 アーノルド国王が俺を目の敵にして向かってこようとするも、図らずともゴーグロット王が抑えている形へとなった。


「あれって・・・まさか、いや、でも・・・何で・・・」


 呟き声が聞こえたのでそちらを見ると、更に真っ青な顔をしたアイさんが蹲っていた。

 俺とハーティーは慌てて駆け寄りアイさんの様子を伺う。


「アイさん、どうしたんだ!? 真っ青じゃないか」


「アイさんはアーノルド国王のあれが何か知っているのですか?」


 マクレーンもゴーグロット王が抑えているアーノルド国王を警戒しながらこちらへと駆け寄る。


「おい、アイ。何か知っているなら言えよ。あの状態のアーノルドは流石に俺でもきついぜ? 何か攻略法があるなら教えろよ」


 そうこうしているうちにも2人の王はぶつかり合い、終いには演習場の壁を突き破って外へと出てしまう。


「ちょっと、外に出ちゃったよ!? 流石にあの状態の国王様が外で暴れちゃったらマズイんじゃないの!?」


 見れば『勇者』と『牛魔王』の戦いを見学に来ていた兵士たちも流石にこの状況では慌てて駆けずり回っていた。


 そんな俺達や周囲の様子を一瞥し、絞り出すような声でアイさんは知っていることを打ち明ける。


「アーノルド国王の纏っている黒い瘴気みたいなのは、100年前に魔王が使っていた闇の衣よ。

 闇の衣は1/2の確率でどんな攻撃も・・・武器攻撃だろうと魔法攻撃だろうと無効にする代物わ」


「攻撃の完全無効化って・・・どんなチートだよ。それは」


「魔王の闇の衣ですか。『牛魔王』と呼ばれたアーノルド国王が持っていても不思議ではないですが・・・いえ、闇の衣を持っていたから『牛魔王』と呼ばれることになったのでしょうか?」


「あー、あの黒い霧はそう言うカラクリかぁ。前に1度だけあの状態になったことがあったけど、ありゃあ流石に反則だと思ったね」


 アーノルド国王の嫉妬の炎――闇の衣は分かった。問題はそれをどう解決するかだが・・・


「鈴鹿が国王様に倒されればいいと思うよ?」


「は? トリニティ、お前俺に死ねと言うのか?」


「だって、国王様がああなったのって鈴鹿の持っているロリの王の証の所為でしょ?

 だったら一度国王様に倒されて証を譲渡すれば姫様も気持ちが国王様に向くでしょう?」


 むぅ、確かにそれだとアーノルド国王の暴走を止めることが出来るかもしれないな。

 問題は俺が死なないかと言う事なんだが。


 状況が分からないハーティーとマクレーンに俺が持っているロリの王の証について説明する。

 そしてその説明を聞いたマクレーンは再び爆笑していた。


「ぶははははっ! アーノルドの野郎が寝取られたのはその証の所為か! マジウケける!!」


「いや、寝取ってないよ!? これ寝取りとは違うよね!?」


 俺の抗議なんか聞いちゃいない。長年散々茶番に付き合わされたマクレーンがアーノルド国王の事を笑うのは構わないが、少しは俺の抗議も聞いてくれよ。


「鈴鹿を一度アーノルド国王に倒させ、ミューレリア姫の気持ちを向ける作戦は賛成できませんね。

 今はそれで解決するかもしれませんが、今後は一切他者の意見が入り込む余地なしに国王と姫の繋がりが強くなってしまいます」


「む、それは勘弁して欲しいな。出来ればこんな茶番はこれっきりにして欲しいぜ」


 さっきまで笑い転げていたマクレーンはこれ以上の茶番・・・いや、マジ恋愛に発展した2人を相手したくないからか、真面目な口調になって別の作戦を考える。


 因みにこの騒動の張本人であるミューレリア姫は目がハートマークになって俺を見つめていて俺達の話の内容は聞いちゃいない。


「となると、力ずくでアーノルド国王の暴走を抑え、目を覚まさせると言う方法しか思いつかないぞ?」


「はぁ、それしかないでしょうね」


「げ、マジか? あの状態の野郎とやりあうのは骨が折れるぜ。なんせ攻撃が効いているかいないか分かり辛いからな」


 そこはもう手数で押すしかないだろうな。

 まぁ一応作戦として手が無いわけでは無いのだが。


「よし、ならこれ以上外で被害が出ない様にさっさと国王様を抑えるぞ。

 アイさんは体調が万全でないからここで待機してくれ。トリニティはアイさんと姫さんを頼む」


 姫さんが何やら喚いているがそれらを一切無視しトリニティに預け、俺とハーティーとマクレーンは先程アーノルド国王が突き破った演習場の外壁の穴から外へと向かって行く。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 演習場の外壁から外へ出た瞬間、向こうから赤い何かが飛んできた。

 俺とハーティーは咄嗟に左右に跳び何かを躱すも、マクレーンは避け損なってその赤い何かに押しつぶされた。


「ぷぎゅるっ!?」


 何やら可愛らしい鳴き声を上げたマクレーンに乗っていたのは目を回しているゴーグロット王だった。

 これまで抑えてくれていたゴーグロット王に感謝をすべきか、いきなり巻き込んでマクレーンを戦闘不能にしたのを憤るべきか。


「鈴鹿、危ない!」


 ゴーグロット王とマクレーンに視線を向けていた一瞬の間に、ハーティーが俺を思いっきり突き飛ばす。


 何事かとそちらの方を見れば、黒い何かが横切ってハーティーを巻き込む。

 そしてそのまま演習場の外壁にハーティーは黒い何かに押しつぶされた。


 よく見れば黒い何かは闇の衣を纏ったアーノルド国王だった。

 ハーティーはその巨体の突進に押しつぶされて今にも息絶えそうに血だらけになっている。


「エクストラエリアヒール!」


 俺は咄嗟にユニコハルコンの治癒能力を使い、ハーティーを癒す。

 但し失った意識まではすぐには取り戻せないので、ハーティーもここで脱落だ。


 意気込んで出て来たものの、いきなり対応戦力が俺1人になってしまった。


「ようやっと姫を誑かした悪に天誅を下せる・・・死んで姫に詫びろ」


 俺は1人でどう対応するか思案していたが、その言葉を聞いてカチンときた。

 国を総べる王でありながらたった1人の女に目が眩んで何をやっているだか。

 自分の国の兵士たちにも呆れられ、何度も茶番に付き合わされるマクレーンの事を考えたらいい加減ムカついてきたのだ。


「・・・いい加減目を覚ませよ。あんたのやることは姫さんと爛れた生活を送る事なのかよ。違うだろ。国の為に、国民の為に、より良い国を作っていくことじゃないのか?

 それとも一人の女に現を抜かした愚王として歴史に名を残すつもりなのかよ」


「だ、黙れ! 俺は生涯を掛けて姫を愛すると誓ったのだ! 誰にも邪魔はさせん! 例えそれが神だとしても!」


「ああそうかい。だったらこっちは意地でも邪魔をしてやるよ!!

 スキル並列起動!! Fang! Start! Zone! Rhythm!」


 使徒の証のスキル起動により俺の体は狼神(フェンリルイド)に変化し、身体能力の倍化、意識感覚の加速が起こる。

 そして今回の並列起動の胆は、Rhythmだ。


 『旋律の使徒』であるハーティーから聞いたスキルの概要は、魔法詠唱の完全化と言うものだった。

 つまりどんな状況だろうとリズムを崩されることなく呪文を失敗(ファンブル)することが無くなると言う。

 更にスキルレベルが上がれば2倍速・3倍速の詠唱も可能だとか。


 この4つ目のスキルの仕様により俺のもう1つの剣姫一刀流奥義・百花繚乱の発動がかなり楽になるのだ。


 加速した意識の中、高速で呪文を唱え属性融合魔法剣を鞘に掛けユニコハルコンを納め居合一閃でアーノルド国王――『牛魔王』に一撃を与える。


 ――剣姫一刀流・百花繚乱!!


 だが手応えが無い。


 どうやら闇の衣に阻まれ魔法剣の一撃は無効化されたようだ。

 だが間延びする時間の中で俺は再び高速で呪文を唱え再び居合を放つ。


 今度は闇の衣の効果が現れなかったのか、加速した時間の中では声が聞こえないが『牛魔王』の顔が苦痛に歪む。


 ――ステップ、呪文高速詠唱、居合斬り、ステップ、呪文高速詠唱、居合斬り、 ステップ、呪文高速詠唱、居合斬り、ステップ、呪文高速詠唱、居合斬り、 ステップ、呪文高速詠唱、居合斬り、ステップ、呪文高速詠唱、居合斬り――


 傍から見れば俺の動きは残像すら残らない程の速度で動き回っているため、『牛魔王』が一人で奇妙なダンスを踊っているように見えるだろう。


 俺の攻撃はほぼ半分ほど闇の衣に無効化されているが、もう半分ほどは確実に『牛魔王』にダメージを与え続けている。

 もっとも効果があったのは頭の角をへし折った時だった。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 角が折れた瞬間に『牛魔王』を覆っていた闇の衣が剥げたのだ。

 俺は警戒をしながら意識の加速を解き、いつでも奥義を出せるように『牛魔王』へと近づく。


「嫌な予感がしたので戻ってみれば、まさか掛け直した封印が解けていようとは。いやはや、儘ならぬものじゃのう」


 気が付けばすぐ俺の隣にはアイさんが不調となった原因の爺さんが居た。


 バカなっ!?


 今の俺は狼神(フェンリルイド)の倍になった超感覚とZoneの影響で周囲の状況は完全に把握しているはずだ。

 なのにこの爺さんはあっさりと俺の隣に並んでいた。


「御老公・・・申し訳ありません・・・俺が未熟なばかり」


 角を折られた影響か、はたまた爺さんが出現した為か、アーノルド国王は『牛魔王』の時とは違い幾ばくか冷静な姿勢を見せた。


「それはそうじゃな。この若者も言うたとおり1人の女性に現をぬかし過ぎじゃ。忠告したじゃろうに。魔王因子の封印は感情に左右されると。

 特に負の感情には敏感じゃからのう。お主には悪いがこれ以上は看過できん。完全に魔王因子を排除させてもらおう。

 戦闘能力が半減するが自業自得と諦めよ」


 そう言うと爺さんは闇属性魔法の呪文を唱え、影から巨大なハンマーを取出しそのままアーノルド国王に振り下した。


「シャイニング・ザ・ハンマー!!」


 ミンチになったと思うくらい思いっきり振り下されたハンマーの下からはどういう訳か五体満足なアーノルド国王が横たわっていた。

 但し先ほどまでの禍々しい雰囲気は一掃されている。


「・・・なぁ、爺さん。あんた何をしたんだ?」


「それは企業秘密じゃ。ここで見た事聞いた事は他言無用。お主もこの世界で生きていきたいんなら賢くなることじゃな」


「賢かったらAIWOn(ここ)には居ねぇよ。

 悪いが俺にも分かるように説明してくれないか。特に爺さんが何者なのか。アイさんの不調の原因はどう見ても爺さんだからな」


 俺の言葉に謎の爺さんは鋭い眼光を俺に向けてきた。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 Alive In World Online雑談スレ933


365:名無しの冒険者:2059/05/09(金)14:37:15 ID:nzo3IxtI73

 それ偽物決定www


366:名無しの冒険者:2059/05/09(金)14:40:56 ID:KMakr5Mnt6

 >>365 あ、やっぱそう思う? そう思うよね~


367:名無しの冒険者:2059/05/09(金)14:45:09 ID:OkitSitLow

 どうせなら本物が出てきてザマァみたいになればいいのにw


368:名無しの冒険者:2059/05/09(金)14:46:44 ID:Oli976Oli2n

 フェンリルの名ってそれだけ価値があるのかぁ~


369:名無しの冒険者:2059/05/09(金)14:53:39 ID:Kumo5Ttl910

 >>367 いやいや、本物は設定上のキャラでしょ?

 まぁ、あたしもザマァは見てみたいけどw


370:名無しの冒険者:2059/05/09(金)14:55:44 ID:Oli976Oli2n

 本物降臨希望ですノ


371:名無しの冒険者:2059/05/09(金)14:56:56 ID:KMakr5Mnt6

 希望ですノ


372:名無しの冒険者:2059/05/09(金)14:59:01 ID:Ari5aNtI910

 希望ですノ


373:名無しの冒険者:2059/05/09(金)15:03:15 ID:nzo3IxtI73

 希望ですノ


374:名無しの冒険者:2059/05/09(金)15:07:09 ID:FeL888AiOn

 仕方ないですね~ご希望にこたえて天孫降臨と行きますかw


375:名無しの冒険者:2059/05/09(金)15:10:09 ID:OkitSitLow

 >>374 wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww








ストックが切れました。

暫く充電期間に入ります。


                          ・・・now saving


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ