29.26の使徒と今後の方針と現実
大神鈴鹿、『信託の使徒』より『災厄の使徒』の神託を受ける。
大神鈴鹿、トリニティと別れる。
大神鈴鹿、竜人リュデオのいるサーズライ村に到着する。
大神鈴鹿、大量のモンスターと戦う。
大神鈴鹿、トリニティ&クラン『月下』に助けられる。
大神鈴鹿、『災厄の使徒』を倒す。
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――AL103年4月10日――
「もう行くのか。慌ただしいな」
「悪いな。出来れば後始末なんかも手伝いたいところだが、こっちの予定も詰まってるんでな」
サーズライ村の入り口で俺とアイさんはリュデオに見送られていた。
向こうではトリニティとデュオが旅立つ前の話をしている。
サーズライ村の周辺は災厄討伐軍の第一陣――騎獣先行部隊により殲滅され村は復興の準備に取り掛かっている。
モンスターの群れの残党も各地に散って暴れているらしく、ウィルやジャドは討伐軍と一緒になって残党狩りに出ていてこの場にはいない。
『災厄の使徒』は倒されたが、後始末がいろいろ残っていた。
モンスターの残党然り、サーズライ村の復興然り、これほどのモンスターの群れを集めた経緯の追跡調査などなどだ。
因みにデュオが邪竜とのやり取りで『災厄の使徒』には本体と同じ存在を持つ分身が存在することが判明した。
それにより分身を囮にして『災厄の使徒』本体が生き残りつつ大量のモンスターを集めたらしいのだ。
そうした追跡調査や他の分身によるモンスターの統制、またどこかで生まれ変わっているであろう『災厄の使徒』の捜索など、やることは山ほどある。
そんな周囲の人間が慌ただしい中、俺達は皆には悪いが今日この村を発つことにした。
昨日戦いが終わった後、サーズライ村の臨時治療院にて使徒の証の後遺症を癒して1日経過して通常運転が可能になったので早速次の目的の使徒に向かう事にした。
確かに他の連中には悪いが、元々俺達は冒険者ギルドからの討伐クエストを受けたわけでは無いので討伐軍の指示を受ける必要はないのだ。
「たしか幼馴染だったか・・・見つかるといいな。
鈴鹿殿の事だから何の心配もいらないだろうが、エンジェルクエストは何が起こるか分からないから気を付けろよ」
リュデオは俺の目的である唯姫が見つかることを祈ってくれる。
その上でエンジェルクエストそのものにはまだ不明瞭な点があることを教えてくれた。
「大丈夫だよ。心配すんなって。何せあの『災厄の使徒』と互角にやりあった戦人だぜ。そこら辺の奴なんか敵じゃないよ」
「そう言う油断が危機を招くと言うのに・・・
そうだ、鈴鹿殿にこのコートをやろう。このコートは老竜の鱗を塗したオリハルコン鋼糸で編み込んだ優れものだ。
耐刃、耐熱、耐衝撃、各属性防御など防御の面では秀逸の品となっている。
危険を顧みず突き進む鈴鹿殿には丁度いいだろう」
尤もその防御力も完全とは言い難く、昆虫の王・武者カブトに貫かれた跡が残っていたりする。
「あら、確かに鈴鹿くんには丁度いいかもしれないわね」
そう言いながらリュデオは着ていた黒いコートを差し出して来た。
おい、リュデオ。その言い方だと俺が猪突猛進で周りを見てないみたいじゃないか。
最初の頃はそうだったかもしれないが、今は割と周りを見ているぞ。
・・・見ているよな。何でアイさんもそこで同意するんだよ。
「確かにそりゃあありがたいが、いいのか? それ結構な代物なんだろ。リュデオの装備が無くなるぞ」
「構わぬ。防具が無くともワシにはこの竜人の鱗がある。もともとコートは念のために着ていた過ぎん。
ワシよりも鈴鹿殿の方が有効活用してもらえるだろう。そう思ったんだよ」
「買いかぶり過ぎだよ。
・・・まぁそう言うんなら遠慮なく貰うよ。代わりに何か差し出せるものは・・・」
俺はコートを受け取るが流石にタダで貰う訳にもいかず、何か代わりになるようなものが無いか探してみるが、リュデオは必要ないと言ってきた。
「構わぬよ。ワシが自己満足でやっているだけに過ぎん。もし少しでもお返しがしたいと思ったのなら、この後何かあった時助けてくれればそれで十分だよ」
「俺達の目的を考えると今後出会う事が少ないような気もするが・・・分かった。何かあったら真っ先に駆けつけるようにするよ」
俺は拳を突きだし、それにリュデオが拳を合わせて別れの挨拶をする。
その後トリニティとデュオの方に行って、トリニティは俺達と共にし、デュオとの別れの挨拶をする。
その際にトリニティの事をくれぐれもよろしくと念を押されてしまったのはお約束とも言えよう。
俺達はウィルやジャド、美刃さんによろしくと伝えて、スノウを元の大きさに戻して背中に乗り、次の目的地へと飛び立った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
サーズライ村から飛び立って次に着いた場所はプレミアム共和国第二都市シクレットだった。
シクレットに着いた頃には日も沈み、俺達は宿を取って少し遅めの夕食を摂りながら今後の予定を決めていく。
「さてアイさん。今後のエンジェルクエストの為に26の使徒の詳細・・・いえ、取り敢えずは居場所なんかを知りたいんだけど、いいかな?」
「何だ? 急にやる気を出して来て」
トリニティは張り切ってますと言わんばかりに、今まではアイさんに任せっぱなしだった26の使徒の事を聞いてきた。
「前までは仕方なしに付いて行っただけだったからね。でも今は正式なパーティーとして、パーティーの盗賊として26の使徒の情報を知っておかなければならないと思ったのよ」
まぁ確かに26の使徒に関しては異世界から仕入れた情報、そして何処からともなく仕入れてくる情報によってアイさんが一括管理をしていた。
そしてその都度、攻略する使徒の情報を現地で聞いていたわけだが、正式なパーティーの盗賊として流石にそれではいかんと言うことでトリニティは自発的に情報収集に努めた訳だ。
「いいわよ。ただ・・・26の使徒の情報はかなりの値段で取引されているらしいから取り扱いには慎重ね」
アイさんはクスッと笑いながらトリニティに26の使徒の情報を教える。
但し、この天と地を支える世界では特に26の使徒の情報はかなり価値があるためおいそれと聞かせられるような話にはいかない。
そのことを注意しながら取り敢えずは今後の使徒の居場所を述べていく。
「まずは『旋律の使徒・Rhythm』。
お察しの通り『旋律の使徒』はシクレットに居るはずよ。ただ、彼は拠点を持たない冒険者らしいから今もここに居るとは言えないわね。
トリニティはまずは『旋律の使徒』に関する情報をこの町で集めてもらうわ」
「了解・・・って言いたいところだけど、流石にシクレットでは難しいなぁ」
詳細は省くが、プレミアム共和国の第二都市シクレットはあまりいい都市とは言えないらしい。
首都のミレニアムが光とすればシクレットは闇と言われるそうだ。
その原因が、シクレットに存在すると言われる3つの組織がだとか。
その組織が闇からシクレットの覇権をお互い狙いあい血を血で洗う闘争が繰り広げられているらしい。
そしてエレガント王国をも狙っていて、同じ闇の組織として盗賊ギルドが影から守っているため盗賊ギルドとシクレットの闇組織とはお互い対目しているとか。
だからトリニティはこの町での情報収集を渋っているのだ。
「そりゃあ敵対組織の者においそれと情報はくれないか。それどころか下手をすれば命すら危ういかもしれない、と」
「まぁね。盗賊ギルドの先輩たちからシクレットはヤバいって聞いているからね。
動くとすればそれこそ慎重に動かないと」
「ヤバくなったら情報よりも命を優先しろよ」
デュオからくれぐれもよろしくと言われているからな。
張り切った所為でトリニティに何かあったら下手をすればデュオに殺される・・・!
トリニティには一応釘を刺しておく。
「分かってるって。
それでアイさん、他の使徒の居場所は?」
「『勇敢な使徒・valiant』は羊王国に居るわ。隣の国ね。羊王国は獣人の国の1つで、どちらかと言うと大人しめの獣人が集まっている国よ。
さらにその隣の獣人王国の首都に『逃走の使徒・Escape』『闘争の使徒・Bout』『投槍の使徒・Javelin』『刀装の使徒・Katana』が、エレガント王国第四衛星都市には『力の使徒・Power』と『知恵と直感と想像の使徒・Intelligence-inspiration-imagination』が居るわ」
おいおい、獣人王国に居る使徒って全部「とうそう」じゃないか。
まさか「とうそう」の使徒纏めて獣人王国四天王とかいうんじゃないだろうな。
「首都エレミアには『模倣の使徒・copy』と『XXXの使徒・XXX』ね。後は聖アリス神山の山頂の聖Alice神殿に『天界の使徒・Heaven』が居るわね」
「前にも26の使徒の名前を聞いたけど・・・改めて聞くと変な使徒も居るな。XXXって何だよ。使徒の名前もXXXだし」
「あー、XXXはあたしも盗賊ギルドで噂程度に聞いたことがあるけど、関わるなって言われているね。何か途轍もなく酷い目に合うとか。
まぁ、それは後々考えることにして、まだ名前が出ていない使徒もいるよね。
TとUとW」
「Tの使徒は名前が分からないだけで使徒の証を授かる場所は分かっているわ。
『始まりの使徒』が居た始源の森の更に南の宮殿内で授かることが出来るわよ」
始源の森の南ってことは、獣人王国やエレガント王国を回って行くから地理的には最後あたりの方で手に入れることになりそうだな。
「もしかしてUとWは居場所が分からないとか?」
「そうね。W・・・『警告の使徒・Warning』は獣人王国と第四衛星都市と首都エレミア間を行き来しているらしいからそこら辺で捕まえることが出来ると思うわ。
ただU・・・『正体不明の使徒・Unknown』は本当に居場所も正体も不明ね」
トリニティの問いにアイさんが答える。
『正体不明の使徒』って文字通り正体不明なのな。
アイさんが現実で調べた事によると、出現は王都近辺が多いと言う事らしい。
「うーん、そうなると・・・シクレットから東に向かって羊王国を経由して獣人王国。
そこから南下して第四衛星都市を通って首都エレミア。
で、始源の森でTの証を手に入れてから最後に聖Alice神殿ってルートになるね」
使徒の居場所を聞いたトリニティはこれからのルートを考えていた。
今まで攻略した使徒は王都エレミアから見て東方面になる。残りは西方面をぐるっと回る形で王都に戻ることになる。
アイさんは『始まりの使徒』を攻略した時そのまま東方面へ向かうと提案したが、確かにそのルートだと効率よくエンジェルクエストを攻略していることに今更ながら気が付いた。
トリニティもそのことに気が付いたのか、やや苦笑いをしてそのままアイさんの提案したルートで進む方向で情報を集めることにした。
「流石はアイさんってところかしら。情報戦でもまるで敵わないわね」
「あー、アイさんは異世界でもその手の仕事に就いていたからトリニティとは年季が違うぞ」
「え? マジで? はー、こうなったら本気でアイさんに弟子入りでもしようかな」
トリニティは今までもそれなりにアイさんから情報収集のコツを聞いていたので弟子とまではいかないが、教え子にはなるんじゃないだろうか。
トリニティは冗談交じりに弟子入りしようかと呟いたが、アイさんはそれを目ざとく拾い上げてきた。
「あら、その気があるのなら本格的に鍛えてあげるわよ? まぁそれなりに覚悟はしてもらう必要はあるけど」
アイさんの顔は笑っているけど、背後から来る威圧がゴゴゴと音を上げているように見えた。
「えーっと・・・考慮しておきます・・・ま、まずは目の前の情報収集を優先させましょう! そうしましょう!」
ちょっとマジのアイさんにビビったトリニティは逃げるように『旋律の使徒』の情報収集が先だと言ってくる。
・・・トリニティよ、それ墓穴だから。その大本の情報はアイさんからだ。結局はアイさん経由で仕入れた情報により知らず知らずにアイさんに弟子として鍛えられていることになるから。
「そうね、まずは情報収集が先ね。
・・・そうだ。私達は『旋律の使徒』の情報を集めているから、鈴鹿くんは今日明日は離魂睡眠した方がいいんじゃない?
まだ1週間は経たないけど、出来るだけ小まめに戻った方がいいわよ」
む、そう言えば前回の帰魂覚醒から5日くらいか?
そうだな、アイさん達が情報収集にあたるのなら俺は一度現実に戻っておくか。
「・・・って、アイさんはまだ『偽りの答えの使徒』のペナルティで戦えないんだろ? 大丈夫かよ」
トリニティの話だとシクレットは闇の部分が強いと言う。
即ち荒事が多い都市だと言う事だ。
今現在戦えないアイさんがトリニティと一緒に情報収集って結構ヤバいんじゃないのか?
「あら、鈴鹿くんに心配されるほど私は頼りないのかしら?」
「いや、そんなことは無いけど、万が一ってこともあるだろ?」
「ふふふ、冗談よ。私の事は心配しなくてもいいわよ。何も戦闘だけが戦いじゃないんだから。情報を使った戦いもあるし、それを上手く使えば争いを回避する方法だってあるわ。
それに今の私には魔法は利かないからね。少なくとも魔法攻撃の心配はないし、物理戦闘も攻撃を回避するだけなら出来ないことは無いし」
そうだった。
アイさんは『偽りの答えの使徒』のペナルティ?で祝福の魔法攻撃無効が与えられている。
それを考えればそう心配することも無いのか?
「ま、それでも一応注意はしておいてくれよ。トリニティもアイさんが戦闘が出来ないんだから無茶はするなよ」
「分かっているわよ。いざとなったらスノウを元の大きさに戻して暴れさせて逃げるから」
確かにスノウをいきなり元の大きさに戻せばそれだけで周囲はパニックになるな。
まぁ、それは本当に危ない時の最終手段だろうけど。
取り敢えずはアイさんとトリニティに『旋律の使徒』の情報収集を任せて、俺は離魂睡眠して現実へと戻って行った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――2059年5月18日(日)――
現実に帰還するとまだ明け方前だった。
いつも通り俺の健康状態をチェックしている綾辻さんから診断を受けて、徹夜仕事をしているであろう親父に報告をしに行く。
「あら、今日は大河さんは家に帰っているわよ」
親父の研究室に行こうとした俺を綾辻さんが止める。
徹夜仕事をしなくてもいい程度に一段落したのだろうか?
まぁ、それなら親父への報告は家に帰ってからだな。
俺は日が昇るころには家に着くことが出来、毎回恒例のお袋からの無事帰還の抱擁を受けて朝めしを食べる。
ただいつもと違うのは久しぶりに親父も一緒で3人揃っていることだ。
「そうか、AIWOnでは少しずつだが順調に進んでいるみたいだな」
「ああ、エンジェルクエストも残りはあと15個だ。その15個も大体は固まった場所に居るらしいからそんなに時間は掛からないんじゃないのか」
「何度も言うが、無茶だけはするなよ」
「分かっているよ」
朝めしを摂りながら親父への報告をしていたのだが、一緒に居たお袋が黙って聞いていたと思ったら突然大声を上げた。
「ちょっと! 鈴鹿、貴方そんな危険な事をしていたの!? お父さんも何を悠長に構えているのよ。息子が危ない目に遭っているって言うのに平然と送り込まないでよ!」
「あの・・・お袋・・・?
危険な目と言っても向こうの世界の体は仮想体だぜ。少なくともこっちの体には危険はないよ」
「それは普通のVRMMOの話でしょう! 鈴鹿が今やっているAIWOnは普通じゃないのよ。それは鈴鹿が一番分かっているでしょう」
お袋に心配を掛けまいとAIWOnでは仮想体であることを強調したが、それはあまり効果が無かった。
と言うか、逆に唯姫の現状を突きつけられて改めてAIWOnが異常であることを認識させられた。
「鈴鹿もそれは承知でダイブしているんだ。お前もそれを分かって送り出したんだろう?」
「それは・・・そうだけど・・・でも、ここまで危険な目にあってると思わなかったわよ・・・」
「いざとなったら愛が居る。その為に愛も一緒に送り込んだんだ。それほど心配しなくてもいいよ」
そう親父に説得されてお袋も渋々ながら納得する。
それにしても何気に愛さんの信頼が高いな。愛さんの名前を出すとお袋が「愛ちゃんが居れば・・・」と落ち着きを取り戻したのだ。
その後も少々気まずい雰囲気でもあったが、久々の家族団欒に花を咲かせた朝めしとなった。
親父は再び会社へ出勤し、俺は体を慣らす為道場へと赴いた。
最早恒例となった道場での鍛錬を半日ほどじっくり時間をかけ体を慣らす。
AIWOnでの戦闘経験をフィードバックさせた鍛錬を行い、理想とも言える動きを再現させるため現実の体を苛め抜く。
時間も夕方になり鍛錬を終えた俺は唯姫の様子を確認する為、病院へと足を運ぶ。
病室に入るとそこには唯姫の他に2人の人物が居た。
1人はおばさんで、唯姫の顔を慈しむように眺めている。
毎日のようにお見舞いに来ているのだろう、唯姫の顔や髪などは綺麗にされていた。
2人目は長身の若い女性で長い黒髪をポニーテールに纏めていた。
その顔は無表情で良く言えばクール、ちょっときつめに言えば冷たい威圧感がある女性に見えた。
ん? 無表情だが、見慣れた無表情なような・・・
いや、無表情に見慣れたもなにもないだろうよ。
「あ、鈴鹿くん。また唯姫のお見舞いに来てくれたんだ」
「・・・ん、こんにちわ。こっち出会うのは初めてね」
おばさんが俺を出迎えてくれて、長身の女性が初対面の挨拶をしてくる・・・って、その独特の喋り方・・・!
「もしかして、美刃さん・・・!?」
「・・・ん、その通り」
「あ、鈴鹿くんとお姉ちゃんAIWOnじゃ出会ってるんだ」
「お姉ちゃん!?」
俺はおばさんのセリフに驚いていた。
だってこの長身の女性――美刃さんはどう見たって20代にしか見えない。
おばさんも見た目は若く唯姫と並べば姉妹だと言っても差し支えないが、現実の美刃さんはそれ以上に若く見える。
・・・よく見れば確かにおばさんと美刃さんは似ているな。
「・・・ん、唯の姉の常盤月代。改めて宜しくね」
「大神鈴鹿です・・・って、これマジ? 世の中意外と狭いんだなぁ・・・
あ、もしかして美刃さんがAIWOnにダイブしているのは唯姫の事も含めてなのか?」
「・・・ん、現実では月代。唯姫ちゃんの事は最近知ったからAIWOnは別件」
「あー、お姉ちゃんはゲーマーだから初期の頃からAIWOnにダイブしているわよ。尤も唯姫の件があったから出来る範囲で構わないから唯姫の事を調べてもらうように頼んではいるけど」
言われてみればそうか。
美刃さんは異世界人でありながらS級冒険者だ。
S級冒険者になるのはかなりの実績を積まなければなれない。それこそAIWOn初期のころからのダイブでないと無理だろう。
「・・・ん、私にもやることがあるから唯姫ちゃんの事は中々調べられない。
ここは鈴鹿に頼る方が早いかも」
「んー、分かっちゃいるんだけど、あまり鈴鹿くんにも迷惑を掛けたくないんだよねー」
「俺が自分で言いだしたことだから、おばさんが気負う必要はないよ。
だからもう少し時間がかかるけど待っててくれないかな」
「・・・もう、本当は子供に責任を負わせるのは大人として良くないんだけど、ここは鈴鹿くんに甘えさせてもらうわ」
「・・・ん、鈴鹿は大河と鈴の子。間違いなく2人の血を引いているから待っていれば唯姫ちゃんをちゃんと連れて帰ってくるよ」
あー、美刃さんは親父とお袋の事も知っているのか。
そりゃあ、おばさんと姉妹なら大神家と早海家の付き合いも知っているからお互い面識があったりもするだろう。
そう思っていたがよくよく話を聞けば、親父お袋、おじさんおばさん、美刃さん愛さん、この前の刑事の紫さんや他数名が20数年前に起きた事件で知り合いになったらしい。
その時からの付き合いで時たまお互い会って親睦を深めているのだとか。
「あ、そうすると唯姫がブルーだというのを知っていて月代さんは協力してたんだ?」
「・・・ん、唯姫ちゃんがブルーちゃんだと知ったのはこの事件があってから。鈴鹿がブルーちゃんを捜していると知った時。
もしもう少し早く分かっていればエンジェルクエストを止められたのに」
「月代さん。それはもう、たらればの話だよ。嘆くのは一刻でも早く唯姫を見つけて連れ戻してからだね」
「・・・ん、頼りにしているよ。鈴鹿。
さっきも言ったけど私も私でやることがあるから積極的には手伝えないけど、何かあったら私かデュオに言って」
うん、美刃さんやデュオの協力があればそれなりにエンジェルクエストの攻略も捗るだろう。
今はエレガント王国を離れているが、このままトリニティやアイさんが予定しているルートを通ればエレガント王国首都エレミアに戻ってくることになる。
その時は遠慮なくクラン『月下』を頼ろう。こういう時にこそコネを使わないでどうするんだってな。
その後もおばさんと美刃さんとでAIWOnの事や、親父達の事を話しながらお互いの情報交換をしていった。
ただ、親父達が知り合った原因になったと言う事件については2人とも口を濁していた。
事件と言う事は何か凄惨な事があったのだろうと思い、俺はあまり深くは追及はしなかった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
唯姫のお見舞いに来て予想外の出会いがあったが、取り敢えずいつものように眠っているように見える唯姫の状態を確認したので帰ることにした。
その帰りの際、美刃さんも帰る事にしたので一緒に病院の外へと出た。
「・・・ん、唯の前では言わなかったけど、AIWOnはかなりヤバいから気を付けて。鈴鹿なら平気だと思うけど」
「平気って・・・買いかぶり過ぎだよ。
まぁAIWOnが普通のVRMMOと違うのは分かるよ。何と言うかリアルすぎるんだよな。世界そのものもだけど人――天地人なんかとくにな」
「・・・ん、それだけ気が付けていれば大丈夫。後は鈴鹿の思う通りに動けばいい。それで結果は出てくる」
・・・そういや、美刃さんはAIWOnでやる事って何だろう。
AIWOnを調べている親父や紫さんは兎も角、アイさんは何か知っている風だし、美刃さんもAIWOnについて何を知っているのだろう。
と、美刃さんと一緒に帰宅の途中で嫌な奴に出くわした。
「おい、虫! 貴様、AIWOnの中だけにとどまらず、現実まで女性を侍らすとは何事だ!
やはり貴様には唯姫は相応しくないな。ああ、だから唯姫は虫に愛想を尽かし離れて行ったのか」
偽物の宝石こと志波光輝だ。
出くわした早々ふざけた事を朗々と語りだしやがった。誰が女性を侍らしてだ。
侍らしているのはてめぇの方だろうよ。
今も光輝の周りには小うるさい女生徒共がピーチク喚いている。
「・・・ん、知り合い?」
「あー、気にしないでもいいよ。ただの路傍の石ころだから」
「誰が石ころだ。虫の分際で!
コホン、失礼。この虫の知り合いみたいですが、付き合いを考えた方がいいですよ。
奴は虫のように女性にたかる習性を持ってますからね。
その点、俺は虫と違って女性には優しいですよ。女性の嫌がることは絶対しませんから」
けっ、何が女性の嫌がることはしませんから、だ。
だったらてめぇが唯姫にまとわりついていることに嫌がっているって分かれよ。
その後も光輝の奴は俺を無視してべらべらと美刃さんをまるで口説く様に褒め称え持ち上げていた。
それを黙って聞いていた美刃さんはポツリと一言。
「・・・ん、私キザ男は嫌いなの。それに私人妻。幾ら口説いても無駄」
「キ・キザっ・・・!?」
「ぶふぅっ・・・!! キ・キザ男・・・!! ぷくくくくく・・・!!」
キザ男呼ばわりされた光輝は間抜け面を晒し、俺は思わず吹いてしまった。
よくよく考えれば美刃さんは親父達と同じくらいの年齢になるから家庭を持っていても何ら不思議ではない。(外見上はそうは見えないが)
本人は口説いているつもりはないだろうけど、当然拒否られるに決まっていた。
「・・・ん、貴方薄っぺらすぎ。魅力を感じない。悪いけど相手にならないわ。それじゃあ」
美刃さんは言いたいことを言い放ち、颯爽と光輝の前から立ち去る。
呆然としていた光輝の周りの女生徒たちは、これまた先ほどまで以上の音量で喚いていた。
俺はそんな光輝たちを尻目に美刃さんと一緒にその場から立ち去った。
「いやー、いいもの見られたよ。奴もまさか真正面から切り捨てられるとは思わなかっただろうな」
「・・・ん、ああいう手合いは真正面から言うに限る」
まぁそれで大人しくなればいいけど、返って逆上して良からぬことをしでかさなければいいけど。
・・・ちょっと気を付けた方がいいかもしれないな。
あの後、美刃さんにも少し気を付けるように注意を促し別れた。
後は家に帰ってお袋と夕飯を食べて次の日のダイブに備えて早めに就寝した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
Alive In World Online雑談スレ933
339:名無しの冒険者:2059/05/09(金)13:15:39 ID:Kumo5Ttl910
そう言えば最近フェンリルって冒険者の噂聞くけど、それって100年前の巫女神と何か関係あるのかな?
340:名無しの冒険者:2059/05/09(金)13:19:56 ID:KMakr5Mnt6
関係ないだろ?
100年前だよ。大方巫女神の名前を語っているだけのニセモノだろ
341:名無しの冒険者:2059/05/09(金)13:23:15 ID:nzo3IxtI73
あたしも聞いたことがあるね
強さも申し分ないみたいで、もしかして本物じゃないかって噂になってるよ
342:名無しの冒険者:2059/05/09(金)13:26:44 ID:Oli976Oli2n
へぇー、神様みたいに強いって余程だね
343:名無しの冒険者:2059/05/09(金)13:33:01 ID:Ari5aNtI910
そうそう! 巫女神様の再来って言われているね!
344:名無しの冒険者:2059/05/09(金)13:34:15 ID:nzo3IxtI73
因みに本物の巫女神様よろしく黒髪の巫女姿で刀の二刀流だって
345:名無しの冒険者:2059/05/09(金)13:37:21 ID:B920Zfutya
仮に本物だとして今頃地上に何の用なんだろ?
346:名無しの冒険者:2059/05/09(金)13:41:39 ID:Kumo5Ttl910
エンジェルクエストの攻略率が悪いから運営が派遣したNPCとか?
347:名無しの冒険者:2059/05/09(金)13:42:44 ID:Oli976Oli2n
実はアルカディアは暇だから地上に遊びに来たとか
348:名無しの冒険者:2059/05/09(金)13:48:56 ID:KMakr5Mnt6
>>346 ないない! あの運営はそんなことはしないよ
349:名無しの冒険者:2059/05/09(金)13:50:15 ID:nzo3IxtI73
そうだね。運営はAIWOnにまるっきり干渉していないね
と言うより、最早AIWOnは運営が関与する隙が無いみたい
350:名無しの冒険者:2059/05/09(金)13:55:09 ID:OkitSitLow
だね。AIWOnは既に一つの完成された世界を構築しているから、下手に関与すると世界が壊れるだろうね
351:名無しの冒険者:2059/05/09(金)13:57:56 ID:KMakr5Mnt6
話は戻るけど、フェンリルを名乗っている冒険者をどう扱う?
352:名無しの冒険者:2059/05/09(金)14:00:21 ID:B920Zfutya
因みにその冒険者さんは何処に出没している?
353:名無しの冒険者:2059/05/09(金)14:02:39 ID:Kumo5Ttl910
>>352 大体王都エレミアでだけど
354:名無しの冒険者:2059/05/09(金)14:05:09 ID:OkitSitLow
別にどうもしない方がいいよ
偽物ならそのうちメッキがはがれるだろうし、本物なら何か大きな事件に関わってくるんじゃないか?
次回更新は10/23になります。




