28.災厄の使徒と餓狼とトリニティ
『災厄の使徒・Disaster』は従える魔物が多ければ多いほど力を増す特殊変異型のモンスターだ。
現在従えているモンスターの数は100万近いと思われる。
討伐するには力の源であるモンスターを倒し、力を削らなければならない。
微々たるものだがこの数日でリュデオが、昨日は合流したデュオたちのお蔭でかなりの数を削ることが出来た。
とは言え、全体から見れば微々たるものだろう。
それはすなわち未だに『災厄の使徒』の力が強大なままだと言う事だ。
その有り余る力を携えた『災厄の使徒』が俺達の目の前に現れた。
俺達は余儀なく『災厄の使徒』を迎え撃つはめになったのだ。
そして『災厄の使徒』との戦闘は遭遇から決着まで30分ほどで終わりを告げることになる。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「あ、主・・・」
「すまんな。まさかこれ程の手練れが来ているとは思わなかった。ナージャはそのまま下がって休んでいな。
ここは俺が片付ける」
『災厄の使徒』に言われるまま、ナーガラージャは俺達から距離を取り離れて行った。
それに追随して周囲に控えていたモンスターたちも離れていく。
「さて、これ以上仲間を倒させるわけにはいかない。ここからは俺が相手だ」
『災厄の使徒』がそう告げた瞬間、目の前から消え失せる。
いや、消えたんじゃない。物凄い速度で動いたんだ。
ズンッ
「がはっ・・・!」
『災厄の使徒』は一瞬で間合いを詰め、手刀でウィルの胸を貫いたのだ。
「ウィルっ!!」
手刀を引き抜かれ、ウィルは信じられない面持ちのままうつ伏せに倒れ込む。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
『災厄の使徒』が次の行動を映す前にリュデオが飛びかかり、両腕で『災厄の使徒』の体を抱え込んで抑え込むのだが――
「鈴鹿殿!! ワシが抑えている間に逃げるのだ! 鈴鹿殿の刀ならウィル殿はまだ間に合―――」
ゴキンッ
『災厄の使徒』の無造作に放った左腕が首をへし折り、リュデオはあらぬ方向を向いたままその場に崩れ落ちる。
俺は咄嗟にユニコハルコンを地面へ突き刺し持てる限りの魔力を振り絞って治癒魔法を放った。
「エリアエクストラヒールッ!!」
俺の治癒魔法の波動を受けてウィルとリュデオの体は癒される。
ウィルは兎も角、リュデオは首の骨をへし折られている。下手をすれば即死の可能性もある。
即座に治癒魔法を飛ばしたとはいえ、果たしてどこまで効果があるのか。
俺は地面に差したユニコハルコンから治癒魔法を2人に送り続ける。
だがそれを『災厄の使徒』が黙って見ているわけでは無い。
「ほう・・・治癒の魔力を秘めた刀か。貴様もここで殺しておくか」
『災厄の使徒』の殺気が俺に向かう。
ただそれだけで体が委縮するのが分かる。向けられる威圧がハンパないのだ。
「おいおい、何の冗談だ? 『災厄の使徒』、お前は何をやりたいんだよ?」
俺は出来るだけ時間を稼ぐため、通じるか分からないが『災禍の使徒』へ話しかける。
それも出来るだけ興味を引く様に。
「昨日まではモンスターたちに適当に指示を出して嬲ってたくせに、今日になっていきなり命令し始めてさ。
しかもそのくせ仲間が死にそうになったら『災厄の使徒』、お前本人が出てきていきなり皆殺しとか何がしたいんだ?」
「・・・別に。嬲ってたのはただ単にお前ら人間に恐怖を与える為さ。
俺は記憶を受け継ぐモンスターだ。
そう、何度も死んだ記憶があるんだよ。人間によって殺された、な。
だから俺も人間に恐怖を与えようと思ったわけさ!」
そうか。記憶を受け継ぐと言う事は死んだ時の記憶――何度も殺された記憶を持ち続けると言う事か。
それが嬲る理由って訳か。
「この近辺の村を襲っていたのもお前ら人間の軍をおびき寄せるためだよ。
ちょっと考えれば分かるだろ?
100万ものモンスターが居れば人間の住む都市だってイチコロだよ。
だけどそうなったら俺の仲間もただじゃ済まない。大勢の仲間が死んでしまうのは忍びないからな。
だから人間の拠点を攻めるんじゃなく、おびき寄せることにしたんだよ」
確かに100年前の大災害時には大勢のモンスターが王都セントラルをたった数日で落としたって話だ。
同じ規模の今回もそれが出来ないわけじゃない。
だがそれをやらないのはそれだけリスクがあるからだ。
そのリスクを減らすために距離的に難があるこの村で騒ぎを起こし討伐軍を呼び寄せたのか。
こいつ伊達に記憶を受け継いできただけじゃない。
死んだその数だけ知恵を蓄えて来たんだ。
「あと、今俺がこの場に来たのはさっきも言ったが、仲間をこれ以上死なせないためだ。
俺の一番仲のいい仲間達をこれ以上死なせるわけにもいかないんでな」
一番仲のいい仲間達――指揮官モンスターか。
そりゃあ確かに黙って死なせるわけにもいかないか。
とは言え、『災厄の使徒』自ら出張るとは思いもしなかったが。
会話の最中にもウィルとリュデオに気を配り注意して見ていると、何とか2人に反応があるのが見て取れた。
峠は越えたと思われるが、今度はこっちが何とかしないと!
「・・・ちっ、仲間を癒すための時間稼ぎか。抜け目のない。
まぁいい、貴様を殺した後にまた殺せばいいか」
これ以上は時間稼ぎをさせないと、『災厄の使徒』の殺気が鋭さを増し俺に突き刺さる。
俺はなりふり構わず持てる力を全て振り絞って『災厄の使徒』を迎撃する。
「スキル並列起動!! Fang! Start! Zone!」
Fangの特殊スキルの効果により俺の体は狼人の体、いやそれ以上の銀毛の狼神の体へと変化する。
そしてStartの特殊スキルの効果により全ての身体能力が2倍になる。
更にZoneの特殊スキルの効果で持てる潜在力を最大限に発揮し、集中力が増し俺の意識が加速する。
加速した意識により、周囲の音が消え動きが間延びしたように緩慢になる。
だがこれにはまだもう1つ上の段階がある。
そう、俺はこの感覚を知っていた。
『迷宮の使徒』により火に巻かれたとき、治療の為に掛けられた試薬ポーションの効果で同じような現象が起きていたのだ。
その時にはもう1つ上の段階、音と色が消失した世界があったのだ。
俺は更に意識を集中してZoneのもう1つ上の段階、Lv2へと引き上げる。
そうして音と色が無くなった世界は殆んどの物体が停止したように見えた。
だがその世界の中で『災厄の使徒』は普通の動きをしていた。
俺が特殊スキルを起動した瞬間には既に俺の懐へと潜り込んで手刀で貫こうとしていたのだ。
俺は『災厄の使徒』の手刀を膝蹴りで弾き飛ばしながらステップでサイドに回りユニコハルコンで横薙ぎに振るう。
『災厄の使徒』はまさか弾かれるとは思っていなかったのか、驚愕の表情でこちらを見ながら慌ててユニコハルコンを躱す。
いける。少なくともFangとStartの相乗効果で引き上げられた肉体は、『災厄の使徒』の力にも通用する。
FangとStartだけでは肉体は追いつくが感覚が追いつかず、Zoneだけでは肉体が追いつかない。
この3つが揃ってこそようやく『災厄の使徒』に対抗する事が出来たのだ。
とは言え、これだけでは『災厄の使徒』に勝つことは難しい。
俺はここで決め手となる更なる手を放つ。
それは普段の俺には未だ使いこなせない、このZoneで加速した意識でこそ使える剣姫一刀流の2つ目の奥義だ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
俺はユニコハルコンを納めた状態から鞘に掛かった魔法剣を刀身へ移し、居合斬りで『災厄の使徒』へ斬りかかる。
抜いて斬って鞘に魔法を掛け治める。これを一拍の間に十連続で行う。
連続で体を斬りつけられた『災厄の使徒』は顔を歪めながらも俺を殺そうと剛腕を振るう。
俺はそれをヘッドスリップで躱し、再び連続の居合魔法剣を『災厄の使徒』へ叩きつける。
――剣姫一刀流奥義・百花繚乱――
これが『災厄の使徒』へダメージを与えることが出来ている剣姫一刀流の2つ目の奥義だ。
この奥義は魔法剣を掛けた刀で連続で刀戦技の居合一閃を放つ奥義だ。
但し、その居合一閃の1つ1つにもう1つの奥義・天衣無縫のように複数の魔法を融合した魔法剣を鞘に掛け、刀を納めると同時に刀身へ魔法剣を移し居合を放たなければならないのだ。
その為、この奥義に求められるのは連続居合に合わせることのできる呪文詠唱速度――フェンリルの提唱する三大秘奥の圧縮呪文と融合魔法剣をイメージして唱える集中力となる。
理論上、魔法剣の呪文詠唱が続く限り百以上もの居合魔法剣を放つことが出来ると言われ、その込められた複数の融合魔法剣が色取り取り咲き誇り無限のダメージを与える事が可能なのだ。
だがこの奥義は今の俺には使用不可能なのだ。
ただでさえ連続居合に超高速で呪文を唱え、融合魔法剣のイメージをしなければならないので頭の処理が追いつかないのだ。
つーか、連続居合に呪文を合わせること自体が物理的に不可能なのだ。
その為、複数の魔法剣を鞘かけて刀を1度収めるごとに1つだけ魔法剣を刀身に移して放つのがこの奥義の使い方となっている。
だがその方法を用いても、この奥義を編み出した師匠でさえ連続居合が10発放つのが限度だと言う。
しかしながらその超高速処理が可能になったのがZの使徒の証の特殊スキルなのだ。
Zoneを使用することによって意識が加速し、居合斬りに合わせて圧縮呪文&融合魔法を掛け続けることが出来るようになったのだ。
俺は止まったような音と色が消え失せた世界の中で百花繚乱を放ち続け、確実に『災厄の使徒』へとダメージを与え続ける。
バカみたいな力を備えた所為か、『災厄の使徒』の体はあり得ない程に頑丈で刀で切ったくらいじゃ傷一つ付かない。
だが融合魔法剣を連続居合で放つ百花繚乱によって『災厄の使徒』に僅かばかりの傷をつけてダメージを与えることが出来ていた。
その僅かばかりの傷が、百花繚乱の無限とも言える連続居合で加速的に積み重なっていくのだ。
無論、俺だけがダメージを一方的に与えている訳じゃない。
『災厄の使徒』も剛腕を振るい、震脚を放ち、俺に確実にダメージを与えていく。
剛腕は俺の脇腹を抉り、震脚はそれを防ごうとした腕の骨をへし折る。
だが狼神の治癒能力とユニコハルコンの治癒魔法で強引に治して、捨て身とも取れる戦法で百花繚乱を放ち続ける。
「―――――――――――――――――――――――――――ッッ!!!!」
己を奮い立たせるため雄叫びを上げる。
音の無い世界では俺には聞こえないが、俺の気迫を受けた『災厄の使徒』の動きがこれまでのダメージと合わせ鈍ってきたのが見て取れた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
どれくらい時間が経っただろうか。
永遠ともつかない時間が止まったような世界で俺は無限にユニコハルコンを振るう。
その永い時間の中で、俺が『災厄の使徒』を引き付けている間にトリニティとジャドがウィルとリュデオを避難させていた。
そばにはスノウが元の大きさに戻って護衛として控えている。
『災厄の使徒』は2人を狙うが俺がそれを阻止しようと立ち塞がる。
それが狙いだったのか、俺が向かってきたところに『災厄の使徒』はカウンターを狙い、俺はそれに構わず強引に百花繚乱を放つ。
お互いに攻撃を受けながら、しかし確実に互いにダメージを与えていく。
お互いの力が拮抗しているかのように見えたが、遂にはそのバランスが崩れた。
俺の放つ地面すれすれから掬い上げる様な一撃(十撃?)が『災厄の使徒』の膝を崩す。
ここぞのチャンスとばかりに、俺は満身創痍の『災厄の使徒』に向けてとどめの一撃を放とうとした。
が、その瞬間に世界に音と色が戻る。
気が付けば狼神の体は元の人間の体に戻り、空気が粘つく様に体に纏わりつき止めの一撃が放たれることは出来なかった。
―――しまった、時間切れか!
Zoneにより時間が止まったように錯覚していたが、あくまで止まったように感じていただけだ。
確実に時間は進んでいたのだ。
特殊スキルの効果時間の24分が過ぎ、その反動で俺の体は動きに精彩を欠いてしまった。
ただでさえStartのデメリットの身体能力の半減に加え、Zoneの加速した意識が平常に戻った反動で自分の体が一気に鉛のように重くなってしまったのだ。
「くくく、形勢逆転だな。貴様のような奴はここで確実に死んでもらう」
膝を崩していた『災厄の使徒』は俺の動きが鈍ったことに目の色を変え、反対に俺に止めを刺そうと手刀を繰り出す。
幾ら満身創痍とは言え、『災厄の使徒』の放つその手刀は今の俺に躱すことは出来なかった。
だがその一撃は俺に届くことは無かった。
「ルフ=グランド縄剣流・螺旋刺弾!」
分割した蛇腹剣を放ったトリニティの剣が『災厄の使徒』の手刀を弾き飛ばしたのだ。
「バカ野郎! 何やってるんだ! 逃げろ!」
そう叫ぶも、トリニティは俺の声には従わず元に戻った蛇腹剣を『災厄の使徒』へ向けて睨みつけていた。
手刀を弾かれた『災厄の使徒』は満身創痍とは言え、この場で一番力の無いトリニティに防がれたのが流石にプライドが傷ついたのか、殺気をトリニティに向ける。
「貴様・・・俺の邪魔をしておいてこの場から生きて帰れると思うなよ」
「ふん、たかがあたし如きに防がれる『災厄の使徒』は敵じゃないよ。
それに、あんたに対抗する手段はちゃんと見せてもらったんだから」
トリニティは力なく伏せている俺にチラリと視線を向けながら声高らかに叫ぶ。
「スキル並列起動!! Fang! Start! Zone!」
特殊スキルの起動によりトリニティの髪は銀髪へと変化し、頭の上に狼の耳、お尻に尻尾を生やした狼神へと変貌する。
そして目には見えないが身体能力も2倍に、意識感覚も加速しているだろう。
その証拠に某バスケ漫画みたいに目から光の線が放たれている。
「るおおおおおおおおおおっ!!」
トリニティが雄叫びを上げながら『災厄の使徒』へと蛇腹剣を振るう。
確かにトリニティも俺と同じ使徒の証を手に入れているから同じ特殊スキルを使用することは可能だ。
上手くいけばこのまま手負いの『災厄の使徒』を倒すことが出来るんじゃないか・・・?
俺の目にも止まらぬスピードで戦場を動き回りながらトリニティと『災厄の使徒』はぶつかり合う。
これが特殊スキルを並列起動した動きか・・・!
俺もさっきまでこの動きで『災厄の使徒』に対抗していたんだな。
・・・いや、待て。何でトリニティの動きが目で見える。
目にも止まらぬとは言え、その動きは目に移らないわけじゃない。
よく見れば『災厄の使徒』の方が動きが上で、トリニティは僅かながら押されていた。
そうか! 特殊スキルのLvの違いだ!
俺のZoneはLv2の音と色が消え失せる世界への集中だが、おそらくトリニティはLv1の音の消える世界での集中しか発揮できていないんだ。
おまけに俺は狼神とユニコハルコンの併用で体の傷を強引に治していたが、トリニティには狼神の治癒能力しかない。
この差が如実に出ているのだ。
トリニティの振るう蛇腹剣を躱し、『災厄の使徒』の拳が彼女の顎を捉える。
脳を揺さぶられたトリニティは膝を揺さぶるも、狼神の身体能力で強引に距離を取り分割した蛇腹剣で『災厄の使徒』へ鞭のように振るう。
『災厄の使徒』は蛇腹剣を躱そうともせず腕で受けて止めそのまま絡め取ってしまった。
絡め取った蛇腹剣を引っ張り、引き寄せられたトリニティに回し蹴りで吹き飛ばす。
「がはっ!!」
ヤバい。今のはもろに入った。
「トリニティ、もういい! 逃げろ!!」
「げほっ、げほっ・・・大丈夫よ。あたしはまだ負けてないわよ。鈴鹿は大人しくあたしが勝つところを見てなさいよ」
吹き飛ばされた時に蛇腹剣を手放してしまったので、予備に持っていたショートソードを引き抜き『災厄の使徒』に向かって構える。
何がトリニティをここまで動かすんだ。
これまでのトリニティだったら一にも無く逃げていたはずだ。
「雑魚が手間を掛けさせやがって。これで止めだ」
『災厄の使徒』が一瞬で間合いを詰め止めの手刀でトリニティを貫こうとするのが見えた。
だがその瞬間、どこらともなく飛んできた斬撃が『災厄の使徒』の腕を切り落とす。
「ぐぁぁ!? なん・・・だとっ!?」
流石に腕を切り落とされるとは思わなかったのか、『災厄の使徒』は忌々しげに斬撃が飛んできた方向を睨みつける。
その視線の方向・・・『災厄の使徒』の腕を切り落とした人物はデュオと共に西の方の殲滅を行っていたはずの美刃さんだった。
八脚馬の馬――スレイプニルに跨り悠然とその場に駆け寄ってくる。
ついでと言わんばかりに周囲に控えていた爬虫類系のモンスターを屠りながら。
「・・・ん、お待たせ。後は私に任せて」
「・・・貴様らには邪竜を差し向けていたはず」
「・・・ん、邪竜なら倒した」
「バカな、邪竜をたった2人で倒すなどあり得ん!」
「・・・ん、私がここに居るのが証拠」
余程邪竜に期待していたのか、倒されたと聞いて『災厄の使徒』は明らかに動揺していた。
そしてトリニティもこの場にデュオが居ない事を心配していた。
「お姉ちゃんは!?」
「・・・ん、大丈夫。ちょっと無茶したけど命には別状ない」
そう言いながら美刃さんはスレイプニルから降り立ち手にした刀を『災厄の使徒』へ向ける。
「・・・ん、ここまで弱っていれば後は私だけでも倒すことは可能」
「舐めるなぁ! 俺は『災厄の使徒』だ! 仲間にしたモンスターの数だけ強くなれる魔人だ!! たかが人間如きに倒せる俺じゃないんだよ!!」
激高した『災厄の使徒』は切り落とされた腕を繋げ、猛然と美刃さんへと向かって行った。
美刃さんは静かに佇んでいたかと思うと急激に闘志が高まるのが分かった。
「モード剣閃満月」
その瞬間、美刃さんの纏う雰囲気が明らかに変わった。
陽炎のように闘気が溢れだし周囲に熱風を巻き起こす。
そして何時も無表情の美刃さんが獰猛な笑みを浮かべていた。
「刀戦技・神威一閃:極」
そして向かってくる『災厄の使徒』を美刃さんが刀の一振りで弾き飛ばす。
後はそこからはほぼ美刃さんの一方的な戦いとなった。
特殊スキルを使用していないにも拘らず、美刃さんの動きはStartやZoneを使用しているかのような動きだった。
『災厄の使徒』の動きを上回り、常に死角からの剣閃が『災厄の使徒』へ襲い掛かる。
両腕を斬り飛ばされ、胸には十字傷を付けられ『災厄の使徒』は既に虫の息状態だ。
その様子に流石に看過出来なかったのか、命令を無視してナーガラージャが周囲のモンスターに命令を下し美刃さんへと襲い掛からせる。
そうはさせまいとトリニティとジャドが立ち向かい、スノウが雄叫びを上げてモンスターの行く手を阻む。
トリニティがナーガラージャを、ジャドが周囲のモンスターを闇属性魔法のシャドウバインドで縛りスノウが光属性魔法で範囲攻撃を行うが、流石に押し寄せるモンスターの群れは抑えきれなかった。
俺は特殊スキルのデメリットで満足に動けないし、ウィルとリュデオに至っては未だに目を覚まさない。
美刃さんも次々襲い来るモンスターを斬り伏せて相手になってはいないが、いかせん数が多すぎて『災厄の使徒』への攻撃の妨げになっていた。
このままでは『災厄の使徒』に逃げられる上、戦闘不能の俺達はモンスターに蹂躙されてしまう。
そう思っていた時、モンスターの群れの後方から鬨が聞こえてきた。
思いもよらぬ後方からの攻撃にモンスターたちの動きが鈍る。
トリニティはナーガラージャを仕留め、動揺しているモンスターの隙をついて俺達戦闘不能の3人を守りに回ってくれた。
モンスターの後方から現れたのはエレガント王国の鎧を着た騎士や兵士たちだった。
よく見れば統一性のない装備を身に着けた者も大勢いる。
おそらく冒険者たちなのだろう。
これはもしかして災厄討伐軍なのか・・・?
デュオが予想していたよりも早い到着だ。
討伐軍が加わったことにより、戦場は混乱を極めた。
その混乱に乗じて『災厄の使徒』は逃走しようとする。
「逃がさない。貴方はここでキッチリ倒させてもらう」
その逃走の先には闘気を纏う美刃さんが待ち構えていた。
「くそっ! くそっ! くそっ! 俺は『災厄の使徒』だぞ! 人間に復讐する為長い間、策を弄して力を蓄えて来たのにこんなところで死ねるかよ!
死ぬのは人間、貴様らの方なんだよ!!!」
『災厄の使徒』はなけなしの力を振り絞り美刃さんへ渾身の蹴りを放つも、美刃さんの放った一撃が『災厄の使徒』の体を分断する。
「刀戦技・神威一閃:極」
体を分断された『災厄の使徒』の下半身は糸が切れたように倒れ、斬り飛ばされた上半身は宙を舞う。
だが『災厄の使徒』は両腕を切り落とされ体を分断されて尚、最後まで諦めておらず最後の悪あがきをする。
「せめて・・・せめて、貴様らの1人だけでも道連れにしてやる!」
宙に飛ばされた上半身の背中から皮膜の翼が生え、道連れの1人――満足に動けない俺に向かって牙を向けてきた。
特殊スキルの影響で今の俺の体は碌に動けないし力も著しく減衰している。
このままではまず間違いなく『災厄の使徒』の死に間際の最後の攻撃の餌食になるだろう。
「鈴鹿くん!」
「鈴鹿!」
トリニティと美刃さんの叫び声が聞こえる。
そんな時に師匠の言葉が脳裏に浮かんだ。
剣姫二天流の開祖・フェンリルもいかなる理由か、己の身体能力が落ちて碌に体を動かせない事があったらしい。
そんな最大のンチにも関わらず、力を使わず最小限の動きで相手の力を最大限に利用した攻撃を編み出していたと言う。
俺は師匠のその言葉を思いだし、ユニコハルコンを構える。
ここでは最大限の力を込める必要はない。最小限の力だけでいいのだ。
不必要な力を籠めなかったお蔭か、最短の移動、最速の動きで襲い掛かる『災厄の使徒』にユニコハルコンを突きを放つように正眼で構える。
「なっ・・・!!?」
『災厄の使徒』は最後まで何が起きたのか分からなかっただろう。
自らユニコハルコンに飛び込む形で俺の放った攻撃を受けたのだ。
そして真っ二つにされた『災厄の使徒』はそのまま完全に息絶えた。
「勝った・・・」
思いがけず『災厄の使徒』と遭遇したにも拘らず、何とか勝つことが出来て俺は力が抜けてその場にへたり込んだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
あの後、『災厄の使徒』が倒されたことによってモンスターの群れの統制が乱れた。
乱れると言うより暴走に近いか。
組織立って行動していたモンスターたちが纏め上げていた『災厄の使徒』が倒されたために各自で暴れ出したのだ。
目の前にいる騎士達を襲うモンスターも居れば、見境なく暴れるモンスターも居る。
逆にこの場から一目散に逃げ出そうと言うモンスターも居るが、討伐軍がそれを許さず確実に屠られていった。
美刃さんはそのまま討伐軍と一緒にモンスターの残党を次々倒していく。
トリニティも一緒にモンスターの残党に向かおうとしたが俺が止めた。
この時はまだ動けていたが、あと数分もすれば特殊スキルの効果が切れて満足に動けなくなるからだ。
まだ動けているうちにジャドと一緒に俺とウィルとリュデオを連れて教会の結界の側へ避難することにして安全を確保したのだ。
そして今俺は仮復興中のサーズライ村の臨時宿泊施設のベッドの上で横になっていた。
隣のベッドにはトリニティも横になっている。
教会や村を囲んでいたモンスターの群れは今は完全に排除されている。
災厄討伐軍――俺達を助けてくれたのは速度を優先する為、走竜で構成された騎竜騎士団や王国軍、騎獣を持つ冒険者たちで構成された第一陣で、後から第二陣、第三陣来るらしい――がサーズライ村の周辺のモンスターを蹴散らして安全を確保して、モンスターの残党狩りの拠点として臨時の復興をしていた。
『災厄の使徒』が倒されたとは言え、まだかなりの数のモンスターが群れを成して近辺をうろついている。
それらのモンスターの残党を完全に排除してこそサーズライ村の安全が確保されたと言えよう。
『災厄の使徒』は倒されたが、討伐軍にはまだまだやることが沢山あるのだ。
先のモンスターの残党然り、サーズライ村の復興然り、これほどのモンスターの群れを集めた経緯の追跡調査などなどだ。
因みにこれほどのモンスターの群れが何処に隠れていたかと言う事だが、調査の一部で判明しているのは、王都エレミアと水の都市のほぼ中間にあり、エレガント王国とプレミアム共和国の国境を跨いだ不死山を囲う迷いの森に隠れていたのだろうと言う事だ。
そして俺はと言うと特殊スキルの後遺症で強制的にベッドの上に居る訳だ。
正確には特殊スキルStartのデメリットの身体能力の半減と言うより、傷を強引に癒しながらの特攻の後遺症が原因だったりする。
トリニティも同様で少なからず『災厄の使徒』から受けた攻撃が原因でベッドの上だ。
討伐軍の中の治癒師やユニコハルコンで怪我は治っているが完全にとはいかず、しこりみたいなものが残っているため安全を取って休んでいるのだ。
「鈴鹿くんたちが『災厄の使徒』を倒したと聞いた時は驚いたけど、2人とも無茶しすぎ」
ベッドの脇で俺達の様子を見ていたアイさんが窘めるように言ってくる。
「いやいや、あれは無茶をしなきゃ倒せなかったよ。逃げるにしても、多分逃げ切れなかったろうし」
「そう言う事言ってるんじゃないわよ、まったく・・・」
「鈴鹿の無茶は今に始まったことじゃないからね。でもまぁ今回はその無茶に助けられたようなものだし?」
「もう、トリニティまで。そう言うところ少し鈴鹿くんに似て来たんじゃない?」
「え゛!? マジで!?」
「おい、トリニティ。何故そこで意外そうな顔をする。俺の無茶に似るのがそんなに嫌か。
と言うか、危険だと分かっていながら戻ってきたトリニティの方が余程無茶な気がするぞ?」
「ちょっと、自分の事を棚に上げないでよ。鈴鹿の方が余程無茶な事をしてきたじゃないの」
そして互いに文句を言い合いながらも、いつものようなやり取りに俺達3人は笑い合う。
「なぁ、トリニティ。お前このまま俺達についてくるのか?」
「ええ、そうよ。あたしはあたしの意思で鈴鹿達に付いて行く。鈴鹿の仲間として少しでも協力したいの。
・・・それともやっぱりあたしが付いて行ったら迷惑かな?」
トリニティは己の意思を示すため真っ直ぐな瞳で俺を見てくる。
だが心のどこかでは足手まといにならないか心配なのか、少し遠慮してしおらしい態度でいた。
俺はアイさんを見ると、アイさんはいつものように俺に従うと言った視線を向けてくる。
「・・・いや、トリニティが付いてくるなら助かるよ。
何せ盗賊兼案内人が居なくて困ってたんだ」
俺の言葉にトリニティが満面の笑みを浮かべて喜ぶ。
「――鈴鹿、ありがとう」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
Alive In World Online雑談スレ892
269:名無しの冒険者:2059/01/01(水)00:00:10 ID:Hirin9Es56s
A Happy New Year!!
270:名無しの冒険者:2059/01/01(水)00:00:29 ID:Oli976Oli2n
あけましておめでとう!!!!!!!!!!
271:名無しの冒険者:2059/01/01(水)00:01:00 ID:ju10ju22Msv
(o'∀')ノ。+。゜☆I wish you a happy new year☆゜。+。ヽ('∀'o)
272:名無しの冒険者:2059/01/01(水)00:01:21 ID:Adl6Ms10r
あけおめ!!
273:名無しの冒険者:2059/01/01(水)00:01:36 ID:pu4pu4pu4
あけましておめでとう!(*>▽<*)ゝ
274:名無しの冒険者:2059/01/01(水)00:01:59 ID:Jo2DEjoz6
アケオメ!ヽ(≧▽≦)人(≧▽≦)ノコトヨロ!
275:名無しの冒険者:2059/01/01(水)00:02:42 ID:dn50SekkA
おめおめ!!
276:名無しの冒険者:2059/01/01(水)00:03:09 ID:Ba6a9uuDa
ヽ(≧▽≦)ノ。+。゜☆―I wish you a happy new year―☆゜。+。ヽ(≧▽≦)ノ
277:名無しの冒険者:2059/01/01(水)00:03:12 ID:H94n892DiM
【新年】明あけましておめでとうございますヽ(o´∀`o)ノ
278:名無しの冒険者:2059/01/01(水)00:03:59 ID:Jo2DEjoz6
出来ればAIWOnの中で正月を迎えたかったなぁ
279:名無しの冒険者:2059/01/01(水)00:04:10 ID:Hirin9Es56s
AIWOnの中は正月じゃないんだけどねw
280:名無しの冒険者:2059/01/01(水)00:04:21 ID:Adl6Ms10r
AIWOnの中は完全に別世界だからね~
VRMMOなのにVRMMOじゃないw
281:名無しの冒険者:2059/01/01(水)00:05:29 ID:Oli976Oli2n
そうだよなぁ~文明の利器がAIWOnの中じゃ使えないだよなぁ~
282:名無しの冒険者:2059/01/01(水)00:06:12 ID:H94n892DiM
>>279 ああ、AIWOnは時間の流れが違うからな
283:名無しの冒険者:2059/01/01(水)00:06:36 ID:pu4pu4pu4
まぁキャッチコピーが異世界での冒険だからね^^;
284:名無しの冒険者:2059/01/01(水)00:07:42 ID:dn50SekkA
時間の流れが1.5倍だからね
285:名無しの冒険者:2059/01/01(水)00:09:00 ID:ju10ju22Msv
何で1.5倍なんだ?
286:名無しの冒険者:2059/01/01(水)00:09:21 ID:Adl6Ms10r
異世界すぐるよ!
まぁそれもそれで楽しいんだが^^
287:名無しの冒険者:2059/01/01(水)00:10:09 ID:Ba6a9uuDa
それはほら、夜にIN出来ない人も出来るようにだよ
288:名無しの冒険者:2059/01/01(水)00:12:12 ID:H94n892DiM
普通の1倍や2倍だと夜にINすると向こうも夜だからね
かと言って3倍や4倍にすると時間の流れが違い過ぎて向こうの生活が儘ならなくなる
289:名無しの冒険者:2059/01/01(水)00:13:36 ID:pu4pu4pu4
本当にゲームじゃない異世界での冒険だからね
ある意味リアルすぎて変なテンションになるww
290:名無しの冒険者:2059/01/01(水)00:14:42 ID:dn50SekkA
ゲームなのに向こうの生活とか可笑しいんだがw
291:名無しの冒険者:2059/01/01(水)00:15:00 ID:ju10ju22Msv
別に向こうの生活関係なくね?
292:名無しの冒険者:2059/01/01(水)00:17:09 ID:Ba6a9uuDa
いや、そこはほら、依頼の期限とかあるだろう
それにこっちじゃ1日しか経ってないのに向こうじゃ3日も4日も経ってちゃ
天地人にとってみれば「え?いつの話してるの?」ってなっちゃうし
293:名無しの冒険者:2059/01/01(水)00:19:59 ID:Jo2DEjoz6
さて、こっちの正月を迎え終わったんで向こうに行ってこよう ノシ
294:名無しの冒険者:2059/01/01(水)00:20:10 ID:Hirin9Es56s
いてら~ノシ
295:名無しの冒険者:2059/01/01(水)00:20:42 ID:dn50SekkA
イッテラ( ゜Д゜)y-~
296:名無しの冒険者:2059/01/01(水)00:21:36 ID:pu4pu4pu4
( `・∀・)ノシ))イッテラッシャ──イ
291:名無しの冒険者:2059/01/01(水)00:22:00 ID:ju10ju22Msv
>>292 納得した
ストックが切れました。
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