27.先行部隊と仲間と指揮官
災厄討伐軍先行部隊・クラン『月下』だと・・・!?
クラン『月下』って確か美刃さんのクランだったよな。
ん? デュオ・・・? どこかで聞いたような・・・
「すまん、助かった。先行部隊ってことは他にも何人か来ているのか?」
「ええ、あたしを含めて5人ね」
ちょっ!? 先行『部隊』にもなってないじゃないか。
・・・いや、魔術師1人いるだけで戦況はかなり変わる。
デュオが魔導師クラスの魔法使いであればモンスターの群れを削るのではなく、殲滅させることも可能かもしれない。
「それで、取り敢えずはこのモンスターの群れを蹴散らせばいいのね?」
「ああ、黙っていても夜になれば居なくなるが、殲滅できるのならそれに越したことは無い」
「了解」
勿論こうして話している間にもモンスターの群れは襲ってきている。
俺は剣姫流のステップで躱しながら、デュオは赤い杖を使って捌きながらお互いモンスターを蹴散らしていく。
そしてそこへ俺に向かって襲い掛かるドラゴンフライに向かって剣の刃が突き刺さる。
「ルフ=グランド縄剣流・蛇絞牙剣!」
剣の刃が細かに分裂し、鞭のように伸びた剣先がドラゴンフライの頭に突き刺さり倒す。
分裂し鞭のように伸びた刃はそのまま一つの刃へと戻る。
それは所謂蛇腹剣と呼ばれるもので、刃の部分が数珠状に分割して鞭としても扱える剣だ。
その戻った先の剣の柄を持っていたのはトリニティだった。
そしてその隣には刀を振るう美刃さんも居た。
「鈴鹿、無事だったみたいね。良かった、間に合って・・・」
「・・・ん、久しぶり」
「トリニティ!? ちょ、おま、何でここに居るんだ!? それに美刃さんも!」
「詳しい話はこれが片付いてからにしましょう。2人とも大分込み入った話になりそうだし」
驚く俺を尻目にデュオはまずはモンスターの群れを片づけてからにしようと提案してくる。
や、確かにこの状況でのんびり話が出来る訳もないのでその提案には賛成なのだが。
無関係なトリニティを危険な目に遭わせないためにサーズライ村から離したのにこれでは意味が無いじゃないか。
「まぁ鈴鹿の言いたいことも何となく分かるけど、今はお姉ちゃんの言った通りこれを片づけてからにしましょう」
・・・は? お姉ちゃん?
マジか!? この赤の魔導師がトリニティの姉!?
あ、そう言えばどこかで聞いたことがあると思ったら、以前トリニティがクラン『月下』のサブマスターの名前が『鮮血の魔女』デュオだって言ってたじゃないか。
俺の驚きを余所にデュオは呪文を唱えて広範囲魔法をぶっ放す。
デュオが魔法を放つたびに周囲のモンスターがどんどんと減っていく。
流石は広範囲最強火力を誇る魔導師だ。
攻撃の威力もハンパネェ。
そして美刃さんも接近戦スペシャリストの侍であるにも拘らず、戦技なのか流派なのか斬撃を飛ばしまくってモンスターを斬り伏せていく。
「うむ、流石は魔法使いだな。ワシらがあれほど手を拱いていたモンスターの群れがこうも簡単に削られていくとは。
それとこれがS級冒険者か・・・噂に違わぬ強者だな」
「二つ名付きのA級とS級だぜ。これくらいやってもらわないと」
「お姉ちゃんは最高なんだから!」
リュデオはデュオの魔法の威力に慄き、隣ではトリニティがドヤ顔で胸を張っている。
まぁこれを見ればその気持ちも分からんではないが。
今まで目の前の獲物にしか動きが無かったモンスターの群れもデュオの火力に危機を覚えたのか、俺達よりもデュオを集中して狙う様になってきた。
隊列を組んで襲ってくるのはジャイアントアントソルジャーの部隊だった。
「剣姫一刀流・瞬刃乱舞!」
俺は連続で瞬刃を使い襲い来るジャイアントアントを蹴散らす。
「おお、やるわね! 流石はトリニティが気にした男ね」
「ちょっ、お姉ちゃん!?」
若干赤くなるトリニティを無視してデュオは再び魔法を放つ。
狙いはジャイアントアントを指揮しているクイーンが居る方向だ。
「ポジトロンキャノン!」
放たれた古式魔法による電撃の塊――陽電子砲が周囲のモンスターを巻き込みながらジャイアントアントクイーンを飲み込む。
激しい電撃を待ち散らしながらの攻撃だったが、直撃したにも拘らずジャイアントアントクイーンは辛うじて生きていた。
「む? しぶといわね。通常のクイーン個体より丈夫みたいね。亜種かしら?」
反撃に出ようとしたジャイアントアントクイーンだったが、突然ぐらつきそのまま地に伏した。
「ったく、デュオ! 勝手に先に行くなよ! 群れの中を突っ切るこっちの身にもなれっての! 美刃さんもひでーよ。俺達を置いて先にいっちまうんだもの」
バスターソードを持った若い男がそのジャイアントアントクイーンの背後から現れデュオに向かって怒鳴り上げていた。
そしてその周囲では生き残っていたジャイアントアントや他のモンスターが次々倒れていく。
「ウィル殿ならこの群れの中でも大丈夫だと言うデュオ殿と美刃殿の信頼でござる。なればこそ御二方は先行したのでござる」
「や、まぁ俺を信頼してくれてるのは嬉しいが、やっぱお前1人で先に行くなっつーの」
続いて現れたのが全身黒づくめ、辛うじて目元だけが晒されていて背中に刀を背負った男。まんま忍者だった。
「シャドウゲージ」
忍者の男は闇属性魔法の収納魔法を使い、自分の影から爆弾らしきものを複数取り出す。
そしてそのまま火属性魔法で火を付け周囲にばら撒いた。
ドオオオオオオオオォォォォン!!
デュオの魔法に劣らず周囲のモンスターが吹き飛んでいく。
「うむ」
「うむ、じゃねぇ! ジャド! 炮烙玉はあれほど火力を抑えろって言ってたじゃねぇか! 何だあの威力!?」
「この日の為にコツコツと作っていたでござる。拙者忍び故、いざと言う時の備えをしておいたのでござる」
ジャドとかいう男、天地人だよな?
なんか随分と異世界――日本の忍者に染まった奴だな。
何はともあれ討伐軍先行部隊の到着により戦況は一気に変わって行った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
助っ人の先行部隊が揃ってからは、各個撃破の単独戦から範囲攻撃を放つデュオを守りながら戦う集団戦へと移行する。
俺達はデュオを目指して襲い掛かるモンスターの群れを蹴散らしながら周囲に陣形を組む。
トリニティとジャドがデュオの前に、左右には俺とウィルが、後ろからの備えにリュデオを配置する。
美刃さんは遊撃として1人で俺達の周囲を回ってモンスターを斬りまくっている。
単体で襲ってくるブラッディベアやらフレアサーペントなんかはまだ楽だったが、集団で襲ってくるキラービーやリザードマンの部隊なんかは骨が折れた。
まぁ、こっちが少し攻撃を凌げはデュオが広範囲魔法で薙ぎ払うからまだマシな方だが。
こうしてトリニティ達が付いてから1・2時間であっという間にモンスターの群れは全て倒された。
『災厄の使徒』からの追加モンスターがあると思っていたが、暫く待っても来ないところを見るとどうやら今日はこれ以上は攻めてこないみたいだ。
もしかしたら予想外の攻撃に戸惑っているのかもしれないな。
モンスターの死骸の後片付けをし(殆んど魔法で吹き飛んでいたが)、俺達はAlice神教教会内へと場所を移した。
美刃さんやデュオたちに労いの言葉を掛け教会内で休んでもらう。
そして俺とアイさんとトリニティは教会内の一室で2日ぶりの3人での再会をしていた。
アイさんはトリニティとの再会に歓んでいたものの、流石にこの戦況の中に来たことに少しいい顔をしなかった。
「・・・で? 何で来た? お前はもう無理してエンジェルクエストに参加する理由はないはずだ」
「何で来たって、折角助けに来たのに酷い言い草ね。そんなの鈴鹿達を助けに来たかったから来たんじゃない」
「相手が『災厄の使徒』でもか? 100年前の大災害規模の使徒だ。下手すればただじゃ済まないかもしれないんだぞ?」
「だから少しでも早く助っ人を連れて来たんじゃない。しかもS級の美刃さんやA級のお姉ちゃんやウィルも連れて」
「それについては感謝しているよ。まさか美刃さんが来てくれるとは思わなかったし」
S級の美刃さんの救援は素直に有りがたい。
トリニティの姉である『鮮血の魔女』デュオや同じクランの『蒼剣』ウィルも先行部隊としては十分な戦力だ。
ジャドに関しては闇属性魔法使いと言う事で、シャドウゲージで食料等の救援物資を運んでもらってきたみたいだ。
勿論ジャドもB級冒険者としてそれなりの実力を持っている。
だけどトリニティはこれまで俺達と共に行動していて実力は上がったものの、その腕前は正規のD級冒険者と何ら変わりはない。
そんな実力で王国軍が動くほどのモンスターの群れに挑もうとしているのだ。
「・・・はぁ。もうここまで来てしまったら引き返せないからしょうがないけど、トリニティは明日からはアイさんと一緒に教会内に居ろよ」
「何でよ。あたしも一緒に戦うわよ。その為にここに来たんだし。
鈴鹿の仲間として共に戦う為に戻ってきたんだもの」
トリニティはそう言って決意を決めた顔を俺に向けてくる。
その決意の表れか、トリニティの装備もこれまでとは違って一新されていた。
ソードテイルスネークから取れたと言う剣尾を加工して作った蛇腹剣に、ミスリル銀糸で編んだ鉤付きロープにルナメタル鋼のショートソード。
以前と同じように動きやすさを重視して、メタルタランチュラから取れるメタルクロースと異常耐性のあるキングバジリスクの皮とミスリルを合わせて作った胸当てと籠手と脛当てを身に着けていた。
「トリニティ・・・お前、俺達の仲間に戻るつもりでいるのか? 自分の都合で散々振り回して来たこの俺の元に」
「つもりじゃなくて戻るのよ。これは他の誰でもないあたしが決めた事なの。
鈴鹿に脅されたわけでも無い、状況に流されたわけでも無い、あたし自身があたしの意思で決めた事なの。
言っておくけど鈴鹿がどうこう言おうが付いて行くからね」
自分の言ったセリフが恥ずかしかったのか、トリニティは顔を少し赤くしながらビシッっと指を突きつけた後、部屋から出て行ってしまった。
「愛されているわねぇ、鈴鹿くん」
「からかうなよ、アイさん。
トリニティのあれはそう言うのとは違うと思うぞ。あれは・・・どちらかと言うと友情とかそう言う類いだと思うぞ」
「うふふ、そう言う事にしておきましょうか。
ねぇ、鈴鹿くん気が付いている? トリニティの口調、前と違って私たちの前でも柔らかくなっているのよ」
・・・そう言われてみれば対荒くれ者の盗賊口調じゃなく、普通の猫かぶり用の女の子の口調だったな。
盗賊口調が素じゃなかったのか?
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
一段落ついた後、俺とアイさんとトリニティ、リュデオに美刃さんとデュオとウィルとジャドの8人を交えて明日の対策を練る。
これまで通りだったら『災厄の使徒』はただ大量のモンスターの群れを向かわせるだけだったが、流石に今日のデュオや美刃さんの攻撃を見て同じようにはならないだろうと予想する。
更なる量のモンスターを送り込むのか、それとも強力な個体のモンスターを送り込むのか、それに対してのこちらの陣形、戦術、戦略をお互いの意見を交えて話し合う。
「討伐軍がこっちに着くのはどれくらいになりそうなんだ?」
「あたし達は先行部隊と言う事で知らせを聞いてから殆んど直ぐ出て来たから何とも言えないけど、少なくとも王宮からの発表では1日で騎士団・国軍・冒険者を纏め上げ、次の日に出発するって言っていたわね」
聞いている分には有りがたいが、普通1日で出来る物じゃないんじゃないか?
もしそれを実行するのなら王都エレミアの中はよっぽど慌ただしい状況になっているだろうな。
「まぁ、先行部隊と言っても殆んど勝手に名乗っているようなものだけどな。許可も無く勝手に来たんだし」
「あ、こら! ウィル、ばらさないでよ」
あー、確かにS級冒険者の美刃さんは一番の戦力として見なされるからな。
それが勝手に居なくなっているとなると王宮としてもかなりの痛手だよなぁ。
「・・・ん、討伐軍が付くのは早くて後2日くらいだと思う」
「つまりもう既に向かってきているだろうと?」
「多分ね」
ふむ、明日の『災厄の使徒』の対応次第だが、希望的観測からいってもこの2日間を粘れば何とかなりそうだな。
もしかすればデュオのように討伐軍が動きやすい人数で先行部隊を送ってくる可能性もあるし。まぁ流石にたった5人と言うことは無いだろうが。
俺達は思い思いに夜を過ごし明日に備えて体を休める。
特にリュデオは今日は早く片付いたため、これまでの疲れを癒すための十分な休息を取ることが出来たみたいだ。
――AL103年4月9日――
俺達は2つにチームを分けて戦う事にした。
デュオ・美刃さんによる超攻撃特化の殲滅チーム。
俺・トリニティ・リュデオ・ウィル・ジャドのモンスターの指揮官を狙う遊撃チーム。
因みにスノウは騎獣縮小リングで小さくなって俺達に付いて来ている。
いざと言う時、空へ避難できるようにだ。
殲滅チームは文字通りデュオの広範囲魔法による殲滅をメインとしたチームだ。
接近戦対応として美刃さんが護衛に付く。
もっとも美刃さんも斬撃を飛ばす遠距離攻撃が可能なのでこの2人で派手にモンスターを倒し引き付ける役とする。
そして俺達遊撃チームは、今日から居るであろうモンスターの指揮官を狙う役となる。
トリニティとジャドが王都で『災厄の使徒』について集めた情報によると、幾ら『災厄の使徒』とは言えど十数万ものモンスターを操ることは不可能に近いと言う事だ。
つまり人間と同様に指揮系統が存在し、それを指揮するモンスターが存在するだろうと。
『災厄の使徒』から指揮官モンスターに、指揮官モンスターからモンスターの群れにと言った具合だ。
その指揮官モンスターを倒せばこのモンスターの群れも有象無象の集まりでしかなくなるので、比較的安全に『災厄の使徒』の力を削ぐことが出来る。
昨日はデュオたちの助っ人により殆んど殲滅していたモンスターだったが、今日も何処から湧いてきたのか既に教会の結界を取り囲んでいるモンスターの群れが居た。
数にしても昨日以上いるのではないだろうか。
結界の外に見えるモンスターの群れは辺り一面を覆い尽くしていた。
俺達遊撃チームが教会の外に出ると、昨日までただ徘徊していたのとはうって変わって統制された動きで俺達に襲い掛かってくる。
「やっぱりどこかにモンスターの動きを指示している奴がいるな」
襲い掛かってくるモンスターを斬り伏せながらウィルが呟く。
「だな。ジャド、予定通りに頼むぜ」
「了解でござる」
俺達はある程度モンスターの群れの中を突っ切ってから、ジャドが戦場を一瞥して指揮官を捜す。
ジャドの持っている看破の使用により戦場に居る指揮官を探し出すことが出来るのだ。
本来であれば看破は隠された人や物を見破ると言ったスキルでしかないのだが、ジャドは看破を戦場そのものにかけて階級別に識別することを可能としていた。
ジャド曰く「これは拙者が忍だから可能な技術でござる。他の人が真似しようとしても不可能でござる」との事。
何でも忍者を付ければいいってもんじゃないと思うが。
一度ジャドにとっての忍者とはどんなものか聞いてみたいもんだな。
ともあれ、ジャドの看破により指揮官モンスターが4匹居ることが判明した。
「丁度東西南北にいるでござるな。今拙者たちに近いのは南の指揮官でござる」
デュオたちは東の方に進んでいるから上手くいけばそちらの指揮官は倒してもらえるだろう。
俺達は北西南の3匹を早急に倒していくことにする。
ジャドの指示の元、南に向かって俺達はモンスターの群れを突き進む。
この辺りになると明らかにモンスターの種別が纏まってきているのが分かる。
ジャイアントアントクイーンが率いるジャイアントアント軍に、クイーンビー引きるキラービー軍、クイーンなどの王は居ないが大量の群れを成しているキラーホッパーやドラゴンフライ、ジャイアントスパイダー等の昆虫モンスターだ。
特にその中でも厄介だったのがギガントコックローチ――すなわち巨大なGだ。
「キャァァァァアァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!」
トリニティがその巨大なGの姿を見て悲鳴を上げる。
出来る事なら俺も上げたい。
3mはあろうかという巨躯に、ファンタジー要素をまるっきり排除した現実世界そのままのGだったからだ。
しかも1匹見かければ30匹は要ると言われているGは、このモンスターの群れの中で1匹だけと言う事はあり得るのだろうか。
否、当然1匹だけじゃない、30匹以上湧いて出てきているのだ。
迫りくる3mもの巨体のGの群れ、これが恐怖でなくてなんだと言うのだ。
竜人であるリュデオはそれほど嫌悪感が無いのか進んでギガントコックローチをグレイブの錆にしていく。
俺は出来るだけ触らない様に魔法で倒していくも、やはり魔法単体だけだと思ったよりも攻撃力が上がらない。
トリニティはパニックになってこのGに関しては役に立たない。
ウィルも嫌悪感を露わにして嫌々ながらバスターソードで屠っていく。
出来れば今後Gに関しては二度と関わりたくないと思うほど倒したんじゃないのか?
そんなこんなで昆虫モンスターの群れを突き進んでいくと、お目当ての指揮官モンスターに辿り着いた。
「ほう・・・吾輩に目を付けてこの群れを突き進んできたのか。
なるほど。吾輩を倒せば指揮する者の居なくなった仲間は簡単に倒すことが出来ると言う事か。
だが、簡単に吾輩を倒すことが出来るかな? 仮にも『災厄の使徒』殿が指揮を命じられるほどのモンスターだぞ。
その強さも計り知れないものと思うがいい!」
そう言い放つのはカブト虫の鎧を着た人型のモンスターだ。
いや、カブト虫の鎧じゃない。鎧のように見える人型のカブト虫なのだ。
「ウォリアービートルか。別名、昆虫の王とも呼ばれる武者カブト。相手にとって不足はない。
すまぬがここはワシに任せてもらえないであろうか」
そう言ってリュデオが前に出る。
うーむ、別にここは1対1に拘る必要はないのだが、どうやら向こうさんも1対1真剣勝負をしたいらしく周囲のモンスターに手を出さない様に指示を出していた。
まぁ本人も相手もその気なので構いはしないだろう。
どうせリュデオがピンチになったら恨まれようが手を出すし、向こうのモンスターも同じように手を出してくるだろう。
尤もお互い手を出させない様に既に2人を差し置いて戦闘が開始されているが。
リュデオと武者カブトは周囲の俺達を既に意識の外に追いやっているのか、お互い武器を構えたまま睨みあう。
先に動いたのはリュデオだ。
竜人の膂力から繰り出される一撃が武者カブトを襲う。
対して武者カブトは真っ向からぶつかりリュデオのグレイブに己の刀をぶつける。
激しい攻撃音と共に互いの一撃が拮抗し合い、数秒程鍔迫り合いのような状態に陥る。
鍔迫り合いから一転、お互い距離を取りあったと思ったら今度は動き回りながらの攻撃が繰り返された。
「ひゅー、やるな、リュデオの奴。グレイブは長物だが上手く近距離にも対応しているじゃないか」
「うむ、振り回されることなくうまく使いこなしているでござる」
昆虫モンスターを屠りながらウィルとジャドはリュデオの評価をしていく。
と言うか、モンスターを倒しながらリュデオと武者カブトの戦いを見る余裕があるのな。
流石は美刃さんのクランメンバーと言う事か。
まぁ、俺もなんとか見る余裕はあるんだけどな。
トリニティだけが必死に目の前の昆虫モンスターを相手にしていた。
時には力強い一撃が互いにぶつかり合い、時には立ち位置を常に変え動き回りながらの連撃が互いを攻め合う。
そんな中でリュデオの一撃が武者カブトへ決まった。
武者カブトの一撃をリュデオがグレイブの柄で跳ね上げ、その反動を利用して刃の方を救い上げるように武者カブトへと逆袈裟を放ったのだ。
あれは確か槍戦技の旋風閃を応用したブレバラスト槍術流の旋風閃・双だったはず。
リュデオによればブレバラスト槍術流は槍戦技の派生応用術が多く存在している流派らしい。今の一撃もリュデオからよく使う戦技だとか。
だが仮にも昆虫の王とも呼ばれる武者カブトはその一撃を食らいながらもカウンターでリュデオに死角から刀戦技を放った。
「刀戦技・逆閃牙!」
跳ね上げられた刀を上手く隠しながら反対の手に持ち替え逆手で握った刀をリュデオの脇腹へと突き刺す。
ヤバい。あれはもろに内臓まで傷ついているぞ。
「ぐふ・・・やるな、お主。だが今の一撃で動きの止まったな」
確かに逆手で突き刺したせいで武者カブトの動きが止まっていた。
抜こうにもリュデオの体深くまで突き刺さっており簡単には抜けなかった。
「ブレバラスト槍術流・旋風閃・双天!」
逆袈裟で振り抜いた状態から横薙ぎの一閃、二閃、三閃。
体に突き刺さった刀は何のその。その場で独楽のように三回転して武者カブトを薙ぎ払う。
リュデオの一撃を受けて武者カブトの頭が飛び、胴体と腰と足がバラバラになる。
武者カブトが倒したことを確認すると、リュデオも崩れて片膝をつく。
俺はウィルたちに指揮官を失い彷徨い始めたモンスターを任せ、リュデオの元へ行きユニコハルコンで治療をする。
「無茶しすぎだぞ」
「かたじけない。伊達に『災厄の使徒』の配下で昆虫の王では無いみたいだったのでな。
多少の無茶をしなければ勝てなかったのだよ」
まぁ、ただの武者カブトなら精々A級下位止まりらしいが、この武者カブトは『災禍の使徒』の配下の所為かA級上位、下手をすればS級下位くらいの強さがあったのは確かだがな。
幾らA級冒険者のリュデオとは言え、流石に単体でA級クラスのモンスターを相手にするにはちと厳しいのは間違いないのだ。
多少の無茶をしなければ倒せないのは仕方がないのだろう。
まだ完全にこの周辺の昆虫モンスターを倒したわけでは無いが、俺達の目的は指揮官を倒すことなので残りのモンスターを無視して今度は西へと向かう。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
西へ向かうと今度は爬虫類系のモンスターが多くなってきた。
ラミア(獣人とは違いこちらは醜悪な顔)やエキドナ、スキュラにクロコダイン、ジャイアントバイパーにフレアサーペント、ロックタートルやジュラタートルの亀モンスターまでもが居た。
おまけにリザードキング率いるリザードマン軍団やまんまティラノサウルスのギガントリザードまで居る始末だ。
「数が多いってのはそれだけで脅威だな!」
「ああ! 1匹だけじゃそれほどじゃないが、こうも纏まってこられるとウザいったらありゃしない!」
俺のウンザリした愚痴にウィルも同意しながら目の前のリザードマンを切っていく。
そして何だかんだ言いながら俺達は爬虫類モンスターの群れを強引に突き抜け、ジャドが見つけた指揮官モンスターの元へたどり着いた。
「今度はナーガラージャ・・・蛇の王じゃない・・・!」
トリニティはナーガラージャを見て絶句していた。
ラミアが女の上半身・下半身が蛇なのに対して、男の上半身・下半身が蛇なのがナーガだ。
そしてこのナーガラージャはナーガとラミアを束ねる蛇の王として君臨するモンスターだ。
強さにしてA級上位のモンスターでもある。いや、『災厄の使徒』の配下である以上、S級クラスの強さを持っているだろう。
「へぇ・・・面白いじゃないか。今度は俺が相手になってやるよ」
そう言いながら今度はウィルがナーガラージャの前に出る。
「我、主の命により敵殲滅を実行する。配下に命ずる、この者どもを殲滅せよ」
目の前にいるウィルを無視してナーガラージャは周囲の爬虫類モンスターに命令を下す。
この対応にウィルは頭にきたらしく激高する。
「この野郎! 無視するんじゃねぇよ!!」
ウィルはバスターソードを手にナーガラージャへと突っ込んでいく。
俺達の役割はウィルの邪魔をさせない様に周囲のモンスターを抑えることだな。
ここで1対1の邪魔をすればウィルを怒らせるのは目に見えている。
まぁリュデオの時は間に合わずリュデオ1人で倒してしまったが、同様にピンチになったらウィルに構わず助けには行くのだが。
「スクエア!」
ウィルが剣戦技のスクエアで四方斬りを放つ。
ナーガラージャは手にしたトライデントで上手く捌き、下半身が蛇とは思えない程機敏な動きでウィルの側面へ回り込みトライデントを突き刺す。
ウィルは戦技を放った後すぐさま剣を引き、刃をトライデントの穂先の間に挟み込み盾にすることで防ぐ。
そしてそのまま力技で強引に押し進み再び剣戦技を放った。
「うおおおおおっ! スラッシュインパクト!!」
「ぬううっ!」
トライデントを跳ね上げ、その勢いでナーガラージャに一撃を加える。
「まだまだぁ! トライエッジストライク!!」
剣戦技の一振りで三爪の剣閃を放つトライエッジとスラッシュストライクを合わせた剣戦技が追加でナーガラージャへ放たれた。
だが、ナーガラージャの姿は既にそこには居なかった。
「ちっ、思った以上に素早いじゃないか」
「主の命は絶対だ。邪魔をするなら我直々に屠ってやる」
そう言うと、ナーガラージャは左右に小刻みに動きながらトライデントを振るう。
その動きはまるで踊っているようにも見えた。
「ちょっと、何あれ!? 蛇のくせにあんな動き反則じゃないのよ!」
「いや、寧ろ蛇でありながらあんな動きが出来るナーガラージャが凄いと思うぜ?」
襲い掛かるリザードマンたちを斬り捨てながらトリニティはナーガラージャの動きが異常だと慄いていた。
逆に俺はナーガラージャの動きに感心していたくらいだ。
二足歩行でなくとも地面との接地面の動き次第であれほどの動きが出来ると言う事になる。
俺はなるべくナーガラージャの動きを眼に捉えるようにする。上手くこの動きを取り込めば剣姫流の向上へとなるからだ。
「野郎・・・! 俺をただの力バカと思うなよ!」
ナーガラージャの動きに翻弄されていたウィルは次第に相手に合わせて動き始めステップを刻む。
そして互いに2人でダンスを踊るように立ち位置を変えて剣と槍がぶつかり合う。
「ほう、ウィル殿もやるな。流石はA級か。ステップ捌きも様になっているじゃないか」
「そりゃあお姉ちゃんの幼馴染だもの。ウィルだって負けてないよ!」
ウィルはデュオと同じ孤児院出身らしく、デュオが冒険者になると言う事でウィルも付いて行くために腕を磨いたそうだ。
まぁ・・・これはあれだな。ウィルの気持ちが何処に向いているか分かるお約束だな。
にしても・・・トリニティの奴、さっきとは違い、今度はモンスターを相手しながらでもウィルの様子を見る余裕が出て来てやがる。
これほどのモンスターを相手取っていれば自ずと強くはなるだろうが、これまでの成長速度から比べると目を見張るものがあるな。
ただ脅されて付いてきたのと、自分から進んで来たのでは成長の仕方も変わるのだろう。
「褒めておいてなんだが、ウィル殿はやれば出来るのに好みじゃないからと言って足捌きを疎かにしているでござるからな。多分直ぐ動きが鈍くなるでござるよ」
ジャドの言う通り目に見えてウィルの動きが鈍ってきた。
当然その隙を見逃すナーガラージャではない。
蛇の尾で足払いを仕掛け、たたらを踏んだところにトライデントの一撃をウィルに向けて放つ。
だがそれがウィルの狙いだったらしく、剣で僅かに攻撃を逸らして左肩でトライデントの攻撃を受けた。
そしてそのまま肩を抉られるのを無視して剣をトライデントに滑らせ片手でナーガラージャの手元に向かって戦技を放つ。
「バスターブレイカー!!」
剣戦技の最大攻撃が見事ナーガラージャへと決まった。
ナーガラージャも迎撃しようにもトライデントがウィルの肉を抉る事により一瞬動きが阻害されてしまったのだ。
ナーガラージャは両腕と胸に大きな傷をつけてその場にへたり込む。
「っしゃあぁっ!! 肉を切らせて骨を断つ! どうだ、異世界の戦術は!」
あー、間違っちゃいないんだが、何か違う。それ戦術って言っていいのか?
ウィルも俺のユニコハルコンの治癒を当てにしてこんな戦法をとったな。
ともあれこれで2匹目の指揮官は倒すことが出来た。
そう思っていたのだが、俺はこの時周囲の状況が変わっていたことに気が付かなかった。
先ほどまで襲い掛かってきたモンスターが一様に距離を取っていたのだ。
そしてそれに気が付いたのはトリニティだった。
「ウィル! 離れてっ!!」
トリニティの声に咄嗟に反応してウィルはナーガラージャから距離を取る。
ズドンッッ!!
ウィルが離れた瞬間、さっきまでウィルが居た場所に両腕を組んだ男が空から落ちてきたのだ。
見た目は人間の男だ。
肌はやや褐色で黒髪で赤と青のオッドアイと、俺達異世界人が見れば中二病のように見えるだろう。
だが、放たれる威圧は桁違いだった。
『始まりの使徒』の老竜すら上回る威圧に俺達は硬直し、思わず動きを止める。
俺は背中に悪寒が走るのを感じた。
本能的に悟る。こいつが『災厄の使徒・Disaster』だと。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
Alive In World Online攻略スレ690
326:名無しの冒険者:2059/5/15(木)20:21:33 ID:B920Zfutya
ところで実際のところエンジェルクエストを真面目に攻略してる人ってどのくらいだろう?
327:名無しの冒険者:2059/5/15(木)20:29:42 ID:3GAthe3ga3
最後まで真面目にって人はそんなに多くない・・・のかな
328:名無しの冒険者:2059/5/15(木)20:32:19 ID:K1llEr412
26の使徒全部となると流石にきついからね
最初の内は意気込んでいたけど途中で止まっている人が殆んどじゃない?
329:名無しの冒険者:2059/5/15(木)20:37:51 ID:MaOYluo12
そうですね
寧ろ最後まで頑張れる人がA級とかの実力者になるのでしょうね
330:名無しの冒険者:2059/5/15(木)20:49:02 ID:BdEnd059wlf
まぁ最近は挑戦者そのものが減って来たしな
どっかの誰かたちがが『始まりの使徒』を次々倒したせいで今代はエルダードラゴンが出張ってきちゃたからなぁ
331:名無しの冒険者:2059/5/15(木)20:55:35 ID:006anDm
火竜・白竜・地竜辺りまでならまだ何とかなったけど、流石に老竜に挑むのはちときついか
332:名無しの冒険者:2059/5/15(木)20:59:42 ID:3GAthe3ga3
まず初心者には無理w
それなりに実力を付けてからじゃないと挑めないよw
333:怒り新人:2059/5/15(木)21:05:03 ID:EVA2014Srd
逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ
334:名無しの冒険者:2059/5/15(木)21:06:50 ID:MaOYluo12
でも『始まりの使徒』はあくまで認めてもらう事ですよね?
それなら挑戦者が増えてもいいような気がするのですが・・・
335:名無しの冒険者:2059/5/15(木)21:16:02 ID:BdEnd059wlf
無理無理無理無理www
命のやり取りじゃないとは言えエルダードラゴンに向かって行ける度胸は素人には無理だよ
336:名無しの冒険者:2059/5/15(木)21:21:33 ID:B920Zfutya
で、話は戻るけどエンジェルクエストって真面目に攻略して出来るもんなの?
337:名無しの冒険者:2059/5/15(木)21:26:19 ID:K1llEr412
流石にエルダードラゴンはきついよなぁ
338:名無しの冒険者:2059/5/15(木)21:29:42 ID:3GAthe3ga3
>>336 そりゃあやろうと思えば出来るよ
ただその道のりが果てしなく遠いだけで
339:名無しの冒険者:2059/5/15(木)21:34:35 ID:006anDm
>>336 出来るよ
実は意外と虎視眈々と狙っているプレイヤーも多かったり
次回更新は8/29になります。




