26.サーズライ村と竜人とモンスター軍団
「おい、どういう事だよ。ここでお別れだって」
睨むような目つきでトリニティが俺の顔を見てくる。
「そのままの意味だよ。トリニティは俺達のパーティーから抜けてもらう」
「それはあたしが足手まといだからか?」
「・・・そうだ。俺達のパーティーには足手まといは要らない」
我ながら酷いことを言っているな。
俺の言葉一つ一つにトリニティの顔が険しくなるのが分かる。
「・・・嘘付け。この前言っていたじゃないか。
盗賊の替えは利かない。戦闘に関してはその都度強くなっていけばいいって」
ああ、そう言えばそんな事を言ってたな。
あの時はトリニティもまんざらではないと思っていたんだっけ。
でも『探求の使徒』の答えを聞いた今はそうは思えなかった。
トリニティは俺達に無理やり付き合わされているんだって。
「言ってたな。けど事情が変わったんだ。
と言うか、トリニティは俺達に無理やり従わせられて本心では嫌々付き合ってたんだろ?」
俺の言葉を受けてトリニティは体を強張らせていた。
「そ、そうだよ。元々あたしにはエンジェルクエストに挑む理由が無い。
そりゃあ罠に嵌めようとしたあたしも悪いけど、それを盾に無理やり付き合わされてたんだ。嫌になるのも決まってるだろう」
「だからその無理やりから解放してやるって言ってんだよ」
「・・・え?」
突然の解放宣言にトリニティは思わず呆けた顔をしていた。
「そ・そんな事言って後で盗賊ギルドにチクリに行くんだろ!?」
「しねーよ。俺がエンジェルクエスト攻略に忙しいって分かっているだろ? そんな暇ねぇっての」
「ほ、本当に開放するのか?」
「ああ」
「だから鈴鹿達にはもう付き合わなくていい、と」
「ああ」
そうしてトリニティは俯く。
俯いているためトリニティの表情は見えないが、体を震えさせているところを見ると解放されて喜んでいるのだろうか。
「・・・分かった」
喜びの声を我慢しているのか、震える声でトリニティは答えた。
「ここでお別れだと言っても、トリニティには最後のひと働きをしてもらうよ。
スノウで水の都市まで乗せてやるから冒険者ギルドや王国に今回の『災厄の使徒』の事を伝えて欲しいんだ。
俺達は時間が無いから直ぐにサーズライ村に向かうから連絡を頼む」
「・・・分かった」
俺達はプレミアム共和国首都ミレニアムからスノウで水の都市へと向かった。
その間、トリニティは一言も口を利かなかった。
流石にスノウもこの空気に感化されてか元気が無かったかのように見えた。
スノウは昨日1日トリニティと一緒に居たからな。そのトリニティが元気がないからスノウも心配していたのだろう。
そして水の都市に到着するとトリニティは別れの挨拶も無しに町中へと消えて行ってしまった。
・・・まぁ、無理やり脅して連れまわしていたんだ。そりゃあ別れを惜しんでって訳にもいかないか。
「鈴鹿くん、これで良かったの?」
それまで黙って見ていたアイさんがこれで良かったのか聞いてくる。
言いも何もこれ以上トリニティを引き連れまわすわけにはいかない。
実際、これから向かうところは100年前の大災害と同じ規模のモンスターが襲い掛かる村へ向かうんだ。
下手をすれば命に係わるかもしれないところへ向かうのに、エンジェルクエストに挑む理由が無いトリニティを連れてはいけない。
今まで散々引っ張りまわしていたくせにと思うが、トリニティの気持ちがはっきり分かってしまった以上、俺には無理やり連れて行くことは出来なかった。
だからトリニティとはここでお別れだ。
「・・・ああ、これでいいんだよ。
トリニティの心配よりも俺達の心配をした方がいいよ。何せ討伐軍が来るまで俺と竜人の2人で抑えなければならないんだからな」
トリニティを見送った後、俺達は水の都市で準備をしてサーズライ村へと向かった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
水の都市で手に入れた簡易地図でサーズライ村を確認する。
サーズライ村は水の都市と王都エレミアの中間地点位の場所で、水の都市からは馬で大体3~4日くらいの距離だ。
スノウだと半日も掛からないだろう。
スノウに無理を言ってかなりのスピードで飛ばしてもらい、サーズライ村を目指す。
もう1・2時間もすれば日が落ちるころになるとようやく目的地の村が見えてきた。
いや、村と言っていいのだろうか。
目視できる距離と言ってもまだかなりの距離があった為、最初はよくは分からなかった。
何やら無数のものが蠢くのが見えた。
例えるなら死骸に群がる蟻の大軍だろうか。
村が近づくにつれはっきりと見えてくると、それは数百ものモンスターの群れだった。
モンスターの群れが村を囲い、村の中を蹂躙しているのだ。
「鈴鹿くん、あれ」
アイさんが示す先には村からそう離れていないところに人と馬の死骸が転がっていた。
遺体の損傷は酷く、モンスターに容赦なく蹂躙されたのが見て取れる。
「多分、モンスターの襲撃を知らせに走らせた使いね。でも途中で襲われてしまったのね」
「これほどのモンスターの襲来の中を抜けて知らせていくのは無理がある・・・と言いたいところだが、一縷の望みを託して出したんだろうな」
手厚く葬ってやりたいところだが、今は一刻も早くサーズライ村に辿り着く必要があるのでその上空を駆け抜ける。
「おかしいわね」
村に近づくにつれモンスターの数が把握できてくると、アイさんがそんなことを言ってきた。
「確かにこれだけのモンスターの群れは脅威だけど、神託じゃ100年前の大災害と同じくらいの規模だって話でしょう?
それなのにここに居るのは精々数百・・・多く見積もっても1,000くらいよ。全然規模が違うわ」
確かに。かつてのセントラル王国を飲み込んだと言われる大災害にしては少なすぎるな。
「ってことは、まだ余剰戦力がどこかに潜んでいる可能性があると」
「多分ね。『災厄の使徒』が遊んでいるのか何か企んでいるのかは知らないけど気を付けた方がいいわ」
「了解」
村の上空まで来るとその酷さが良く分かる。
それほど大きい村ではないが、その周囲には逃げ出す隙間もないほどのモンスターが取り囲んでいる。
そして村の中にも大量のモンスターが跋扈していて、殆んどの建物が壊されていた。
そんな中、2つばかり程この異常な状況で更に異常な点が見受けられた。
1つはモンスターが跋扈する中である1点だけモンスターの空白地帯が出来ているのだ。
その中心にはAlice神教教会が建っていた。
おそらくモンスターの侵入を阻む結界が張られているのだろう。
そして教会の中には村人が避難していると思われる。
ざっと見た感じでは村の中に倒れている人が居ないのだ。
サーズライ村の村人がどれくらいで、教会の中にどれだけ避難できるのかは分からないが、殆んどの村人が教会に避難しているのだろう。
そして2つ目が村の入り口と思われる付近で1人の二足歩行の竜――男の竜人がモンスターの群れを相手に戦っているのだ。
このモンスターの群れを相手に何をしているのだと正気を疑うところだが、竜人にしてみれば村を守るために必死に戦っているのだろう。
竜人の周りにはこれまで仕留めたと思われるモンスターの死骸が転がっている。
そして今も尚、眼下では竜人がモンスター相手に手にした槍を奮っている。
「スノウ、あの竜人の側に近づいてくれ。
俺が飛び降りたらそのまま上空から無理しない程度に魔法で攻撃を。
アイさんは、戦闘不能だからこのままスノウに乗って待機だな」
「歯痒いけど仕方がないわね」
スノウは俺の指示に従ってモンスターの攻撃が届かない地上スレスレまで滑空する。
地上が近づいたところで俺が飛び降り、スノウは再び上空へと上がる。
竜人の背後から襲い掛かろうとしていたオーガを飛び降り様に斬り伏せ地面へと着地する。
「助太刀するぜ!」
突如現れた俺に驚いていた竜人だが、直ぐに気を取り直して目の前のモンスターを屠っていく。
「かたじけない! だが貴殿は正気か!? こんなモンスターの群れの中に飛び込んでくるとは自殺志願者としか思えんぞ!」
「正気も正気! 死ぬ気なんて更々ねぇよ! 何せこちとら『神託の使徒』の神託を受けているんだ。勝算は無いわけじゃないよ」
「何と! 『神託の使徒』とな。詳しい話を聞きたいところだが、まずはお互いここを生き延びてからにしようではないか」
「ああ! 折角助けに来たんだから死ぬんじゃねぇよ」
「ふっ、誰にものを言っている。ワシは竜人の戦人ぞ。これくらいのモンスターなんぞ敵ではないわ!」
そう言いながら竜人は槍を横薙ぎに振るい、数匹のモンスターを蹴散らしていく。
こっちも負けてられないな。
俺は一刃刀ユニコハルコンを構えながら周囲をざっと一瞥してモンスターの位置を把握し、剣姫一刀流の技をお見舞いする。
「剣姫一刀流・剣舞嵐刃!」
剣姫一刀流Verの剣舞により俺の周囲のモンスターは地面へと倒れ込んでいく。
「おお! お主やるではないか! しかも剣姫一刀流とな。剣姫二天流の流れを組む者か。心強いではないか」
俺と竜人はお互い背を合わせる・・・とまでは行かないが、お互いをカバーする形で次々モンスターを屠っていく。
上空からはスノウが光属性魔法で俺達から離れたところへ攻撃を行っていた。
最初は大量のモンスターの群れに多少気負っていたが、こうして対峙してみると少々拍子抜けするものがあった。
モンスターは一斉にかかってくるわけでも無く、各々で思い思いに攻撃をしているのだ。
ただ目の前に居る俺達を攻撃しているだけで、モンスター同士の連携も何もあったものじゃ無い。
村の中に居るモンスターも恐らく村人と言う餌を求めて徘徊しているだけで、俺達の事は知らない奴もいるかもしれない。
だとすれば、俺と竜人が協力し合う事で思いのほか簡単にモンスターの群れの数を減らすことが出来るだろう。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
時間にして1時間くらい経過しただろうか。
俺はその光景を呆然として見つめていた。
モンスターたちが突如踵を返し村から引き上げて行ったからだ。
「奴らはどういう訳か、日が落ちると引き上げるのだ」
「こっちとしては有りがたいけど、些か腑に落ちないな」
「それについては同感だ。この群れを率いている者が何を考えているのやら」
この竜人もただ単にモンスターの群れではなく、それを率いている者がいる事に気が付いているみたいだな。
「何はともあれ助太刀感謝する。流石にワシ1人では些かきつかったからの」
「さっきも言ったが、こっちも『神託の使徒』の神託を受けてな」
「早速詳しい話を聞きたいところだが・・・その前にモンスターの死骸をどうにかしないとな。済まぬが手伝ってもらえぬか?」
「いいぜ、って言いたいところだが流石にこの量になると少々気が滅入るな。
まぁ人手があった方がいいのは確かだし、俺だけじゃなくスノウも居るから少しはまだマシか」
完全にモンスターが引き上げた頃を見計らってアイさんとスノウが上空から降りてくる。
俺達は手分けしてモンスターの死骸を村の外へと運び出す。
村の外には消し炭になったモンスターの山が出来ており、そこへ追加で死骸を重ねていく。
話を聞くところによると、この竜人は数日前からモンスターと戦っていて、終わった後のモンスターの死骸をこうして村の外へ運びだし焼却しているのだと言う。
「放っておいてアンデットになられると厄介だからな」
これだけの死骸が集まれば魔力溜りは勿論の事、死気が集まってアンデットが生まれやすいのだと言う。
そりゃあ倒した後からアンデットで復活されたら目も当てられないから戦闘の後片付けも重要か。
全て片付け終わる頃には日が完全に堕ちて辺りは暗闇に包まれていた。
教会の中の人たちに結界を一時解いてもらい、俺達が中に入った後すぐに結界を再展開する。
モンスターのみを阻むルナムーン神殿の結界とは違い、Alice神教教会に緊急用に設置されている結界器は完全に内部と外部を遮断するものだと言う。
但し、内部から外部へ出る事だけは可能らしい。
つまり一度結界を張られれば中から外へ特攻することが可能だと言う。
もっともそんな事をする人は殆んどいない・・・のだが、今俺の目の前にその稀有な人、もとい、竜人が居る。
「改めて礼を言わせてもらおう。
ワシの名はリュデオ=グランディオ。武者修行の旅をしている戦人だ」
「俺は鈴鹿だ。こっちがアイさんで、この小さくなっている騎竜はスノウだ」
今俺達が居るのは教会内の一室だ。
他には村長さんと神父さんが同席している。
「武者修行の旅をしているってことは、リュデオはこの村の住人じゃないのか?」
「うむ、戦人として己の力を試すため世界中を回っておる。
時には己の力を試すため強者に会いに行ったり、時にはモンスターに困っている人々を助けたりしておった訳だが・・・」
リュデオはその旅の途中でサーズライ村の近隣のセカンデッド村でモンスターに蹂躙されているのを見つけたそうだ。
Alice神教教会の結界が間に合わなかったのか、それとも恐怖に耐えきれなくなって結界を解いてしまったのかは分からないが、リュデオがセカンデッド村に着いた時には住人は全滅していたらしい。
まだ村の中をうろついていたモンスターを蹴散らしながらリュデオは進行方向を予測し、更なる被害を抑える為サーズライ村へ駆けつけたと言う事だ。
駆けつけた時にはサーズライ村は既にモンスターの群れに襲われていて、村人は教会の結界の中に避難していた。
教会は緊急避難場所も兼ねているので大人数を収容可能な広さを保っている。
もっともあくまで収容可能だけであって、流石に村人40人もいればすし詰め状態で救助を待つことになるが。
そしてそこでリュデオは少しでもモンスターの数を減らすため結界の外で戦っていたらしい。
「別に無理して戦わなくても結界内で大人しく救助を待っていればいいんじゃないのか?
流石のあの数のモンスターを相手取るにはきつすぎると思うぞ?」
そう言うとリュデオは厳ついドラゴンフェイスをニヤリとする。
「言った筈だぞ。ワシは戦人とな。大人しく救助を待っているなどとそんなのは戦人とは言わん。
人々の為に力を奮うのが竜人の戦人だ」
詰まる所、竜人の戦人は由緒正しき武人だってことか。
この戦いで死んでしまったらそれまでって事だろうな。
「あの・・・それで救助の方はいつ頃来るのでしょうか・・・?」
それまで控えていた村長が救助部隊・・・災厄討伐軍がいつ来るのか訪ねてくる。
トリニティに伝言を頼んだので水の都市に送り届けたのが今日の昼前で、そこから王宮や各部署に連絡がいって討伐軍を編成してこの村までの行軍を考えればざっと3・4日ってところか?
「救助と言うか、討伐軍がくるのは王国の危機管理次第だが最短で4日後くらいかだと思う」
「え・・・? 救助だけでなく討伐軍も来てくれるのですか・・・?」
「いえ、これほどの規模でしたら討伐軍が編成されるのも頷けますよ」
俺の言葉に村長は驚き、神父さんがモンスターの規模に納得していた。
・・・ん? 何か話の食い違いがあるようなないような・・・
「そりゃあ100年前の大災害規模の『災厄の使徒』が相手だから討伐軍が来るのは当然だと思うけど・・・」
「はぁっ!? 『災厄の使徒』だとっ!?」
「き・聞いてないですよ!?」
「何てことだ・・・これが神の試練ですか、女神アリス様」
リュデオ、村長、神父さんの3人が聞いてないよと大騒ぎし始めた。
「ねぇ、鈴鹿くん。もしかして村長さん達は知らせの早馬が届いて私たちが来たと思っているんじゃないのかな?」
ああ、途中で見かけたあの遺体の事か。
あの早馬で救助が呼べたと思っていたわけか。
「待て待て、話がかみ合わない。そもそも鈴鹿殿たちは何故ここに来たのだ。
『神託の使徒』の神託を受けたと言っていたが、その『災厄の使徒』と関係があるのか?」
混乱する村長たちを抑えて、リュデオが俺達に事の成り行きの説明を求めた。
俺が唯姫を探し出すためエンジェルクエストを受けて、『探求の使徒』から『神託の使徒』により神託を受けてサーズライ村が『災厄の使徒』に襲われていることを説明する。
「そうですか・・・メルビンは知らせを届けることが出来なかったのですね・・・」
「うむむ、下手をすればこの状況を知らせることの出来ないまま全滅の危機もあった訳か」
村長は知らせを届けるために救助を求めに出した若者・メルビンが道半ばで倒れたことを悲しんでいた。
馬の扱いが長けていたことは勿論だが、1人でも多くの若者を生き残らせるため村から逃がしたのだがそれが裏目に出てしまったからだ。
「それにしても100年前の大災害規模の『災厄の使徒』とはな・・・
道理で倒しても倒しても次の日には同じだけのモンスターが襲ってくる訳だ」
リュデオは村の防衛をもう3日も繰り返しているらしい。
つーか、3日も連続であれだけのモンスターを倒しまくっているってどれだけ体力があるんだ? 竜人マジ体力ハンパネェ。
「そう言えばよく犠牲が少なく村人を教会に避難することが出来たな」
リュデオの話によればセカンデッド村は殆んどが道端で殺されているのに対し、サーズライ村は犠牲が最小限に抑えられているのだ。
「セカンデッド村の生き残りが駆込んできまして、それで何とか教会に避難させることが出来たのです」
「うーん・・・セカンデッド村の生き残りが知らせることが出来て、サーズライ村の方は知らせを届けることが出来なかった、か。
なーんか、意図的なものを感じるな」
「鈴鹿殿はそれが『災厄の使徒』の企みだと?」
「ああ、どうも『災厄の使徒』は遊んでいるんじゃないのか?
言っちゃ悪いがその気になればこの村は簡単に滅ぼされるだろうよ。規模が何十万のモンスターの群れだぞ?」
「『災厄の使徒』は記憶を引き継ぐ突然変異型のモンスターだ。その引き継がれた記憶が人並みの知恵を生み出していても不思議ではないだろう」
繰り返された生がモンスターに人と同等の知恵を与えたってところか?
それが悪い方向に作用して俺達人間を嬲る行為に繋がっている可能性があるな。
まぁ、モンスターに言いも悪いもないが。
「さっきも言ったが、後4日もすれば討伐軍が到着するはず。それまで持ちこたえれれば生き延びることが出来るはずだ」
「確かに結界内に居れば持ちこたえれることは決して不可能ではない」
Alice神教教会の張る結界は強力な上にエネルギー不足などによる持続時間の限界が存在しない。はっきりってチートじゃないかと思うくらいの仕様だ。
だが、だからと言ってそれで助かるとは言えないのが今回の状況だ。
「問題はそれまでに食料が持つかどうかだな。と言うかもう既に食料は尽きていると言ってもいい。
あと最低でも4日は皆に苦行を強いることになる」
リュデオの言う通り、最大の問題点は食糧不足にある。
最強の結界内に閉じこもっていても、最後には飢餓による死が待っているのだ。
緊急避難場所として設定されているため教会内には食料と水を備蓄しているが、流石にこれだけの人数がいると節約していてもあっという間に尽きてしまったらしい。
大量のモンスターに囲まれているため数を減らして強行突破も出来ないし、そのモンスターによる威圧の中で長期間閉じ込められていてストレスもMAX状態だ。
そこへ食料が無くなれば人の精神が持たないのも予想される。
そうなれば後は人同士で争い滅びるか、餓死するかの違いでしかない。
「少なくてもまだ7日は大丈夫よ」
そう言いながらアイさんが闇属性魔法のシャドウゲージを使い、食料や水を次々取り出す。
アイさんはこんなことも見越して大量に食料と水を買い込んでいたのだ。
最初は不必要に食料を買っているアイさんを不思議に思っていたが、なるほどな。こういう事か。
大量の食料と水を目の前に、村長と神父さんは涙を流しながらお礼を言ってくる。
その後他の村人が総出で食料と水を地下へ運び込み、これで余程の事が無い限り暫くの間は結界内でも生き延びることが出来る。
「よし、後は討伐軍が来るまで出来る限りモンスターの数を減らしておこうではないか」
後顧の憂いが無くなった上、討伐軍が来ると分かるとこの竜人の戦人は俄然やる気を出して来た。
「たった2人じゃ焼け石に水だろうけど、やらないよりはやった方がまだマシか」
「何と、鈴鹿殿も手伝ってくれるのか?」
「さっきも言ったように神託が出てるんだよ。俺とリュオの2人で災厄の楔になれってな。
楔にどんな意味があるのかよく分からないが、少なくとも結界内に籠ってろって意味じゃないと思うし」
「なるほど。ワシと鈴鹿殿が外で暴れることが『災厄の使徒』にとっては邪魔になると言う事か」
楔・・・邪魔と言う意味で合ってるのか?
嬲るように襲っている『災厄の使徒』に一泡吹かせられるのなら、たった2人だろうが暴れることに意味はあるだろう。
その後も明日への対策として俺とリュデオとでお互いの戦術を出しあい戦略を練る。
俺の持ちうる戦技と魔法、それに流派。
リュデオの竜人としての身体能力に戦技と魔法。
後は緊急避難用兼上空からの爆雷攻撃としてスノウの参戦。
今回は戦闘には参加できないが、アイさんの知識による戦術戦略。
お互いが生き残るため夜遅くまで話し合う。そこに妥協は存在しない。
因みに夜にモンスターが居なくなるのならその間にスノウによる村人の避難が出来ないか提案してみたが却下された。
実はモンスターが居なくなったように見えて、夜の空にナイトバッドスライサーやスターライトイーグル、ラヴァオウル等のモンスターが村の周囲を飛んでいると言う。
しかも魔王のしもべと言われている邪竜までも目を光らせているらしい。
どうやら『災厄の使徒』は俺達をとことん嬲るつもりでいるみたいだな。
一見避難できそうに見えて実は狙ってますよって、どんだけ性格が悪いだか。
いいだろう。こっちもとことんやってやるよ。
覚悟しておきな、『災厄の使徒』。こっちはてめぇの首をも狙ってもいるんだからな!
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――AL103年4月6日――
「おう、居るわ居るわ。毎朝早くからご苦労なこった」
リュデオは教会の外に出て結界の中から周囲に群がるモンスターの群れを眺めている。
一応、教会の敷地内も結界内なので庭などで過ごすことも可能だが、流石にモンスターを目の前にして外でくつろぐ強者は村人の中にはいないらしい。
「8時出勤、5時退社ってどこのサラリーマンだよ。株式会社・Disaster、代表取締役・災厄の使徒、従業員・各種モンスターってか?」
「何だそれは?」
「あー、気にしなくていいよ。異世界の用語みたいなものだ。
それにしても・・・リュデオは3日間、よくこんなところに突っ込む気になれたな」
結界の外にはモンスターの群れ・群れ・群れ。
レッドタランチュラやキングバジリスク等の単体のモンスターもいれば、群れ単位で行動しているオークやジャイアントアントもいたりする。
あ、向こうにジャイアントアントのクイーンの姿が見えた。
リュデオはこれに毎日突っ込んでいってるんだよな。
平常時なら正気を疑うよ。マジで。
まぁ、俺もこれからこれに突っ込んでいくんだから同類か。
「ふ、怖気づいたのなら教会内に籠っててもいいんだぞ?」
「ぬかせ。毎日続けて疲れているリュデオより多くのモンスターを倒してみせるよ」
「頼もしい言葉だ。だが竜人の体力を甘く見ないで貰おう。
ワシの方がより多くのモンスターを屠って見せようぞ」
リュデオは一人称がワシなどと言いながらこう見て70歳(人間で言うと18歳)と若い竜人だ。
そんな若さにも拘らず、冒険者としてA級まで上り詰めている強者だ。
見た目も黒鱗に赤眼と如何にも強そうな竜人でもある。
装備の見た目もグレイブを手に、黒のロングコートの上から革の胸当てを付けただけとなっている。
もっとも無名なれど黒のロングコートはオリハルコン神糸を編んだものだし、グレイブと革の胸当ては老竜の骨と革を使って出来ていると言う。
「鈴鹿くん、無理はしないでね」
俺達の見送りに一緒に外に出ていたアイさんが心配の言葉を掛けてくる。
「大丈夫だよ。いざとなったらスノウに乗って上空に避難するから」
「クルゥ」
肩に乗っているスノウが任せておけと言わんばかりに声を上げる。
「よし! それじゃあ一丁『災厄の使徒』にほえ面書かせてやるか!」
俺とリュデオはそれぞれ武器を構えて結界の内側から外側へと抜けた。
結界を抜けたところでスノウを元の大きさに戻しそのまま上空へ向かい光属性魔法の攻撃を開始させる。
――数時間後、俺はモンスターが日が暮れてモンスターが引き上げたのを確認すると地面へ倒れ込んだ。
マジパネェ・・・!!
「鈴鹿殿、生きているか?」
「ぜーはー、ぜーはー、ぜーはー、ぜーはー、な・何とか生きているぞ・・・」
平気な顔をして声をかけてくるリュデオが恨めしい・・・!
流石は竜人。8時間耐久レースをこなせるその体力は凄まじいな。
俺はと言うと午前中までは良かったが、体力配分を間違えて午後になると体力が落ちてきてピンチになりそうな場面が多々あった。
その都度リュデオやスノウに助けてもらったりしたのでちょっと面目なかったな。
スノウと言えば上空から一方的に攻撃を仕掛けるつもりでいたが、実は上空にもきっちりモンスターを用意していてスノウも空中戦を必死にこなしていたりする。
流石に邪竜は居なかったが、居たら結構ヤバかったかも。
「ぜーはー、ぜーはー・・・すまん・・・ちょっと後片付けは・・・無理そうだ・・・」
「ああ、鈴鹿殿は少し休んでいてくれ。後片付けはワシとスノウ殿でやっておく」
「悪い・・・お言葉に甘えさせてもらうよ・・・」
こうして防衛戦1日目(リュデオにとっては4日目)は何とか乗り越えることが出来た。
リュデオと今日の反省点と明日の打ち合わせを簡単に済ませ、俺は泥のように眠りについた。
――AL103年4月8日――
「さーて、今日も張り切って行こうか。あと2日乗り切れば討伐軍が来てくれるはず」
昨日も丸1日モンスター退治に励み、今日も昨日と同じように俺とリュデオは教会の外に立って結界の中から村を徘徊するモンスターを見る。
「それはあくまで最短であって、最悪の場合は1週間や10日などを考えておいた方がいいぞ」
「分かってるよ。最悪でも1週間経てばアイさんも戦列に復帰できるからそう悲観することも無いと思うぜ」
「ふむ、それだけ豪語するほどのアイ殿の戦闘能力・・・興味深いな。
それはそうと・・2日連続の激戦で今日はよくそれだけ元気でいられる。初日のへたばり具合が嘘のようだ」
「まぁな。伊達に厳しい修行を積んではいないよ」
確かに8時間耐久レースはきつかったが、師匠から剣姫一刀流を授かる時の特訓に比べれば耐えられないきつさじゃない。
あの時の疲れを癒すコツを掴んでいたので、今日もモンスターの群れに立ち向かう事が可能となっている。
俺とリュデオは今日も早速モンスターの群れに突っ込んでいき、少しでも数を減らすため己の武器を振るう。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
あと2日は続くと思われていたこの俺とリュデオのみが戦う状況は急変を告げた。
時間で言えば昼頃だろうか?
突然村から離れた場所から大爆発が起こり始めたのだ。
「な・・・んだぁ!?」
「まさかもう討伐軍が来たのかっ!?」
いや、幾らなんでもそれは早すぎるだろう!?
王国に連絡を入れてまだ3日しか経っていないぞ。
その後も次々爆音が響き渡り、段々とこちらへと近づいてくる。
マジで討伐軍が来たのかと思わず気を緩めてしまったのと、昨日の疲労が完全に抜けてない所為か二角獣のバイコーンの攻撃を躱し損ねてしまい、俺は体勢を崩されてしまった。
丁度そこへリザードアーチャーの部隊の放つ矢が放たれる。
流石にこれは拙いと咄嗟に両腕で顔と心臓と喉の急所だけを庇い衝撃に備えるが、突如割り込んできた魔法によって防がれた。
「ハウンドドック!!」
横合いから放たれた魔法は無属性魔法の高速自動追尾弾であり、ターゲットロックしたエネルギー弾はバイコーンを弾き飛ばし悉く矢を撃ち落とす。
「どうやら間に合ったようね。
災厄討伐軍先行部隊・クラン『月下』のデュオ、ただいま到着よ!!」
両腕を解き慌てて周囲を確認すると、そこには赤の女魔導師がいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
AIWOn 災厄スレ98
28:名無しの冒険者:2059/3/31(月)22:01:01 ID:I9raSaZaE3
『災厄の使徒』って周りのモンスターがうざいですぅー
29:名無しの冒険者:2059/3/31(月)22:06:24 ID:Sa9lachaB36
それはしょうがないよ
『災厄の使徒』は従えているモンスターの数だけ強くなるモンスターだから
30:名無しの冒険者:2059/3/31(月)22:07:52 ID:sc00perHr86
だね
モンスターのいない『災厄の使徒』は中身のないエビフライみたいなものだよ
31:名無しの冒険者:2059/3/31(月)22:11:26 ID:HkOj33sSn
ああ、うん
『災厄の使徒』に辿り着くまでが大変なんだよね
32:名無しの冒険者:2059/3/31(月)22:12:09 ID:Edn9Dq9fiG
>>30 何その例えwww
33:名無しの冒険者:2059/3/31(月)22:15:45 ID:O9rararaUma
強引に『災厄の使徒』に迫ってもモンスターが残っていればメチャクチャ強いし
モンスターを倒しながら進むと逃げられる可能性があるから見極めが難しいんだよね
34:名無しの冒険者:2059/3/31(月)22:17:01 ID:I9raSaZaE3
そうなんですぅー
前回それで逃げられて他の人に倒されてクエストクリアにならなかったのですぅー;;
35:名無しの冒険者:2059/3/31(月)22:21:33 ID:TnPrsu4G1j
そうか、周囲のモンスターを倒してから向かうと逃げられる可能性もあるのか
36:名無しの冒険者:2059/3/31(月)22:25:19 ID:SetaP4soji
1匹になったところを倒した人は漁夫の利だなwww
37:名無しの冒険者:2059/3/31(月)22:27:24 ID:Sa9lachaB36
その場合は共同で倒したことにならないのかな?
38:名無しの冒険者:2059/3/31(月)22:31:26 ID:HkOj33sSn
完全に逃げられたとなるとクエスト失敗扱いだろうね
39:名無しの冒険者:2059/3/31(月)22:37:52 ID:sc00perHr86
もしくは冒険者ギルドから発令される緊急討伐クエストを受けていれば
他の人が倒してもクリア扱いになるけどね
40:名無しの冒険者:2059/3/31(月)22:40:09 ID:Edn9Dq9fiG
あれ? でもそれって余程の事が無ければ発令されないはずだったような・・・
41:名無しの冒険者:2059/3/31(月)22:41:26 ID:HkOj33sSn
過去に1,000匹ものモンスターを従えた『災厄の使徒』に緊急討伐クエストが出たことはあるね
42:名無しの冒険者:2059/3/31(月)22:45:45 ID:O9rararaUma
まぁその規模になると最早戦争クエストと同等だよ
43:名無しの冒険者:2059/3/31(月)22:46:19 ID:SetaP4soji
てことは中には指揮官みたいなモンスターもいたりするのか?
44:名無しの冒険者:2059/3/31(月)22:55:33 ID:TnPrsu4G1j
ああ、『災厄の使徒』に特別に力を与えられた特殊モンスターとか居そうだなw
45:名無しの冒険者:2059/3/31(月)23:01:26 ID:HkOj33sSn
ふむ、そう言えばそんな感じのモンスターもいたような気がするね
46:名無しの冒険者:2059/3/31(月)23:05:33 ID:TnPrsu4G1j
>>45 え? マジで?w
47:名無しの冒険者:2059/3/31(月)23:07:52 ID:sc00perHr86
知識を引継ぐモンスターだから有りそうだな。その特殊能力を与える能力
48:名無しの冒険者:2059/3/31(月)23:12:01 ID:I9raSaZaE3
そんな事より誰か手伝ってほしいですぅー@@;
次回更新は8/27になります。




