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Alive In World Online  作者: 一狼
第5章 Disaster
26/83

25.探究の使徒と正しき答えの使徒と偽りの答えの使徒

 ――AL103年4月5日――


 AIWOn(アイヲン)帰魂覚醒(ログイン)すると辺りは暗闇に包まれていた。


 メニュー画面を開いて唯一の表示である現実(リアル)時間と並んでいるAIWOn(アイヲン)時間を確認するとまだ夜中の2時過ぎだった。


「あ~、もう少し時間調整して帰魂覚醒(ログイン)すれば良かったか」


 仕方なしに再びベッドの上で横になり、これからの行動について考える。


「トリニティの奴、ちゃんとこの町で使徒の情報を集めているといいんだが・・・」


 『牙狼の使徒』をクリアした俺達は、次の使徒の居るプレミアム共和国の首都へと向かった。

 スノウの移動速度により3時間ほどで首都ミレニアムに付いたのだが、前回の帰魂覚醒(ログイン)から9日(リアルでは1週間)も経っていた為、一度離魂睡眠(ログアウト)することになったのだ。


 取り敢えず着いた早々宿屋を捜しチェックインして離魂睡眠(ログアウト)の拠点を確保する。

 アイさんも一緒に離魂睡眠(ログアウト)することになり、1人残されたトリニティは俺達が戻るまでこの町に住む使徒の情報を探るように頼んでおいたのだ。


 流石に首都であるため規模はエレガント王国の王都エレミア並みの広さを誇っている。

 最近ではそれなりに盗賊(シーフ)っぽく見えてきたトリニティだが、流石にそんな都市の中から情報を拾い集めるのに一苦労するのは目に見えている。

 下手な情報を掴まされたり、女と言う事で目を付けらたりしないかちょっと心配だ。


 今からでもちゃんと隣の部屋にトリニティが居るか確認した方がいいか・・・?

 ・・・いやいや、ここでトリニティの部屋に突入して夜這いされたなど言い掛かりを付けられちゃ堪らん。

 ここはトリニティを信頼して大人しく朝を待とう。


 さて、どうせ朝まで暇なんだ。新しい魔法の呪文や理論を覚えておこうか。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「おはよう。アイさんと一緒に帰魂覚醒(ログイン)した割には遅い起床だな」


「鈴鹿くん、おはよう。もしかして二度寝して寝坊しちゃった?」


 つい夢中になって呪文や理論を覚えてたらいつの間にか朝になっていた。

 1階の食堂に下りていくとそこにはもうトリニティとアイさんが朝食を食べているところだった。

 トリニティの頭には小さくなったスノウが乗っかっている。

 どうやら1日一緒に行動していて随分と懐いたみたいだ。


「悪い悪い。ちょっと新しい呪文を覚えてたら夢中になり過ぎたみたいだ」


「ふぅん、ヤル気満々じゃねえか。ま、折角のその気になってるみたいだが、ここの使徒にはあまり関係ないけどな」


「うん? どういう事だ?」


 強くなって置くに越したことはないんだが、ここの使徒は戦闘には関係ないってことか?


「焦らないの。取り敢えず朝食を食べてからトリニティから報告を聞きましょう」


「そうだな。メシを食い終ってから詳しい事を聞くよ。

 つーか、つい数時間前に現実(リアル)で食べたばかりで何か変な感じだけど」


現実(リアル)で食べてても、こっちの身体(アバター)は空腹のままだからね」


 そうなんだよな。現実(リアル)AIWOn(アイヲン)の体は完全に別物だからあっちで満腹でもこっちじゃ空腹のままだ。

 俺はその空腹を埋めるべくアイさん達と朝食を摂る。


 一通り腹を満たしたところで昨日のトリニティの調査報告を聞く事にする。


「ここ首都ミレニアムに居る26の使徒は探すのにそんなに苦労はしなかったよ。

 まぁ、別にあたしでなくても鈴鹿にだって簡単に見つけられと思うよけどな」


 盗賊(シーフ)でなくとも直ぐに見つけられると言う事は・・・


「それだけ有名だと言う事か?」


「その通り。ミレニアムじゃ『神託の使徒・Oracle』は有名だからな。

 金さえ出せば彼女から神託を授かることが出来るらしいよ」


「と言う事は、金を出せば『神託の使徒』はクリア?」


「いや、あくまでお金を出して聞けるのはその人の神託だけであって、エンジェルクエストの『神託の使徒』はまた別口での神託になるな。

 一般の神託は一種のアルバイトみたいなもんだ」


 なるほど。使徒の力を使って仕事をしているってところか。

 ・・・いいのか、それ? 使徒の力を金儲けって・・・まぁ俺がどうこう言うべきでもないか。


「で、『神託の使徒』はいいとして、他の使徒の情報は? 確かあと3人いるはずだよな」


「いや、1人だよ。ミレニアムに居る使徒は」


「は? だってミレニアムには使徒が4人いるんだろ?」


 確かこの都市に着いた時、アイさんがここで使徒の証を4つ揃えることが出来るって言ってたはず。

 と言う事は26の使徒は4人居ることになるだろうよ。


「いや、ミレニアムには使徒は1人だよ」


 ワケ分からん。

 俺はトリニティの言ってることの意味が分からずアイさんの方を見る。

 アイさんは苦笑しつつも説明してくれた。


「トリニティ、ちょっと意地悪ね。もうちょっとちゃんと説明してもいいと思うけど?」


「別に意地悪してるわけじゃないよ。事実を述べてるまでだよ」


「事実は述べてるけど、必要な事は言ってないよね。

 鈴鹿くん、トリニティの言う通りミレニアムに居る使徒は1人よ。

 但しその人は1人で使徒を4つ兼務してるの。

 『探求の使徒・Quest』『正しき答えの使徒・Yes』『偽りの答えの使徒・No』『神託の使徒・Oracle』

 4つで1纏めになってる使徒なのよ」


 なんだそりゃ。

 え? つーと、その1人に会いに行けば4つの使徒が全て事足りると言う事か?


「それだと確かに1人しか使徒はいないな。

 ・・・ってトリニティ! ちゃんと説明しろよ! 紛らわしいんだよ」


「えー? 情報操作は盗賊(シーフ)の特権だろ? 勝手に勘違いした鈴鹿が悪いんじゃねえか。

 ま、そうなるように仕向けたんだけどな」


 くっ、この野郎。ここにきて急に成長したように情報を操りやがって。

 まぁいい。それだけトリニティの腕が上がっていると思う事にしよう。


「で、その4つの使徒の攻略に関する情報はどうなんだ?」


「そう難しい事でもないよ。

 『探求の使徒』の質問(クエスチョン)に答えて、『正しき答えの使徒(Yes)』と『偽りの答えの使徒(No)』で判断し、最後に『神託の使徒』の神託(オラクル)を受けて終わり」


「・・・え? それだけ?」


「ああ、それだけ」


 何だこれ。簡単すぎやしないか?

 ・・・はっ! もしや『探求の使徒』の質問が無理難題とかか?


「質問の内容とかは分かるか?」


「いや、エンジェルクエスト挑戦する人によって別々らしい。こればかりは行って見なければ分からないよ」


 質問の内容が分からなければここで悩んでいてもしょうがない。

 後は直接赴いてエンジェルクエストに挑戦するしかないか。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「・・・ん? 何か町の雰囲気がおかしくないか?」


 俺達は早速その使徒へ向かうため外に出たが、何か空気が張り詰めているような気がした。

 緊張感が漂うような、争いの場に居る雰囲気だ。


「ああ、昨日鈴鹿達が離魂睡眠(ログアウト)した後、サンフレア神殿で騒動があったらしいよ。

 その所為か今ミレニアムでは騒動の首謀者を探し出すため憲兵たちが出回ってピリめいているってわけ」


 トリニティに言われて見れば、そこら中で憲兵が駆け回っていた。


「探し回っているってことはその首謀者は取り逃がしたって訳か」


「みたいだな。あたしは使徒の情報を集めてたからそっちにまで目を向けなかったけど、何でもサンフレア神殿の宝物を盗まれたって話だ。

 まぁ、そんな訳だから今町中で騒ぎを起こすようなことはするなよ」


 サンフレア神殿での盗み、ねぇ・・・


 天と地を支える世界(エンジェリンワールド)では三柱神(みはしらのかみ)の太陽神サンフレア・月神ルナムーン・勇猛神ブルブレイヴが文字通り世界を支えていると言われている。

 その三柱神(みはしらのかみ)を奉るサンフレア神殿・ルナムーン神殿・ブルブレイブ神殿はAlice神教教会と並んでかなりの武力や権力を有している。

 まぁ最もルナムーン神殿は永遠の巫女のルーナと巫女騎士のアルベルトしかいないので論外だが。


 そしてここ首都ミレニアムにはサンフレア神殿の本殿が存在する。

 当然ミレニアムの中でもかなりの力を発揮し、盾突く方が愚かとしか言いようがない。

 そんなサンフレア神殿に盗みに入る方はどうかしてるとしか言いようがないし、盗みを許すまじと神殿関係者がいきり立つのも良く分かる。。

 だからこそ今町中は緊張感漂う空気に包まれている訳だ。


 そんな町中を注意しながら歩き、使徒へと向かっている途中で声を掛けられた。

 いや、余計なちょっかいを出されたと言った方が正しいな。


「おい、何故虫がこんなところにいる」


 声に振り向けば、そこには髪の色が違うが見知った顔があった。

 現実(リアル)では鮮やかな茶髪が、AIWOn(アイヲン)ではプラチナブロンド、顔も若干ムカつき度(イケメン度)がアップしている。

 いつも唯姫に付きまとう石ころこと志波光輝だ。

 周りには数人もの女性を侍らせていた。


「唯姫が病気で大変な時にゲームなどと・・・幼馴染の風上にも置けないね。

 やはり唯姫は大神などではなく俺に相応しい」


「人の事をとやかく言えるのかよ。そう言うてめぇこそここに居るじゃねぇか」


「ハッ! 愚問だね。唯姫はAIWOn(アイヲン)ではトップクラスのプレイヤーだ。しかも最近じゃエンジェルクエストをクリアしてアルカディアに行ったと言うじゃないか。

 だったら唯姫の隣に立つために唯姫が居ない間に俺もエンジェルクエストをクリアしようとここに居るんだよ。

 お前みたいな無責任者と一緒にしないでくれ」


 あー、そうか。こいつ唯姫がAIWOn(アイヲン)にハマっているのを聞いてやり始めたって唯姫が言ってたっけ。

 AIWOn(アイヲン)の中でも纏わり付かれてたって。


「てめぇがそう思っていたきゃ勝手にそう思ってな。今はおめぇに構っている暇はねぇんだよ」


「ふん、何で唯姫はこんな虫に構うのか・・・不思議でならないな。

 そして何よりも不思議なのはこんな虫が美しい女性を引き連れていると言う事だ」


「え!? う・美しいって・・・あたしが・・・?」


「あらあら」


 志波に美しいって言われてトリニティが思わず赤面していた。

 つーか、こんな奴の言葉に浮かれんなよ。

 大人なアイさんは志波に歯の浮くようなセリフを言われても余裕の表情だ。


「おい、虫! 貴様どんな卑怯な手を使って彼女たちを従わせているんだ!?」


「それをてめぇに言う必要はあるのかよ?」


 あー、面倒くせぇ。

 こんなところでこいつに構っている暇はねぇっての。


「そうか、人には言えないような方法で縛り付けているんだな。尚更貴様を唯姫の傍に置けないな。

 大方、唯姫に近づくためにAIWOn(アイヲン)をやり始めたんだろうが、悪いことは言わない。今すぐ彼女たちを解放してここを立ち去るんだ。さもなくば・・・斬る」


 そう言いながら志波の野郎は腰に差した剣に手を掛ける。


「バカか、てめぇ。幾らゲームとはいえ、こんな町中で刃傷沙汰なんて捕まえて下さいって言ってるようなもんじゃねぇか」


「ふん、俺がこれからするのは目障りな虫を切り落とそうとしているだけだ。

 なにも()を斬るわけじゃない。

 この区画を取りまとめる美人憲兵さんも俺の言う事の方を信じてくれるさ」


 この野郎・・・そのイケメン面で憲兵をもたらしこんでいるのかよ。

 随分と自分の有利になるような都合のいい設定だな。


「そして何よりAIWOn(ここ)なら現実(リアル)とは違い堂々と貴様を斬ることが出来る」


 剣の柄に手を掛けたまま、志波は獰猛な顔で俺を見てくる。


 いや、ここが仮想(バーチャル)でも駄目だろう。

 やっていることは辻斬りと変わりないぞ。


 ・・・とは言え、確かにAIWOn(ここ)ならこいつを斬っても現実(リアル)で捌かれることは無い。

 俺もいい加減、コイツのウザい顔を斬りたくて堪らない。


「そうか、だったら俺も目の前の石ころを退かそうとしようか。

 石ころを蹴飛ばすだけだ。何の問題もないよな」


 俺も腰の一刃刀ユニコハルコンに手を掛けて志波を威嚇する。


 そんな俺を見て志波の周りに居る女たちも志波に「やっちゃえ」などと囃し立てていた。

 こいつらは異世界人(プレイヤー)だな。身体(アバター)な為現実(リアル)の顔が分からないが、いつも侍らしているうちの誰かだろう。

 如何にも自分たちが正しいように主張して志波に取り入っている奴らだ。

 この言い掛かりもこいつらにとっては当たり前の事だろうよ。


「え? ちょっと、流石にこれは拙いよ。と言うか、いきなり斬るだなんてこいつ頭おかしいよ? 鈴鹿も何こいつの挑発に乗ってんだよ!」


 流石にトリニティも志波が本気で剣を抜こうとしているのが分かったのか、若干引いていた。

 そして今の首都ミレニアムでイザコザを起こせば問題になるのは目に見えているのでそっちの心配もしていた。


 そんな俺達の間に割って入ったのはそれまで推移を見守っていたアイさんだった。


「貴方達に何があったのかは聞かないわ。だけど流石に町中で剣を抜くのはよした方がいいわよ」


「・・・ふむ、いいでしょう。美しい貴女に免じてこの場は剣を引くことにします。

 確かに美しい女性が居るこの場を血で汚すには忍びない。

 ふん、命拾いをしたな。虫」


 そう言いながら志波は剣から手を放し、捨て台詞を吐きながら背を向けこの場を立ち去ろうとする。

 俺もそれを見て捨て台詞を吐く事すら勿体ないと思い、一刻も早くこの場を立ち去ろうと黙ったまま背を向けた。


 ――瞬間、背中から殺気が膨れ上がる。


 首筋に鋭い殺気を感じて振り向きながら腰を屈める。

 その頭上を志波が振り抜いた剣が通り過ぎた。


 まさか躱されるとは思っていなかった志波は驚愕の表情をしていた。

 当然俺は反撃に出るべく、屈んだ体勢から伸びあがりながらの右拳でのアッパーを志波の顎を目がけて振り抜く。


 志波は咄嗟の判断で振り抜いた剣を引き戻し、柄頭で俺の右拳を打ち付け反撃を防いだ。

 柄頭で拳を払うと言う咄嗟の機転に苦虫を潰しながら俺は志波から距離を取る。


「ふん、不意打ちとは随分と卑怯な真似をしてくれるな」


「言った筈だ。俺は虫を叩き斬っているだけだ、と」


 志波は剣を構え直し、剣先を俺に向けてくる。

 俺も再びユニコハルコンに手を掛け志波を睨みつける。


 流石に周囲もただでさえ俺達の雰囲気がおかしなことに気が付いていた上、志波の野郎が剣を抜いたことによって騒然とし始めた。


「おい、あれって『破壊神』シヴァじゃないか?」


「マジか? あの破壊神に喧嘩売ってる奴がいるのかよ」


「周りに居る女どもは破壊神四天王だから間違いないよ」


 ・・・どうも騒ぎ立てる方向性が俺の思っているのとは違うな。

 もしかしてこいつ二つ名付きのプレイヤーなのか?


「え? こいつがあの『破壊神』シヴァなのか?」


 後ろではトリニティが周囲から聞こえてきた志波に対して驚いた声を上げていた。


「知っているのか?」


「ああ、剣と魔法を操る魔導戦士(マジックウォーリア)でB級冒険者。

 主に大破壊の魔法を用いて周囲を瓦礫と化すことから『破壊神』の二つ名が付いているんだ」


 周囲を破壊って・・・迷惑極まりない戦い方だな。流石周りを見下している石ころだ。


「もう1つ、男には容赦なく再起不能にまで壊すことからも『破壊神』って呼ばれてるらしい」


 ・・・寧ろこっちの方の理由が納得してしまうな。


「そこのお嬢さん、1つ訂正がある。B級だったのはついさっきまで。今はA級冒険者だ」


「ふん、B級だろうがA級だろうがてめぇが石ころだってのは変わらねぇよ。

 いいぜ、そんなにここで死にたいのなら引導を渡してやるよ」


「その生意気な口、いつまで聞けるのかな」


 俺と志波の空気に感化され、周囲は固唾をのんで事の成り行きを見守る。

 一時の静寂の後、志波は剣を振りかぶり、俺は居合で志波に斬りかかる。


「ねぇ、私、止めなさい、って言わなかったかしら?」


 志波の剣はアイさんの青の剣に止められ、居合を抜こうとした俺の刀はアイさんに柄頭を抑えられ抜く事すら出来なかった。

 アイさんが俺達の間に入り込みお互いの攻撃を防いだのだ。


 俺はアイさんの今まで聞いたことのない低い声に思わず体が強張る。

 それは志波も同じだったようで、いけ好かないイケメン面が冷や汗で一杯だった。


「あ・あーーー、うん、ごめん。ちょっとムカつき過ぎて頭に血が上り過ぎました。もう大丈夫です、はい」


 俺はユニコハルコンから手を放し両手を上げてもう戦意が無いことを示す。


「そう、ならいいわ。貴方も余計な手間を掛けさせないでね?」


 アイさんは志波に向かってにっこりとほほ笑む。

 逆にその笑顔に恐怖したのか志波は黙って頭を縦に振っていた。


「さ、行きましょう」


 既に志波は眼中になく、アイさんは俺とトリニティを引き連れてその場を立ち去った。


「・・・今のアイさん、ちょっと怖かったな・・・」


「・・・ちょっと・・・? トリニティにはそう見えたのか? 俺はめちゃくちゃ怖かったんだけど・・・」


 教訓、アイさんは怒らせちゃ駄目。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 石ころと言う余計な躓きがあったが、気を取り直して使徒の居る場所へとトリニティ案内のもと向かう。

 そうして辿り着いた建物はまんま占いなどでよくあるテントそのものだった。


 テントの中に入ると1人の女性が水晶玉が置かれたテーブルの前に座っていた。

 全身紫の衣装を身に纏い、口元には薄いベールで覆い隠している。

 これまた見たまんま女占い師の姿だ。


「ようこそ。神託の間へ。私はラナ=クエノス。貴方に神の声を届ける者です」


「あー、悪いが俺達は神託を聞きに来たお客様じゃない。

 あ、いやでもエンジェルクエストの『神託の使徒』にも用があるから一概にも違うとは言えないか?」


「これは失礼しました。エンジェルクエストの攻略者様達でしたか。

 改めまして、私は『探求の使徒・Quest』であり『正しき答えの使徒・Yes』であり『偽りの答えの使徒・No』であり『神託の使徒・Oracle』です」


 こうして改めて聞くと1人で4使徒兼務って凄いな。


「早速で悪いが、エンジェルクエストを進めてもいいか?」


「構いません。エンジェルクエストの手順はお聞きになってますか?」


「ああ、確か『探求の使徒』の質問に答えて、『正しき答えの使徒』と『偽りの答えの使徒』で判断して、『神託の使徒』の神託を授ける、と」


「付け加えるのなら、質問で『正しき答えの使徒』と判断されたのなら神託を、『偽りの答えの使徒』と判断されたのならペナルティと祝福(ギフト)を与えることとなっています」


 は? 『正しき答えの使徒』だったら神託で、『偽りの答えの使徒』だったらペナルティだと? 聞いてないぞ!?


 思わずトリニティの方を見るが、トリニティも初めて聞く事だったらしく慌てて首を振っていた。

 いや、ここでトリニティを責めても仕方がない。ここは気を取り直して説明の内容を聞くべきか。


「ペナルティってのはどんなんだ?」


「ペナルティはその偽りの答えに応じて与えられます。軽いものだと1日剣を振れないとか、酷いものだと何日も激痛に見舞われるとか」


「あと、間違えたのに祝福(ギフト)を貰えるのか?」


「ええ、祝福(ギフト)を貰うが為にわざわざ偽りの答えをする人もいます。

 神託を与えない代わりの祝福(ギフト)を与える訳です」


「つーことは、偽りの答えをした場合、貰える使徒の証はQとNだけか?」


「いえ、QとYとNです。『正しき答えの使徒(Yes)』と『偽りの答えの使徒(No)』はワンセットみたいなものですね。

 正しき答えをしたのならQとYとNとOの4つを貰えます」


 なるほどな。

 普通通りにいくのなら『探求の使徒』から『正しき答えの使徒』『偽りの答えの使徒』と流れて『神託の使徒』で4つの使徒の証が手に入るわけだ。

 ここで間違った答えをすると使徒の証がが3つと祝福(ギフト)を貰える、と。


「因みにペナルティ解消後、改めて『探求の使徒』の質問をして正しき答えをしたのなら『神託の使徒』の神託を授けることが出来ます。

 その場合は与えられていた祝福(ギフト)は失われますね」


 ああ、だからワザと間違えて祝福(ギフト)を貰いに来る奴もいるのか。

 後で『神託の使徒』を回収できるのであればエンジェルクエストに祝福(ギフト)があるのではかなり違うからな。


「詳細は分かった。早速『探求の使徒』の質問をしてくれ」


「本来であれば3人バラバラに質問をするところですが、今回は3人とも同じ質問ですね。

 では質問(クエスチョン)します。

 『エンジェルクエストに挑む理由をお答えください』」


「・・・え? それだけ?」


「はい、これが『探求の使徒』の質問です」


 人によって質問が違うらしいが、これは俺にとって簡単な質問じゃないか?

 俺がエンジェルクエストに挑む理由は唯姫の為なんだから。


「俺がエンジェルクエストに挑む理由は幼馴染を助けるためだ。

 幼馴染は全エンジェルクエストをクリアしてアルカディアに行った。そして行ったきり戻ってこない。どうも向こうで何かトラブルに巻き込まれたらしくてな。

 俺は唯姫を助けるためにアルカディアに行かなければならない。それが俺がエンジェルクエストに挑む理由だ」


 俺の答えを聞いていたラナはその真偽を確かめるように俺の目を覗いていた。

 俺はラナの目を見て深く心の奥底まで探るかのように吸い込まれるような感覚に陥る。


「・・・貴方の答えは正しき答え(Yes)と判断されました」


 気が付けばラナは俺の答えを正しき答え(Yes)と判断していた。

 どうやら答えは間違っていなかったみたいだ。

 続いてラナはトリニティに向かって答えを求める。


「貴女は『何故エンジェルクエストに挑むのですか?』」


 それを聞いてトリニティは躊躇いがちに答える。


「あ、あたしは・・・鈴鹿達に無理やり連れてこられたんだ。

 そりゃあ、鈴鹿達を罠に嵌めようとしたあたしが悪いんだけどさ。それを盾にされて・・・仕方なしにエンジェルクエストに協力してるんだ」


「それでは好きでエンジェルクエストに挑んでいるわけでは無いと?」


「誰も好き好んで素人同然だった盗賊(シーフ)がエンジェルクエストに挑まないよ。

 ただでさえ、最初のエンジェルクエストの『始まりの使徒・Start』はドラゴンなんだぜ」


「・・・貴女の答えは正しき答え(Yes)と判断されました」


 俺はトリニティの答えを聞いて少なからずショックを受けていた。

 無理やり連れてきてはいたが、トリニティもまんざらではない感じだったと思っていた。

 嫌々言いながらも俺達を仲間と思ってくれて好きで一緒に居るのだとばかり思っていたのだが・・・

 そうか・・・どうやら俺の独りよがりだったみたいだな。

 トリニティが俺達と一緒に居たのは無理やり脅されていたからだと。


 そんな俺の心情はお構いなしに、ラナはアイさんに向かって同じ質問をする。


「貴女は『何故エンジェルクエストに挑むのですか?』」


「私は鈴鹿くんのお守りで一緒に居るからね。鈴鹿くんがエンジェルクエストを挑むとすれば私も一緒に挑むのが道理でしょう?

 後は、アルカディアの事を調べるついでと言ったところかしら」


 アイさんの答えを受けてラナの下した判断は・・・


「・・・残念です。貴女の答えは偽りの答え(No)と判断されました」


 はぁっ!? アイさんの答えが間違ってるって!?


 ちょっ!? えっ!? アイさんがAIWOn(アイヲン)にダイブしているのってその理由じゃないのかよ!?

 それ以外にもアイさんがエンジェルクエストに挑む理由なんて・・・


 俺は思わずアイさんを見ると、アイさんは少し動揺して困った顔をしていた。


「・・・参ったわね。まさかそこまで正確に見抜かれるとは」


「本当の理由は言えないのですね?」


「今はまだ・・・ね」


「そうですか・・・それでは『偽りの答えの使徒』に応じてペナルティを与えます」


 そうするとアイさんの首に下げている使徒の証が輝きだし、アイさんを光で包み込んだ。

 輝きが終わるとそこには変わらぬアイさんが佇んでいる。


「ペナルティは1週間の戦闘行為の禁止です。例えどんな状況に陥ろうと1週間は戦いが出来ないと覚えてください。

 そして与えられた祝福(ギフト)は・・・魔法攻撃無効(マジックキャンセラー)ですね。・・・S級の祝福(ギフト)ですよ、これ。

 どれだけの強い偽りの答えを出せばこれほどの祝福(ギフト)を得られるのですか・・・貴女の本当の理由が凄く気になりますね」


 え? ちょっ・・・祝福(ギフト)も凄いけど、1週間の戦闘禁止ってアイさんにとっても俺にとっても物凄い戦力ダウンのペナルティじゃないか。

 マジか、これ。

 1週間もアイさんの戦力無しでエンジェルクエストに挑むのはマジできつそうだ。


「それでは2人には神託を授けます」


 ラナは与えた祝福(ギフト)の凄さにその理由が気になってはいたが、気を取り直して俺とトリニティに『神託の使徒』の神託を与える。


「まずは貴方からですね。

 『サーズライ村に行きなさい。100年前の災厄が迫っています。そこの村に居る竜人(ドラゴニュート)と協力して災厄に楔を打ち込むのです』」


 楔を打ち込むとは、これまた抽象過ぎて意味深な神託だな。

 だがそれよりもトリニティは災厄の方が気になったみたいだ。


「ちょっ!? 災厄って・・・まさか『災厄の使徒』か!?」


「・・・どうやらそのようですね。しかも100年前の災厄の再来とは・・・既に3つほどの村が災厄に呑みこまれているそうです」


 神託を授けたラナも難しい顔をしていた。


「なぁ、100年前の災厄の再来ってどういうことだよ?」


「100年前の大災害は聞いているよな? つまりそう言う事だよ。

 100年前と同じ大災害のモンスターが迫っているって事だ」


 モンスターの出現方法には3つ存在する。


 1つはポップ型。

 魔力溜りと呼ばれるスポットで自然発生するモンスターだ。

 これはゲームとして考えれば在り来たりなものだ。

 その為、モンスターも一定の強さでしかない。


 2つ目は繁殖型。

 1つ目のポップ型がお互い交配し生まれるのが繁殖型。

 従来のポップ型に比べて強いのが特徴だ。

 元々交配は強い子孫を残すためでもあるので、繁殖型が強いのは当然だ。


 そして3つ目が変異型。

 ポップ型や繁殖型に属さない方法で生まれるのが変異型。

 中には突然変異として、死んでも同じ記憶を持ち続けるモンスターが居るらしい。

 それが『災厄の使徒・Disaster』と呼ばれる存在だ。

 しかも突然変異はそれだけではなく、『災厄の使徒』は従えているモンスターが大勢居れば居るほど力が増すモンスターと言う事だ。

 100年前、セントラル王国を滅ぼしたと言われる大量モンスターの襲来もこのモンスターの仕業だったとか。

 女神アリスが常時討伐する事で突然変異のモンスターの力を増やすのを抑えるようと、敢えて『災厄の使徒』として方向性を与えたらしい。


 その結果、『災厄の使徒』は力を増す前に冒険者に倒されて近年は大きなモンスター災害は無くなったとか。

 が、今回はトリニティの言う通り、100年前と同じ規模のモンスターを引き連れた『災厄の使徒』が迫っていると。


「それを俺とその竜人(ドラゴニュート)2人で止めろってか? キツイどころの話じゃなくね?」


「神託では止めろとは言ってません。楔になれと。多分討伐隊が組まれるまでの時間稼ぎをしろと言う事ではないでしょうか」


 ああ、そりゃあそうか。

 100年前と同じ規模のモンスター襲来ともなれば国を挙げての討伐隊が組まれるのは当然か。

 俺達はその討伐隊が到着するまでの時間稼ぎをしろと。


 ・・・いや、それでも無理っぽくね?

 確か100年前の大災害って、何十万ものモンスターが襲ったって話だよな。

 それをたった2人で止めろと等とは・・・アイさんが戦闘禁止になってるのがまた痛い話だ。


 うーむ。ここは神託と言う事に意味があると思って行ってみるか。

 どちらにしろこれが『災厄の使徒』ならエンジェルクエストを攻略する上で俺は行かなければならないしな。


「取り敢えず神託は分かった。後はサーズライ村に行って何とかしてみるよ」


「サーズライ村はエレガント王国ですが、これほど規模の大きい『災厄の使徒』ともなればプレミアム共和国も動くかもしれません。

 私の方からも国に進言しておきます」


「そうだな。エレガント王国の方には俺達が報告しておくよ」


 王国に直接言えなくても、冒険者ギルドやS級冒険者の美刃さんかそのクラン『月下』に言えば王国に報告してくれるだろう。


「それでは気を取り直して・・・今度は貴女へ神託を授けます」


 新たな使徒『災厄の使徒』が現れたことにより少々取り乱していたが、ラナは今度はトリニティ向かって神託を授ける。


「『己の信じる道を行きなさい。さすれば新たなエンジェルクエストへ向かう道を見つけるでしょう』」


「あたしの信じる道って・・・意味分かんないんだけど」


 己の信じる道・・・か。トリニティにとって進むべき道は俺達と同じなのだろうか。

 俺はトリニティが何やら複雑な表情をしている顔を見ながらこの後の事を考える。


 いろいろ問題があったものの、俺達は『探求の使徒・Quest』『正しき答えの使徒・Yes』『偽りの答えの使徒・No』『神託の使徒・Oracle』をクリアし、使徒の証を4つ手に入れた。

 アイさんは後日改めて『探求の使徒』を受け直して『神託の使徒』の神託を授かることになるが。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「さて、まずはこれからサーズライ村に行って竜人(ドラゴニュート)と合流しないとな。

 あ、いやその前に水の都市に行って『災厄の使徒』の報告をしておいた方がいいか?」


 トリニティがやけに張り切っていたが、俺はこれから言う事を考えて真剣な顔してトリニティに待ったをかける。


「水の都市には行く。だがトリニティはサーズライ村には連れて行かない」


「・・・え? どういう事だよ」


 トリニティは最初何を言われたのか分からない顔をしていたが、次第にその意味を理解して険しい顔で問い詰めてくる。


「トリニティとはここでお別れだ」






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 AIWOn 災厄スレ109


7:名無しの冒険者:2059/5/18(日)20:12:36 ID:Cha925rAs

 今回の災厄は酷かった・・・


8:名無しの冒険者:2059/5/18(日)20:16:41 ID:B6hei6Hell

 何でも100年前の再来とも言われていたらしいね


9:名無しの冒険者:2059/5/18(日)20:18:56 ID:aIzNuk2zz

 100万近くのモンスター軍団・・・俺よく生き残れたな・・・


10:名無しの冒険者:2059/5/18(日)20:23:06 ID:sAnBTa000s

 俺も災厄討伐クエストに参加したけど確かにあれは無茶苦茶だったよ

 見渡す限りモンスター・モンスター・モンスター・モンスター・・・


11:名無しの冒険者:2059/5/18(日)20:28:22 ID:HkOj33sSn

 聞いた話だけど凄かったらしいね

 でも討伐軍が到着したころは殆んど終わっていたとか


12:名無しの冒険者:2059/5/18(日)20:32:36 ID:Cha925rAs

 >>11 何でも先行部隊が出てて主要なモンスターを狩ってたって話だよ

 まぁそれでも大量のモンスター軍団は酷かったけどw


13:名無しの冒険者:2059/5/18(日)20:33:59 ID:Ng88mM31

 今までの災厄はそんなに規模が大きくなかったって聞きましたが


14:名無しの冒険者:2059/5/18(日)20:36:22 ID:HkOj33sSn

 そうだね。僕が前回参加した災厄討伐は精々100くらいのモンスター軍団だったね


15:名無しの冒険者:2059/5/18(日)20:44:20 ID:Con8tO10

 だな。これまでの災厄で一番大きかったのは1000単位くらいだって話だ


16:名無しの冒険者:2059/5/18(日)20:51:06 ID:sAnBTa000s

 今回はとりわけ酷いwww

 何だよ100万のモンスター軍団ってwww


17:名無しの冒険者:2059/5/18(日)20:55:23 ID:MaOYluo12

 今までの万倍ですね^^;


18:名無しの冒険者:2059/5/18(日)20:56:41 ID:B6hei6Hell

 と言うかどうやってそれだけのモンスターを集めたのか疑問だよ


19:名無しの冒険者:2059/5/18(日)21:00:20 ID:Con8tO10

 災厄は記憶持越しの特殊型のモンスターだからいろいろ知恵を付けて来たんじゃない?


20:名無しの冒険者:2059/5/18(日)21:06:36 ID:Cha925rAs

 記憶の持越しってチート臭くない?

 モンスターでそれをやられちゃどんどん強くなるじゃん


21:名無しの冒険者:2059/5/18(日)21:12:22 ID:HkOj33sSn

 その結果が今回の大災害の再来なのかもね

 僕達の知らない裏側で色々策を練っていたのかも


22:名無しの冒険者:2059/5/18(日)21:14:56 ID:aIzNuk2zz

 えー、それって次の災厄は更に知恵を付けて強くなってるって事だろ?

 まぁ俺は今回で災厄をクリアしてDの使徒の証をゲットしたけどな!


23:名無しの冒険者:2059/5/18(日)21:17:41 ID:B6hei6Hell

 次の人はご愁傷様ですね^^;


24:名無しの冒険者:2059/5/18(日)21:20:59 ID:Ng88mM31

 頑張って下さいとしか言えません・・・


25:名無しの冒険者:2059/5/18(日)21:21:23 ID:MaOYluo12

 と言うか、次は同じくらいのモンスターを集めるのは時間がかかるから倒すのは簡単なのではないでしょうか?


26:名無しの冒険者:2059/5/18(日)21:24:22 ID:HkOj33sSn

 確かに同じくらいのモンスターを集めるとすれば1ヶ月や2か月じゃ利かないだろうね

 その間に災厄を発見すれば結構簡単に倒せるかも


27:名無しの冒険者:2059/5/18(日)21:31:41 ID:B6hei6Hell

 ・・・と言う事は今回は見送って次回で倒した方が楽だったと?


28:名無しの冒険者:2059/5/18(日)21:34:56 ID:aIzNuk2zz

 何だよそれ! 俺の苦労を返せ!!








次回更新は8/25になります。

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