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Alive In World Online  作者: 一狼
第5章 Disaster
25/83

24.警察と友人と幼馴染

大神鈴鹿、原型獣人の村へ行く。

大神鈴鹿、悪行プレイヤーと戦い九尾の狐を助ける。

大神鈴鹿、猪人と永遠の巫女と出会う。

大神鈴鹿、天使化オークキングと戦う。

                       ・・・now loading


 ――2059年5月13日(火)――


 俺はAIWOn(アイヲン)から離魂睡眠(ログアウト)し、カプセルタイプのVR機ドリームドライブの中で目を覚ます。

 ヘッドギアタイプのVR機アミュレットⅡを脱ぎながら部屋の中を見渡すと、俺の健康状態を観察する為綾子おばさんの病院から派遣されてきた綾辻さんが居た。


「あら、戻ってきたのね。お帰りなさい」


「こっちの方は何か変わったことがありました?」


「いいえ、特別な事は何も」


 そうか、何もないのか。

 何か意識不明者に関する進展があればと淡い期待を寄せていたが、そう都合のいい話は出てこないか。


 綾辻さんは俺の健康状態をチェックし、問題が無い事を確認して何やら書類に書き込んでいる。

 確かに健康状態に問題はないのだろうが、前回同様何やら体が重いな。

 長期間のダイブによる影響なのか、AIWOn(アイヲン)での身体(アバター)の身体能力になれた影響なのか。

 そのことを綾辻さんに聞いてみるとAIWOn(アイヲン)だけでなく、他のVRMMOにも似たような事例が数件あるらしい。


「どちらかと言うと長時間ダイブの影響が大きいわね。ただでさえVRと現実(リアル)の体の感覚に差が生じているところに長時間ダイブしているとそれだけ誤差が大きくなるのよ。

 特にAIWOn(アイヲン)はリアルの身体能力が直結しているからその差が顕著に出るみたい」


 なるほど。前に俺が予想していたのとほぼ同じか。

 身体能力が同じだからAIWOn(アイヲン)で体を鍛えた分だけ現実(リアル)に戻って来た時に差を感じるのか。

 それが長期間現実(リアル)の体から離れていれば顕著に感じる、と。


「他のVRMMOだと元々あり得ない動きが出来る身体(アバター)が殆んどだから、VRと現実(リアル)の体の違和感は感じないみたい。

 それでもやっぱり長時間ダイブをすると影響はあるわね。上がってきている事例のVRMMOプレイヤーは例外なく2~3日もダイブする廃人プレイヤーみたいよ。

 昔の人は良く言ったものね。ゲームはこまめに休憩を取りましょうって」


「少しずつ慣らしていくところを一気に負荷をかけているようなものですもんね。

 今日は1日かけてゆっくり体を慣らした方がいいですね」


 そう言えば前回は違和感をなくすため道場で現実(リアル)の体を鍛えたな。

 1週間鈍った体を鍛えるのと現実(リアル)の体を慣らす意味も込めてまた道場で鍛錬でもするか。


「さて、と。取り敢えずは親父のところに報告しにいくか。

 じゃあ綾辻さん。また明日来ますんで宜しくお願いしますね」


 そう言いながら俺は部屋を出る。

 丁度その時、隣の部屋から愛さんも出てきた。


 今回は愛さんと一緒に離魂睡眠(ログアウト)をしたのだ。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 愛さんと一緒に並んで親父の居る研究室へと向かう。

 親父は前回ログアウトした時と同じ研究室に居るとの事だ。


「愛さんは体の調子はどうなんだ?」


「私はそんなに影響はないかな? アメリカに居た時も長期間ダイブすることがあったから体を慣らす訓練を受けているのよ」


 おお? そんな訓練があるのか?

 アメリカの時って電脳守護会社(サイバーガーディアン)の時の事だよな。

 うーむ、長期間ダイブするほど本場は過酷なんだろうな。


 前回来て道を覚えていたから親父の居る研究室に着くのはすぐだった。もっとも愛さんもいるから迷う事はないが。

 今の時間は9時過ぎと、普通に出勤時間の為親父は居るはずだ。・・・それともまた徹夜で会社に泊まり込みか?

 研究室のドアをノックして部屋の中へ入る。


「親父、入るぞ」


 返事も待たずに中に入ると、そこには親父の他にもう1人の男が居た。

 身長190cmほどのがっしりした体躯に、短く切り込まれた髪に精悍な顔つき。いわゆる体育会系と言った風貌の男だった。


「あれ? (ゆかり)さん?」


 俺の後ろから愛さんの少し驚いた声が聞こえた。


「おう、久しぶりだな。愛。日本に戻ってきたのなら顔ぐらい見せろや。

 ・・・っと言ってもそんなことを言ってられる状況じゃなかったみたいだな」


 どうやら愛さんの知り合いみたいだ。

 俺が愛さんに目で訴えかけると苦笑しつつも紹介してくれた。


「彼は篠原紫。警視庁電脳犯罪対策部仮想現実犯罪課――通称電脳警察(サイバーポリス)の課長よ。

 私がまだ日本に居た頃の上司よ」


「愛が抜けた後は大変だったよ。腕利きのエースが引き抜かれたんだものなぁ。仕事量の増加はハンパなかったぜ」


 そう言えば愛さんはアメリカの電脳守護会社(サイバーガーディアン)に引き抜かれる前は、日本の電脳警察(サイバーポリス)に居たって言ってたっけ。

 この男はその時の上司か。


 ・・・と言うか何で警察がICEに居るんだ?

 親父がAIWOn(アイヲン)の調査で何か違法行為でもしたのか?


「初めまして。大神鈴鹿です。ええっと・・・警察の紫さんが何でここに居るんですか?

 親父が何かやらかしましたか?」


「堅苦しい言葉使いは要らない、普段通りで構わないよ。

 ふむ、大河の息子か。父親と違って腕っぷしが強そうな男じゃないか。うんうん、男ならそうでなくっちゃっな!」


「俺はインドア派の人間なんだよ。お前と一緒にするな」


 親父が恨みがましそうな目で紫さんを睨む。

 まぁ、紫さんは見るからに体育会系だからな。それに対して親父はオタク系な感じだ。

 そんな親父と比べれば確かに腕っぷしは強そうに見えるか。


「俺がここに居るのはAIWOn(アイヲン)の調査の為だ。何も大河をしょっ引く為に来たんじゃないからその心配はしなくていいぞ」


「ええっと、もしかして親父とも知り合い?」


 親父を名前で呼んだり、親父も馴れ馴れしくしているところを見るとそんな感じがする。


「ああ、かれこれ20年近くの友人だな」


 電脳守護会社(サイバーガーディアン)に居た愛さんとも知り合いだし、警察の紫さんとも知り合いだし、確かICEが所属している四ツ葉グループの四ツ葉財閥の会長とも知り合いだって言ってたな。

 そう言えば他にも雑誌会社やらなんやらいろんなところにコネがあるみたいだ。

 ・・・親父って意外と顔が広いんだな。


「っと、さっきAIWOn(アイヲン)の調査って言ったけど、警察もAIWOn(アイヲン)の事件を調べているのか?」


「非公式かつ極秘にだけどな。

 Arcadia社はVRと何の関係もないって言っているが、幾らなんでもそれを鵜呑みにするほど俺達は馬鹿じゃない。

 大河からのICEの調査協力の要請を受けて俺達も動いているってわけだ」


 そうか。言われてみればそうだよな。

 これまでにも大勢の命が失われているし、今も尚、人の命が掛かっているんだ。

 警察が動いていない方がおかしい。


「それで、紫さんの方の調査は何処まで進んでいるの? ・・・いえ、調査方針はどうなっているのかしら?」


「まぁ待て。その前にお前たちの報告を先に聞こう」


 愛さんが紫さんに警察の捜査状況を聞こうとしたが、親父がそれを制し俺達の報告が先だと言ってくる。

 報告と言ってもAIWOn(アイヲン)内でのエンジェルクエストの進行状況位なものなんだけどな。


「・・・そうね。まずはアルカディアに行くための手段のエンジェルクエストだけど―――」


 愛さんから見たエンジェルクエストの状況に加え、AIWOn(アイヲン)のゲームとしての設定・ハードウェア・ソフトウェア等の疑問点や調査の結果をそれぞれ報告する。

 俺はエンジェルクエストの攻略の仕方や進行状況を話したくらいだ。


 こうして聞くと愛さんも俺とは別口でちゃんと調査をしているんだな。


「ふむ、やっぱり意識不明者の身体(アバター)はアルカディアにあるのか・・・

 エンジェルクエスト以外からの侵入方法は見つからないか?」


「ええ、どうやっても駄目ね。アルカディアに行くには地道にエンジェルクエストを攻略するしかないみたい」


「うーむ・・・やっぱり愛の力を持ってしても無理か・・・それだけアルカディアには秘密が隠されてるみたいだな。

 分かった。愛はそのまま鈴鹿のサポートと調査を続けてくれ。

 鈴鹿も愛の協力があるとは言え無茶はするなよ。AIWOn(アイヲン)がどこまで現実(リアル)に影響が出るか未知な部分があるからな」


 愛さんの報告を受けた親父は唸り声を上げながら思案し、俺に無謀は行動は慎めと言ってくる。


「紫の方からは何かあるか?」


「んー、強いてあげるならアルカディアの事を調べておいた方がいいだろう」


「いや、でもアルカディアから誰も戻ってきたことが無いから調べようがないぜ?」


「それでもだよ。些細な噂でもなんでもいいからアルカディアの中の事を知っておいた方がいい。

 特に鈴鹿、お前の目的はアルカディアに行くことじゃなくて唯姫をアルカディアから連れ戻すことだろう?

 だったらアルカディアの中の事を知っておいて損はないはずだ。

 ディバック用の脱出口の可能性を見いだしてるみたいだが、そこに至る経路知っていると知らないとでは難易度に差が出てくる」


 うーむ。言いたいことは分かるがその情報取得の難易度は高すぎる。

 噂を拾ってそこから針の糸を通すみたいに内部状況を推測・・・するとかしかないか?


「トリニティだっけ? その盗賊(シーフ)を十全に活用しろ。竜宮の使いの時みたいにな」


「ああ、あれは確かに盗賊(シーフ)を上手く使ってたわね」


 紫さんの言葉に『竜宮の使徒』の時の事を思い出す。


 いや、あれは流石にちょっと強引だったかなと反省はしてるんだが・・・ああいう手段は何度も使えないぞ?


 愛さんもあれは見事な手腕だったと褒めてくれるが、次に出てきた言葉はちょっとお叱りの言葉だった。


「まぁただトリニティにはもう少し配慮した方がいいかな? 流石に女の子を危険な目に合わせるのは感心しないし」


「トリニティに配慮・・・要るのか?」


「もう、要るに決まってるじゃない。少なくとも私たちに強引に付いて来てもらっているんだからちゃんと配慮しないと愛想尽かされるわよ」


 う、確かにノルマの借りや俺達を罠に嵌めた借りを盾に強引に引き回しているからな。

 見た感じは満更でもない様に見えるが、心の奥底ではもしかしたら俺達を恨んでいるかもしれないし。

 そうだな、もう少しトリニティに配慮しておくか。


「さて、今度は俺の方からだな。とは言っても警察内部の捜査状況をおいそれと話せるものではないから言えることは少ないがな。

 簡単に言ってしまえばAIWOn(アイヲン)の中と外から調べている」


 そう言って紫さんが警察での捜査状況を教えてくれる。

 AIWOn(アイヲン)の中と外って・・・中は実際にダイブして中に入る事だと分かるが、外って言うのはどういう事だ?


「なるほどね。中からAIWOn(アイヲン)の様子を探り、外――直接Arcadia社の方も調べてるって訳ね」


 俺は愛さんの言葉に納得する。

 確かにわざわざ中から調べなくてもAIWOn(アイヲン)が設置されているサーバーを調べれればそっちの方が早いかもしれないしな。


「ああ、他の課からも協力してもらってArcadia社を調べているが、捜査令状が無いから出来ることは限られているがな」


「まぁ、それはしょうがないわね」


 愛さんは電脳警察(サイバーポリス)で働いていた時に似たようなことがあったのか、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


「後は大河にも言ったが、Arcadia社の幹部の奴らがここ数日行方不明らしい。

 奴らも本格的に動き出した可能性がある。愛と鈴鹿はAIWOn(アイヲン)に戻った時は注意しろ」


 Arcadia社の幹部・・・確か前回のAngel In事件の時の真犯人であり今回の事件の元凶だ。

 その言葉を聞いた愛さんは厳しい顔つきになる。

 いや、どちらかと言うと隠しきれない怒りや憎しみと言った感情がにじみ出ている気がする。

 愛さんのこんな顔は初めて見るな。


 その後も紫さんは差し支えない範囲で警察の捜査状況を教えてくれた。


「まぁ俺からは以上だ。後の細かい事は大河に聞いてくれ。

 俺は一旦警視庁に戻って大河から貰った資料を基に捜査しなければならん」


「ああ、朝早くからわざわざ済まなかったな」


「紫さん、ありがとうね」


「なに、いいって事よ。その代わり今度何かあったら捜査に協力してもらうからな」


 ああ、そうか。親父は電脳警察(サイバーポリス)に居る紫さんからArcadia社の幹部の情報を貰ったりしていたんだ。

 今までも似たようなことをやっていたんだろう。

 親父が紫さんに協力したり、逆に紫さんが親父に力を貸してもらったり。


 紫さんは親父から貰った資料を手に研究室から出て行った。


「親父、俺も一度家に戻るよ。愛さんは?」


「ああ、ちゃんと母さんに顔を見せて安心させて来い」


「私はもう少し大河さんと状況の整理と今後の対策を立てていくわ。鈴鹿くんは今日1日ゆっくりと休んで明日のダイブに備えて頂戴」


 愛さんは親父から渡された資料に目を通しながら言ってくる。

 親父も愛さんに渡した資料の説明をしながら難しい専門用語を並べている。


 そんな2人を尻目に邪魔しない様に俺はさっさとその場を立ち去った。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 家に戻った俺はお袋に無事に戻ってきた喜びの抱擁を受けてちょっと遅めの朝食を摂った。

 良く考えれば生命維持装置で大丈夫とは言え、1週間も長期ダイブして現実(リアル)ではまともな食事は食ってないんだよな。

 そう考えれば今食べている食事は意外と貴重でまともな栄養摂取になる。

 しかもお袋の味を味わえるのも1週間に1度くらいと言う事だ。


 ・・・これはしっかりと味わないとお袋に失礼だな。


 タダでさえ俺や親父がまともに家に帰ってきていないんだし。


 飯を食い終わった後は体を現実(リアル)に慣らすため疾風迅雷道場に足を運びAIWOn(アイヲン)で学んだ技術を復習する。


 こうしてみると以前はないがしろにしていたAIWOn(アイヲン)だが、今実際経験してみると決して馬鹿にすることは出来ない程影響を与えていた。

 普通であればそう使う事のない疾風迅雷流の戦闘技術は現実(リアル)では一定以上の向上は見込めない。

 だが、向こうの世界――AIWOn(アイヲン)ではその枷が外される。

 思う存分力を振るう事が出来る。

 そしてその分だけ己の戦闘技術が磨かれる。


 何故現実(リアル)で苦労して、尚且つ仮想(ヴァーチャル)で苦労するAIWOn(アイヲン)が人気が出ているのか分かる気がした。


 一通り鍛錬を終えて唯姫の顔を見ておこうと病院に向かう途中で見知った顔を見つけた。

 学校でいつもつるんでいる友人たちだ。

 向こうも俺を見つけて寄ってきた。

 そうか、もう学校が終わって帰宅する時間か。


「おい、鈴鹿じゃないか。お前学校に来ないで何をやってんだよ」


「つーか、早海も学校に来ないでお前も来ないって・・・変な噂が立ってるぜ?」


「因みにその噂は鈴鹿と早海が毎日真昼間からベッドで絡み合ってイヤンウフンな事ばかり・・・って、ひぃいっ!? 俺が言ったんじゃないよ! 噂だよ! 噂!」


 変な事を言った友人に俺はAIWOn(アイヲン)で一層鋭くなった睨みをぶつけられてビビりまくっていた。

 相変わらず馬鹿な事を言う奴だな。

 俺はそのバカバカしくも懐かしい気持ちに少し癒される。


 俺を心配してくれたのが百地桃太(ももちとうた)。爽やかなイケメンなのに何故か俺達とつるんでいたりする。

 そして体格も良く、厳つい顔をしている剛力乱馬(ごうりきらんま)。その顔に似合わず意外とゲーマーだ。

 ワザとやっているかと言うくらい唯姫の事で俺をからかって睨まれる羽鳥咲慈(はとりさきじ)。噂好きなんだが信憑性の欠ける噂ばかりだ。


「まぁ、学校を休んでいるのはちょっとした用事があるからだよ。とは言ってもそのちょっとの用事が暫くかかりそうみたいでな。学校に行くのはもう暫く先になりそうだ」


「それは早海に関係あることか・・・?」


 咲慈とは違い、桃太はマジで俺を心配して唯姫との関連性を聞いてくる。

 流石は俺達のリーダーってところか。気遣いの仕方が違う。


「早海は病気で入院していると聞いたが、詳しい事は何も分からない。羽鳥でさえ病名すら知らないときている。

 だがお前は早海が学校に来なくなったその日に早退して以来、お前も学校に来なくなった。何か関係していると思うのが普通だと思うが」


「あ~~~、詳しい事は言えないが、桃太の言う通り唯姫が関係しているよ。ちょっと眠り姫を助ける為に色々しているってところだ」


「眠り姫・・・?」


「わぉ! 眠り姫と言えば目覚めのキスは試したの・・・って、わーー! わーーー! 冗談だってば! 冗談!」


「はーー。咲慈、言っていいことと悪いことぐらい区別が付くだろ。今のはシャレにならんぞ」


 乱馬は何やら考え込んでしまい、咲慈は例の如く余計なことを言って俺を怒らせ、桃太が咲慈を嗜める。

 学校に居た頃のいつもの慣れた光景だ。


「まぁ、鈴鹿が何をしているのかは聞かないよ。聞いたところで俺達には止められそうもないしな」


「そうだな。鈴鹿は早海の事に関しては意外と無茶な事を平然とやるからな。今さら俺達に止められるとは思えん」


「まー、その結果が餓狼(がろう)なんだけど。って、怖い、怖いよ鈴鹿。言っておくけどその二つ名広めたの俺じゃないよ!?」


 友人たちは今更俺の行動には何の抵抗も感じてないみたいだ。

 って言うか、俺が唯姫の為なら何でもやるみたいな事を言うのはやめてくれ。

 まるで俺が唯姫に惚れているみたいじゃないか。


「すまんな。全部解決したら・・・その時は話すよ。それから咲慈は後でシメる」


 まぁ全部話すとは言ったが、事件性を鑑みれば話せない部分も出てくるだろうな。

 その時はAIWOn(アイヲン)がどうなっているか分からないが。

 と、そう言えば乱馬もAIWOn(アイヲン)をやっているんだっけ。


「ところで話は変わるけど、乱馬はAIWOn(アイヲン)はやっているんだよな?」


「む、もしかして遂に鈴鹿もAIWOn(アイヲン)の素晴らしさに目覚めたか!」


「え? 何々? 鈴鹿もAIWOn(アイヲン)やるのか? 言っておくが俺達は向こうじゃかなりの名の知れたプレイヤーだぜ。

 今からやっても追いつけるかな?」


 名の知れたプレイヤーってことは乱馬と咲慈はエンジェルクエストもかなり攻略しているってことか?

 それだとちとマズイな。エンジェルクエスト攻略でアルカディアに行ったらこいつらも意識不明者の仲間入りになっちまう。


「いやいや、俺がやるんじゃなくて唯姫がやっていたからAIWOn(アイヲン)じゃどうだったかなとおもってさ」


「な~んだ、結局は早海絡みかぁ。

 早海は向こうじゃ二つ名が付くくらい有名プレイヤーだぜ。まぁここ数日はディープブルーの話は聞こえてこないけど」


「ん? ディープブルーはエンジェルクエストを攻略してアルカディアに行ったんだろ?

 だったら俺達の耳には入ってこないだろうよ」


「ん? 唯姫はAIWOn(アイヲン)じゃそんな名前で呼ばれているのか?」


 まぁ、知っているがここは知らないふりをしておこう。

 つーか、今さらだがこいつらに聞けばAIWOn(アイヲン)での唯姫の名前が分かってたんだ。意外なところの情報源を逃してたな・・・


「ああ、早海はAIWOn(アイヲン)じゃ『八翼』のディープブルーなんて呼ばれているんだぜ。冒険者ランクはA級!

 俺達はまだC級だから早海に追いつくのはまだまだ先だね」


「咲慈、お前さっきは名の知れたプレイヤーって言ってなかったか? どれ位のランクがあるか知らないがC級って中堅どころの雰囲気がプンプンするんだが」


 C級ってことは中堅クラス、もしくはエンジェルクエストを10個クリアしたってところか。


「おま! C級になるのがどれだけ大変か知っているのかよ! 早海のA級は例外だよ。廃人と一緒にしないで欲しいな!」


「あ~、唯姫が廃人なのは認める。だけど咲慈がAIWOn(アイヲン)でも調子に乗って失敗している姿が目に浮かぶんだが」


「よく分かったな。こいつAIWOn(アイヲン)で情報集めを一手に引き受けて来るんだが、よく偽の情報を掴まされて依頼を失敗する羽目になるんだよ」


 乱馬が何やら遠い目をして語っている。

 あ~、噂好きが高じて盗賊(シーフ)にでもなったか?

 盗賊(シーフ)は一筋縄じゃいかない世界だからな。


「よく分からんが楽しそうだな。俺も遊んでみるかな?」


 話についてこれなくなっていた桃太が自分もAIWOn(アイヲン)をやろうかと乱馬と咲慈にどういった感じか聞いてくる。

 桃太はイケメンだからオタク系のゲームは余りやらないんだよな。


 そんな話をしてる3人を尻目に、乱馬と咲慈の2人の心配は必要ないなと思った。

 1年くらい前からプレイしているらしいが、それでもまだエンジェルクエストの攻略がそれほど進んでいない感じだ。

 そのペースだと心配する必要はないだろう。


 暫くの間AIWOn(アイヲン)の事や学校の事、休日の遊びなどの他愛も無い会話をした後、俺は3人と別れて唯姫の居る綾子おばさんの病院に向かう。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 唯姫の居る病室は今は1人用の個室だ。

 この後1か月ほど回復の症状がみられなければ唯姫は生命維持装置の付いたカプセルベッドに入れられ生命維持装置用の病室に移されることになる。


「ったく、死んだように眠りやがって。いいか、絶対このままにはさせないからな。必ず意識を取り戻させてやる」


 唯姫の頬に触れて体温を感じ、ちゃんと生きていることを確かめる。

 こうでもしないと本当に死んでいるかに見えてしまうのだ。

 息はしているものの、その呼吸は浅く今にも止まりそうな感じがする。

 それを見るとどうにも不安な気持ちで胸が張り裂けそうになってしまう。


 と、そこへおばさんが入って来た。


「あら、鈴鹿くん。またお見舞いに来てくれたの」


「おばさんこそ毎日来ているのか?」


「ええ、無駄な事だと分かっているけどどうしても、ね」


 おばさんは親父や綾子おばさんから唯姫の昏睡状態の原因を聞いているから、こうして病院に来たところで唯姫を助ける術が無いのが分かっているのだ。

 だからおばさんは無駄だと言う。


「・・・いや、無駄なんかじゃないよ。確かに唯姫の症状に関しては無駄だけど、おばさんがこうして唯姫を心配する気持ちは無駄なんかじゃないよ。

 親が子を心配する気持ちは何よりも強いし大切な事だ。唯姫にもその気持ちは届くよ」


「鈴鹿くん・・・ありがとう。

 鈴鹿くんもあまりお父さんとお母さんに心配を掛けない様にね」


 うおっ、カウンターを貰ってしまった。

 あ~~~、確かに親父は兎も角、お袋に多大なる心配をかけてるな・・・

 

「ふふふ、唯姫も鈴鹿くんに想われて幸せね。だからちゃんと戻ってこないと許さないんだからね」


 そう言いながらおばさんは唯姫の頭を撫でて微笑む。


「あの、おばさん。だから唯姫とはそんなんじゃ・・・」


 遂にはおばさんにまで唯姫の事をからかわれる始末。勘弁してくれ。


「あら? 本当に? 唯姫の事を何とも思ってない?」


 そりゃあ・・・好きか嫌いかと言えば・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・好きだよ。


 けど、なんていうか、恋愛感情とはまた違うんだよな。

 家族愛や兄弟愛とかに近いな。幼馴染愛とでも言うんだろうか。

 生まれてずっと一緒に育ってきて、居るのが当たり前。別に束縛するとか他の奴を好きになるなとかは言わないけど、一緒に居るのが心地いいと言うか。

 唯姫は俺と違う目で俺を見ているが、俺の気持ちは上手く言えないがそんな感じだ。


「ふふふ、いいわよ。無理に答えを出さなくても。唯姫を助け出したときに自ずと答えが見えてくるかもしれないわね」


 何やらおばさんは意味深なことを言ってくるが、俺の唯姫を助け出す旅が終わる時、己の気持ちの整理が付いているのだろうか。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 ――2059年5月14日(水)――


 次の日、朝食を食べた後、ICEへ向かう準備をしお袋に出掛けの挨拶をする。


「お袋、また暫く心配を掛けると思うが、行ってくる」


「ううん。鈴鹿、あんたは自分の思う通りにすればいいのよ。

 ほら、唯姫ちゃんが鈴鹿を待ってるわ。しっかり頑張ってきなさいよ」


 お袋に背中を押されて俺は愛さんの待つICEへと向かう。







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 AIWOn クラン募集掲示板 その21


791:くるくる満ちる:2059/4/1(火)16:01:11 ID:kurU96Mic6

 クラン『満ちる月』では新メンバーを募集しています!

 希望の方は王都エレミアの『月の欠片亭』までお越しください


792:ハーマイオニー:2059/4/1(火)19:09:51 ID:haerMi02

 クラン『はりぽた』ではありとあらゆる魔法使いの参加をお待ちしてます

 普通の冒険では見る事の出来ない秘められた魔法などを研究しているクランです

 興味のある方はバリーボッタかハーマイオニーまで


793:名無しの冒険者:2059/4/4(金)22:17:24 ID:PPiyPrin2013

 毎回クラン募集を見て思うんだけど、一般掲示板で募集って効率悪くないのかな?

 公式掲示板とかでやればいいのに


794:ピンクパンダー:2059/4/6(日)15:24:33 ID:pin9panD10

 クラン『パンダパンダ』では新メンバー随時募集!!!!!!


795:名無しの冒険者:2059/4/7(月)12:35:09 ID:Torb6Tolb6

 >>793 公式系サイトに掲示板があれば皆そっちに行くと思うよ

 まぁただ普通のVRMMOと違って名前の管理が出来ないから公式掲示板でもあまり意味が無いんだよね~


796:碇原動:2059/4/22(火)16:37:42 ID:EVA2014Zero

 クラン『残酷な天使のベーゼ』では新メンバーを募集している

 入隊したい者は碇原動まで連絡するように


797:怒り新人:2059/4/22(火)17:23:30 ID:EVA2014Srd

 因みに『残酷な天使のベーゼ』は使徒討伐の為のクランですのでC級以上の方を募集しています


798:牧葉・真理・苛巣鳥明日:2059/4/25(金)16:49:44 ID:EVA2014Forth

 そんで、クラン『ブンター』は『残酷な天使のベーゼ』の子クランでモンスター討伐をメインとしたクランだよ

 興味のある方は是非どうぞ


799:名無しの冒険者:2059/4/26(土)16:57:24 ID:PPiyPrin2013

 >>795 かと言ってこんな一般掲示板で募集掛けてもねぇ~┐(´∀`)┌ヤレヤレ


800:沖田総一郎:2059/5/1(木)8:57:24 ID:OkitSitLow

 クラン『神泉組』はプレイヤーとノピスの合同クランです

 AIWOnとの交流をして異文化を研究するクランです(異性交流も含まれます)

 勿論モンスターも狩ります

 入隊したい方は王都エレミアにある神泉組屯所の局長までお願いします









次回更新は8/23になります。

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