葛藤
左頬を腫らした私は相当目立つようで、色々なひとからジロジロ見られます。
教室に戻ってきて亮君と目が合うと、亮君は驚きのあまり、声を失ったようになって慌ててこちらに走ってきました。
「沙良!」
「えへへ」
亮君の顔をみたらほっとしてしまって、涙腺が決壊です。
ぽろぽろぽろぽろ、うつむいて涙をこぼす私に亮君があせっているのは分かりますが、次から次へとこぼれる涙を止めることができません。
「ちょっと、つかまってろ」
え、と思ううちに引っさらわれるように膝の下に手を入れられ横抱きに運ばれます。
「え、うきゃおおおおおおお」
「黙ってて」
全速力で階段を移動するのは、恐ろしすぎます。
しょうがなく亮君にしがみついて目をつぶりました。
どうか、亮君がこけませんように、こけませんように
お祈りが通じたのか無事でしたが、保健室についたときにはフラフラになってしまっていました。
「怪我はほっぺただけだよ、亮君」
「何言ってるんだ、こんなフラフラで、今にも倒れそうじゃないか」
そ、それは主に亮君のせいではないかと・・・・。
しかし、私は空気が読める子、余計なことは言わずに口を閉じていました。
なんだか、びっくりしすぎて悲しい気分がどこかへ飛んでいってしまいました。
「どうしたのかな?」
保健医の先生が何事かと白衣で近寄ってきます。
「あら、これはひどいわね。ちょっとまっててね」
手際よく消毒してガーゼをした後、氷を渡してくれました。
その間、険しい表情をしていた亮君が聞いてきます。
「沙良、何があった?」
「・・・・なんでもない」
「なんでもないやつが、あんなに泣くか。誰にやられた?」
「・・いいたくない」
ますます険しい顔になっていく亮君からの圧力に、心配をかけているのを感じます。
でも、なんでしょう。どうしても、言いたくないんです。
やすっぽい正義感とかじゃなくて、ただ、彼女に仕返しをして終わりっていうのは間違ってると思うんです。
私の中に大きな葛藤があって、でも悩んで考えるべき事柄だってそう感じているからでしょうか。
亮君の目を見ながら言います。
「あのね、調べないで。心配してくれるのは分かっているんだけど、ちょっと1人で考えたくて。悩んで悩んで、結論がでたら、助けてもらうかもしれないけど、今は待っててほしいの」
亮君もこちらをじっと見ています。
分かってほしい気持ちをこめて、その目をじっと見返します。
しばらく見つめあった後、ほうっと亮君がため息を吐きました。
「わかった。待つよ」
よかった、そう気持ちが緩んだときに続けて言います。
「ただし、今後しばらく俺らの誰かといつも一緒にいること。体育はしばらく休みだ。いいな」
うぅ、ただでさえ苦手な体育がさらに悪い点に・・・。
「いいな!」
「う、わかった」
「みんなもそれでいいな」
そういうと、カーテンの影からユリウス君、京ちゃん、みっちゃん、茜ちゃんがもう、しょうがないなぁと言いながらでてきました。
「なっ。いつの間に」
「気がつかないくらい見詰め合っているからよ」
ふふっと笑う京ちゃんに、なんだか気持ちが楽になります。
「みんな、ありがとう」
心配してくれる友がいる。そのことが非常に嬉しくて、また泣いてしまいました。




