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第2ボタン



さて、今日は卒業式があるそうです。


茜ちゃんのお兄ちゃんは今日卒業です。


どうでもいい情報でしたね。


しかし、誰にとってもどうでもいい情報だというわけではなく、うちのクラスの女子達はギラギラしています。お兄ちゃん人気あるんだね。


「にい様卒業かぁ」


朝からしょんぼりしている茜ちゃん。

ぽんぽんと頭をなぜなぜしてあげると、嬉しそうな顔をしてくれるんだけど、その後またふにょーんと沈んでしまう。


ぽんぽん、にこにこ。ふにょーん。ぽんぽんぽん、にこにこ。ふにょーん。


面白いな。


と、茜ちゃんで遊んでいると、お兄ちゃんが校舎から出てきました。

今日は卒業式だから、卒業式が終わったら自由にしていいことになっています。

でも、6年生は最後にクラスで先生から話を聞いて、お友達と話をして、そうして最後にこの校庭にでてくるのです。

校庭にはいたるところに花をもった女の子や男の子が待っています。

クラブ活動でお世話になった先輩や、あこがれの先輩に渡すつもりのようです。

特に女子は、第2ボタンをもらおうと気合がはいっているようです。


もちろん、茜ちゃんもにい様に渡すべくお花を用意しています。


私もおうちにお邪魔させていただいている義理で、小さいお花を用意しました。


亮くんやユリウス君、京ちゃん、みっちゃんはそれぞれお世話になった先輩がいるらしく、そちらにお花を渡しに行っています。


茜ちゃんのお兄ちゃんは、出てきたと同時に女の子2人からお花を渡され、しかし、なにやら首をふって断っています。

しかし、遅れてはなるものかと、周りにどんどん女の子達が集まり、さらに焦りと興奮により過熱してしまった1人の女の子制服のボタンに手を伸ばし、引きちぎってしまいました。


それを見た周りの女の子たちも、遅れてはならぬとばかりに制服に手をのばし、お兄ちゃんの姿は埋もれて見えなくなってしまいました。


おぉー、埋まった、埋まった。

女性に囲まれて埋まってしまうとは本人も幸せな生涯だったにちがいない・・・


なんて勝手に遠い目をしている私とは違い、茜ちゃんは蒼白です。


「にい様が、大変・・・」


しょうがないのでそばにいってアドバイスを叫びます。


「制服を脱いで、投げるんだ!」


アイドルコンサートも真っ青なくらい綺麗に制服が飛んで、女の子たちがおっかけ、中からボロボロになったお兄ちゃんが出てきました。


ありゃ、色男が台無しですね。


「にい様大丈夫?」


甲斐甲斐しく、ハンカチで汚れを落とすのを手伝う姿にじーんと感動しております。


手伝いませんよ・・・。


「あぁ、なんとかな。痛たたた」


先ほどの争奪戦に加わった女子達はさすがに気まずいのか、近寄ってこれないようです。


「にい様、卒業おめでとう。本当は寂しいけど・・・」


涙目になりながらも、ちゃんとおめでとうが言えました。

うぅ、茜ちゃん、素敵です。

わが子の成長を見守る親のような心境で感動しております。


「茜、ありがとうな」


頭をぽんぽんしながら、嬉しそうにしているお兄ちゃんもきっと同じ気持ちなんでしょう。

やっぱり私がぽんぽんするのより、お兄ちゃんにしてもらったほうが格段に嬉しそうです。


「あ、これついでに」


ささっと、お義理の花束を渡しておきます。


「沙良、お前、花まで平凡なんだな」


む、せっかくあげた花になんて事を言うんだ、ぷんぷんです。


「感謝の気持ちもあらわせないお子様には十分だと思います」


怒ってそう言うと、感謝の気持ちねぇ、と考えこんだあと、にっこり笑ってカッターシャツの第2ボタンをひきちぎりました。

ポーンと投げてきたのをキャッチすると、ウィンクしながら言いました。


「やるよ。制服より心臓に近いだろ」


白いカッターシャツからは少し素肌がのぞき、吹きつく風が肩までの茶色い髪の毛の幾筋かをそっと運ぶ中、茶色い瞳が悪戯っぽく輝いてこちらを魅了します。


む、無駄に色気を振りまくのはやめてほしいです。顔が赤くなってしまいました。くぅ。

悔しいのでぶっきらぼうに答えます。


「そりゃ、どうも」


まぁ、シャツのボタンがとれた時に活躍しそうですね。ポケットに入れておきます。


「誰からもボタンもらえなさそうだからな。ボランティアも大事だしな」


さすがにイラッとしてしまったので大声で叫びます。


「まだカッターシャツのボタンがあるそうですよー。早い者勝ちでプレゼントだそうです」


「ちょ、お前、沙良」


「お、来た来た」


先ほどの制服のボタンが当たらなかった女子たちが、我先にとやってきます。


「ください!」


「わたしにください!」


先ほどの二の舞になるのは嫌だったのか、お兄ちゃんはダッシュで校庭を走り回り、女の子たちから逃げ惑っていました。


ざまーみろです。


「沙良ちゃん」


茜ちゃんがこちらをみるので、ん?と聞いてみると、真剣な表情で言いました。


「そのボタン、大事にしてあげてね。ちゃんとしまっておいてあげてね」


「う・・うん」


そうですよね。さすがに折角卒業式でもらった第2ボタンを予備ボタンとして裁縫箱にいれようだなんてひどい考えだった気がします。反省・・・。








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