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ピアノ練習

いつも読んでいただいてありがとうございます。嬉しいです。



ピアノの前でポツンと座っている少女。


えぇ、現在の私です。


東条のお家のレッスンが始まったのですが、やはり、2歳からはじめたという茜ちゃんにはぜんぜん追いつけそうもなく、一生懸命やってるんですが、左手も薬指も上手に動いてくれません。自主練習の時間をまず2時間ほどいただいているのですが、なかなかできないことにイライラして、涙がでてきてしまいました。


うぅ、ぐすん、才能ないのかな。


どうしても、涙が出てくるので、楽譜が読めません。


悔しくてガシャーンと殴りつけるようにピアノにあたってしまいました。

自己嫌悪です。


ちょっと落ち着こうとバッグからハンカチを出して涙を拭いていると、ぽんぽんと頭を叩く感触が伝わってきました。


「こら沙良、何ピアノ破壊しようとしてるんだよ、相変わらず凶暴だな」


やさしいその手とは裏腹に非常にイヤミです。


「なんだ、茜ちゃんのお兄ちゃんか」


ぽんぽんとされると、ますます涙がでそうになるんだから、やめてほしいです。切実に。


「癇癪起こしてもピアノにあたるなよな」


そういうと無理やり隣に座ってきました。くぅ、邪魔だ。


「ほら、この指とこの指を交互に弾いてみろよ、どんな下手糞な平凡女でも、それくらいはできるだろ」


「できるよ」


むかついたので大きな音をだすよう、両手の人差し指を交互に鍵盤に押し付けます。


「ちょ、お前、手は卵型にって習っただろうに。下手なりに形だけでも頑張れよ」


うるさい、お前が命令するなと、気分は最悪です。


「で?もうやめていい?」


「駄目。たったそんだけでも音楽なんだって教えてやるよ」


そういうとカッターシャツを腕まくりし、ピアノに構えます。

む、意外と繊細な指してるんだな。私と違って大きくて、指も長いです。

馬鹿兄貴のくせに生意気だ。


そんなことを思っていると、隣から綺麗な音がポーンと鳴り響きました。


音はどんどん重なり、広がっていきます。


私の出すたった2音は、隣から紡ぎだされる旋律に引き込まれ、深め、響きあっていきます。

音が共鳴している。

驚いて隣を見てみると、茜ちゃんのお兄ちゃんは驚くほど真剣な表情をしてピアノに向かっていました。

白いシャツが大人の雰囲気を作り、茶色い肩までの髪が揺れ、茶色い瞳が切なめにひそめられています。

思わずドキッとして手を止めてしまいました。


「こら沙良、止めるなよ」


むっとしてこっちを見ている姿は、この間から見ている馬鹿兄貴で、なんだかほっとしてしまいました。


「やーすまんすまん。でもありがとう。なんか音楽だった」


「なんだ、そのコメントは」


ふっと笑って、許すその姿に、あれ、なんだか人間として成長したような感じがします。

ほっかむりが彼の人格を矯正してくれたんでしょうか。


「まぁ、がんばれ」


そういって立ち去った彼に、なんだか意外なものを見た気がして、目をぱちぱちしてしまいました。




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