お宅訪問3
「あなた、いったい何が目的でユリウスに近づいてらっしゃるの?」
2年生になった某日、私はユリウス君のお宅にはじめて訪問させていただいております。
目の前にはドイツ生まれらしい貴婦人らしい装いのユリウス君そっくりの女性版といった感じのユリウス君ママがいらっしゃいます。美しいですね。思わずひざまずいてしまいそうです。しかし、眉間にしわをよせてプルプル震えている姿はいかにもヒステリーといった感じでできれば近づきたくありませんが・・・。
なんだか困った顔でユリウス君がお母様が招待しなさいって言ってるんだけど、と言ったところでなんとなく察しがついていました。むしろ今までそういうことがなかったのが奇跡的な気もします。
冒頭のどっかで聞いたことがあるような使い古された台詞はユリウス君のママの台詞です。
ユリウスママ、悪役の才能ないね・・・。
「えーと、ユリウス君と遊ぶことでしょうか」
こめられたイヤミ成分を華麗にスルーして普通に答える。
「そ、そういうことじゃなくて、ユリウスは将来上流階級のお嬢さんと一緒になるんだから、あなたにウロチョロされたくないの」
「はぁ」
ちょっとプルプル震えながらユリウスママは続けていく。
「いざというときに頼りになる実家をお持ちの方じゃないと。貧乏人じゃあユリウスを助けられないでしょう?」
「はぁ」
いやぁ、日本語お上手ですよね。
私のドイツ語に比べてびっくりしてしまいます。
ちなみに、心配してついてきてくれた亮君と不安そうなユリウス君は現在別室で待機させられております。
「そういうことだから、もう今後ユリウスに近づくのはやめていただける?」
高飛車にそう言い切ったことで満足そうに笑うユリウスママに、自分なりに聞き取ったことを確かめる。
「えーと、つまり、将来ユリウス君は会社をつぶしかけて困ってしまう。で、妻の実家のお金を当てにしないといけない事態になるだろうと。そのお金で危機を乗り越えてなんとかやっていけるようになるだろうから、お金の無心ができないような貧乏人は近づかないでほしいと。そういうことでしょうか?」
あ、しまった。ユリウスママが倒れそうになっている。む、解釈が間違っていたのだろうか。
「でも、友人や嫁もお金を持っていたとしても出してくれるかどうかはなぞですよねえ。弱みでも握って脅すか、土下座でもするか。どちらもつらい人生になりそうですねぇ」
うーむ。ユリウスママの考えるユリウス君の人生は厳しいもののようだ。
優しそうに見えて実はちゃっかりもののユリウス君がそんな道をたどるとは到底思えないけれど、備えあれば憂いなしかもしれない。
ブツブツ呟いていると、顔を真っ赤にして般若のようになったユリウスママが怒鳴るように言ってきた。
「失礼なこと言わないで頂戴!ユリウスがそんなことになるわけないでしょう。あなたこそ、お金が目当てでユリウスに近づいているんでしょう?」
「え、いや、そんなことありませんけど」
「お金が目当てじゃないなんて逆に信じられないわ」
「えーと、じゃあお金目当てです」
「まぁ、やっぱりお金が目当てだったのね」
なんだこのコントは。
もしかして芸人としてコンビを組んだら結構いいところまでいけるんじゃなかろうか。
「えーと、じゃあ報酬をもらって、小学校の間だけ身の程をわきまえたお友達づきあいをするという契約という形ならいかがでしょう?安心できますか?」
「ふん、やはりお金目当てだったのね。さもしいわ。いくら必要なの?」
「じゃあ一回遊びに来るごとに500円というのはいかがでしょう?使い道には文句を言わず、使ったものについても取り上げたりせず、自由にさせてくれるというのは?」
「ふん、かまわないわ。でもその代わりにユリウスと恋愛することは許しません。わかったわね?」
「はぁい」
わーい。話がついた。お小遣いゲットだぜ。
早速喜んで亮君とユリウス君に報告にいきました。
「これからユリウス君と身の程をわきまえたお友達づきあいをすることを許してもらえたよ。しかも遊びにくるたびに500円くれるって。これでいつでも遊びに来れるね」
亮君とユリウス君はびっくり固まっています。
ユリウスママもびっくり。私が話すと思わなかったようで、あとで金目当てだとでも教えるつもりだったのかもしれません。
「お母様、うれしい。ありがとう」
ユリウス君は心配していただけに、とても嬉しかったのか、笑顔でお母様に飛びついていきました。
ちょっとズルをした気もするけど、まぁ、結果オーライかと思われます。




