お宅訪問2
「明日は茜のおうちに来てね」
昨日九条家で言われていたので、本日はちゃんと手土産を用意させていただきました。
茜ちゃんの好きなクッキー。なんとリボン型。
いろいろ悩んだんですが、手作りで茜ちゃんの好みのものを送ろうと、家に帰ってから頑張って焼かせていただきました。気に入って食べてくれるといいな。
茜ちゃんのお家は意外なことに日本庭園がひろがる和風のお家でした。とはいえ、家の中は洋風とミックスしているようです。長崎のグラバー邸とかああいった感じでしょうか。洋風がまじっているとはいえ、全体に重厚な威厳をかもしだすような佇まいになっております。
「ここで待っててね」
と、茜ちゃんがでていったので、比較的こじんまりとした客間で待たせていただいています。手にはしっかりクッキーの袋を握り締めて。
茜ちゃんのご両親はどんな方なんでしょうね。粗相がないようにしなくては。
緊張して待っていると、廊下へ続くドアがバタンと音を立てて急に開きました。
急な物音にびっくりして体がビクッってしてしまいます。
「お前が茜の友達か」
そこに立っていたのはお父様というにはあまりに小さい茜ちゃんに似た男の子でした。
茶色い髪を肩あたりで切りそろえた髪の毛は茜ちゃんとお揃いで、しかし、茜ちゃんと違って意思の強そうな茶色い目をギラリとむけ、眉をあげ、肩を怒らせています。
「えーと、茜ちゃんのお兄様ですか?」
「知ってるくせにわざとらしいことを言うな」
少年は目の前までくると、ますます険しい表情で罵声を投げかけてきます。ちょっと自分より大きい子に前に立たれると怖いですね。
「僕に近づきたいからって茜を利用しようとするなんて最低だな。お前みたいなブスだれが相手にするか。今後いっさい茜には近づくな」
んーむ。どうやら、ものすごい誤解があるような気がします。
しかし、目の前の迫力に怖さで手足がプルプル震えてきました。このままでは折角のお土産を落としてしまいそうです。まずは椅子に置いておこうかな、そう思い、移動させようとしたところ、またしても逆鱗に触れてしまったようです。
「はっ、こんなシケたプレゼントいらねーよ」
何をどう思ったのか折角のお土産はひったくるように取り上げられ、床に投げ捨てられ、さらに足で踏まれて粉々になってしまいました。
茜ちゃんのために、必死でつくったクッキーが・・・。
呆然と見ている私にさらに追い討ちをかけるように少年が罵倒します。
「ざまーみろ」
そんなカオスな状況に終止符を打ったのは茜ちゃんの鈴のような声でした。
「沙良ちゃん、おまたせ。にい様??」
「茜ちゃん」
茜ちゃんの顔を見てほっとした私はよほどひどい顔になっていたのでしょう。茜ちゃんがかけよってきます。
「茜、そんなやつに近寄るな」
そういいつつ、どけた足元をみたら、クッキーは粉々のぐしゃぐしゃになってしまっていました。
「うぇぇえええええええええん」
もう限界です。変な男の子に絡まれて、罵倒されて怖かった分、茜ちゃんの顔をみてほっとしてしまい思わず涙がポロポロこぼれてしまいました。さらに、クッキーを渡したら喜んでくれるかなと昨日一生懸命作ったときの気持ちや、今日ウキウキしていた気持ちが蘇ってきて、もう号泣です。悲しくてしょうがありません。
茜ちゃんはしがみつく私にオロオロしながらなすがままにされてくれています。
「茜ちゃんのくっきー。ひっく。リボン型だったのに。うえええん」
目の前の二人が呆然としているのにもかまわずに、茜ちゃんのご両親が迎えに来るまでひたすら泣き続けたのでした。




