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白鳥さんの黒歴史  作者: 夢水四季
しずかとしょかん
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下の名前で

「本当に、初めて見た時から、素敵な名前だなあって思っていたんだよ」


「初めて見た時?」


「うん、二年生のクラス発表の時にね。新しいクラスの名簿を見た時、一番最初に目に留まった名前だったんだ。この『宇宙』って名前の人は、どんな人何だろうって」




『橘宇宙といいます。宇宙と書いてソラと読みます。……えっと、趣味は読書で、部活動には所属していません。これから一年間よろしくお願いします』




 新しいクラスになって、初めてのホームルームは自己紹介であった。


 この時間は、あまり好きではない。必ず誰かが「その漢字はないだろ」などと呟くからだ。長いことやってきたので、もう慣れた。名前関連で人に怒るのは面倒くさいので止めた。


「笑いを取ろうとしてスベってた人の後だったけど、橘君は淡々と話してた。硬くて真面目な人っぽいけど、趣味は合うなあっていうのが第一印象だった。……その後も橘君の印象は変わらなかった。休み時間は、私と同じで、いつも本を読んでた。よく図書室にも来てたから、読んでる本は歴史小説だって、すぐに分かった。あと、授業中に周りが騒がしくなってくると、苛々し出すよね。その時にシャーペンをカチカチやってるのって、癖?」


 全く自覚がなかった。そんなところまで見られていたなんて恥ずかしい。


「僕、そんなことしてます?」


「うん。カチカチ、少し五月蠅いくらい」


「直すように努力します」


 まずは癖を自覚するところから始めないとな。


「話を戻すけど、橘君がしずかとしょかんに来て、いろいろとお話するうちに、橘君のイメージが変わったの。最初は、しずかとしょかんのことを受け入れてもらえるか、とても不安だった。でも、橘君は自然と受け入れてくれた。それに、とっても話しやすい人だった」


 浅羽さんが、嬉しそうに僕を見ている。


「そっ、それは浅羽さんだって同じです」


「うん、そうだね。私たちって似た者同士かもね。……それで、私たちって、いろいろとお話して、けっこう仲良くなったと思わない?」


 仲良く……。確かに、そう言われればそうかもしれない。


「……そうですね。僕も同年代の女の子とこんなに話が弾んだのは初めてです」


 心霊研究会の白鳥さんとも長く話していたことはあるが、趣味も違うし僕は相槌を打っていたのが大半だったから、話が弾んでいたとは言えない。鷲羽先輩を挟んでの三人の会話は楽しかったのだが。


「じゃあ、宇宙君って呼んでもいい?」


「……えっ⁉」


 急展開過ぎてびっくりしている。女子からの名前呼びなんて小学生以来だった。


「せっかく仲良くなれたのに、名字呼びっていうのもよそよそしいと思ったんだけど。……もちろん、私のことも満月って呼んでほしいな」


 名前で呼び合うなんて、友達か恋人みたいではないか。


「僕のことは名前呼びでも構いませんが、いきなり呼び方を変えるのは僕には無理なので、僕はこれからも『浅羽さん』って呼びます」


 本当は変に意識してしまって、顔が真っ赤になりそうだからであった。


「じゃあ、せめて敬語は止めて。私たち同級生でしょ」


「……それは了解」


 僕たちの距離が縮まっていく。それが嬉しかった。


「じゃあ、呼ぶよ。……ソラ君、ソラ君……ウチュウ君」


「最後のは、僕をからかったのかな」


 こんなお茶目なからかいも浅羽さんなら許せる。


「アハハ、ごめんね。……宇宙君ってピュアで感じやすい人なんだね」


 ピュア? どこが?


「でも、宇宙君のそういう所、好きだなあ」


 浅羽さんが僕に微笑む。顔が一気に熱くなるのを感じた。




 僕は、多分、浅羽さんに恋をしているのだと思う。



ついに「宇宙君」と呼ばれるようになった宇宙君。

でも宇宙君は照れて、まだ苗字呼びですね。

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