お前が泣きそうだったから
児島達也と鷲羽真琴の関係に焦点を当てつつ、シリアスになり過ぎないように、所々に心霊研究会の面白エピソードを折り混ぜながら、つらつらと思い付くままに話す。
青山東中学校への入学、橘宇宙と鷲羽真琴との出会い、心霊研究会の発足、学校の七不思議調査、ミステリーサークル作成、夜の墓場で肝試し、全校テレパシー実験等の数々の活動、日々の何気ない会話から実は深い意味が込められていたかもしれない会話、鷲羽真琴の卒業、そして彼の隠していた秘密、先輩を救えなかった絶望感と後悔、虚しく終わった最後の足掻き、その時の決意。
「今回、児島達也に久々に会って、思ったのよ。私は今まで先輩を救えなかった後悔から逃げていたのではないか、って。先輩を思い出の中の人物にして、楽しいことばかりを回想していた。苦い記憶に蓋をして『先輩も、きっとどこかで同じ空を見ている』なんて勝手な空想で無理やり美しい思い出話として終わらせてしまった。……あの時私と橘君は諦めるべきじゃなかった。泥臭くてもいい、どうにかして先輩を探し出して文句やビンタでもお見舞いして、それでやっと物語を終えることが出来る。そうしなきゃいけなかったのよ」
後悔は死ぬほどしている。そんなことは何度も思った気がするけれど、結局は本気じゃなかったのだ。本気でそう思っているのなら、死に物狂いで先輩を探さなければならない。友人と優雅に紅茶を飲みながら談笑する、のほほんとした日々を送っていてはいけない。
「私は先輩との楽しい思い出ばかりに浸って、現実の先輩のことをきちんと考えていなかった。過去の先輩ばかりを回想して、現在の先輩を丸っきり見ていなかった。先輩は今もきっと幸せなはずだ、と勝手に思い込んでいた。それが、そもそもの間違いだったのよ」
へらへらと笑っていたその裏側で、彼も苦しんでいたのだろう。あんな老けた顔をしていても、口調や思想が大人びていても、あの頃の先輩は私とたった一つしか違わない子どもだった。平気なはずがない。きっと先輩だって沢山悩んだのだろう。私や橘君に打ち明ける選択肢もあったはずだ。それを選ばなかったのは、私達に自分を背負わせたくなかったからだ。私が真実を知れば、間違いなく先輩を助けようとしただろう。それが分かっていたから、先輩は真実を語らず私達の前を去った。もし私達が自力で真実に辿り着いたとしても、手紙に「私のことなど忘れてくれても構わない」と書くことで、それ以上の追及を拒否した。自分のことを思い出話にするように巧妙に仕向けたのだ。
「だから、私は…………」
どうする?
「わ、私は…………」
その先の言葉が出てこない。
何が正しい?
「何が『正しい』のかなんて誰にも分からない」
あの日、児島達也が言ったことが脳裏を掠めた。
「私は……、どうしたらいいの?」
泣きそうなほど情けない声で、高村君に助けを求める。
「……おれだって、どうしたらいいのかは分かんないけど……。でも、とにかく話してくれてありがとう」
ふわっと何かに包まれたような感触がした。
「え……」
向かい合った席にいた高村君の姿が消えている。最初は何が起きたか全く理解できなかった。
「え、え、ちょっと……」
私が瞬きしている間に背後に回った高村君が、私の頭を撫でていた。少女漫画でよくあるような頭ポンポンというやつだ。
「……って、ちょ、な、何やってるのよ!!」
怒鳴りながら、高村君の手を大慌てで払い除ける。
「そ、そんなに怒るなよ。薫もよくしてるだろ」
この男、デリカシーの欠片もない。
「だからって、あなたも同じことをしていい理由にはならないわよっ! この馬鹿、大馬鹿っ!」
私は高村君のぽかぽかと殴る。
「お、おい、止めろって。だから、何でそんなに怒るんだよ。ちょっと頭撫でただけだろうが」
「あなた、もう一回ちゃんと少女漫画読んできたら? こういうのはね、イケメンしか許されないのよっ!」
「だから、おれがやったんだろ」
「は?」
「だって、お前が泣きそうだったから」
た、確かに、涙目にはなっていたかもしれないけれど。
「こうすれば泣かなくなるかな、って」
私のために、わざとやったってこと?
「……もう、何よ、それ」
そんなんだから……。
「だから、あなたはイケメンになれないのよ」
「悪かったな、イケメンじゃなくて」
それでいい。あなたは、そのままでいい。
ありがとう。
白鳥さん一人で抱え込まなくていい。
高村君がいて良かったですね。




