本っ当に行くんだな?
次の日。
私と高村君は夜の学校に忍び込んでいた。
「おいおい、本当に大丈夫なのかよ」
「大丈夫よ。この時間、学校には誰もいないから」
不安げな高村君に、私は自信たっぷりにこう言った。
土曜日曜または夏休みなどの長期休暇の深夜、私の母校である青山東中学校は、ほぼ確実に校舎内に人がいなくなる。この地域は犯罪発生率が極端に低く、特にガードマン等を配置する必要はないだろうと学校側が判断したためだ。そんな気の緩んだ考えに若干の不安はあるが、今回の私にとっては好都合である。
「でも、やっぱり悪いことしてる感ってのはあるぜ。もし見つかったらどうするんだよ?」
「大丈夫よ。火災報知器でも鳴らさない限り、私達の侵入がバレることはないわ」
実際、バレたのも心霊研究会の同輩・橘 宇宙君がしくじったあの時だけだった。
「やけに自信たっぷりだな。てゆーか、慣れてるよな」
「私が何度ここに忍び込んだと思っているのよ。もうプロよ、プロ」
「そこ威張るとこじゃないぞ」
まあプロとは言っても、青山東中限定なのだけど。他の学校だと勝手が違う。それに侵入の仕方だって鷲羽真琴の押し売りだ。
「でもさ、お前つうか心霊研究会がよく侵入できたっていっても、三年前の話だろ。今は防犯意識が高まってるんじゃないのか?」
「そこも大丈夫よ。この三年間で青山東中に新たな防犯設備が導入されたなんてことはないわ。強いて言うなら職員室に薙刀が置かれたそうだけど、今回は関係ないわね。それを使う教師が今学校内にいない訳だし」
「何でそんなに詳しいんだよ」
「回覧板に書いてあったのよ」
「お前ん家にも回覧板が回ってくるってのには笑えるけど。意外とちゃんと読んでるんだな」
「まあ、自分の住んでいる地域の情報はきちんと把握しておかないとね」
将来、地域に根ざした探偵になるためにも。
「それでは、無駄話はこれくらいにして、そろそろ行きましょうか」
「本っ当に行くんだな?」
「ええ、無論よ」
このやり取りが、橘君と先輩がしていたもののようで、少し懐かしさを感じた。
「それに、もう学校内には侵入してしまっているしね」
「ああ、確かに低い塀だよな。こんなにあっさり入れるなんて驚いてるぜ」
塀の高さも三年前と変わっていない。防犯意識がそれ程高まっていない証明だ。
「それでは、学校の七不思議調査に出発よ」
「おい、趣旨変わってんぞ」
「あの空に捧げる回想録」のエピソードも思い返していただけると嬉しいです。




