いつもみたいにおれを罵れよ
それから、私と高村君は灯の恋(かどうかはまだ不明)を見守る日々が続いた。灯に時折話を聞くと、お互いの学校のことや趣味のことを話したり、メールアドレスを交換したりと、まあ距離は縮まっているようだった。
しかし、一週間も経つと……。
「あの、達也さんのことなんですが……」
灯の気になる相手は児島 達也という。
「何だよ、上手くいってないのか?」
何となく、灯が相談に来るような気はしていた。
「いえ、多分違うと思うわ。そうでしょう、灯?」
「はい。……上手くいってない、という訳ではないと思うんです。お互いのこと、趣味とか学校生活とか、色々とお話はしました。私、話すのそんな得意じゃないけど、達也さんはちゃんと聞いてくれて、すごく優しい人だなって思ったんです。でも……」
灯が少し口ごもる。
「でも、達也さんは肝心なことを話してくれないんです。何で、毎日公園で思い悩んでいるのか、その理由を聞こうとしても、はぐらかされてしまって……」
一度話しただけだけれど、児島達也は人に悩みを話すようなタイプではないと思う。一人で抱え込んで、何か聞かれても上手くはぐらかす。
心霊研究会の先輩・鷲羽真琴がそうだったように……。
「私、これ以上聞いてもいいのか、不安になるんです。また、烏丸先輩の時みたいになるんじゃないかって」
烏丸君の一件の時も、灯の相談がきっかけだった。実際に調査をして、烏丸君の暗過ぎる秘密を暴いてしまったのは私達だ。灯には烏丸君の「心がない」という秘密は知らせてないけれど、家族の不和と家庭裁判の結果は見ている。
「そうなる可能性はないとは言えないわね。知らない方が良い真実もあるかもしれない。でも……」
その先の言葉を発することに躊躇いを感じた。真実は時に残酷で、心に重く圧し掛かる。それを背負うことの重みを、私は知っている。いつもだったら、意気揚々と児島達也の身辺調査にでも向かっていただろう。重みを背負うのが私や高村君だけなら、まだいい。だけど今回は灯に伝えなければならない。彼女に、また何かを背負わせてもいいのか。
「白鳥?」
口籠ってしまった私に高村君が声を掛ける。
「……ごめんなさい。私にも、よく分からないのよ」
ああ、なんて情けないのかしら。
「何か今日、お前らしくなかったぞ。どうしたんだよ?」
「そうね。……ごめんなさい」
私の家のダイニングで、高村君が夕食の支度をしながら訊ねる。私はテーブルに突っ伏したまま適当に返事をする。
あの後、とりあえずは「現状維持」ということに話を無理矢理まとめた。児島達也が自分から話そうとしない限りは悩んでいた内容に触れないこと。ちょうど今頃、二人はあの公園で話をしているはずだ。
「謝るなよ。……ったく、お前がそんなだと何か調子が狂うぜ。ほら、いつもみたいにおれを罵れよ」
「そうね。……ドM高村君」
「覇気がないぞ」
「そうね。ごめんなさい」
「あー、もうっ! さっきから、そうねそうねって、お前やっぱり何かおかしいぞ。お前の方こそ悩んでることがあるんじゃねえのか」
「………………」
料理の手を一旦止め、まるで熱血教師のように私と向き合う高村君。
「一人で悩むなよ。おれにだって、話を聞いて一緒に悩むことくらいはできるからよ」
「………………」
何よ、こんなのに勇気付けられるなんて……。
「全く、何カッコ付けているのよ、高村君ごときが。私が悩んでた? 違うわ、これはすこし遅めの五月病よ。ちょっと患ってただけなんだから勘違いしないでよね」
何て言い訳よ。我ながら笑ってしまうわ。
「……ありがとう」
「このツンデレが」
「なっ、ツンデレじゃないっ」
彼が隣にいてくれて良かった。
これで、漸く決心が付いた。
「明日の夜、私に付き合ってくれない?」
鷲羽先輩の友人・児島君が再登場です。




