表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《神》の古具使い  作者: 桃姫
終語編
371/385

371話:悪魔でも魔女! 始まりの物語

※十月が見たのとは少し位相のズレた未来線上です

 ある日のこと、高校からの帰り道、道端に本が落ちていたわ。いえ、エロ本じゃなくて、ただの本よ。そんな男子高校生が落ちているのが気になるけど拾うところを誰かに見られたらその瞬間世間体が死ぬからチラ見をするけど、余計怪しい、みたいな状況じゃないわよ。黒い革の装丁がされたれっきとした本、いやまあ、エロ本もれっきとした本ではあるのだけれど。って、エロ本の話はもういいわよ。


 まあ、んで、その黒い革の装丁の本。見た感じ、相当高いモノだと思うのよ。素人目だから絶対とは言えないけど、普通、ごっつい革の表紙の本が落ちてたら高級品だって思うじゃないの。まあ、だからと言って興味を持ったわけでもないんだけれど。でも、なぜかその本が気になったのよね。落ちてるモンを拾うのは抵抗あるんだけど、なんか拾わなきゃいけないなーって思ったのよね。


 わたしの家は、鷹之町市(たかのまちし)東町(ひがしまち)にある一軒屋なのよ。両親は海外にいるわ。アメリカ……だったかしら?よく聞かないまま、一人暮らしを承諾したからあんまり覚えてないけど。まあ、というわけで、家について、ちょいと今日は汗もかいたし、シャワーの準備をしてから2階に上がって荷物を置いたわ。


 んで、とりあえずシャワーを浴びちゃうわ。ったく、最近は夏だから暑くなってきたわね。いえ、夏以外も暑くなってきてるけどね。この家はわたし一人だし、別に着替えを持って行かなくてもいいし、楽。どうせ洗濯するのも自分なんだけど、まあ、その辺は、明日の自分にまかせて今日着てた服を脱ぎ散らかす。最近、このブラもきつくなってきたし変えどきかしらね……。


 っと、軽くシャワーするだけだし、まあ、さっとで済ませましょうか。頭からシャワーを被る。あー、立ちながらのシャワーって、髪が重くなって首が疲れるから結構だるいのよね。ただでさえ肩凝るってのに……はぁ?肩凝るほども胸ないだろって?ふざけんじゃないわよ。てか、そもそも、胸がデカいから肩を凝るってのは迷信……とは言わないけど、それよりも以前に、わたしら女の方が肩が凝りやすい身体の作りになっているのよ。頭、腕ってのとくっついてる肩ってのは、頭が5kgと仮定しても常にそれ以上の負担がかかり続けるってこと。んで、男子と女子の肩幅の違いを考えりゃ分かるでしょ?小さいもんと大きいもんで同じ大きさのもんを支えようってんだから、小さいもんのほうが負担かかるってわけよ。


 はぁ……こんなもんかしらね。ざっと汗だけ流したから、髪の湿り気を取りつつ、ささっと身体を拭いて、終わりっと。


 さぁ~てと、とっとと、今日拾った本の確認でもしましょうかね。あの本からは、黒く蠢く胎動を感じた……なんていうと中二臭いけど、でも、それが事実なのよね。あれはきっと、超常的な何かなんでしょうね。


 と、言うわけで、この本を読むことにしましょうか。ベッドに座って黒い革の装丁の本の表紙をまじまじ見る。なんで椅子に座らなかったのかと言えば冷たいから。


「んー、何語かしらね。日本語でも英語でもドイツ語でもロシア語でも中国語でも韓国語でもギリシャ語でもヘブライ語でもないわね、たぶん」


 あ、別にわたしがそんなに言語に詳しいわけじゃないわよ。世の中にはスマートフォンって言う女子高生の味方があるんだから。んでもって、手書き入力で、書いてある文字をまんま手で書いたら勝手に辞書と照合してくれるってわけ。対応言語がさっき言ったやつなのよ。そもそも、普通の女子高校生たるわたしがそんなに何か国語も話せるわけないじゃない。普通に考えれば分かるでしょ?


「で、解読は無理ってことね。おーけー、開いてやろうじゃないの」


 ピンをまわして、本の錠を外して、表紙をめくる。その瞬間、一瞬、世界が暗転した。目眩から立ち直った時、わたしが目にしたのは本から立ち上る黒い煙。でも、決して燃えているわけではないわ。じゃないと鼻につくもの。とくに革が焼けたらね。それがないってことは、これは煙って表現よりも雲って表現の方が正しいのかしらね。真っ黒な雲、暗雲、それがとぐろを巻くように昇っていく。

 CG……じゃないでしょうね。今の技術力なら不可能ではないけれど、ARには、映写機か投影機のどっちかがいるし、そのどっちもこの部屋にはないものね。映写機ってのは、立体投射するための機械で、複数方向からの映写が少なくとも必要になるわ。投影機ってのは、ゴーグルなりスマートフォンなりのそれを映す媒体。別に現実にそれと現れていないくてもそれを通してみたときに別の何かがあるものよ。まあ、どっちでもないんだから本物ってことでしょうね。もしくは、この本に幻覚作用でもあるか、ってところ?


 雲は、みるみるうちに形を整えて、そして、とぐろを巻いた龍へと変貌した。ドラゴンではなく、龍。西洋の龍ではなく、東洋の龍のこと。


「俺を起こしたのは……お前、か……?」


 龍の言葉がしりすぼみになっていくわ。どうかしらのかしら。もしかして、呼び出したのこんな小娘だから驚いた、とかかしらね。


「……1つだけ問うてもよいか?」


 黒い龍はわたしに向かって鋭い声でそう問いかけてきた。もしかして、わたしに凄い力を感じて、「貴様は何者だ」みたいな感じかしらね。


「ええ、いいわよ」


 ここは自信満々に受けるところよね。胸を張って、その質問に答えてあげようじゃないの。さあ、なんでも質問してきなさいよ!


「では問うが……なぜお前は裸なのだ?」


 ……あ~、そう言えばそうだったわね。シャワーの後何も着てないもの。でも、龍の癖に一々そんなことを気にするなんて細かい龍ね。


「シャワーを浴びた後だからよ」


 わたしの自信満々の言葉に、龍は僅かにたじろいでいたわ。何よ、龍の癖に、人の裸に難癖でもつけようっての?


「まあ、いいか。では、娘。俺と契約して悪魔とならないか?」


 そこは魔法少女でしょうに。まあ、こんなゴツいマスコットキャラは願い下げだけれども。それにしても悪魔、ねぇ……、――面白そうじゃないの。


「いいわ、黒龍(こくりゅう)、あんたと契約を結びましょう」


 わたしは龍を黒龍と呼んだ。龍は意見を見せないってことはそれでいいんでしょうね。まあ、悪魔になるってんだから代償はあるでしょうし、何やら厄介事に巻き込まれるような気分だけど、それでも面白い、それが一番よ。


「ふむ、いいだろう。しかし、分かっているのか?お前は、その代償に、体内は悪魔と化し、力は魔女に匹敵する魔法力を内包することになるのだぞ」


 体内が悪魔となって魔女に匹敵する魔力ねぇ……、悪くない条件じゃないの。まあ、このくらいな想定の内ってやつよ。


「分かってるわよ……。でも、そのほうが面白そうじゃない」


 だからわたしは黒龍に笑ってやったわ。面白いってのは最高じゃないの。別に今までの人生がつまんなかった訳じゃないわ。でも、もっと刺激が欲しいのよ。


「ふっ、面白い。どうなっても知らんぞ。一度契約してしまえば、例え、もう止めたいと言っても、止めることは出来んが、いいんだな」


 わたしは頷く。この身体を犠牲にすれば楽しさが得られるってんなら、そん位いくらでもくれてやるってのよ。


「娘、お前の名前を教えろ」


 そうね、名前を名乗っていなかったものね。だから、わたしは黒龍に向かって名前を名乗るわ。


篠宮(しのみや)……篠宮(しのみや)雷無(らいむ)よ」


 わたしの名乗りにやや驚いたような表情を見せた黒龍。龍でも表情ってのはわかるもんなのね。意外な発見。普通の動物って分かりづらいじゃない。


「雷無、か……。分かった。では契約を交わそう。


 我が契約のもと、篠宮雷無を悪魔と化し魔のものと成せ……【悪魔化(デモニゼーション)】」

 その瞬間、身体が、変質するのが分かったわ。身体の中に何かが入ってくると同時に、わたしの周囲に着物が生まれる。オレンジ色の着物。それにいつの間にか袖を通している。


「これで、お前は今日から『悪魔でも魔女』となった」


 悪魔でも魔女ですか……。面白いじゃないですか。魔法とかも使えるんでしょうかね。試しにやってみたいものです。


「言っておくが、そう簡単に魔法は使えないぞ。魔法と言うものにも理論と言うものがあるのだ。力を手にしたからと言ってすぐさま使えるわけでもないし、それに、この世界には西洋魔術と東洋魔術、代償魔術、古代魔術と言った魔法の種類もある。どの魔法を使うかによって言語や体系が全て変わるんだぞ!」


 あらあら、それは面倒くさいですねぇ。流石にそこまで「まるちりんがる」にはなれませんので。


「では、試しに……


 ――淡く光れ、蛍光


 ――灯し燈火、火漏(ほも)れ灯


 《螢火(ほたるび)》」


 ぽっとわたくしの指先に炎が灯ります。淡くまるで蛍の光のような幻想的な炎が。試しにやってみればできるものではないですか。


「なっ……馬鹿な……。何の教えも無しでこの出来……天性のものかっ!」


 あらあら、驚きすぎではありませんか?そんなに難しい魔法ではないはずですよ。「れべる」で言えば初級から低級程度の簡易な魔法です。


「思ったよりも同調率が高いのかもしれませんね。元の属性が魔族よりだったか、聖に対する何かを持っていたか、とにかく、わたくしの状態は急速に悪魔化と同調しているようです。おそらく、――契約執行の言葉さえあれば、すぐさま変身することも可能な状態に陥っているでしょうね」


 わたくしの言葉に、返事が返ってきませんね、どうかしたのでしょうか?


「お前、口調変わってね?」


 ……え、あれ、本当ですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ