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《神》の古具使い  作者: 桃姫
終焉編
315/385

315話:第十四階層・朱に光る鶴の輝きSIDE.D

 あたしは階段を昇りながら、懐かしい【力場】を上に感じて、足を止めたわ。あれは、間違えようのない、あの子の【力場】だもの。しかし、そうなると皮肉さえも感じる。つくづく人の運命を翻弄する塔だと思うわ。特に三神の運命を翻弄する、地獄の塔。紳司も気づいたんでしょうね、上で待っているのが誰であるか。しかし、誰の業かしら、可能性としては、あたしと紳司、それからユノン、晴廻。煉巫も候補だったけど、今いないから除外ね。


「恐ろしい、な。だが、一緒に居るのは明日葉君、かな」


 そう言えば、近くにもう1つ【力場】があるわね。そう、この感じも、紳司の言う通り、明日葉敬介じゃないかしらね。となると、今回は、あたしや紳司ではなく、そして、ユノンでもないわ。


「晴廻、不知火、あんた等の番が来たようよ。しかし、まあ、よくもあの子を引き当てるわね。何か直接的なつながりがあったかしら」


 相手が2人組だったら、十中八九、この2人の文でしょうね。しかし、よりにもよってあの子たちを引き当てる分、凄い引きを持っているような気がするわ。まあ、その引き運がいい意味での凄いか、悪い意味での凄いかはどちらと言えるか微妙だけど。


「でも、ある意味よかったんじゃないか。あの2人だったら非好戦的だから、そんな大変にはならないだろう。絶対死ぬこともないし。死にかけたら助けてくれるだろうしな」


 まあ、そうでしょうね。絶対に死ぬことはないでしょうし、それでも勝つことはないでしょう。だって、別格だもの。


「ただ、過剰回復で逆に細胞が死ぬとか言う殺す方法は持ってるでしょうけどね。ただし、あの子が使うとは思えないけれど。あの子の場合、希狂榧……気が狂っているほどの癒し魔だからね」


 癒し魔と言うと語弊があるかもしれないけど、実際そうなのだから、他に言いようがないのよ。


「そうよね、でも、よりによってあの子、っていうのが引っ掛かるわ。紳司、まさかとはおもうけど、この先に……」


「可能性はある。だが、姉さんの方はともかく、俺の方は、刃奈以外に該当する業がいない上に、刃奈はたぶん天海君だろうから、該当なしだ。そっちはありそうなのが数人いるからな、可能性としては断然高いだろうぜ」


 まあ、それもそうね。おそらく、刃奈、真琴、深紅、と業が有りそうなのがゴロゴロいるもの。それだけに、可能性があるわ。前々回は、精霊としても参加していたはずだしね。


「まあ、そうと分かれば、とっとと行きましょう」


 あたしの言葉に、みんな進み始める。さて、あの子とのご対面、どうなるかしらね。ま、懐かしい、あの子の顔でも思い浮かべながら行きましょうか。





 階段を昇り終えると、そこには、予想通りの男女が立っていたわ。それを見た深紅の動揺は酷いものだった。もう、ありえないものを見た様な、そんな動揺の仕方。でも、深紅、あんたは分かっているはずでしょう?この塔は、こういうものなのだから。


「いくつもの業を乗り越え……いや、幾つもの業を目の当たりにし、仲間を進んできた者たちよ、見よ!この方こそこのフロアを守護している者だ」


 ドヤ顔で隣の赤髪の幼女をたたえる変態、こと、本局直属・医療対策班・副班長の明日葉(あしたば)敬介(けいすけ)。人体構造のスペシャリストで、火野(ひの)海里(かいり)に並ぶ変人としても局内で名高かった人物よ。なお、海里は現在も存命中。


「ちょ、恥ずかしいからやめてください!」


 そして、赤髪を揺らしながら敬介にそう言うのは、恥ずかしがりやで引っ込み思案、去れと医療に関しては誰よりも真摯で、全てを癒すと謳われた狂人。朱光鶴希狂榧之神あけみつるきくるがやのかみこと緋葉(あかは)よ。そう、三神が一柱、朱野宮の祖。


「相変わらず、だな……」


 深紅が感慨深そうに、懐かしそうに、そう言ったわ。まあ、確かに、非常に懐かしい光景よね。この2人が一緒に居るってのが特に。


「お久しぶり、ですね……。こうして、契約の3人が会うのはいつ以来でしょうか。それに、天龍寺さんもお久しぶりです」


 緋葉は誰に対してもこんな態度だったわね。あたしは、タメ口でいいっつっても癖で、と言って直ることはなかったもの。それにしても、随分と懐かしいものを背負っているじゃないの。


「あれは、……そう、佳美弥(かみや)はあの後、立原に戻したから、あれがここに会っても不思議はない、と言うことでしょうか」


 刃奈がそう呟く。どうやら、どこかで最近、あれを見ていたようね。まあ、あれほど有名な刀もそうそうないわ。舞子の関係で、あの刀と剣は3振りとも立原神社に奉納されていたはずだしね。


「まて、緋葉。契約の3人、だと?それはどういう意味だ?」


 あら、深紅、それをここで聞くの?それは野暮って言うものじゃないかしら。それを察したのか、緋葉は、あたしに……()に微笑むと、深紅に言うわ。


「それは、いずれ分かることではないでしょうか。そうですね、具体的に言えば次の階にでも分かるかもしれませんよ。さて、敬介さん、例の物を」


 その言い方に笑いをこらえていると、恥ずかしかったのか、やや頬を染めて俯いたわ。相変わらずね、緋葉。


「ほい、どうぞ、班長」


「だから、名前で呼んでいいって言ったじゃないですか。もう、わたしは医療対策班でも烈火隊特殊医療隊でもありませんから」


 そんなやりとりをしながら出したのは、ペットボトルだったわ。あの中の液体、ただの液体じゃないわ。やや赤みがかったその液体は、血とかでもなく、その中に緋葉の【力場】を感じるものね。


「わたしは業ですが、何も問答無用のゴーレムではありませんからね。どうぞ、セーブポイントと言うわけではありませんが、回復用のアイテムみたいなものです。わたしの御手製ですけどね」


 懐かしいわね。あれを()は飲んだことがあるわ。少し、酸っぱいけど後から甘味のあるのよ。紳司も知っているでしょうね。


「ねぇ、紳司君、あれって飲んでも大丈夫なのかしら?」


 と、言い出したのは秋世ね。まあ、知らない人からしたらそう言いたくなるのも当然なのかもしれないけれど。でも、知っているあたしや紳司にすればありがたい贈物なのよね。


「問題ない。お前が飲まないなら俺が貰うぞ。結構うまいし」


 紳司はそう言って、緋葉から受け取った。流石ね、その一言で、とりあえず安全っぽい雰囲気を作り出したもの。


「あたしにも取って。それにしても、緋葉のコレ、飲むのいつ以来かしら?」


 紳司が投げてくるボトルをキャッチする。この水の効能は、体のリフレッシュ、眠気覚まし、一時的なら回復力増加。


「いつぶりでしょうね。久々に作りました。……と、コレ、念のために、原液です。丁度2つありますから。お2人預けておきますよ。水さえ出せれば量産できますから」


 原液ね……もしかしたら、これを使えば、あれができるかもしれないわね。まあ、するかどうかはおいておいて、いざと言う時の回復にも使えそうだし。


「助かるわ。あ、あと、敬介、あんた、確か、燚炎火の玉を持っていたわよね。貸しなさい。あれを使うから」


 燚炎火と火の数の変化する勾玉は、それこそ、切り札のようなものだけど、敬介が持っていても宝の持ち腐れ。あれの活用方法は、別にあるんだもの。


「い、いいけど、返せよ?」


「確約はできないけれど、できれば返すわよ。どうせ、この塔の中以外で使うことはないでしょうし」


 と、言って、敬介から奪い取るわ。そして、それを紳司のところの鳴凛とか言うのに渡すわ。舞子から貰った武器っていえば、海里の作った忌憚惨燚(フュヘルンベッザ)ことWS-450【天使の輪(エンジェル・ハイロゥ)】。今は、劫火が消えているでしょうし、使うべきではないのも分かっている。でも、この玉があるのとないのでは基本性能が違うのよ。元々、この玉は【天使の輪(エンジェル・ハイロゥ)】を形成する属性ごとの玉、5つの中の1つ。森林木の玉とかそう言うやつね。今は4つで稼働しているけど、それは海里が1つ取り出して、緋葉に与えていたから。それを敬介が貰っていたの。今、それを元に戻すわ。


「これは、【天使の輪(エンジェル・ハイロゥ)】が?」


 鳴凛が驚いていたけれど、今はそれどころではないわ。さて、と、とりあえず、特製ドリンクをみんなに配らなきゃね。


「それにしても、……フフッ、貴方は……、その魂は……、」


 緋葉は、秋世を見て、微笑んでいたわ。まあ、その気持ちは分かるもの。でも、生憎、秋世に自覚はないみたいだけれどね。


「初っちゃんもお元気そう……なのかな?とにかく、存在を確立できていて何よりです」


 初っちゃんとは、緋葉が「さん」付けしていないことからも分かるように、と言うより、流石に子供に「さん」付けはしなかったからその名残から分かるように刃奈のことよ。


「ええ、お久しぶりですね。私としても、もう一度会えてうれしいですよ」


 刃奈は、緋葉に笑っていた。あれは心からの笑いなのでしょうね。そして、緋葉は、天上を見上げた。


「それにしても、1人はこの塔で眠り、1人はこの塔で朽ち、1人はこの塔に挑めず、散った。つくづく、わたしたちはこの運命の塔に翻弄される運命なのでしょうね」


 ええ、本当に、そう思うわよ。そう言う宿業を持っているのかもしれないわ。雪ぎきることのできない、そんな深き深き業を持っている、そう言うことなんでしょうね。


「さて、休憩はそこそこにしておいてくださいね。飲んだら回復したでしょう?そして、挨拶が遅れたことをお詫びします。佐野晴廻さん。お久しぶり、と言って分かりますか?」


 やはり知り合いなのかしら。何やら関係がありそうだったけど、晴廻はキョトンとしているし……。刃奈は、晴廻のことを何やら知っている様子だけれど、それも緋葉との関係ではないでしょうしね。


「……あ、もしかして、あの時の」


 あの時?つまり、どこかで会っているってことかしら。それはこの世界、それとも異世界?


「ええ、そうです。貴方が、血筋の力に目覚めるのを朱天(しゅてん)さんと一緒に手助けをしたものですよ」


 血筋の力に目覚める……あの邪神復活の時のことね。なるほど、力に目覚めたのには緋葉が関わっていたのね。でも朱天ってのは聞いたことが無いわね。

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