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《神》の古具使い  作者: 桃姫
終焉編
310/385

310話:煉巫VS紅蓮の王SIDE.Crimson Princess

SIDE.Crimson Princess in Blaze Dragon


 わたくしは、徐々に見えてくる次のフロアから光に緊張を覚え始めていましたの。それも仕方のないこと。いくら常識外れの回復力を有する朱野宮の人間であっても、相手はあの【紅蓮の王】ですわ。伝説と言っても過言ではない最強の域へと足を踏み入れている人間でしょう。そして、一行の足並みに合わせて階段を昇ると、とうとう、次の階へと足を踏み入れて、止まります。そこにいたのは、少し慌てふためいた様子の青年でしたわ。


「おいおい、どういう状況だよ、コレ?!俺ってば、ベッドで寝てたよな。夢か?夢なのか?もういい加減にこういうパターンやめて欲しんだけど?!どうせアレだろ、ドラゴンとか怪獣とか男とかが出てくるんだろっ!知ってんだよ!」


 どうやら気が動転していて、わたくしたちにも気づいていらっしゃらないようですけれど、あれが【紅蓮の王】なのでしょうか。


「ったく、もうじき奴らとの決戦があるってのに、もうこんな事してる場合じゃねぇんだけどなぁ……。いつ奴らが仕掛けてきてもいいようにしときたいってのに、何なんだよ!」


 【紅蓮の王】と思しき青年はどうやら戦いに備えていた模様で、その相手がいつ仕掛けてくるかもわからないからと困っている様子。と言うより、本当に【紅蓮の王】なんですの?


「ちょっと、そこのあんた、いいかしら」


 暗音様が話しかけます。すると、そこで初めて気づいた、と言うようにこちらを向きますわ。ここまで感知能力が低い人が【紅蓮の王】……?


「うおっ、超美人?!何これ、何人か男もいるけど、女だらけ、しかもみんな美人?!なんだコレ、ヤベェ!」


 ……ベリオルグ、本当にこの方が【紅蓮の王】なんですの?わたくしにはどうもそう思えないのですけれど。いくら封じられているとはいえ、ここまでおバカな青年に成り下がるでしょうか。


「いや、あいつは、割と昔からこんなところもあった。好色家だったからな。女に言い寄られてはエルシアに耳を引っ張られていた。記憶を封じてこうなるのは分からないでもないな……。しかし、情けない。あの一騎当千、勇猛果敢な王が、こうなるのか」


 あら、好色家、それは初耳ですわ。しかし、彼が封印された状態ならば、突破は容易そうですわね。【力場】もほとんど発せていないようですし。体内に【力場】を感じるのであるのは分かりますし、それが強力なのも感じますが、使えなければ意味はないのです。


「っと、もしかして、奴らの仲間か何かか?色仕掛けで俺を落としに来たのか?って、流石にそんな馬鹿なことしねぇだろうし、とりあえず、あんたらは敵なのか?」


 何か、構えを取るような雰囲気を見せながら、そう問いかけてくる青年。その目は、険しいもので、王と言うよりは戦士の瞳。歴戦の勇者と言った雰囲気すら見せるのは、かつての面影なのでしょうか、それとも、封印後に死線を潜り抜けてきた証拠でしょうか。おそらく後者なのですわね。それは根拠のない力によるものではなく、自分の力に裏打ちされた実感があるのでしょう。


「敵か、味方か、と問われたら敵だろうな。戦わなくちゃならないから」


 紳司様の言葉に、彼は、真剣な瞳で、そして、その灼熱の【力場】が高まったかと思うと、腕を中心に爆発的な【力場】の解放を感じますわ。封印しているのじゃありませんでした?


「来い、【煉焔の籠手(フラム・ガントレット)】ッ!」


 あれは……《古具(アーティファクト)》ッ?!いえ、違いますわ。もっと、別の……。まさか、あれは……、でも、なぜそんなものを?!


「【聖具(セイクリッド・アーク)】?!【彼の物】の創りしシステムの1つをなぜ彼が?」


 その力の強さはどことなく、圧倒されるかのようで、わたくしは、一歩後ずさります。その波動、気配は、まるでこちらを呑みこむかのようにすら感じます。これが【紅蓮の王】の片鱗だとでも言うのでしょうか。


「行くぜッ、オーバードライブッ!」


 籠手が眩く光って、その深紅の光が彼の姿を包み込んでいきます。そして、クラスアップをしたかのような【力場】の上昇。これは……?!


「【煉焔の将軍(フラム・ジェネラル)】ッ!」


 これこそが、【血塗れ太陽(ブラッティー・サン)】さんのおっしゃっていた【真紅の将軍】の所以なのでしょうか。その姿が、……特に変化していませんが、と、とにかく、【力場】の上昇があったことは間違いないようです。


「さぁ、どっからでもかかってきやがれ。俺は、どんな奴にも負けるわけにはいかねぇんでなっ、本気で行かせてもらうぜ!」


 燃ゆる【力場】を感じながら、わたくしは、どこか、悟ったような気分になります。わたくしが今ここにいる意味と彼がここに来た意味と言うものを。


「清二様、美園様、紳司様、暗音様、皆さん、先に行ってください。わたくしは、彼の相手をしますので」


 さあ、ここからが、見せ所と言うやつですの。わたくしは、おそらく、この力を振るう最後の機会となるのでしょう。だから、行きますわよ、ベリオルグ。


「――火炎拳。両炎の拳」


 両手の拳に炎を纏わせ、彼に向き合います。彼はと言えば、わたくしが戦うということを聞いて、構えています。皆さんはわたくしの言葉と共に、もう進んでいらっしゃいます。ならば、気兼ねなく戦えますわ。


「あんた、美人だからって俺は手加減はしないぜ……。だから、降参するならしてくれよ、あんまり傷つけたくないからな……」


 そう、優しいのですね。でも、【紅蓮の王】、今の貴方は、その優しさから「覚悟」が足りないようですわ。そう、「(かくご)」が。


「行くぜッ、フラム・エクスプロージョンッ!!」


 向こうからの攻撃。やはり、炎を纏われるのですね、貴方と言う人は。封じられても【紅蓮の王】と言うことでしょう。ですが、ぬるい。

 その炎の拳は、わたくしの身体の中心を射抜くように当たりますが、このようなぬるく手緩い炎をなど、わたくしには効きません。


「貴方の炎は、この程度なのですか?」


 そう言って、わたくしは火炎拳を彼のガントレットに目がけて放ちます。【聖具(セイクリッド・アーク)】ですから耐えはするでしょうが、しばらく使用不能くらいには追い込めますわ。


「なっ……俺の炎が効いてない、だと……。そんな、あの炎は、神の炎。効かねぇはずが……。ヤベェ、今やられるわけには……」


 神の炎、ああ、【聖具(セイクリッド・アーク)】は【彼の物】の創ったものですもの、神の炎なのでしょう。しかし、そんなものに頼らなくとも、……


「貴方は、そんな紛い物の、木端な神の炎になど頼らずとも、もっと強力で強靭な炎を、己の中に宿しているはずでしょう」


「おい、煉巫、貴様、何をする気だ。まさかとは思うが……」


 ベリオルグ、今は黙っていてください。今、やらねばいけないことは何か、今、やるべきことは何か、それはわたくしが決めることなのですから。


「貴方の(ともがら)は、今も生きていらっしゃいます。きっと、あの方も貴方が己を取り戻すことを望んでいるでしょう。さあ、思い出してください。貴方の、過去を。天地開闢の炎の地に生まれたスルトの末裔なのですから」


 その言葉に、彼は、頭を押さえ、それと同時に、わたくしの中から、ベリオルグの気配が徐々に消えていくのが感じられますわ。寂しくはありますが、おそらく、それが運命と言うものなのです。ここにわたくしが来た時から、……決まっていたのでしょうね。


「ああ、ああ、これは……。そういうことかよッ。チッ、あの馬鹿がッ、そうならそうと言っとけってんだ。死んだと思ったじゃねぇかよッ!」


 雰囲気が、気配が、【力場】が、先ほどまでと一変しますわ。それは、まるですべてを呑む大炎。天から降り熾る炎のようにも、地獄から湧き上がる業火のようにも感じるそれは、圧倒的で、絶対的。火の化身でも現れたのではないかと思うくらいの気配。


「嬢ちゃん、ありがとうな、今までウチの馬鹿龍(ベリオルグ)を預かってくれてよ。もうじき、決戦だったし、おそらく奴らが狙っているのも俺の世界だ。こいつは、天命……運命だったのかもしれねぇな。それが分かったから、嬢ちゃんは、コイツを返してくれたんだろう。自分が炎を失うって知っていて」


 彼の口調も、だいぶ違うものになっています。先ほどまでの青年然とした口調から年期を感じさせる戦士のような口調へ。


「ええ、最初から、貴方が目覚めればわたくしは力を失うと聞いていましたし、覚悟の上ですわ。【紅蓮の王】。わたくしは、これでも、貴方にあえて嬉しく思っていますの。あの4国の王と言われた貴方が、どれほどの人かそれを目の当たりにして、しかも、これほどの人物で、嬉しく思っていますわ」


 その言葉に嘘偽りはありません。彼の王、その王国を背負いし方がどれほどのものか、気になっておりましたが、ここまでとは……。


「さあ、今のお仲間も、そして、4人の娘も、貴方を慕っていた人魚姫も、友の姫神も、共に眠りについた閨の妻も、待っておられるのでしょう。貴方の帰還を。もしかしたら、帰れば、ここでの出来事は、それこそ夢物語の如く消えてしまうかもしれません。さあ、お早く」


 わたくしは、ここで、礎と、踏み台となる役割なのでしょう。それは分かっていますわ。ですから、お早く、行ってくださいませ、【紅蓮の王】よ。


「もし、ここでのことを忘れようと、俺の代わりに、暴れ龍の御守をしてくれた大恩人を忘れるわけにはいかねぇな……。嬢ちゃん、名前を教えてくれねぇか?」


 あっけらかんと、晴れ晴れとした威厳のある笑顔で、わたくしにそう問います。剛毅で、立派な方なのですね。清二様と言う憧れが無ければ惚れてしまっていたかもしれませんわ。


「朱野宮煉巫。アルノフィア公国が巫女衆、第七位階【朱巫女】の座に着いております」


 この世界で、数度も語ったことのないその地位を、【紅蓮の王】へと明かします。この方ならば、それを聞いても何も言わないのでしょう。いえ、言うかもしれませんが、悪くは言わないのでしょう。


「ほぉ、あの巫女衆七階位か。そうか、苦労人だな。でも、今は比較的自由そうでよかったぜ。じゃあな、煉巫とやら。最後に、俺の名を……真名を明かそう。

 俺の名は――――――」


 その名前は、彼の放つ炎と共にわたくしの元へと届きます。体を焼け焦がすほどの熱い炎、先ほどのぬるい炎とは大違い。徐々に回復をするわたくしの身体、そこに違和感を覚えますわ。わたくしの回復は、朱野宮の血筋。回復の瞬間に炎を出して、傷口やその一帯を炎と化すことで再構成しやすくしているのはベリオルグの力、だったはずですのに、わたくしの今の回復には炎が灯っていましたわ。


「お前の中に俺の一部を残している。今まで世話になった礼だとでも思ってくれ」


 そんなベリオルグの声が、頭に響きます。ベリオルグ……貴方と言う龍は……。


「あばよ、また、会えることを祈っている」


 そう言ってわたくしに背を向ける【紅蓮の王】の背中にはバサァとムスペルヘイムの紋章が刻まれたマントが現れていましたわ。炎を背景にそのマントを付けた姿はまさしく【紅蓮の王】。ああ、第一位階(フェノル)さん、【紅蓮の王】はやはり、王にふさわしき御方でしたよ。


 去りゆく彼に手を伸ばしながら、彼女のことを思い、わたくしの意識は、混濁と微睡に呑まれていくのでした。どうやら、一気にベリオルグが抜けたことで魔力の総量のバランスが崩れたのでしょうね。今は、しばし、眠りにつきましょう。

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