292話:鈴々&イシュタルVS燦月&アルス SIDE.Ishtar
SIDE. Ishtar
どうやら、彼の前では、世界管理委員会のNo.2とて形無し……と言うわけではなく、何か深い事情があるんでしょう。彼のことだから、何があっても不思議ではないけれど。剣の名前がどうこうと言っていた。それは彼女の持っている剣のことでしょうね。
「さあってっと、コイツはどーゆこった、副委員長?」
木々をなぎ倒して現れた青年は、どこか彼に似た雰囲気を持つ、けれど、鋭い眼光とギラギラとした闘志を持つような人物だった。凶暴で、凶悪で、それでいて、どこかに、うっすらと明るさを持っているような……、それは何かに反射して光る、そうさながら月のような男だった。
「あら、迦具夜君、それはかなりこっちのセリフなんだけど。それに、アルス、貴方もね」
そう言って、男の奥に控える赤毛の女……超越者を見る。見ただけで、分かった。間違いなく超越者である。オーヴァーロード。それが意味するものは……。
アンリミティ・オーヴァーロード、かつて私の生まれた世界の外にいた存在。その魂から分岐して、特異な力に目覚めた者を超越者、オーヴァーロードと呼ぶ。私の神眼と魔眼のようなものから、単なる肉体強化までありとあらゆる超越があるけれど、どんな力であれ、その身から溢れるオーヴァーロードの気配は変わらない。しかも、その気配は濃厚過ぎて、その人物の身の回りにまで残る。
そうした超越者が何人いるのか、と言うことは分かっていない。けれど、兄曰く、「超越者とは奇跡を宿した者で、そんなもの世界ごとにごまんといるだろう」と言っていたわ。まあ、おおむねその通りなのだけれど。ただ、奇跡を宿していても超越者でないこともある。その筆頭たるのが三神や【血塗れ太陽】などの超越者を超越した異次元の存在。いわゆる例外達であり、私のよく知る彼もその1人であるようだし、その姉もそうでしょうね。そして、目の前にいるこの男も、その例外の1人に違いない。
「しっかし、まあ、外は昼か……、嫌なタイミングだぜ」
目の前の男がそう言った。昼が苦手なのか、それとも、昼だと何かダメな理由があるのか、それは分からない。そう思っていると、No.2が呆れるような口調で言った。
「ハッン、なにが嫌なタイミング、ですか?不死身でなくても貴方は十分厄介でしょうに」
不死身……つまり、この男は、夜だと不死身になるということだ。まるで第五鬼人種の夜鬼なんかのようで、でも、それとは違う気配を持っている。数列種とは、どこか違う、異次元の存在であることが分かるわ。
【分析の神眼】で、男の情報を見てみるが……分かるのは、名前くらいのものね。迦具夜燦月、年齢不詳、能力は月の力と?がいっぱい。流石に、ここまで役に立たないと、眼の故障を疑うけれど、隣の赤髪に眼を向ける。
アルス・ディル・デルタミア、年齢149歳、能力は《超越の超越》、現六大魔王の一角にして【最強の王者】の2つ名を冠する者。超越者にして超越者を超越する。
ふむ、眼は正常に機能しているようで安心しました。しかし、我ながら厄介な相手と戦うことになったみたいですね。これは、神眼よりも魔眼の方がいいようね、相性的に。尤も、ステルファンを使う予定はないけど。
24の神眼と21の魔眼を私は持っている。そう、そして、21の魔眼は、やや特殊なものも多いわ。尤も、【汚染眼】や【霊王の眼】なんかはどちらにも分類されていないのだけれど。
《牢愛の魔眼》なんかを含めても、その毛色の強い魔眼だけど、こういう埒外を相手にするにはうってつけなのよ。
「とりあえず、ここから出るにはどうしたらいいんだ、副委員長」
男の疑問に、隣の彼女がしばし黙ってから、答えを出す。その答えは、私はあまり聞きたくないのよね。
「戦って、どちらかが勝つか負けるかしないと無理でしょうね。業との戦いだから」
まあ、そうでしょう。だからやなのよ。全く、本当に最悪な気分。たぶん、迦具夜と言う男にもアルスと言う女にも《隷属の魔眼》は通じないでしょうね。
「なんだ、そんなことならすぐ終わるじゃねぇか。俺の1人勝ちでな」
「え、あたしを守ってくれないの?!」
夫婦漫才じみたやりとりをする男女はひとまず置いておいて、私は、どうするか、考える。超越者の方はどうにかなりそうだけれど、いかんせん、この男の方がどうすればいいのか、全くつかめずにいる。
「馬鹿なことをやっていないで、貴方は、私と戦うことになってますよ、迦具夜君?」
「で、貴方は、私と」
そう言いながら、《隷属の魔眼》で視界の木々を配下にし、操り始める。不意打ちも作戦のうちってことね。
「へぇ、面白い力を持っているな。下位存在の絶対従属か……?アルス、木とか操って攻撃してくるから気ぃ付けろよ」
この男、私の能力に気付いているみたいね。やはり計り知れない。食えない男、とでも言い換えようかしら。種のバレた手品なんてものは、役に立たないから、別の手を考えましょうか。
「そんな絡め手も使えるの?凄いわね……」
アルスの驚いたというような表情。むしろ、こっちが驚いているんだけどね、燦月と言う男に対して。
「あたしが使えるのは、正々堂々と戦う系の力だし」
「ホント、魔王っぽくねぇよな、お前のスキル。どちらかと言えば勇者が持つ力だし」
《超越の超越》。超越者を超越する力。勇者っぽいと言われれば勇者っぽいけれど、ラスボスが隠し持っている力としては十分じゃないのかしら?
「ははっ、まあ、そんなことを言ったら、六大魔王で、そんな魔王らしいスキルを持っていた奴もいなかったがな。炎、超越、魔法、破滅、不死、光喰、どれも主人公が持っていても不思議じゃないからな」
「破滅の力を持つ主人公ってどうなんですか?あと光を喰うとか不死とか……ってああ、全部あなたも持っている力でしたね。炎も、超越も、魔法じみた力も、破滅の力も、光を無効化するのも、不死になるのも。本当、貴方も規格外すぎて嫌ですね」
戦いの前だというのに叩く軽口。それはまるで練習試合か、はたまた、遊び気分か、そんな雰囲気すら感じさせる物言いだった。超越者を越える者たちにとっては、この程度の……この塔に呼ばれた程度のことはなんてことはないってことなのかしら。ああ、恐ろしい恐ろしい。
「さて、と、それじゃあ、本気の勝負とおふざけの勝負どっちが好みだ、副委員長」
燦月はそう問いかける。それは絶対的強者に許される上から目線。つまり、この男は、本気で戦っても、おふざけで戦っても私たちに勝てると言っているも同然なのよ。それこそ、巫山戯るなと言いたいわね。
「あら、手心を加えてくれるなんて寛容な人間にいつの間になったのですか?」
「そりゃ、本気で来いって解釈するけどいいんだな?」
私は、その闘気に対して動くことができなかった。圧倒的な存在感、威圧、そして、まさに最強と言わんばかりの殺気にも似たオーラ。もし、一般人がいれば失禁通り越して気絶かショック死しそうなくらいの強さだったわ。
「じゃあ、アルス……死なねぇように気ぃーつけろよ」
「え、ちょっ、ふざけっ……」
その瞬間、私には何が起こったのか知覚できなかったわ。一瞬にして、何かが起こった。目の前は、黄金の光に満ち溢れた。
――サァ……
その音はあまりにも爽やかな音だった。そして、私は……、
気が付けば、目の前に、双剣を構えて、ボロボロになった彼女が立っていた。まるで、私を庇うように……。辺りを見渡せば木々は完全に消え去っていた。
「おお、流石は副委員長。今のを庇いきるか……。世界そのものを吹き飛ばす一撃なんだがなぁ……」
この男は、つまり、今の一瞬で、世界そのものを破壊する一撃を放ったってことよね。マジで化け物じゃないのよ……。
「それで、残ったお嬢ちゃん、君の相手だったアルスは今ので、あ~、うん、たぶんその辺に転がっているだろう。で、どうする?」
どうするって、この男に挑むか、それとも負けを認めるかのどちらかを選べってことよね?はぁ……、流石に、今の攻撃を見せられて、戦う気になる方がおかしいってのよ。諦めて、降参するわ。命が惜しいもの。
「負けよ、負け。貴方に勝てるビジョンが見えないもの。本当に、貴方何者なのよ……迦具夜燦月」
燦月は、笑いながら言う。
「月の使者の子孫だよ」
そう言った頃には、私を庇った彼女も、燦月も姿を消していたわ。私は思わず、その場に座り込む。ったく、何だったのよ。
え~、大みそかです。年明けと同時に更新するか迷いましたが、結局、今更新します。テザリングでネットにつないでるので長時間やると携帯の通信料がやばいです。
年明けに、できればお年玉として投稿したいです。
あと、デュアル=ツインベル関連ですが、彼女に関しては別のところで明かす予定だったので、ツイニーがどうなってデュアル=ツインベルと言う立場の人間になっていたのかについてはまたの機会ということで。
では、よいお年を。




