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《神》の古具使い  作者: 桃姫
終焉編
289/385

289話:第一階層・鮮血の伏魔殿SIDE.D

 あたしが構えるよりも先に、花月ちゃん、もとい静巴ちゃんが構えを取っていたわ。その研ぎ澄まされた構えは、おそらく相当鍛錬を積んだ構えで、魂に刻み込まれているんだと思うわ。


「来ます!」


 塔の扉が勢いよく開かれ、悪鬼怨霊の類が一斉に飛び出して来る。それを静巴ちゃんがまとめて吹き飛ばす勢いで剣を振るう。その数は数えきれないくらいの量で、かなりキツイ。こりゃ、要らないものの選別どころか全部消えるっつーのよ。


「チッ、有象無象の雑魚が。根堅州国(ねのかたすくに)にでも帰りなさいッ!」


 あたしも、《黒刃の死神(ブラック・エッジ)》を発動して、静巴ちゃんが殺し損ねた雑魚をまとめて粉みじんまで切り刻む。今のあたしにとって、空間を切り刻むなんてことは造作もないのよ。


「おいおいっ!しゃーない!ヒー子、焼き払うぞ!」


 紳司は紳司で、右手から大火力の炎を吐きながら剣で一体ずつ確実に削ってた。雷とかでバーッとやっちゃえばいいのに。


「完全版はこんなことも起きるのかよッ!」


 じいちゃんも、この妖異幻怪どもを相手に戦おうとしているけど、どっと溢れてくるのに対する対策ならあるってのよ。だから、あたしはそいつの名前を呼ぶ。


「紫麗華!」


 分かっていた、と言わんんばかりに戮力してくれる。その手には、あの子の愛槍である蜻蛉切がしっかりと握られていたわ。


「切り伏せ、――蜻蛉切!」


 前方の雑魚どもが塵芥も同然に切り飛ばされて消えていく。勁敵(けいてき)は今のところいないけど、奥の方の【力場】の濃度は相当濃いわね。こりゃ、奥に進むにつれて化け物がゴロゴロしている感じよ。憂懼(ゆうく)の必要はないでしょうけど、このままなら何人か欠けてもおかしくはないでしょうね。


「ぐっ、流石に数が多いわね」


 紫麗華も、全滅させても次から次に出てくる敵に眉根を寄せていたわ。この状況、流石にマズいわね。そろそろ手套(しゅとう)(だっ)すべきよね。仕方ない……か。


「グラムファリオ、力を貸しなさい」


 あたしは自分の中にいる宵闇に輝く刃の獣に呼びかける。現状をどうにかするには、少しばかり本気を出すしかないって結論よ。だからこそ、ちょい、時間がかかってしまうのは許容してもらわないと。


「あ、真希、危ないっ!」


 遠くで、篠宮親子の会話が耳に入って、そのまま抜けていくわ。集中しないとこればかりは、あたしでも難しいんだもの。神経を研ぎ澄ませて、【力場】を、気配を、残滓を、全てを感知して……


「蹴散らしなさい、【黒刃】」


 そして、全ての魔物の存在を根源から切り殺した。1体残らず、完全完璧に、塵芥すら残さないように消し飛ばしたのよ。これで、しばらく出てくるまでの時間を稼げるでしょうね。


「威力も効果も絶大だけど、発動までの時間と消費する体力がデカいのが弱点よね」


 一対多の対軍用の技。念の為に生み出しておいたけれど、まだ完成と呼ぶには程遠いわね。もっときっちりしないと実戦じゃこんな付け焼刃だと、今回みたくギリギリだし。


「今の、あれ、ねえさ……暗音さん?相変わらずバカげたことするなー」


 輝がそんなことを言っているけど気にしないわ。相変わらずって、昔はこんな無茶やってないってのよ。暗殺はもっとスマートにやってたわ。この技は暗殺には向かないから、戦争向けね。


「今のでの負傷者は、真琴だけね。……まあ、よくあれだけの襲撃で怪我人1人で済んだわよね」


 彼方って女がそう言ったわ。そうね、まあ、あの数ならそうかもしれないわ。尤も、全員が防御に徹して時間を稼いで、あたしと紫麗華での特攻をすれば、話は別だったかもしれないけれど。


「僕は、まだ動けるし、大丈夫ですよ。それよりも、これからどうするか、ですよね。深紅さんも知らなかったんでしょ、今の」


 真琴って男がそう言うけれど、そうね、あたしもこの塔の現状は分からないわ。唯一分かるのは紳司だけ。だから、紳司が少し考えるようなしぐさをしてから、口を開く。


「おそらく、時間はほとんどない、と考えた方がいい。今、姉さんがふっ飛ばしたのは外に出てるのと入り口付近の雑魚だけで、奥の方にいるやつらには手つかず。それが外へ出てくるのも時間の問題だろう。それと、構造上、この階で何人かが奥のやつを引き付ける役を買わないと上の階にはいけないだろうな」


 敬語を遣わずに言ったのは、警告を含めての意味があるんでしょうね。それにしても、面倒な構造ね。フロアキーパーシステムのダンジョンね。そして、その周りの雑魚もそこそこ面倒となると、結構強い奴をここに置いていくことになるわ。


「し、紳司、なんで、それが分かるのよ」


 紳司のところの会長がそんなことを聞いていた。大多数の人間が同じことを思っていたのか、それに対して意見する奴はいなかったわ。ただ、紳司ではなく、紳司が紹介を後回しにした静巴ちゃんじゃない方が答える。


「この塔の守護をすべき騎士だから、と言うのが、一番いい答えですかね、旦那(あなた)様」


 そう笑いかける女に対して、紳司は苦笑気味だった。しかし、今は、ガチでそんなことを言っている場合じゃなさそうだしね。


「時間が無いから話は後にしろ。チッ、オレが本気で突っ込むか……?」


 深紅がそう言うけれど、それに関しては反対ね。あの馬鹿、大威力攻撃の威力は確かにデカいんだけど、そこそこ弱点もあるし。


「あんたはダメ。それこそガチもんの雑魚ならまだしもそこそこスピードがある相手だったら、あんたの鎧は重すぎて対応できないでしょ。それに威力はバカでかいけど、精度が悪いから、仲間を先に行かせても、あんたの攻撃に巻き込まれる可能性があるわよ?それとも階段を上るまで耐えきれる?」


 あたしの言葉に、ぐうの音も出ないと言った感じの深紅。さあて、ここで残ればいいのはあたしか、紫麗華か、あと期待できそうなのは誰かしらね。


「だったら、私が残りましょうか?連星剣(このこ)を解放すれば、全員が通る分くらいは稼げるはずですけど」


 静巴ちゃんの言葉に反対したのは紳司。それは、妻だからとかそんな単純な理由ではなさそうだった。


「いや、お前に抜けられるのは正直に言ってキツい。お前の対戦相手は決まってるだろうし、それに、俺と姉さんの切り札はお前の《古具》なんだ。できる限り近くにいてもらった方が助かる。たぶん、お前の相手も難易度的に言えば上で待ってる組だろうしな」


 どうやら、静巴ちゃんの業が何かを紳司は気づいてるらしいわね。それと、あたしと紳司の切り札……?確か、静巴ちゃんの《古具》って……、ああ、なるほど。


「確かに切り札っちゃー切り札よね。だとしたら、こん中でそこそこの精度を持つ対軍の武器を持つ奴に残ってほしいんだけど。基本的に対人の武器が多いわよね」


 うちの両親や祖父母みたいな対人特化が多いから、あまり役に立ちそうなのはいないのよね。ったく、どうしようかしら。


「しゃーない、紫麗華。あんたに頼むわ。蜻蛉切なら、時間稼ぎくらいできるでしょ?」


 あまり手放したくはない切り札なんだけど、仕方がないでしょうね。すると、紫麗華は、その判断が分かっていたと言わんばかりに頷いた。


「……カナ、貴方も残りなさい。おそらく、貴方もこの塔の運命に省かれているでしょうし」


 そう言う紫麗華の顔は、何か覚悟を決めた様な顔だった。この戦いで七星佳奈に何かするつもりなのかしら。まあ、いいわ、一々妹のすることに口を突っ込むのも無粋ってやつでしょうね。


「分かりました。マリア・ルーンヘクサ、貴方の言葉に従いましょう。はぁ……」


 そのため息は何のため息なのかしらね。こうして、この最初の階での引き付け役を買う2人が決まった。まあ、この2人なら実力からしても問題ないだろう。


「紳司、暗音、この2人で大丈夫なのか?」


 父さんがそう聞いてくるのは、2人の実力が分からないからなんでしょうね。パッと見では、片方は幼女、もしくは普通の女性、もう片方は高校生。どう考えても、不安になるでしょう。


「ああ、保証する。この2人なら問題はないと思うよ」


「あたしも同感ね。てか、ぶっちゃけ、ここの最高戦力の一角と言っても過言じゃない2人をこの階に残して進む方が不安だわ。片や最強の【終焉の少女】、片や聖騎士(しろきし)なのよ?」


 とか話をしているうちに【力場】がどんどん濃くなって近づいてきているのが分かる。紫麗華がこの【力場】に眉根を寄せる。


「この【力場】……、フランスの……」


 何か思い当たるものがあるっぽいけど、フランスですって?急になんでフランスなのよ。この塔は、別にこの世界で作られたわけではないでしょうに、フランスってのが関わってくるの?


「ジョワユーズ……まさか、あれが、この塔に」


 ジョワユーズ……、確かフランスでジョワユーズって言ったら剣よね。デュランダルやカーテナと同じ素材から作られたっていうシャルルマーニュが持っていたっていう。でも、それが何で……。


「来るわよっ、切り伏せ、――蜻蛉切っ!」


 突如飛んでくる眩い光の奔流。それは何色にも見える輝きの斬撃。日に30、色を変えると言われるジョワユーズの如く色を変えながら迫ってくる。それを縦に真っ二つで割断する紫麗華。


「やっぱり、あの時のあれが奥にいるわね。カナっ!本気で行かないとかなりまずいわよッ!」


 紫麗華が叫ぶ。それほどまでに危険な何かがこの先にいるということよね。警戒しないと、マズいかしら。紳司は、紫麗華の近くで、話していた。


「ジョワユーズって分かってるなら、任せる。2人とも、終わって無事に会えることを祈ってるから」


 紫麗華との直接の面識はほとんどないはずよね、紳司。まあ、でも、そう言う話でしょうね。


「カナは……会えないかも知れないわ」


 ぱんぱんっとポケットを上から叩く紫麗華。何か入ってるのかしら。でも、あれが死ぬとは思えないし、何かたくらんでるわね。


「とりあえず、さっきの2人以外、全速力で1階を……この伏魔殿を突破するぞ!」


 紳司が戦闘に立って走り出す。それに合わせるように、静巴ちゃんは隣を走っていた。みんなも少し遅れながら走っていく。あたしは殿(しんがり)を務めるとしますかね……。

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