288話:集いし者達SIDE.GOD
三鷹丘学園の校庭にはかなりの人数が集まっていた。その面々を見渡しながら、じいちゃんが口を開く。中には、聞いていないものもいたが、大半がじいちゃんの方を見て話を聞く準備をしていた。
「よし、じゃあ、自己紹介を始める。まずは会長からお願い押します」
じいちゃんが話を振ったのは、天龍寺彼方さんだった。俺は面識があるし、静巴や秋世なんかも知っている人物だろう。
「え、なんでわたしから?!……まあ、いいけど。えっと……天龍寺彼方よ。現在は、天龍寺家当主兼《チーム三鷹丘》のメンバーをしているわ」
黒い髪を風に揺らしながら、彼方さんがそう言った。そして、次の人へと目を配るじいちゃん。どうやら次はばあちゃんらしい。
「次は……私のようですね。青葉美園と言います。彼の夫にあたり、旧姓は立原。そちらにいらっしゃる鳴凛さんとは旧知の仲ですね」
ああ、そういえば曽祖母ちゃんと面識が有るってことは、ばあちゃんと面識が有ってもおかしくないのか。そして、次の人に目を……やるまでもなく、
「えっと順番で言えば僕かな?篠宮真琴だよ。どうにも戦力的に頼りないかもしれないけど、できる限りのことはするからよろしくね」
茶髪の男がそう言って笑った。どうやら、篠宮真希さん父親のようである。つまりはやての祖父にあたる人物で、刃奈も意味深なことを言っていた。
「わたしは、まあ、大体の人が知っている……ああ、一部知らない人もいるわね。龍神の子等が1人、氷室白羅よ」
姉さんとも知人みたいだし、うちの生徒会とも知り合いだが、生徒会以外のメンバーと姉さんの知り合いは知らないだろう。プラチナブロンドの髪が日に反射して煌めいている。
「わたくしは、朱野宮煉巫。火と回復を司っていますわ。多少のダメージならすぐ回復できますので盾役としてご活用いただけますよ」
ドMだからな、この人。堂々とそんなことを言うが、彼女の生態を知らない人にしてみれば頼れる人なのだろう。
「ん、私か……。聖王教会のアーサー・ペンドラゴンよ。本物とはずいぶんと差があるが、まあ、許容してほしいわ」
その時に、姉さんが微妙な顔をしたけど、そういえば、本物のアーサー王の転生体こと雪織旭日とやりあったことがあるんだっけか?
「オレは天龍寺深紅。天龍寺家先代当主だ。彼方や秋世から見れば叔母にあたるな」
薄ら紅の髪を靡かせて、深紅さんが言った。その姿をどこか懐かし気に見る俺と姉さん。これで、じいちゃん以外のじいちゃんチームの自己紹介が終わったか。
「なるほど、では、次は、……ルラさんからですね」
そう言ったのは母さんだった。どことなく父さんの顔を見ていたので、何か意思疎通があったのだろう。それが何であるかは分からない。
「ああ、なるほど、そう言うことね」
姉さんは薄ら笑いを浮かべて、その意味を理解しているようだ。はて……ああ、そういうことか。じいちゃんはまあ、別にしても、父さん母さんを後回しにした理由は分かった。
「えっと、私からなの?まあ、いいんだけど。南方院ルラよ」
パーティーなんかでも会ったルラさんが自己紹介をした。地元の有名人的立ち位置の彼女のことは割とほとんどの人が知っていたようなので、青森組2人を除いては、ほぼ知っていたようなものだ。
「次はわたしね。篠宮真希よ。そこの晴廻ちゃんとは、まあ、昔なじみっていうかご近所さんていうか、まあ、そんな関係よ」
晴廻……不知火覇紋の関係者で夏に姉さんが関わった事件の関係者だったとかどうとか、そんな人物だ。
「流れで言えばお姉ちゃんかな?お姉ちゃんは、九龍彩陽。王司ちゃんのお姉ちゃんなのです!」
うちの父さんの姉的存在である。実の姉などでは決してない。この間、立原家に行く途中で会った九龍沙綾さんの関係者だろう。強く明るい【水色の力場】を感じる。
「はいは~いっと、わたしは、愛藤愛美でーす。またの名を愛と勝利を司る魔法幼女うるとら∴ましゅまろん(☆ミ)。魔法少女独立保守機構CEO、マナカ・I・シューティスターと呼んでもらっても構いません!」
名前を3つほど持つ幼女が、声高らかに叫んだ。俺ともそれなりに縁を持っている人物であり、京都の市原家でいいところを持っていった人物だ。イシュタルの一件でも世話になっているからな。
「他2名が欠席だからな。俺と紫苑、父さんの紹介は少々厄介が付きまとうから後回しだ。若い世代、自己紹介を頼む」
俺と姉さんで目くばせをして、人数の関係で俺の方が先になった。仕方ないので、指示を飛ばす。
「じゃあ、静巴と刃奈、お前らも厄介だから飛ばす。後の面々は市原先輩から順にお願いします」
ここで、静巴も父さんたちの真意に気付き始めたようだ。そして、よくわからなさそうな顔をしたユノン先輩が自己紹介を始める。
「えっと……、市原裕音です。現在の三鷹丘学園生徒会長を務めています。また、京都司中八家の市原の人間でも、一応あります」
一応、というところにまだ確執がある気がする。そんな自己紹介の次に、自己紹介するのは、
「あたしは、ミュラー・ディ・ファルファムです。元聖王教会の神遣者。そして、現在は三鷹丘学園生徒会副会長です」
アーサーの方をチラ見しながらミュラー先輩がそう言った。まあ、聖王教会の時にいろいろよくしてもらっていたみたいだし、何かあるんだろう。
「えっと、三鷹丘学園生徒会顧問の天龍寺秋世です。叔母様やお姉さまなどに恥じないように、まあ、頑張りたいと思います」
居心地悪そうな秋世を、刃奈が見ていた。気持ちは分からないでもない。思い出しているんだろうか……。
「あ、あの、あ、あた……わたしは、冥院寺律姫です。《古具》は持っていませんが、京都司中八家の冥院寺家の【殲滅】の力はあります」
緊張気味の律姫ちゃん。よく考えると、律姫ちゃんとかかわりの深そうな人物がほとんど見当たらないな……。緊張するのも当然と言えば当然か。
「私は明津灘紫炎と言います。京都司中八家、明津灘の人間で、あお……紳司君に救われた身でもあります」
紫炎の自己紹介は、少々かゆくなるのでやめてほしいんだが。しかし、司中八家が3人、元も含めれば6人もいるってのは凄いよな。
「皆様に名乗るのも烏滸がましいのですが、自分は、桜麻由梨香と申します。……スーパーメイド、シュピード・オルレアナが一番弟子でございます。現在は紳司様に仕えるメイドとなっております」
最後の部分で一部三鷹丘学園生にどよめきが起こったが、その瞬間に、スーツからメイド服に変わったことで、どよめきが全体に及ぶことになった。
「えっと、わたしは、橘鳴凛……日向神鳴凛です。その、わたし自体にはこれと言った戦力はないのですが、舞子さんからいただいた武器があるので、それを使って頑張ります」
由梨香の後なので非常にやり難そうに言う橘先生。しかし、その発言に、深紅さんと姉さんが目を見開いていた。そう、彼女が手にした武器は2人を驚かせるには十分な代物だからな。
「空美タケルッス。魔法童女ゆるたる∥たるとぱい、またの名をヴァンキッシュ・V・ヴァルヴァディアと言うッス」
うちの魔法少女枠その1が名乗りを上げた。トリプルVなんて名前もあるけどな。愛藤愛美とは部下と上司に当たるんだろうが、あの組織全体的にフランクだよな。
「私……でいいのかしら?イシュタル・ローゼンクロイツよ。【奇跡の少女】なんて呼ばれていたこともあるわね」
うちの魔法少女枠その2だが、魔法少女名を名乗らなかったのは、組織から離れた決別を意味しているのか、それとも恥ずかしいからか。
「最後は、私、なんでしょうね。はぁ……自己紹介なんて、なんで……、分かってるわよ、マリア・ルーンヘクサ。はぁ……女神騎士団が筆頭、天龍騎士のナナホシ=カナよ」
最初にぶつぶつと呟いてから名乗った。彼女は彼女で面倒なしがらみがあるのだろう。しかし、現状では最強戦力の1人であることは間違いない。
「じゃあ、あたし等ね。っつっても、この順番で行くなら、不知火たちだけよ、自己紹介できるの」
そう言って目くばせする姉さん。そして、よくわからなさそうに不知火覇紋が自己紹介を始めた。
「ふむ、納得は行かんが、まあ、いい。私は不知火覇紋。正直に言うと、私にはすでに《古具》が失われている。どこまで役に立つかは分からんが力になろう」
姉さん曰く、邪神騒動で力を失ったとか。あれを失うってことは一回完全に死んだか、もしくは代償として払ったか。おそらく後者だ。俺の力で蘇生した場合なんかの蘇生は死ぬ前になんとかしているわけであって、それ以降の完全なる死に関しては、《古具》は手放されることになる。
「……せんげ、とつき。よろしく」
不知火のおつきのメイドだ。由梨香が意味深な目線を送っている。
「えっと、あの、わ、わたしは、佐野晴廻って言います。一応、超回復能力があって、基本的に骨の1本や2本折れてもすぐに戻りますが、それ以外の戦闘能力はありません」
驚くことに姉さんチームはこれで自己紹介が終わった。残りは全部、そう言うことなのだろう。そうして、じいちゃんへと回ってくる。
「つーことは、俺か。俺は青葉清二だ。俺を後回しにしたのは、まあ、後のやつらみたいな事情は無くてだな。ただ、紹介が厄介な妹がいるってことだ」
そう言うじいちゃんの傍らに【蒼き力場】で形成された人影が現れていた。蒼き髪に蒼き瞳の少女。
「厄介な妹って酷いわ、お兄ちゃん。私は、第六楽曲洗礼神奏に連なる第六典神醒存在、蒼刃聖よ」
じいちゃんの妹である存在で、今はじいちゃんの中に存在している。龍神の子等の1人でもあるらしい。
「んで、俺がまた厄介な相棒と、厄介な過去があるわけでな……。とりあえず相棒の方から行くか。おい、相棒」
次に父さんの自己紹介。父さんが相棒に呼びかける。すると父さんの中にある【銀の力場】が輝きを増す。
「はいはい、では、わたくしは【断罪の銀剣】のサルディア・スィリブローと申します。いわゆる天使ですわ」
七界と呼ばれる小世界において一世界を担っていた世界より出でた天使たちの1人だ。
「そんでもって、俺だが、えっと、青葉王司だ。いきなりこんなことを言い出したら変なやつと思われるかも知れないが、前世と言うものを持っていてな。その名は蒼刃蒼衣だ」
その名前を聞いた怜斗と讃さん、輝が驚きの顔をしていた。そして、その流れで、母さんも自己紹介をする。
「私は、青葉紫苑。旧姓は七峰。そして、前世においては、七峰蒼子と言う名でした」
こちらに関しては、なぜかある程度確認が取れていたのか怜斗と讃さん、輝も頷いていた。しかし、まあ、よくもここまで揃うものだよな。そう思いながら、姉さんへと目をやる。今度は、姉さんの方が人数が多いからな。
「じゃあ、あたしは中間でやった方がよさそうだから、怜斗、あんたからね」
姉さんの無茶振りに、一瞬驚いた怜斗だが、流石に慣れているのか、すぐに自己紹介を始める。
「俺は、七鳩怜斗。俺にも前世の名前と言うもんがあって、その名前は七夜零斗だ。前世が蒼衣と蒼子さんと言うのなら、俺の義理の父と、面倒を見てくれていたおば……お姉さんに当たるな」
おばさんと言おうとした瞬間に母さんから発せられた怒気に、流石の怜斗も言葉を改めた。
「わたしは、恐山讃。恐山……九浄天神が末裔にして、京山より変化せしその名を冠す者にして、前世の名は、九浄燦と申します。怜斗君と同様に、蒼衣さんは前世の義理のお父様、蒼子さんは面倒を見ていただいたお方に当たります」
その手には天羽々斬が握られているのか、聖なる波動、聖気を強く感じる。
「俺かな。えっと、そっちの紫炎とは幼馴染で、名前は鷹月輝。そして、前世においては、蒼刃蒼衣の息子、蒼刃光と言う名を持っていた。蒼子さんは育ての親、と言うことになって、そして、讃ちゃんは、俺の嫁だよ」
ラブラブな空気を出すな。まったく。しかし、あの家族は、特に蒼衣が早くに死んでいるからこうして集まることは本来なかったはずだ。それがこうして集まっているとは。
「んで、あたしよね。つーか、あたしと紳司がそう言う意味では一番厄介な説明になるわけだけど。青葉暗音よ。前世の名は……八斗神闇音。そして、紫雨零士。2つの前世を持つ女よ」
姉さんの高らかな宣言の後、まあ、この後にも1人、みんなの度肝を抜く存在が待っているわけだが、その前に、2人いる。
「じゃあ、私かな。私は、染井桜子。染井製薬の跡取りなんだけど、前世は、零士の妻、名前は今と変わらず染井桜子だけどね。あ、結婚してからは紫雨桜子かな」
姉さんの妻であるところの染井桜子さんが笑いながら自己紹介をする。もはや、皆唖然としてついていけなくなっているが、うちの一家ならば「暗音だから」で説明がついてしまう。
「青葉零桜華よ。青葉家に養子に入っているわ。旧姓、もとい、元の名前は紫雨零桜華。そこの2人の実の娘よ。ああ、行っておくけれどあたしは転生なんて馬鹿げたことはしてないからね」
零桜華がそう名乗る。そうして、最後、度肝を抜く人の番だ。てか、俺、この人の後に自己紹介をするかよ……。
「じゃあ、私ね。……カナ、そう睨まないでよ。相変わらずなのだから。私は、【終焉の少女】の名を冠する存在。現在の名をマリア・ルーンヘクサ。リリス、ロキ……数多名前は会ったけれど、その中の1つこそ、紫雨紫麗華。朱頂蘭が友にして、紫の予備、紫藤の名を冠する紫藤紫麗華と言う名も持っていたわね」
現時点で、おそらく最高戦力の1人に数えられる存在。【超自然的輪廻転生存在】と呼ばれる無限に転生を繰り返す存在。
「んで、俺の自己紹介ってこ……」
その瞬間、塔の中での爆発的な【力場】の変異を感知した。そして、静巴が連星剣を抜き放つ。
「どうやら、そんなにのんびり自己紹介をしている時間はないみたいですよ」
静巴の言葉に、俺はあることに思い至った。
「チッ、第一階層の特殊機能まで復活してるのかよ!」
「え、蒼天回廊のこと?」
俺の言葉に姉さんが返してきたけど、それは違う。そうか、姉さんや深紅さんは、天宮騎士が生まれて以降の塔しか知らないんだったな。
「いや、それは、改装した第一階層の話だ。本物はあんな生易しいもんじゃない。ここで要らないものを選別するために、化け物たちをけしかけてくるんだよ。それも塔の外も含めてな。天宮騎士は、その仕組みを第一階層と別の階層に分けることで、紅魔殿と言うエリアが生まれるに至った。しかし、それの本来のものは万魔殿と名付けるにふさわしい魔窟だぜ」
静巴の構えが、本気の時の物に変わり、姉さんも黒衣を纏った。そして、俺の手に《無敵の鬼神剣》を呼び出した。




