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《神》の古具使い  作者: 桃姫
恋戦編 SIDE.GOD
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279話:鳴凛とデート1

 由梨香と遊園地に行った翌日、俺がリビングでのんびりしていると、インターフォンの音が響いた。トタトタトタと廊下を小走りするのは母さんだろう。来客だろうか?話は聞いていないが、父さんの知り合いとかがアポなしで来るのはよくあることなので、誰かが来てもおかしくはないだろう。少し気になったので覗いてみると、意外な人物がそこに立っていた。


 すらりとしたスタイルのいい女性。俺のいつも見るようなスーツではなく、随分とラフな格好をしていた。まあ、裸も見たことがある間柄だからな……特に思うところはない。


「えっと……どちら様でしょうか?」


 母さんの疑問の声。まあ、それも当然だろうか。先生は、少し挙動不審気味に、一通の手紙を差し出す。白い封には、金色の線が幾本かクネクネと走っていた。どことなく高級そうな便せんに、微量な力を感じた。どうやら、魔力での封がしてあるようだ。


「わ、わたしは、その、橘鳴凛と申しまして、立原家の分家の者です。青葉紳司君を立原舞子さんの元へ連れていくように、と。その手紙を渡せば、大丈夫だろうと言っていたのですが……」


 母さんが手紙を受け取る。しかし、曽祖母ちゃんが俺に用事……?9月の件だろうか。それなら納得できなくもない。立原は、不知火家や天龍寺家、蓮条(れんじょう)家、朱野宮(あけのみや)家、境出(さかいで)家に並ぶ政財界に深く根を張っている家にして、その家々の関係は密接だからな。この間、天龍寺家に行った時にも深紅さんが「舞子」と名前を口に出していた。


「橘先生、どうかしたんですか」


 まるで話を聞いていなかったかのような素振りで、母さんと先生の元へと行く。2人はこちらを向いた。


「あ、おはよう、青葉君。今日、少し用事があるんだけどいいかな?」


 いつもの様子……先ほどまでの挙動不審さはどこへ行ったのか、いつも先生が話しかけてきた。俺は、頷きながら答える。


「ええ、今日は特に用事がありませんでしたから構いませんよ。しかし、その恰好を見るにデートのお誘いではないようなので少し残念ですが……」


 母さんの顔が「いつの間にウチの息子はこんなに女たらしになったのかしら」と言う顔になっていた。父さんも大概だと思うので遺伝ではないか?


「も、もう……何言ってるのぉ?」


 照れたような先生の顔は、愛らしい乙女の顔をしていた。その顔を見ながら、俺は、考えてみる。橘先生に関しては、イシュタルが子供の名前について言及したときにそれらしき名前が無かった。しかし「など」と言う言葉と、ミュラー先輩とのデートの前に会った史乃さんが言っていた「ナーシェ」と言う人物のこともある。もしかしたらもしかするのかもしれない……が、もし橘先生との間に子供が生まれても「ナーシェ」などと名付ける可能性は引くだろう。どんなキラキラネームだ。


「それで、手紙ってのは……?」


 母さんから、便せんをひったくり、魔力封を破り、手紙を見る。その手紙の内容はこんな感じだった。


「『青葉紳司様、突然の呼び出し申し訳ありません。多々込み入った話がございますので、立原家までご足労願います。立原舞子』か……」


 その文面を読み上げる。多々込み入った話っていうのが何か分からないな。9月の件が一番ありそうだが、断定できないしな……。


「なるほどね……。では、先生、行きましょうか。少々準備をしたいので、あちらの部屋でくつろいでいてください」


 そう言って、俺は部屋に行く。それにしても……立原舞子、か……。曽祖母ちゃん、とはいえ、どんな人物なのだろうか……。部屋に戻って、ある程度外用の服に着替えると、下の階に降りる。


「お待たせしました」


 俺がそう言うと、先生は、アップルパイを食べていた。俺の朝食である。まあ、その辺はおいておいて、急いで残りを食べようとするので、俺は笑いながら言う。


「あ、ゆっくり食べていただいて構いませんから」


 少し恥ずかしがるように、先生は残りの分を平らげた。そして、俺と先生は、外に出て、停めてあった車に乗り込む。運転席には、若めの女性が座っている。


「あ~、やっと終わったのね。結構かかったわね……。と言うか、食べこぼしたカスがついてるんだけど、私が車で待っているのに、何か食べてたの?!」


 茶色の短髪を揺らす女性。どことなく姉さんにも似た雰囲気を持っていた。少々厳しい目つきと、その雰囲気は、何人か人を殺したことがあるような雰囲気でもある。殺人者、とかそう言う意味ではなく、まるで、戦士……、そんな雰囲気。


「お待たせしました。青葉君が少々準備してたので……。それでは行きましょうか」


 女性は、ため息を吐きながら、車のエンジンをかける。彼女はいったい何者だろうか……。立原家の関係者なのか、それとも曽祖母ちゃんだけが交流があるのか、それに、橘先生とはどんな関係なのか、その辺が全て謎に包まれているのだ。


「……時に、貴方、青葉紳司君、と言う名前だったかしら」


 その女性が俺に話しかけてきた。相変わらず目つきは悪いが、何やら思うところがあるようだった。俺の名前に聞き覚えがあるのだろうか。


「ええ、そうですけど」


 俺の答えに、少々考えるような女性。そして、なにかに納得するように、頷いてから、こういった。


「青葉清二は、貴方の家族かしら?」


 じいちゃんの名前、と言うことはじいちゃんの知り合いだろうか。それとも一方的に知っているだけか、とにかく、俺と彼女の接点はじいちゃんにあるようだ。


「ええ、清二は祖父ですが、……貴方は?」


 俺の問いかけに、彼女は何か困ったような顔をした。


「私はしの……小日向(こひなた)匡子(きょうこ)よ。昔、青葉清二と言う人物に手伝ってもらったというか、何と言うか、世界を救う手助けをしてもらったのよ」


 名前のところで言いよどんだが、しかし、じいちゃんが世界を救うのに協力した?ふむ、……分からん。宴の話では、この世界で塔が出現したときに、ダリオス・ヘンミーを倒したのはじいちゃんだ。つまり、手伝いじゃなくて、世界を救っている。つまり、この世界ではないどこかでの話か、それとも、父さんの時なのか、それとも別の時なのか、その辺は分からない。


「直接会うことはなかったんだけど、彼がいなかったら、……【死染眼】と【血染眼】だけだったら、きっと世界は……」


 【死染眼】と【血染眼】、どこかで聞いたことのあるフレーズだ。そう、あれは……、ミュラー先輩が唱えていた【悠久聖典】の一部、確か6節だったはず。


「【血染眼(ちぞめ)】と【死染眼(しぞめ)】。重なり合う視界の先に【狂った聖女(マリア)】は笑う……だったか?」


 確かそんなフレーズがあったはず。それに関係しているのだろうか。俺の呟いたフレーズに匡子は、驚いたような顔をしていた。


「世界線を越えて、こんなところでまでとどろいているとはね……」


 世界線を越えて……つまり、彼女は別の世界の住人と言うことである。そこで起こったことにじいちゃんが関与していたんだろう。


「それと気になるのは、刃奈(はな)の動向なんだけど……。まあいいわ。……と、悪いわね、私ばかり彼としゃべっちゃって」


 匡子が先生にそう言った。先生は「へっ……」と妙な声をだしてから、顔を真っ赤にして否定する。


「べ、別に構いませんよ?わたしは話を聞いているだけでも楽しいので!」


「あら、私も人の恋仲を無視するほど鈍感じゃないのよ?昔はよく信也に『匡子さんはデリカシーが無い』だの、咲夜に『人の気持ちが分かんない上に空気読めないとか最低ね』とかボロクソ言われてたけど、今じゃあ、ちゃんと空気を読めるんだから」


 そういう発言が空気を読めていないと思うんだが……。まあ、その辺はおいておこう。それにしても、匡子は、何者なんだろうか。只者ではない感じはするが、とにかく空気が読めない。そして少し姉さんに似ているのも気にかかる。


「こ、恋仲じゃありません!あ、青葉君も否定してよぉ!」


 おっと、俺が考え事をしているうちに先生が大変なことになっている。慌てふためく先生も可愛いが、このままではかわいそうなのでそろそろ話しに入るか。


「ええ、まだ、恋仲ではありませんよ?」


「まだっ?!」


 おっと、不注意な発言が先生のさらなる暴走につながるとは。それにしても、この匡子という人物からは、そこはかとない何かがにじみ出ている……気がしなくもない。そこが知れない……姉さんのような、そんな。


「そろそろ到着ね。私も立原舞子さんに用事があるからついていくことになってるから」


 そうなのか……。と、その時、不意に妙な【力場】の発生を感知した。場所は助手席。後ろに俺と先生、運転席に匡子が座っているので助手席は空席のはずなのだが、なにかが生じている。


「おい、助手席に何か来る」


 俺の言葉に、匡子が一瞬そっちを見た。そして、そこに緑が出現する。正確に表現するならば、緑色の髪をした人物の出現だ。その女性は、どこか超常的な【力場】と存在の不安定さを持っている。まるで、この世界に存在せず、それでも存在している……いや、存在しているけれど存在していない、そんなひどく曖昧な、この次元の者ではないような、そんな人物。


「なんだ、沙綾(さあや)さんね」


 匡子はあっけなくそう言って、運転に集中しだす。何者だろうか、この女性は。転移とかそう言った次元ではなかった。どちらかと言えば、龍神の部屋、あそこに近い感じの移動だ。時空間が歪んでいるという表現が一番近い。


「あら、今度は車の中なのね……って、あら匡子じゃないの」


 匡子とはそれなりに親しいようだが、匡子が「さん」付けで沙綾を呼んで、沙綾が匡子を呼び捨てていることから、沙綾の方が年上のようだ。


「あら、同伴者もいたのね。ゴメンね、ちょいとこれに関しちゃ自分で決めらんないから。あ、あたしは【時空間の詐欺師(タイムマジシャン)九龍(くりゅう)沙綾(さあや)よ」


 九龍……?!父さんの姉さんみたいな人が九龍彩陽(あやひ)であり、おそらくその家系の人間だろう。


「って、まさか、もしかして……もしかしなくても青葉の子じゃないかしら?こりゃたまげたわ。つくづく縁ってのがあるのねー」


 そんな風に沙綾は言った。この沙綾とはいったい何者なのだろうか。てか【時空間の詐欺師(タイムマジシャン)】ってなんだよ。


「私は、今から希鞠に会いに行くところだけど、沙綾さんも来る?」


 希鞠……?知らない人物だな。2人の共通の関係者なのだろう。まあ、その辺は個人の事情だし突っ込まないことにしておく。


「あ~、希鞠って言うと紀乃の娘よね。そうね……。ここは……あの世界じゃなくて、綾花や彩陽のいる世界ね。あたしは遠慮しておくわ。久しぶりに家族にも会いたいし」


 沙綾はそう言った。そして、フロントガラスから見えてきた巨大なマンション、あれが立原家のあるマンションだ。目的地はもうすぐそこである。

 え~、遅くなりました。鳴凛の話ですね。タイトルは統一性を出すためにデートと書いてありますが、宴と同じようにほとんど話だけの回ですね。あと、今章の最後の話に紳司に対するヒロインの中では最後の1人になる人物を登場させる予定です。この話にもチラチラと関わっているようないないような、そんな人物です。

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