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《神》の古具使い  作者: 桃姫
恋戦編 SIDE.GOD
272/385

272話:律姫とデート2

 律姫ちゃんがやってきたことで、この場に冥院寺家の関係者が4人も集うことになった。律姫ちゃんは姫穿と丹月が俺といることに驚いているのではなく、根本的に三鷹丘にいることに驚いているようだった。つまり、律姫ちゃんは「偽王の虚殿」について何も知らされていないと考えるべきなのだろう。と言うことは、律姫ちゃんのお願いとやらは、この件とは関係ないということになる。


 今日の律姫ちゃんは結構手の込んだ格好だろう。普段着の律姫ちゃんをあまり見ないから何とも言えないが、普段からここまで着飾っているようには思えない。


 失礼な評価だと思うかもしれないが、例えば、流石に普段からゴスロリオンリーの女性と言うのはほとんどいないわけで、律姫ちゃんが結構気合を入れた格好をしてきているが、あれは普段着ではなく、まあ、所謂デート用の勝負服とかそう言った類の服なのではないか、と言う推察である。


 黒髪を片側寄せにまとめたワンサイドヘアスタイルに、黒のワンピース、長い腕を覆うタイプの黒の透けた手袋。大人っぽいというよりも少し大人すぎる感じのある格好だと思う。しかし、律姫ちゃんの律姫ちゃんらしさ、……そこは何とも表現しづらいが、可愛い後輩でありながら少し大人っぽく敬語を遣うなどの上品さを持った雰囲気がよく出ている感じがする。あと、こういう時、他の女性と比べるのはナンセンスだが、昨日のミュラー先輩の服装と若干被っているのは、まあ、ミュラー先輩の格好を知っているわけではないから仕方がないだろう。ただ、ミュラー先輩が清楚さや上品さを際立たせる白い格好だったのに対して、律姫ちゃんはその逆で大人っぽさや色っぽさを纏う黒い格好だった。


 可愛いというより綺麗、年相応と言うより……見た目相応と言うより雰囲気相応のそんな恰好だった。


 かなりグッとくる格好だが、しかし、今回のお願いとやらは、そんなに気合を入れた格好のいることなのか、それとも俺に会うためにこんな格好をしてくれたのか、その判断はつかない。おそらく後者だろうし、そうであった方が俺は嬉しいがな。


「あら、律姫。待ち合わせに遅れるのは相変わらずね。デートなんでしょ、いくら彼が温厚であなたに対して怒らないからって、愛想尽かされちゃうわよ?」


 姫穿が律姫ちゃんにそう言った。そして、丹月の首根っこを掴み、引きずるように、釣れながら、


「じゃあ、私たちは用事があるから行くわ。それじゃあ、デートを楽しんで」


「ちょ、く、くるしいて、ちょ、ホンマ、キまってるんやけど、ちょ、姫穿さん、聞いてます?ちょぉおお」


 気を遣ってくれたのだろう。いや、用事があるというのも事実であるのだろうがな。「偽王の虚殿」とやらを探すんだろう。


「えと……では、先輩、ちょっとついてきてくれますか?」


 あっけにとられていた俺たちだったが、2人の姿が見えなくなったところで律姫ちゃんがそう話を切り出した。そのお願いとやらは移動しなくてはならないものらしい。まあ、何であろうと、俺は律姫ちゃんのお願いに応えるからいいんだが。


「あ、先輩」


 俺は、律姫ちゃんの手を握っていた。まあ、手袋越しだけどな。律姫ちゃんは、恥ずかしそうに顔を俯かせる。可愛いな。しかし、確かに感じるな……。前に《古具》とは反発し合うって言っていたが、それはどうやら抵抗の差らしい。

 個人の中に《古具》と言う異物があるから、律姫ちゃんの【殲滅】の【力場】を作りにくくなっているというだけで俺の中にも、手袋越しに確かに【力場】が入ってきているのが分かる。


「は、離してください。そのままだと、先輩、死んじゃいますよ?」


 手をつなぐのは嫌ではないんだろうし、離したくはないんだろう。けれど、俺のことを案じて、そう言っているんだ。それがありがたいやら嬉しいやらで、俺も気恥ずかしくなってくる。だから、俺は、手を離さない。


 前から少し感じていたことがある。律姫ちゃんは、どこか距離を置いている。無論、友人もいるし、俺とも会えば話す。部活もやっているし、授業にも出ている。だが、踏み込まない。なんでもかんでも深く攻め入ろうとしない。

 例えば、彼女の母親の件もそうだ。彼女は、自信の母がどうしていなかったのかを詳しくは聞いていないだろうし、何があったのかも知ろうとしなかったんじゃないだろうか。俺の事情も深くは聞いてこないし、俺から言い出さないと言ってこない。だから、今回の「お願い」がある、と聞いたときは、ついに踏み込んできたんだな、と少しうれしくなったものだ。だからこそ、なんであれ受け入れると言っている。

 人と距離を取るのは、おそらく、母親との一件の影響だろう。だから帝とは距離感が近い。そして、その他との距離は遠い。そう言うことだろう。


 ――だからあえて踏み込む。


「離さないよ。俺は大丈夫だから。だから、もっとくっついて、大丈夫だよ」


 俺は大体の感覚で掴む。なるほどこの【力場】、通常なら、とっくに限界を迎えるくらいの量だよな。だが、俺は大丈夫。そして気づく。逆にこの【力場】を力に転換できるんじゃないだろうか。


「そ、そんなの無茶ですよ、先輩。第一、いくら《古具》があって反発するからと言っても」


 俺は、人前だというのに、気にせず口づけをした。無茶だ、ダメだ、とうるさいこの口を黙らせてやったんだ。


「大丈夫。俺を信じてよ。それに、こうして手を握っていても何の問題もないだろう?」


 俺の言葉に、今更気づいたかのように手を見てから、繋いでいない方の手で唇を押さえた。そして、俺の方を見たので、俺は答える。


「俺は……と言うより、俺の一族は、元々、通常よりも多くの【力場】を生成して戦う力を持っているからね。それを使っていない状態なら、タンクは空っぽってわけだ。で、通常よりも多いってことは、かなりの間【殲滅】の力が入ってきていても大丈夫だし、【力場】の操作の使用によっては俺の力へと変換することもできるかもしれないってわけさ」


 青葉の一族……蒼刃の一族は様々な力が伝わっている。その中でも、おそらく多くある青葉、蒼刃、七峰、蒼紅、シィ・レファリスのいずれにも伝わっているのが【蒼刻】のはずだ。他にも、蒼刃なら【魔眼】を産むとか喰らうかとか、青葉なら剣帝の血が、蒼紅には動物の血や契約が、シィ・レファリスなら魔法が、それぞれ伝わっているはずだ。その多くに【力場】が密接に関わっている。

 それゆえに、俺たち蒼刃に連なる家の人間は【力場】の操作が他よりうまいはずなんだ。その力を十二分に発揮するために、意識的にしろ無意識的にしろ操作をしているのだから。


「あ、あたしが……先輩の力に……?」


 あまりにも思いがけない言葉だったからか、いつもの「わたし」ではなく素の「あたし」と律姫ちゃんは言っていた。それほどまでに衝撃的だったのだろう。いままで、壊すことにしか使えないと思っていた力が、誰かのためになると知らされたのだから、無理もない。価値観が変わるときは衝撃が伴う。


「そうだよ。だから、君は君自身の力と……過去を受け止めるべきなんだよ」


 少し無茶なことを言うようだが、それでも、俺の言葉を真摯に受け止める律姫ちゃん。律姫ちゃんは俺を上目遣いで見て言う。


「先輩、先輩も一緒に受け止めてくれますか。あた……わたしの過去とこの力を」


「ああ、いいよ。どんな君も受け止めよう」


 即答だった。少しの間でも開けるのは律姫ちゃんに失礼だと思ったから、だから、迷いなく答える。



 そこで、ふと気づく。周囲に人影が一切なくなっているのだ。まるで俺たちの居る空間だけが別の空間であるかのように、七上さんや篠宮液梨さんにあったあの場所のように俺たち以外に誰もいない。


「こ、これは……」


 そして、上空、天高く、そびえたっている城。神殿と称してもいいかもしれない。まさか、あれが、……あれこそが「偽王の虚殿」だというのか。


「せ、先輩……あれは……?」


 律姫ちゃんのおびえた様子も無理はない。あの神殿から放たれているのは異常な力だったのだから。力の量が異常ではない。力の質が異常なのだ。ドス黒い、邪悪な、そう、いうなれば、暗黒の力。


「これが『偽王の虚殿』」


 俺の言葉に呼応するかのように、その神殿から眩い光が律姫ちゃんめがけて飛び出した。俺が止めようにも光は俺を避けて律姫ちゃんの腹部へと入り込む。


「律姫ちゃんッ!」


 俺の声に、律姫ちゃんはいったんしゃがみこんだが、すぐに片手をあげて返事をした。


「だ、大丈夫です。痛みとかはありません。でも、あれはいったい何なんですか?」


 困惑しながらも、状況を理解しようと律姫ちゃんが俺に聞いてきた。俺は、どういうか迷った挙句にこういった。


「あれは、君のお姉さんたちが探しに来ていた司中八家の封じた秘宝『偽王の虚殿』と呼ばれるものだと思う。そして君の身体に今入ったものこそ『偽王』の力なんだと思うよ」


 それ以外に考えられない。律姫ちゃんも司中八家の人間だし、この力を手に入れてもおかしくはない。


「偽王……何でしょう、どこか寂しそうな……それでいて、なぜか、先輩に引き寄せられるようなそんな力を感じます」


 俺に引き寄せられる?どうしてだろうか。偽王とは俺の前世との関係者だったか、それとも青葉の関係者か。どうなのかは分からないが、俺の方に反応が感じられないということは直接的なつながりはないのかもしれない。


「とにかく、ここからどうやって……」


 出ようか、と聞こうとしたところで世界が割れた。元の景色が戻っている。人々が溢れている。無論、空を見上げるが、そこには晴れた夏の空が広がるだけである。


「考えても仕方ないか……。それで、律姫ちゃん、そろそろ、お願いってのを聞かせてもらえるかな?」


 今日ここに呼ばれたのはお願いがあるからだったはずだ。そろそろそのお願い事を聞かせてもらえると嬉しいんだがな。


「へ……?お願い……ですか?」


 困惑顔の律姫ちゃん。おいおい、まさか今日なんで俺を呼んだのか忘れたんじゃあるまだろうな……。


「あっ……」


 どうやら思い出したらしい。それで、その内容ってのは何だろうか。


「ふふっ、先輩……内緒です。もう、叶ったみたいなものだし。だから、先輩、お買い物行きましょう!」


 俺の腕に飛びついてきた律姫ちゃん。はぁ……仕方ない、なんかよくわからんが、買い物くらい付き合ってやろう。……そういえば、司中八家が駆り出されているってことは、あいつも駆り出されているんだろうか?あとで聞いてみようかな。






 こうして、この後たっぷり買い物をして、道中、「偽王の虚殿」探しをすっかり諦めてデートをしていた姫穿、丹月の2人に会って、4人で夕食を囲ったり、馬鹿話したりしたのだった。

 遅くなって申し訳ありませんでした。少々厄介な課題がありまして、割と……いえ、かなり忙しかったです。と、まあ、そんなあたしの言い訳はおいておいて、まあ、実はこの話、半分くらいは一週間前に書き終わっていたんですよね。ですので、まあ、前後で異なる表現とかかぶってる部分とかがあるかもしれませんが、割といつものことです。ないときもあります。


 律姫ちゃんに関しても親密度的にはだいぶ進展があったかな、と思いますがどうですかね。次は、まあ、今回の話の間、司中八家の騒動で忙しかった彼女の番と言うことになります。

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