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《神》の古具使い  作者: 桃姫
覇紋編 SIDE.D
258/385

258話:7人目の勇者

 あたしは、静かに息を吐くと、まず、【宵剣・ファリオレーサー】を構えた。そして、邪神の徒とやらの方を見る。


 ――漆黒の夜。その闇を纏う様なドレスを身に纏って、束ねた茶の髪を風に靡かせ、宵闇の剣を振るう。


 あたしの謳い文句を浮かべながら、考える。おそらく、この敵には【蒼刻】を使うまでもないくらいの強さでしょうね。だから、使わない、あの頃の「蒼の髪」にはならず、あえて、このままやるわ。何せ、邪神と戦う前の余興ですもの。そこで本気を出すわけにはいかないでしょ?お約束ってやつよ。


 だから、【力場】で足場を作りながら、一気に、獣っぽいデカ物のところまで駆け抜けて、そのまま、両断。――雑魚ね。体がデカいだけでそのほかに取柄はなさそうな感じだもの。この程度かしら。


「なっ、いつの間に。チッ、ドンガースがやられたか……」


 両手に斧を持った男がそんな風に呟いた。なんか毒ガスとか吐きそうな名前ね。そんなことはどうでもいいけど。

 次は虚ろな顔をしてなんか半分くらい溶けてる不気味な奴。グールとかそういう類かしらね。まあ、どんな存在だろうが関係ないんだけどッ!


「ハッ」


 細切れ。バラバラに切り崩して、地面に落とす。てか、途中で民家の屋根の上に落ちたけど、まあ、大丈夫でしょ。斬り殺した(・・・)から。グールとかの類には弱点ってのはあるけど、再生する奴もいるわ。でも、そういうのとは関係なく、あたしの切断は殺すのよ。


「さぁて、お次は、っと」


 空を飛ぶ龍。誰がどう見ても雑魚龍なんだけど。ほら、覇龍祭で戦った群れてた雑魚龍どもと同レベルのが一体だけってのは、まあ、普通に考えて相手にならんわよね。


「ワオオオオオオ!」


 そんな咆哮。遠吠えかしら?その程度でビビるほど弱い精神してたら人なんて殺せないっちゅーのよ。


「邪魔よ、雑魚が」


 羽を切り落としてその後、首を刎ねる。4つに分離した龍は普通にそのまま落ちていく。ありゃ、建物にぶつかりゃ大惨事ね。しゃーないわね、もうちと細切れにしときますか。そう思って、落ちる胴体に触れて、そこを起点に四方八方へと斬撃を走らせて肉塊を肉片へと変化させたわ。


「みな、下がっていろ。あれはこの絶対防壁を持つ私が相手をしよう」


 ふぅん、絶対防御、ねぇ。面白いじゃないの。ふふっ、どんくらいの強度か試してあげようじゃない。


「んじゃ、行くわよ」


 踏み込みながらの一撃。ガリッと何やら固いものに当たったような感覚はあったけれど、無意味ね。そのまま切り裂いたら普通に本体事切れたわ。


「なんだ、この程度?何が絶対防壁よ」


 期待して損したわ。あたしは【宵剣・ファリオレーサー】をくるくるとしながら、ため息を吐いた。


「なんですか、あれは……。まさか悪魔の子だとでも言うのですか?!」


 いや、悪魔っぽいのはあんた等でしょうに。なんか黒い羽の堕天使っぽいやつがあたしのことをみてそんな風に言った。あたしゃ人間だっつーの。


「光天の懺槍」


 堕天使が光の槍っぽいのをバンバン投げてきた。あたしは、突貫力が無いな、と思うと、それを素手で弾き落としながら堕天使の前まで詰め寄って袈裟斬りで一気に斬り飛ばす。


「グオオオオオオオオオオオオ!」


 今度は狼男とかそんな感じの化け物が殴り掛かってきた。だから、軽く腕と脚を切り飛ばして、地面に蹴り落とす。蹴った瞬間に体に斬撃が走って血を吹きだしていたわ。


 そして、次の瞬間、目の前が妙な違和感に包まれて四方を炎に囲まれていたわ。ああ、これきっと幻術の類ね。それもそこそこレベルの高い幻術だけど、あたしこういうの効かないのよね。幻術だって認識できているし、それに簡単に壊せるわ。

 幻術やそれによって見せられている空間ですらそこに魔力なり【力場】なりで構成されているわけで、それを切れば簡単にそこから出ることが……つまり幻術を解くことができるのよ。尤も強固な幻術や空間そのものを作っている方が逆に実体がある分壊しやすいからこのくらい中途半端なのだと壊しづらいんだけど。


 パリンと音を立てて幻術は崩れ落ちて、おそらくそれを作っていたであろう、ガキを剣の側面で殴り飛ばし、そのまま地面にたたき落したわ。


「はっ、揃いも揃ってなさけねぇな。このあたしが焼き殺してやんよっ!」


 今度は褐色女ね。幻術じゃなくて本当の炎を放ってきたわ。あーあ、夏なのに熱いっつのよ。【宵剣・ファリオレーサー】で斬撃を放ち、炎を絡め取るように消し去った。そして、そのまま褐色女の腹に、柄で一撃決めて気絶させてから、地面に蹴り落とした。


「ケッ、雑魚どもがぁよぉお。こんなアマに苦戦しやがってぇ」


 ガラの悪そうな男が全力でからんできたわ。何なのよ、うっとうしいわね。とっとと切り殺しましょうか。


「ハッ、あんたもその雑魚のお仲間でしょうが」


 腕を切り飛ばして胴体も真っ二つにした。でも、あー、なんか生きてるわね。不死身な感じ?まあ、それでも、あたしに切られたら治らないんだけどね。ま、こんな状態じゃ、苦しいでしょうし、とどめを刺してあげましょうか。


「どう、『こんなアマ』に粉々に切り殺される気分は?」


 そう言いながらバラバラに……粉々にして、残ってる雑魚はなんか慢心してそうな、両手に斧持った男だけとなった。邪神をとっととぶちのめさなきゃならんから、早く片付けよ。


「くらいなっ、破岩絶衝(はがんぜっしょう)!サーデンフェリンッ!!」


 両斧が迫る。あたしは【宵剣・ファリオレーサー】を消して、それを両方とも人差し指で押さえ、そのままそこを起点に斬撃を走らせる。斧は割れ散った。

 そして、そのまま、下から上へと切り上げ倒したわ。ふぅ、雑魚はこんなもんね。残るは邪神とかいうのだけ。こっからは本気タイムと行きましょうか。


 ブワッと蒼いオーラが噴き出す。体内に【蒼き力場】が7つ形成される。髪も瞳もすべてが蒼く染め上がり、周囲さえも蒼に染めていく。それこそが【蒼刻】なのよ。


 ――漆黒の夜。その闇を纏う様なドレスを身に纏って、束ねた蒼の髪を風に靡かせ、宵闇の剣を振るう。


 まさにその謳い文句の通りの姿をして、邪神と対峙する。暗殺者の本業とは外れるけれど、化け物退治もそれなりにやってきた。けれど、まあ、神を退治しろなんてのは初めてね。まあ、神の中でも木端神っぽいけどね、この邪神。

 見た目がデカくてキモいのってなんか強いのよりも見かけ倒し感があるわよね。尤も、最強なのもいたりするけど。まあ、発する【力場】からして、あたしでどうにかできるはず。


 だから、【宵剣・ファリオレーサー】に魔力を込める。あらん限りのね。いや、そこまで込める気はないけど、てかあらん限り込めたら先に壊れるっつーの。


 う~ん、いまいちよね。【宵剣・ファリオレーサー】をもう1本創ろうかしら。そんな風に思ったとき、下から何かが勢いよく飛んできた。それをうまい具合にキャッチする。それは【宵剣・ファリオルーサー】。零桜華の持つ愛剣のはず。それが何でここにあるか、っていうと、下にいつの間にか零桜華がいたわ。いつもの黒いフードをかぶって顔を隠しているけどね。

 【宵剣・ファリオレーサー】、宵闇に輝く刃の獣(グラムファリオ)の牙から創られた剣。そして【宵剣・ファリオルーサー】、こっちは爪から創られているの。どちらも、グラムファリオの一部。そして、あたしの魔力によく馴染むわ。


「二刀流、ね。慣れなきゃ使えないダメダメなやつよね。まあ、中二感は満載だけど」


 その割に手にしっくりと馴染む。零士も闇音も二刀流ではなかったのに、しっくりと馴染んだのよ。


「さぁってと、いっちょ、やったりますか」


 2本の剣から魔力が迸る。まるで、全てを飲み込まんばかりに、広がって、あたしは、それを斬撃として刃に乗せて、一気に放つ。


――ゴゥウウウ!


 空気が裂かれ、世界から一瞬音が消える。そのまま、斬撃は邪神へとぶつかり、全ての脚や触手を胴体ごと切り落として、浄化されるかのように光の粒となって消えていく。まだ、現れきっていない頭部や、あんのか知らんけど腕部なんかはどうしようかしらね。ドでかいのぶつけようにも広域破壊だと下の家とかも吹っ飛ぶし。


――あら、ちょうど二刀あるなら、使えばいいじゃない


 そんな声に導かれるように、あたしは、剣を構える。1つを逆手に、もう1つを順手に。到底、剣の構えとは思えないような構えだけど、妙に型に嵌っているように感じるわ。そして、そのまま、刃に、魔力と【蒼き力場】を乗せ、放つ。


「――流、奥義――」


 2本の斬撃が交わるように1つの斬撃となって胴体や出てきている空間ごと切る。この剣は……この技は空間すらも切ることができる。あたしは、そう直感した。


「終わったわね」


 邪神は光の塵となって消えていく。あたしは【宵剣・ファリオレーサー】を消して【宵剣・ファリオルーサー】を零桜華へと投げ返す。そして、地面にそっと降り立った、その時、ふいに、十月の……いえ、鞠華の声が耳に入る。


「流石、無敵にして最強と謳われた■■■■の剣技」


 その声を聞き流しながら、あたしは、不知火たちを一瞥すると、そのまま帰路についた。一緒に帰ろうと思った零桜華はすでに姿が無かったので1人でよ。

 え~、遅くなって済みません。今回は宿題のせいです。図書館で本を借りているだけに期限があって、はやめに済ませなきゃならなくて、しかも延長できないっていう。


 ちなみに7人の勇者だの6人の勇者だの言っていますが、この時期にアニメをやっているあのラノベとは無関係です。

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