245話:剣姫
SIDE.No.5(Sword Master)
ふぅ、と一息つく。私は、珍しく、たばこなんかを吸っていた。もう、かれこれ百年以上吸っていないと吸い方も忘れて、思わず咽てしまった。つくづく、私はたばことは相性が悪いな。そんな風に思いながら、思い出す。
イシュタル・ローゼンクロイツをめぐる戦いは、無事終わったので、No.0を中心に皆が片付けてくれいてるだろう。烈も……あの子もあの子で、ずいぶん振りに魔法少女になったようだけれど、魔槍の腕は落ちていないようだった。
それにしても、裏で動いているものだのなんだのと、青葉紳司、彼は本当によく頭が回る。彼の蒼刃蒼天の写し身だとはとてもじゃないが思えない頭のキレを見せいていたな。しかし、やはり、彼は神に最も近い人間だろう。私とは違って、な。
ここはどこだろうか。適当に世界を放浪しているうちに、妙なところに来てしまったような気がする。島なのは確かなんだがな……。
――ドンッ
「おっと、すいやせん。大丈夫でしたか?」
不注意だった。この私が、人にぶつかろうとは……。そう思って見上げた相手の男。20代後半のその男は、どこか既視感のある……
「銀、何をやっているの」
同い年くらいの女が、その男を注意する。さほど強くぶつかったわけではないから構わないんだな。しかし、女は、男の胸倉をつかんでいた。
「おい、黄、ちょっと苦しいって」
銀と黄……聞き覚えのあるようなそんな名前を気にしていても仕方がないか。他にも似たような名前の人はいるだろうし。
「もう、金子義姉さんと銀次さんも待っているんだから」
金子、銀次……。またも似たような既視感だが、思い出せない。少し黙って考えていると女は、私にこんな提案をしてきた。
「そうだ、これから、ウチで、子供が生まれた記念のパーティをするんですけど、ぶつかってしまったお礼についでに来ません?」
なぜ他人の家の子供の出産祝いに参加しなくてはならないのか、と思ったが、これで断って金品などを渡されても困る。だからついていくことにした。
「あ、そういえば、名前を聞いてなかったですね。手前、西野銀っていいます」
「わたしは西野黄でぇす」
え……、その苗字、まさか。私は、自分の鼓動が早まるのを感じたような気がした。はたして本当に心臓がどうなのかはおいておくにしても、ここは、この流れは、名乗らないわけにはいかない流れだろう。
「篠宮……篠宮液梨だ」
篠宮。元々の名前は「死宮」……「死の宮へと誘う者」と言う言葉が語源になった苗字だ。そして、その篠宮には有名人がいくつがいるが、そこに分家と言われるものが存在している。
西野と東雲。一見普通の名前に見えるこの二つの名前も、きちんとした語源がある。「二死之」と「死之女」だ。そう、先ほど、彼らが名乗った名前、それは私の家の分家に当たる苗字に相当するので驚いたのである。
そう、そして、東雲と言えば、東雲楪ちゃん。あの子も、私の家の分家なので面識があるのだ。
そうこうしているうちに彼らの家に着く。その家からは異質なほどの濃度の【力場】がにじみ出ていた。流石としか言いようがないな……。
「ただいま、ちょっとお客さんもいるよー」
そういって、私も部屋に通された。そして、そこにいた面々、その1人に、唖然とした声を出さずにはいられなかった。
「楪ちゃん……」
東雲楪ちゃん。私と共に、連星刀剣の保持者である、四星剣を持っているのだ。随分と会っていなかったのだがな。
「あれ、液梨先輩じゃねぇですか?こんなところで何やってるんでありんす?」
相も変わらず変な喋り方をするものだ。そうは思うが、こう見えて、この東雲楪と言う人間は、人類ではおおよそ到達しえない点まで剣技を極めた怪物だったりする。正確には、己が剣を制する力に長け、能力を最大限に引き出しているというだけなのだが。
「お前こそ、こんなところで何を……?親戚の出産祝いをするような常識ないんだろう?」
「あ~、ひどいでありんすぅ。わっちごときでも、その程度の常識はわきまえてありんすよぉ?」
本当にひどい口調だが、また何かに嵌ったのだろうか。昔はまだ、もう少しましだった気がする。そして、それと同時に挨拶が広まっていく。
茶髪の髪を縛ってツインテールにしている女性は、西野金子。その隣にいる男が六原銀次。短髪なのが篠宮真希。その隣にいる娘が篠宮はやて。そして、今回子供を産んだ七峰深紫とその夫の西野薄紅。そして、生まれた2人の娘。双子の娘のようだ。
「この子は姉の剣姫。命名は祖父です。この子は妹の紅紫。命名はわたしたちなんです」
そして、その少女、七峰剣姫と言う赤子を見た、その瞬間、悪寒が……そして、それと同時に天啓のような感覚を得る。神など、遠くにある存在であるはずなのに。
「なるほど、この子が、不在のNo.10……。我ら101人目の栄えある仲間に加わるべき最強にして最良の、最悪にして剣嵐の……剣が兵器とまで言われるであろう【剣天の姫】の気質と言うものか」
世界管理委員会の中でもトップ11であるNo.0綺羅々・ワールドエンダー、故人だがNo.1ヴァルガヴィラ・ヴァンデム、No.2デュアル=ツインベル、No.3ユーリー・ビスコット、No.4ファイス・ベルベット、No.5私、No.6エリューゼ・ブリューゼ、No.7七峰七歌、No.8とNo.9は【サヤの姉妹】と呼ばれるサーヤ・グラディウスと立花莢、そして、不在のNo.10。No.11以降はきちんと存在しているのに、なぜか、創設以来No.10だけは不在とされてきた。しかし、ある言葉だけはずっと残っている。
「剣の姫、やがて来る剣嵐を巻き起こす。蒼き神、茶色き神、その2人の加護を受けて誕生せしは、最強最悪にして最も優しい剣の姫」
かつて、剣姫と称されるものは幾多生まれてきた。希望の剣姫や時の魔導器を守護する時の剣姫など。しかし、いずれも、No.10の器ではなかったのだ。
だが、この七峰剣姫と言う少女は、間違いない。赤子の、こんな幼い姿ですら、その実力を、器の広さを感じさせるのだから。
「すごいでありんしょ?この剣迫。練度の高い超級の魔力。鬼才にもほどがありんす。天性の剣士、そうとでも言うべきでありんすかね?だから、わっちも駆け付けたんでありんすよ?」
確かに楪ちゃんほどのなら感じ取れるのだろう。この赤子の人間離れした実力と言うものを。
「あら、電話ね……」
私と楪ちゃんが話しているときに、深紫はそういって立ち上がった。そして、受話器を取って会話を始める。私や楪ちゃんほどの聴力になると、受話器から漏れる音を聞き取ることができる。
「はい、もしもし、西野ですけど」
「あ、ふかねえ、元気だった?俺だよ、青葉紳司。そろそろ出産だって聞いてたから」
青葉紳司……?!よほど縁があるのか……。それにしても、やはり、か。言葉の通りの血族と加護、間違いない、確定だ。この赤子こそが、No.10だ。
「しん君、じゃあ、あのちゃんもいるの?」
「姉さんなら、親戚の家に行っているって言うはやてって友達とトーク中」
はやて……。ああ、そこにいる子か。しん君と言うのが紳司、あのちゃんというのが暗音のことなのだろう。
「あら、はやてちゃんなら、そこにいるけど……あ、確かにトーク中だわ」
「え……ああ、そうか、西野は篠宮の分家だったっけ。ってことは、親戚になってたのか……。ふかねえ、それで、子供は?」
やっと本題にはいったようだ。彼らは、頭が良すぎるせいか、話がどこかに行く傾向があるな。あと、自己完結。
「ええ、無事に生まれたわ。片方は西野のおじい様に名前を貰ったの。そう、七峰剣姫。もう一人が七峰紅紫」
「……七峰、剣姫。やっぱり、か」
……やっぱりってどういうことなのかな。私以外から青葉紳司は情報を得ていたということか。
「やっぱりってどういうこと……?」
深紫も疑問に思ったのか、青葉紳司にそうやって問いかけた。その言葉に、電話の向こうの紳司は少々戸惑っているようにも感じた。
「不在のNo.10。その子はやがてそう呼ばれる器になるだろう。世界管理委員会……特に接触するとしたらNo.5の液梨さんか、No.2のデュアル=ツインベルか、まあ、その辺には気を付けたほうがいいかもしれないな。
そういえば、ぎんにいとかなねえも結婚して結構経つけど、生まれるのが早かったのはふかねえだったね」
深紫は一瞬、私の方を見たが、話が変わったので、電話に集中することにしたのだろう。それにしても、不在のNo.10のことまで知っているとは驚いた。
「銀君も金ちゃんも、来年には子供ができてるんじゃないかな。名前も考えてるっていうし。銀君の方は男の子なら緋、女の子なら蒼。金ちゃんの方は、女の子なら翠、男の子なら黒って名前をつけるみたい」
そんな話をしながら、電話は続く。七峰剣姫、彼女が本物である以上、いずれ、私の前に姿を現すのは間違いないだろう。それはおそらく確定した未来なのだ。だから、私は、笑う。運命と言う神のルール、神に最も遠い存在である私がそれに従っている様子が滑稽でならないから、笑うしかなかったのだ。
「しかして、終焉を望む魔女……、彼女がいる限り、神は……。さて、神の予想を越えつつある偽神の一族の末裔は、どのような成長を遂げ、終焉を望む魔女の思惑にからめとられていくのだろうかな。
願わくば、この子が育つ頃には……剣の姫などが不要な時代となっていることを祈りたいものだ……」
いくら世界を管理したところで、戦いはなくならない。だが、それは、きっと運命の歯車によるもの。では、それが崩れたとき、世界に戦いはなくなるのか、増えるのか、それとも……
と言うわけで魔法編の終了です。
え~、今章はいろいろとツッコミどころが多かったですが、その辺の話は割烹(活動報告)の方にて書くとして、皆様にとりあえず謝ります。
ひどいときは週1更新なくらいになってしまい申し訳ありませんでした。
いえ、まあ、課題が忙しかったんですけど、はい、大学も前期がようやっと終了しました。一段落ですね。はい、本来ならば。
サマーセッション+宿題とかいう強敵が立ちはだからなければ。はい、もう、夏休みが休みじゃあありません。ただの「夏」です!
宿題って何ですか、宿題って。おかしいでしょう?!講義科目違うから前期と後期跨いで宿題とかありえんでしょ!必修だからとかそういうもんだいじゃねぇーっつの!!
と皆でブチ切れ、せっせと予習レポートを書いています。夏休み、できるだけ全力更新を目標に頑張ります。あ、ただし、お盆期間に実家に帰っている間は、予約投稿かデザリングしてノートパソコンでの投稿になりますが、どちらも無理な場合はポッカリと更新できなくなる恐れがあります。御許容ください。
次章予告
――かつて、記憶を代償に
――かつて、言葉を代償に
――そして、次は……
今明らかになる不知火の《古具》と過去の代償、その原因。そして、十月の《古具》の本来の能力とは……
SIDE.D《覇紋編》




