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《神》の古具使い  作者: 桃姫
前世編 SIDE.D
222/385

222話:絶望の少女(後編)

SIDE.MRIA(with catastrophe)


 気が付けば、私は、この間まで……そう、ほんの6年前までいた世界の狭間、予備の待機場所にいたのよ。死んでない……いえ、正確には死んだけれど、転生しいてない。つまり、コンティニューと言うことなのかしら。

 だから、私は、次にあの世界に行くのを待ったわ。でも、それは言い換えれば、弟同然に育ててきた零士が死ぬのを待っているということでもあるのよ。そして、その時を待つこと、3年が過ぎた。零士は今頃9歳になったころでしょうね。まあ、まだ先は長い、そう思っていた、その時、ふいに、零士の魔力を追っていたトレーサーが、まばゆい光と共に弾け飛んだ。つまり、零士の身に何かがあったということなのよ。


 そして、再び起こる召喚。私がいたのは、染井家の一室だったわ。どうやら、ここで私は、紫雨紫麗華として……零士の妹として、零士が修行に出ている間、預かられていたようね。桜子は、病弱で家に居られないから、娘代わりって意味もあるのかしらね。


 しかし、私が存在するってことは、修行の途中で命尽きたのかしら?


 ……そうね、一旦、零士を探すと同時に、少し、行ってみましょうか。音絶、もしかしたら死んでるかもしれないし、私のことを覚えていないかもしれない。けれど、そこに行ってみたいのよ。







 そうして、染井家のご両親を説得して、私は、しばしの度に出ることにしたのよ。実年齢はともかく、外見年齢は8歳。零士が9歳の頃だからね、そのくらいでしょう。妹だし。


 それでも、どうにか許可をもぎ取った私は、一人で、かの地……大陸の中央付近へと歩みを進めていくわ。はぐれ害蟲なんかの数体程度で行動する雑魚害蟲をなぎ倒しながら、一週間ほどをかけて、ようやく、その地へとたどり着く。


 1本の槍の元に座り込む男。その男は、まぎれもない音絶だったわ。私は、音絶に向かって歩くわ。


「このような大陸の真ん中、害蟲の巣食う地に、うら若き子供がなに用か?」


 子供はうら若いものよ。まあ、あの時と同じようなセリフに戻ってきたという郷愁感があふれ出て、結構ヤバかったんだけどね。


「あら、うら若き、とは有り難いお言葉ね。でも、生憎と、私は、そんな風に言われるほどに若くはないわ。久しぶりね、音絶」


 あの時と同じようにセリフを返して、挨拶を交わしたわ。音絶の目が、みるみると見開かれて、あたしのことをジロジロとみていた。


「お前は……。ハハッ、これは驚いた。よもや、僅か数年で再び俺の前に姿を見せるとは。確かに骸……亡骸は、この下に埋めたはずだがな……」


 そう、ちゃんと埋葬もしてくれたのね。でも、それもここまで、と言うやつよ。私は、地面に刺さる愛機を抜き放つ。


「ただいま、蜻蛉切」


 私は、静かにそう呟くと、その地を後にしようと、音絶に背を向ける。しかし、そんな私に、音絶は声をかけてきた。


「紫雨よ、頼みがある」


 そのどこか覚悟を決めたような声に、私は思わず足を止めて、振り返る。その瞳は、戦士の瞳。自分の運命を決めた男の眼だったわ。


「どうか、俺を殺してくれないか?」


 思わず蜻蛉切を落としそうになるほどに衝撃を受けた。だから、思わず問い返したわ。あの時とは逆に、


「なんで、自然に死ぬのを待たないの?」


 私がそう問うていた。音絶は、静かに目を閉じ、何かを思い出すように言葉を紡ぎ始めたわ。私は、静かにそれを聞く。


「去年のことだ。娘が、ここを通った。修行を付けると言って少年を連れて、な。赤羽の血族特有の強気者への渇望ゆえだろう。娘はそれほどまでに、その少年に才能を見出したに違いない」


 赤羽?!音絶は、色の一族の人間だったの……?!とこの時は心中で大変驚いてたものよ。


「そして、娘は俺に言った。『父、音無(おとなし)はもう死んだ。あんたは亡霊みたいなもんね。こんなところで、墓守みたいなことをして終わる人生、あんたはそれでいいの?一族のしきたりがなによ。あんたは、赤羽音無じゃなくなったかもしないけど、でも、それでも、あたしの……赤羽音音の父であることには変わりないのよ?まあ、それでも、ここで生きるというのなら、止めない。あたしも、あんたを父とは思わない。最後に通告するわ、赤羽に戻ってこない?』とな」


 赤羽に戻ってこない、ってことは、やっぱり赤羽の人間。それも、本名は音無と言うらしいわね。


「そして、俺は断った。俺は、もう、赤羽に戻れない人間なのだよ。この血に眠る赤を使ってしまったのだから。だから、殺してくれ。お前を待ち、天寿をまっとうしようかと思ったが、お前がこうして現れた。だから、お前に殺してほしい」


 意味わからんわ。でも、まあ、死にたいってんなら、殺してあげようかしら。……はぁ……、うん、殺すわ。


「そう、分かったわ。私も殺してもらったもの。文句は言わない」


「かたじけない」


 人の死には、慣れたものなのよ。幾年も生き、その中で何人が死んだかは覚えていないもの。だから、迷いは一切なかったわ。むしろ、すんなりと蜻蛉切を構えられた。


「最後に残す言葉は……?」


「そんなものはいらぬ。残す言葉も、残す意思も、とうに果たした」


 私は、静かに音絶……音無の首に蜻蛉切の刃を当て、呟く。


「切り伏せ――――――蜻蛉切」


――ズバンッ


 音絶の首が弾け飛んだ。これで、終わったのね。あふれ出る血が私の身体を汚していく。それがまるで、今までの悪行の……【終焉の少女】の生き様をあらわしているようで、どこか、とても悲しい気持ちになったのを今でもはっきりと覚えているわ。


「安らかに眠れ、我が友よ」


 別に友人だったわけでも、ましてや親しかったわけでもないわ。でも、それでも、いくら過ごした時間が短くとも、私は、彼を友人だと、その時判断したのよ。


「命とは、普通は、一回のみ与えられる物。でも、貴方なら、なぜか、もう一度、この世に生を受けそうだと思うのは、どうしてかしらね」


 彼を穴に埋め、石を積む。やがて害蟲に崩されると知っていても。そうして、埋めたとき不可思議な現象が起こったのよ。まるで、供え物かのように、いつの間にか、そこに朱頂蘭(アマリリス)の花が一輪だけ咲いていたのよ。


「ふっ、この花は朱頂蘭を思い出すわね。元気でやっているのかしら」


 そうして私は再び歩き出す。友の亡骸に背を向けて、故郷……とされるA支部のすぐ近くの町へと向かうのよ。







 町にたどり着くと、そこには、弟……いえ、兄が待っていたわ。死んだはずの、紫雨零士その人が。


――つくづく運命の数奇さってのを思い知らされるわね、音絶。


 黒髪黒目の不愛想な少年は、間違いなく、かつて弟として育て、今や兄である人物なのよ。普通ならあり得ないことが二度も起きてしまうことに驚きを隠せなかった。【終焉の少女】として長年にわたって生きてきた私はここまでの奇蹟が幾度も起きることを一度も経験したことがなかったのだから。

 そして兄妹として私たちは暮らす。まあ、って言っても、零士は、幼くしてその才能が買われて害蟲を討伐するためにネメシスに入ったので、私は家でニートだったんだけれど。


 そうして3年。零士が12歳、私が11歳の時のこと、私は、害蟲に襲われていたわ。待ちに大量の害蟲が攻めてきたのよ。


 侵攻から2日後、つまり侵攻3日目に、家の物陰に隠れていた私は、ついに害蟲に見つかった。本来、私は、隠れる必要もなく、この程度の蟲に殺される玉手はないんだけれど、今回ばかりはそうもいかなかったわ。異常種がどうとかってんじゃないのよ。相手が異常種だろうが普通の害蟲だろうが、私にかかれば塵芥同然。でも、人が多すぎる。蜻蛉切を使用するには、巻き込む犠牲が多すぎるのよ。確かに範囲を調節もできるけど、それじゃあ、意味がないのよ。だから、素手。ええ、素手でも後れを取ることなんてないわ。でも、ね、今回ばかりは、違う。異常種との相性が分かるかったわ。


 だからこそ、私は、追い詰められた。そして、零士がこちらに向かってくるのが見えた瞬間に、私の身体は、闇に呑まれる。そうしてあっけなく、私は死んだのよ。






 そして、次の世界、また次の世界と変わっていく。前にも語ったように、秋雨(あきさめ)月霞(げっか)。そして、マリア・ルーンヘクサ。


 そうね、では、月霞が亡くなったのちに、マリア・ルーンヘクサが生まれた後の話をしましょう。


 とある辺境世界にあるラークリア帝国の端、女神騎士団の統治するクラーツ領。そこの森にほど近い街に、私、マリア・ルーンヘクサは生まれたのよ。見目麗しい美少女、そんな風に15年ほどは言われ続けた。でも、いつの日からか、その年が変わらぬ、と言う話になり、魔女ではないか、って疑われたのよ。で、たとえ魔女であろうが、魔女でなかろうが、街が敵に回れば、そこには住めないのが世界の道理。私は、森の中に小屋を建ててそこで暮らすようになったわ。暇つぶしに、さまざまな技術を用いて異世界とつないだ穴を罠として作っておいたり、ロキの力で森を出て暇を潰したり、とそれが10年くらい続いたかしら。


 そんなある日、私の罠にかかった女がいた。それこそが、私の対ともいえる存在、【聖騎士(しろきし)】、ナナホシ=カナだったのよ。

 強力無慈悲な力を持つ彼女は、女神騎士団に加入し、あっという間に11子騎士となり、その筆頭を任されるようになる。それが、筆頭騎士ナナホシ=カナなのよ。


 それから、様々なことがあって、ヴィシュミルア王国が敵国から奇襲を受けた、とか、そんなような隣国の事件などを経て、私は、ナナホシ=カナを元の世界に帰すことにしたのよ。ただ、本人も乗り気じゃなかったから、期限を設けることにした。


 でも、あの世界とこの世界では、流れる時間が違う。だから、私は、仕方がなくこの世界にとどまっているのよ。彼女との期限を守るために。


 まあ、待つのも悪くないわ。音絶……あなたもこんな風に私を待っていたのかもね。ううん、確実に待ち人が来る分、私のほうが幾分マシかしら?






 そうして、1年と少しの時が流れて、


――ピンポーン


 珍しい、客人か。私は、ゆっくりと玄関に行き、鍵を開けて……

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