215話:エピローグ
【氷刀・牡丹】。その刀は打たれてから、幾年……幾千、幾万、幾億の年月の間、時空間を漂っていた。時空間での時間の流れ方は、時空間統括管理局のある世界を基準としていて、時空暦と言う年号もあるが、世界によって流れる時間はまちまちである。そのため、自分の生まれ過ごした世界よりも、時間の流れが不規則、早かったり遅かったり、とそんな風だと、体の中の時間の流れは狂いだす。
これは、龍神の部屋で過ごした三鷹丘学園の生徒会の面々が体験しているのと同じ原理であり、理屈である。
そんな時空間では、世界を取り巻く時間、つまり、どんな時間の流れ方をする世界があるかによって、その周辺の時空間の時間の流れが影響される。つまり、どの世界があるかによって時間の流れ方はバラバラ過ぎて、どのくらいとも断定できないのだ。
だからこそ【氷刀・牡丹】がどのくらいの間、時空間を彷徨っていたのかは誰にも分からない。
そして、そんな刀は、まるで重力に吸い寄せられるかのように、何かに吸い寄せられるように、ある世界へと落ちていく。
その世界は、普通の世界である、と言えば、普通の世界であったのだろう。ただし、魔法もあり、魔法学校なんてものまで存在する世界だったが。
その世界の北の果て……極寒の地。【氷刀・牡丹】は雪と氷に覆われた、その地に落ちる。落ちてから4年。そこに2人の少女が現れたのだ。
極寒、こんな地に、少女が現れることは不思議でならないが、一応、彼女たちは、一応、厚着に身を包んでいる。
「お姉ちゃん、あれは?」
桜色の鮮やかな髪をした4、5歳の少女が10歳くらいの少女に尋ねた。桜髪の少女は年相応の雰囲気の奥に、何か底知れないものを持っているような印象を受ける。
「冬華、あれは『刀』よ」
金色の髪をなびかせる大人びた雰囲気の10歳くりあの少女は、この世界ではマイナーなはずの刀についてあっさりと語ってのける。
「ふぅん、聖お姉ちゃんは何でも知ってるね」
冬華と呼ばれた少女と、その姉の聖と呼ばれた少女。髪色こそ全く異なるものの、顔だちや雰囲気……特に謎めいたその雰囲気はよく似ていた。
「いい、冬華、この世界にはね、様々な場所があるのよ。近場……村からほんの少ししか歩いてないこんなところですら、こんな大きな発見ある、それはもっと広い視野で世界を見るべきって言う暗示だとは思わないかしら。
ふふっ、だから、これで最後のレッスンは終了よ」
「え、お姉ちゃん……?」
2人の会話からも察することができるように、これは、この2人の間で執り行われているレッスンだ。そして、その最後であることも。
「本当はもっと教えてあげたいし、連れて行ってあげたいのも山々なんだけどね」
聖は、幼くして両親を亡くて、1人で妹の冬華を育ててきたのだ。抑圧されてきた感情もあるだろう。だが、それも今日までと決めていたのだ。10歳になったら村を出ていくことは、前々から公言している。そして、村から出るために、冬華に1人で生きていく術を授けるのが、この全部で21あるレッスンだったのだから。
「この刀は、冬華、貴女が持っていなさい。きっと、いずれ……」
聖は「天上に届く、いえ、戻るのだから」と言う言葉を飲み込んだ。
「いい、よく聞きなさい。氷は最強よ。雪は強く美しい。だから貴女は……」
そうして聖は去り、冬華は、後に謳われる。
――「氷河襲来」
そう呼ばれ、氷の女王の再来とも恐れられた、七代目天辰流篠之宮神。それこそが後の冬華なのだ。
そう、【氷刀・牡丹】は、彼女の愛刀となり、長きにわたり、彼女の生涯を支えた。
しかし、その刀を打った人間を知る者は、後の時代には一切いなかったそうだ。ただ、冬華はこう語る。
「この刀を打ったのは、きっと、初代と、……の子孫ではないかしら。そんな温もりが、この刀には宿っていた気がするのよ。流石に、刀の声、なんてものは聞けないけれど、それでも確かに感じるのよ」
そう、語ったと。
紳司の祈りは届いたのだ。刀を持つにふさわしい、ふさわしすぎるともいえる最高の持ち主の手へと渡ったのだから。
え~、エピローグは、本当に短いですね。まあ、これは、ほとんど章のまとめともいえる話なんですが、鳴凛のターンのくせに鳴凛の出番は全然出てこないっていうのが何ともいえないですよね。
詳細な話は活動報告にでも……書くかな?と言うか、書いた後、と言う可能性もあります。予約投稿だからね。
次章予告
――ねぇ、覚えてる?あの約束を……
――ねぇ、覚えてる?あの戦いを……
――ねぇ、覚えてる?あの生活を……
――ねぇ、覚えてる?あの世界を……
――ねぇ、覚えてる?わたしのことを……
――ねぇ、ねぇ。ねぇ。ねぇってば……
……だから、……愛してるよ
SIDE.D……前世編




