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《神》の古具使い  作者: 桃姫
鍛冶編 SIDE.GOD
209/385

209話:片割

 俺は、拳を握りしめた。この子がこうなってしまったのは、俺のせいだ。俺が死んだせいで、この子は、切り離される運命となってしまった。だが、そのもう一方の変革を迎えた【里神楽】はいったいどこにいるのだろうか。こちらが白なら、向こうの黒の領域にいるのだろうか。


 それに、俺とはぐれているマー子、ヒー子、ヒイロの行方も気になるところだ。……ん、何だろうか、今、一瞬、この子の後ろに、何か、影を見たような気がしたんだが。


「この世界には、いろんなものがあるのです……。例えば、あれも、その一つ」


 何を、指さしているんだ?後ろには、世界の白色と……謎の模様くらいしか……、いや、違う。あれは、背景の白と同化しているが、間違いなく、ある。巨大な……機械。そう、ロボットアニメに出てくるような巨大なもの。


「向こうには別の似たようなものがあるの。白昼夢と悪夢。白と黒。そういったものが、この世界にはあるのです」


 意味はよく分からないが、白と黒に区切られている、ってことでいいのか?そういう心象世界と言う認識で間違いない、と思うんだが。


「天上より落つる、神の剣の模造。しかし、未完成。それがわたしなのです」


 そう、そして、それを未完成にしてしまったのは、俺だ。だからこそ、俺は、この刀を一刻も早く完成させねばならないのだ。そう、この一件の全ての元凶は俺であり、そして、それを解決させるのも俺でなくてはならない……、いや、俺にしか解決させることができない、と言うべきか。


「知っている。だからこそ、聞きたい。もう一人の【里神楽】はどこにいるんだ?」


 橘先生から抜くためには、そいつと交渉する必要がある。変革の【里神楽】。今や、【何刀】なのかは分からないが。


「あれは……【魔刀(まとう)・里神楽】は、黒の世界の奥にいます」


 【魔刀】。少女はその呼称を用いた。【魔刀】と聞くと【魔剣】に類推するものを浮かべるが、刀の場合、それは【妖刀】だ。つまり、【魔刀】とは、この世に2振りしか存在しない【神刀】を越えた刀と言うことだ。

 もっとも、この概念に当てはまらない神造の刀、連星刀剣なんかもあるんだがな。2振りしか、とは言ったが、もしかしたら、俺とナオト以外にも打っている人物はいるかもしれんがな。


 しかし、【魔刀】を打つのはそう簡単ではない。そう、たとえば、ナオトが命を落としたように。俺のほうは一見簡単に見えるが、おそらく、数百、いや、数千年単位でため込まれた濃厚……濃密な魔力を長時間吸い込まなければならない。それは材料の耐久と限界容量などから、ほとんど不可能だ。それこそ、封印処理と言う名の状態保持安置でもしない限りな。だからこそ、ほぼ、偶然の産物なのだ。


「【魔刀】……。未完成なのに……。完成したら、それが一体どれほどのものとなるのか……」


 未知数の刀の実力値。完成させる義務と、そして、その未知への探求心、2つが芽生える。だから、俺は、この世界の黒いほうへ向かうことに決めた。


「向こう側のどの辺にいるか分かるか?俺にはこの世界だと距離感覚や、位置感覚がつかめないんだが……」


 背景がずっと同じ色なだけだからな。星もないし目印もない、そんな中で、距離感や位置感覚を正確に掴むのはかなり難しい。と言うか普通は無理だ。


「わたしもついていきます。彼女と何を話すかは分かりませんが、わたしも、……泣くのはやめます。わたしは、わたしで、彼女と話すことにしたんです」


 そうか、覚悟を決めたのか。精霊の意思、それは刀の意思。たとえ、もう分断されて、主精霊ではなくなっていたとしても、それでも彼女は刀の精だ。


 マー子、ヒー子、ヒイロがそうであるように、刀の中に複数の精霊がいることもある。彼女たちもまた、元は1つの精霊だ。その頃の彼女たちには会ったことはないが、【王刀・火喰】と言う刀が完成した瞬間には、間違いなく……いや、それよりも前、打っている途中から彼女は1人だった。

 だが、「魔を喰らう力」、「火を喰らう力」、「火を吐く力」、それぞれを、独立した力にするために、精霊を3つに分断した結果があの3人なんだ。

 だから彼女たちも、説得することができれば、それぞれに「神格保持」と「龍を喰らう力」を授けることにしたいと考えていた。まあ、2人が和解すれば、と言う仮定が成り立ってこそなんだが。


 ……そういえば、「神格保持」について大した説明をしていなかった気がするが、まあ、文字通り、神の格……ようするに、神の力を持っているということだ。つまり【神性】を持つってことになる。まあ、刀の保持者が【神性】を持つのではなく、刀自体が【神性】を持つために、悪人……ってか、【魔性】を持つマリア・ルーンヘクサなんかは絶対に持つことができないだけで、それ以外に大した力はないんだが。逆に、七星加奈のように自身も【神性】を持つ、神に愛された存在であるなら、その力が刀と同調し、【神性】による【聖気】も【聖力】も相乗して超大に膨れ上がる。


 そういえば、かつて、【聖姫】と呼ばれた女も自身と刀に【神性】があったという話だったな。


「じゃあ、案内を頼むよ」


 少女は、俺を先導して、黒い方へと進んでいく。辺りを見回しても、やっぱりよくわからない。何もないように見えるが、何かあってもおかしくないというような状況だ。それほどまでに黒。なのに、光が無いわけではなく、光があるのに、黒。真っ黒……漆黒。禍々しくも感じる、狂気で包まれたような。そんな中に、ポツリと寂しさがあるような、そんなよくわからない場所。


「あれは……、さっきの」


 さっきのロボットと対になるような真っ黒なロボットだ。黄色いラインが無かったら分からなかっただろうし、今も全体像は分からない。


災厄の悪夢カラミティ・ナイトメア白き白昼夢ホワイト・デイドリーム。争暦に入ってすぐの戦争において、世界を救ってせしめた伝説の機体……」


 言っていることはよくわからない。けれど、凄い代物なのは分かった。で、なんで、それがここにあるのか、ってのは、やっぱりわからない。それにここは、心象世界。あれは実物ではないはずだ。


「わたしは白昼夢のような儚くて、いない存在。そして彼女は、暴虐と災厄の化身、まさしく悪夢。それをあらわすのに最も適したのが、この2機だったのです」


 白昼夢とは、目が覚めている状態で起こる不可解な現象の妄想などを指す。つまり、実際には起こっていないことを指す。別名として白日夢なんて言い方もあり、英語ではデイドリームと呼ばれる。


「白昼夢、ねぇ……。だけど、君は、【里神楽】だ。そして、【里神楽】の中に精霊として存在している。主権を持っていなくともな。だから、決していない存在なんかじゃないんだよ」


 そう、確かに存在している。消えたわけではないのだ。ただ、刀の精霊の原理は、俺もよくは知らないんだけどな。


「確かに、存在はしてるんです。でも、存在していないも同然だから」


 俺は、少女の頭に手を置く。暗い雰囲気を払拭するために、頭をなでることにしたのだ。その瞬間、俺の手が光った。まるで、彼女が俺の魔力を吸い取っているかのように、俺の身体から力が抜けていく。


「な、なんだ?!」


 思わず膝をついた。一方、少女は、まるで信じられないものを見るような目で。目を見開いて、こっちを見ていた。


「今の魔力……なんでしょう。とても、……とても懐かしい。……数百年……ううん、もっと前に、僅かに受けた、優しい魔力」


 揺れる瞳。俺は、その瞳に微笑みかける。そうだ、俺は、ずっと待たせていたんだよな……。今の魔力は、待機設定だったところに俺が触れたからだろうか。


――ブワッ!


 まるで、七星加奈のように、全身から聖気があふれ出る少女。分かる……分かってしまう。彼女は、「神格」を、【神性】を、【聖性】を、【聖力】を、【聖気】を、【神気】を……神の力を手に入れたのだと。


「これは、『神格保持』能力。【神刀・里神楽】の能力の一端……」


 少女が驚嘆の声をもらした。そう、彼女は、俺の魔力から、本来の設定されるはずだった能力が設定されたのだ。


「あなたは……、まさかっ!」


 少女の声に、俺は、ただ、静かに笑うだけだった。答えはしない。だが、その笑顔が答えと言っても過言ではない。


「ずっと……、ずっと……。ずっと待っていたんですよ?」


 ポロポロと再び流れ落ちる涙。その涙は、先ほどの涙とは違う歓喜の涙。再会を喜ぶ、うれし涙だった。


「ああ、待たせて悪かった。だが、――迎えにきたぞ」


 少女は俺に抱き付いた。俺は、この名前を持たない【里神楽】の精霊に、前々から決めていた、いや、マー子たちも言っていた、あの名前を付ける。


「さあ、サト子、お前の片割れ(・・・)も、迎えに行こうか」


「はいっ!信司様!」

 え~、何とかギリギリ今日に間に合った、と言う感じですかね。桃姫です。ゴールデンでもウィークでもない3連休、あたしにとっちゃ、明日からです。今日は大学でした。もう、クタクタです。

 でも、何とか必死こいて書きました。この連休中に頑張りたいです……できるだけ、はい。

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