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《神》の古具使い  作者: 桃姫
龍人編 SIDE.D
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196話:潜り抜ける第三の試練

 休憩が明けてあたしたちは、再び食堂にそろった。食堂にそろうと、あたし等の前にはモニターが現れて主催者の顔がその画面に映る。憎たらしい顔のその主催者を見ながら、外の気配を探ってみるわ。龍の数は……4匹?


 たったの4匹しか、感じられないわね。でも、……稀少種か異常種、少なくとも、さっきのような雑魚龍じゃなくて、ある程度の頭脳と、そして、属性付加能力を持った龍のはず。

 主に龍は、階級分けではないけれど、稀少度ごとに、その強さは変わっていくわ。例えば、さっきの雑魚、あれは一番下の小龍か、龍種。今度のが中龍か大龍。そして、それよりも強くなると龍王種、龍神種、天龍神種という風になっていくのよ。


 ちなみに、第六龍人種の中にいる龍は、おそらく龍神種から天龍神種ね。固有名称を持ち、強力な力を持っているから、そいうことだと思うわ。天龍神種は数体しか確認されていないし、大半が龍神種なんでしょうけど。

 天龍神種……無限の龍とも恐れられるウロボロスくらいのものよ。まあ、おそらく、聖大叔母様の終焉の龍も天龍神種でしょうけど。でも、本当に滅多にいないものなのよね。


 だからこそ、ここにいる中龍だか大龍だかの稀少種、異常種は珍しいけれど、それでもさほど珍しくないってことなのよ。あ~、噛み砕いて説明すると、全体的なもので見ると雌らしいけれど、龍の中にはもっと珍しいのもいるから、さほど珍しくないって意味ね。


 そういえば、この場所に呼び寄せられた理由である覇龍祭の覇龍ってのは、龍王種の中でも、一部の龍につけられた覇王龍から来ているようね。通称古龍とも呼ばれる覇王龍は、龍神種に勝るとも劣らない強さを持っているとか。


「それで、今回は、火とか、水とか、風とか、土とかの属性に対応する力を見せろってことかしら?」


 モニターに向けて、あたしは問いかける。主催者は、あたしが見抜いていることが分かっていたのか、それとも、想定していたのか、特に驚いた様子は見せなかったわ。そして、主催者が、試練の内容を口にする。


「その通り、第三の試練は、色龍の闘技場だよ。4匹の龍が君らを待ち受けている。4匹、と言っても、先ほどの腕羽龍や角無龍なんかと一緒にしてもらっては困る。それほどに強い龍だ」


 まあ、強さの度合いで言えば、それくらいには強いかしらね。でも、あたしにとって敵じゃないわね。しかし、ふむ、あまり人に能力を見せたくないし、なるべく【宵剣・ファリオレーサー】だけで戦いたいのよ。


 何せ、あたしの能力は、何度も言うように龍の力ではなく獣の力。ここにいるのが場違いな力なのよ。それが分かれば、主催者に追い出される可能性すらあるわ。そうしたら、このメンツで、この次の試練はともかく、他の試練が乗り越えられるかどうかは分からないってのよ。


 ってことは、まあ、あたし以外が、戦いに出て龍を倒す必要があるわよね。で、どうするかってのが、ここのメンツの龍の属性と、相手の龍の属性の相性しだいってところだわ。


 相性って言うと、なんかゲームみたいに感じるでしょうけどゲームほど単純じゃないのよ。火には水ってのは確かにあっているけど、その龍が、もし油を使って発火させていたのだとしたら、発火源の油とこっちの水が反発して、火の範囲が広がって消火どころではなくなるわ。そういう場合は土が有利になるのよ。砂で消火するってこと。砂での消火なんてのは実際にあるものだしね。もしくは、油を注いで勢いを増させて消すとか。

 相手が水だと、雷ってのも間違いじゃないけど、純水だった場合は、ほとんど電気を通さないから逆に効かなくなるわ。そもそも水道水などが電気を通すのは、本来の科学的な意味での水(じゅんすい)とは違って不純物がそれなりに入っていて、それが電気を運ぶから電気を通すのよ。でも、龍が不純物を含まない水を放てるとしたら、電気を通さないことになる。そういう場合は凍らせるのが一番かしらね。


 って具合に、相性ってのは単一じゃないのよ。複雑になっている状況で、いかにそれを逆手にとれるかってことが一番重要になる。まあ、あたしなら、力でゴリ押ししてぶった切るんだけどね。


 まあ、相性を確かめようにも、攻撃を受けながら調べるのは中々に骨が折れる。だから、攻撃を防ぎながら安全に分析できる場所が必要になるわ。でも、流石に結界とかは張れないこともないでしょうけど消耗が激しいでしょうし。ああ、結界ってのはおそらく、あたしもできるけど雷璃も黒霞もできるはずよ。力を回りに広範囲に出力すればどうにかなるもの。


 んでもって、どうやって、安全な場所を確保するかってのは、もう考えてあるわ。後は、役割分担だけど、なるべく戦闘能力がないものに解析役を頼みたいんだけど、相手の属性次第では、戦ってもらいたいしね。


「瑠葵、雷璃、黒霞、瑠音は、あたしの指示通りの物を持ってきてちょうだい。そして、相手の属性が分からないけれど、白羅、煉巫、あたしは、龍と戦うわ。白羅と煉巫が1匹ずつ、あたしが残りの2匹。あくまで足止め目的で、敵の属性や技を探るためね。倒せるなら倒しちゃっても構わないけど」


 あたしの言葉に、皆が頷いた。てか、あんたら、それなりに年食ってるのに、あたしみたいな小娘の指示をホイホイ聞くってのは……、おじいちゃんに影響されてた白羅と煉巫はおいておくにしても、雷璃と黒霞は、どっかに所属しているお偉いさんなんでしょうに。


「それで、その指示通りの物ってのはなんなん?」


 黒霞が首を傾げてあたしに問いかけてくる。だから、あたしは、声を潜めて3人に指示を出すわ。これで、あたしたちの準備は整ったも同然ね。


「じゃあ、あたしたちは先に行って龍と戦うわよ」


 【蒼刻】を展開して、漆黒のドレスと【宵剣・ファリオレーサー】を腰に携えながら。


――漆黒の夜。その闇を纏う様なドレスを身に纏って、束ねた蒼の髪を風に靡かせ、宵闇の剣を振るう。


 それがあたし、【闇色の剣客】だから。今は夜じゃないけど、それでもあたしは、黒のドレスに身を固めて、蒼色の髪を束ねて、剣を持って戦いの道を歩むのよ。


「はい、暗音様」


「え、ちょ、マジで?」


 煉巫と白羅がそれぞれ口にしながら、後をついてくる。あたしは、今一度、心に刻み込むわ。この【闇色の剣客】であるという事実を。幾度生まれ変わっても……


――うん、そうだね。だから……


 え、今のは誰の声。あたしには聞き覚えのない、女の声。グレート・オブ・ドラゴンとも違う、柔い声。あたしを包み込むような、女の、声。


――……じ。愛してるよ


 え、何て言ったの。愛してるよ、の前に何かを呟いた気がするんだけど、なんて言ったのかが聞き取れなかったわ。でも、まるで、恋人に語りかけるかのような声は、どこか、あたしの胸の奥に焼き付くように……。戦いの日々の奥に見えた戦いの日々。フードをかぶって、何かを斬る、そんな日々が……。


「ちょっと、行くんじゃなかったの?」


 白羅の声で我に返った。今の声は、一体……。どこか、じりじりと肌が感じるのを擦って押さえながら、扉を開けた。


――バァン!


 扉の奥の龍たち。その龍と何かがダブる。あたしの中のあたしでも闇音でもない部分が、そう見せているかのように、巨大な何かとダブって見えたのよ。

 その瞬間、1つの名前が頭をよぎった気がした。……桜子?いえ、誰かは分からないけれど、そんな名前が……。


「フフッ」


 思わず【宵剣・ファリオレーサー】に力がこもってしまう。ギリギリとあふれ出る力に刀身が悲鳴を上げていた。


「――流、奥義『――』」


 初撃に、力を根こそぎ奪われるかのような脱力感を感じながらも、1匹が吹き飛んだわ。ほぼ無意識で放った技。でも、どことなく懐かしい力……。


「っ、龍の攻撃が来るわよ!」


 白羅の叫び声に、あたしは、瞬時に、【力場】を形成しようとしたけれど、さっき力を使いすぎたわね。


「はいよぉ!お待ちどう!」


 黒霞が、いえ、皆が現れた。迫りくる炎、水、土砂、それらの前に盾のように掲げるのは、あたしたちの控室の扉よ。そう、これこそが、あたしが持ってくるように指示した物なのよ。


 控室の扉。それは、ディスペルのかかった扉で、あたしたちの力でも無効化するなら、龍如きの力を遮断できないわけがないじゃないの。だからこそ、それを盾として使うために持ってこさせたのよ。


 扉に当たって、龍の火炎放射や水放射、土砂放射が消える。その性質を、敵の分析などに比較的慣れた戦闘経験が豊富な雷璃が見極めた。


「火炎放射は、ただの炎です。水はおそらく純水、土砂は土砂です」


 そんなこと分かってるっつのよ。てか、土砂は土砂ってそのまま過ぎじゃないのよさ。期待したあたしが馬鹿だったわ。


「煉巫、同じ炎の龍でしょ、あれをどうにかしなさい!白羅、水の龍をどうにかしてちょうだい!あたしは、土の龍を屠るわ!」


 そう指示を飛ばして、【宵剣・ファリオレーサー】を構えようとして、その形が変形していることに気が付いた。


「え、漆黒の暗無の胎動?」


 雷璃がそんなことを呟いたような気がしたけれど、今は、土の龍の相手をするのが最優先かしらね。どことなく機械っぽい、紫色の刀身を持つ刀のような物。それが、今、手に握られているわ。


――キュィイイイイン


 まるで、何かをロードしているときのような音と共に、力を奪い、刀身がそれを増幅させていく。


――大丈夫。心配ないよ?


 まるで、あたしを優しく包むような女の声。そして、手にその感覚が伝わってくるような感じがする。誰なのよ、あんたは……。


――私?私は……あなたの妻だよ。ふふっ


 妻?あたしゃ、女よ。まあ、分からんことを考えていても仕方ないわよね。そして、このあたしの形成している剣……刀。その名を【太刀・ムラクモ】。


「――流、奥義『――』」


 先ほどと同様の巨大な斬撃が土の龍に当たり龍が跡形もなく爆散したわ。太刀を消して、一息つく。どっと疲れが出て、結構ヤバめよ。


「ちょっ、終わったんなら、こっち手伝ってよ?!」


 白羅が水の龍と戦いながら叫んでいる。流石に、そんな気力はないっつーのよ。あー、だりぃ。


「黒霞は白羅、雷璃は煉巫の、それぞれ補助してあげて。てか、その辺は、あたしの指示無しで勝手に応戦にいってよかったのよ?」


 別に、指示は飛ばしたけど、1人で戦えって言ってないんだから、仲間の誰かを連れて突っ込めばよかったのに。


 そうして、白羅と黒霞、煉巫と雷璃のペアで20分ほどかけて火龍と水龍を倒したのよ。それにしても何なのかしらね、あたしの力って。


 もう、夕方か……。そんなことを考えながら、あたしたちは、再び休憩を取るのよ。

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