表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《神》の古具使い  作者: 桃姫
魔剣編 SIDE.GOD
153/385

153話:ミランダVS紳司

 俺は、目の前の少女の持つ黄金と純白の入り混じった神々しくも禍々しく感じる大きな槍に脅威を感じていた。よく分からないが、動悸が激しくなって、眩暈すらも感じる。何だ、あれは。……分からない。


 あれが何かは分からないけど、マズイものだということだけは確実に分かる。本能が、危険だと、触ってはならないと、逃げろと叫ぶ。


 槍……槍の伝説。いくつか候補は浮かんでいるけど、もし、その中でも最も危険なアレに該当していたら、かなりヤバイ。


 槍の伝説なんてたかが知れている。しかし、その中でも群を抜いているのが、神殺しの代名詞とも言わんばかりのロンギヌスだろう。

 伝承では白い槍とされているもので、本来は神を殺した槍ではない。神の死を確認した槍であって、しかも槍の名前ではなく、槍を持っていた人間の名前だとされている。しかし、いつの頃からか、神の死を確認した行為が神を殺した行為に摩り替わり神殺しの代名詞とまで言われるようになったのだ。

 他の神殺しと言えば、フェンリルやクロウクルワッハなどと言ったものなんかもそうだろう。


 他に槍として有名なのも幾つかあるが、例えば、オーディンの持つ必中の槍・グングニルや太陽神ルーがバロールの魔眼を貫いたとされる槍・ブリューナク、影の国の女王スカアハからクー・フーリンに授けられたという槍・ゲイ・ボルグ、普通の治療では絶対に治すことの出来ない傷を負わせる槍・アキレウスの槍、フィアナの戦士であるディルムッド・オディナの使っていた投槍・ゲイ・ジャルグとゲイ・ボー、アーサー王がカムランの丘で息子であるモードレッドを屠った槍・ロンゴミニアド(ただ、ロンと呼ばれることもある)、ポセイドンの持つ三又の槍・トライデント、俺の《古具》でも呼べる破壊神シヴァの三又の槍・トリシューラなどだ。


 しかし、それらには、俺が、ここまでおぞましく思う所以はないはず。ならば、やはり、最悪の予想が当たってしまったってことか。


 だとすれば、このミランダと言う少女は、俺の天敵となるわけだが……。


「まずは、貴方から死んでもらいましょうかっ!」


 槍で思いっきり突いてくるミランダちゃん。俺は、その槍をかわして、右手に、《神々の宝具(ゴッド・ブレス)》で《無敵の鬼神剣(アスラ・アパラージタ)》を呼んで槍に叩き付けてみる。


――ジュワッ


 予想していた金属のぶつかる音はせず、まるで蒸発するように《無敵の鬼神剣(アスラ・アパラージタ)》は、俺の手から跡形もなく消え去った。


「なるほど、それが、貴方の《古具》なのかしら」


 ミランダちゃんが、俺の隙をつくように、再び槍で突いてくる。マズイ……、かわしきれそうにない……っ!


「《破壊神の三又槍(シヴァ・トリシューラ)》ァ!」


――ドォン!


 俺は、咄嗟に《破壊神の三又槍(シヴァ・トリシューラ)》を呼び出して地面に叩きつけた。その衝撃で、周囲にクレーターを生んで、俺とミランダちゃんのバランスを崩す。結果、槍は俺に当たらずに地面に突き刺さった。


「チッ!」


 しかし、すぐさま、ミランダちゃんは槍を抜いて、俺の《破壊神の三又槍(シヴァ・トリシューラ)》にぶつける。


――ジュワッ


 《破壊神の三又槍(シヴァ・トリシューラ)》も同じように蒸発したように消えてしまった。それに、もう、これはおそらく通じない。次は地面に刺さる前に消されるのが関の山だろう。


「《破壊神の煌々矢(シヴァ・ピナカ)》!」


 右手に弓を呼び出して、ミランダちゃんから距離を取る。そして、弓を視界に入れ、光の矢を出現させる。


――シュッ


 文字通り光速で飛び出す矢は、ミランダちゃんの身体に届いた。しかし、向こうの反応も早かった。弓に矢が充填された瞬間に、矢の弾道から逸れていた所為で右肩を掠めた程度だ。しかし、あの反応が出来るということは、弾道に槍を置いて防ぐことも可能だろう。


――シュッ、シュッ


 2回ほど番えて打ってみるが、俺の予想の通りに槍で光の槍を消してしまう。能力に頼った馬鹿じゃなくて、自身の力も持ち合わせたタイプの人間だな。

 しかし、《破壊神の煌々矢(シヴァ・ピナカ)》も効かないとなると、攻撃手段がほとんどない。


「《帝釈天の光雷槍(インドラ・ヴァジュラ)》!《神王の雷霆(ゼウス・ケラウノス)》!」


 手に現れた金剛杵から雷が伸びて雷の槍となる。さらに、体全体を覆うように雷を纏った。この雷はカウンター効果とさらに天罰もある。これなら、もしかしたら!


「ハァッ!」


 《帝釈天の光雷槍(インドラ・ヴァジュラ)》を、半ば(おとり)として、彼女に投げつける。予想通り、彼女はそれをあっけなく蒸発させる。


――ジュワッ


 そして、そのまま槍を俺に目掛けて突いてくる。彼女は先ほどから、カウンターアタックの方が多い。だから、今度もこうして狙ってくると思っていた。


 槍が俺に到達する前にカウンターが発動してやりに目掛けて俺の纏っていた雷が向かう。それを呆気なく打ち払う。


 ……が、ミランダちゃんの上空が突如光り天罰を落とす。


「へぇ……」


 だが、それをあっけらかんと、槍の柄で弾くミランダちゃん。おいおい、まずいぞ。これすら効かないとなると、俺の持っている能力で残っているのは、《冥女の銀梅花ペルセポネー・マートル》だけだぞ。しかも《冥女の銀梅花ペルセポネー・マートル》は使えない上に使っても意味がないという無駄すぎるものだ。


 チッ……、何か他に新しい武具とかねぇのかよ。それこそ、父さんのフラガラッハとか、フレイの勝利の剣とか、逆転できそうな何かは。


 ……何も、ない。


 この状況を打開しようにも、剣や槍、弓、その他武器は、俺が呼べるものということは「神に縁のあるもの」だ。即ち、あの槍ならば、何を出しても、それを全て無効化してしまうだろう。

 たとえ、それがフラガラッハだとしても、神の造った物とも神に与えられた物とも言われるそれは、烏有(うゆう)()すだろう。フレイの勝利の剣とてそれは同じだ。


――力が、足りない……


 力が足りない、足りなすぎる。力だ、力がもっといる。どうすればいい、頭を回せ。この状況で勝つ方法は、俺の《古具》とは一体……。


 白い部屋、物置の様な部屋と揶揄したあの部屋には、神の武具が陳列されていた。それは、なぜだ。あそこに置いてあったのは、俺が呼び出したものだけ。


 あの部屋に並んでいるものはどこから来るというのはこの際どうでもいい。俺の手にはどこから来るというんだ。創り上げる……と言うと、一々考えてなくてはならないが、最初は頭に浮かぶが、その後は名前を呼ぶだけでくる。それに、形が細部まで狂いなく一緒と言うのもおかしくなってくる。俺のイメージによって形を変えるわけでもなし、効果を変えるわけでもない。


 そもそも、イメージで効果が変わるなら《破壊神の煌々矢(シヴァ・ピナカ)》の見て番うのも、面倒だから別の何かに変わるはずだ。いや、そこが起点となる目から光りの矢を放つという部分だから変えられないのか?だとしたら、弓を銃に変えることが出来てもおかしくないか……。


 試してみるか、打開の手になればいいんだがっ!


 銃だ、銃をイメージしろ。何もオートマチックやリボルバーの近代的な拳銃でなくてもいいんだ。昔の鉛玉を火薬で吹っ飛ばしていたようなものでも充分だ。イメージしろ。イメージ……。


「《破壊神の煌々矢(シヴァ・ピナカ)》」


 弓が出てきた。どんなに銃を、拳銃を、鉄砲を、火縄銃を、大砲を、そう言ったものをイメージしたところで、出るのは変わらない、か。


 牽制に、2発ほど矢を番えて打ちながら考える。どうやっても、この矢は消されるだろう。しかし、どうしたらいい。


 先ほどの思考に戻ろう。武器はどこから来ている。白い部屋とは何なんだ。白い部屋に、武器、物置、……最初の一回は、思考により生み出し、その後は白い部屋に貯蔵される。


 うん、何かそれっぽいな。だが、それが分かったところで、今までの武器しか使えないことには変わりがな……、いや、待て、違う。


 ある、あるじゃないか!


 あの白い部屋には、アレが、あるじゃないか。偶然か、必然か、そんなことはどちらでもいい。逆転の一手を見つけた。しかし、問題が1点だけ存在していることだ。その問題によっては、この一手も烏有に帰すだろう。


――だが、迷ってる暇はねぇ!


「来い、【魔剣(まけん)・グラフィオ】ッ!」


 紫炎から受け取り、白い部屋に置き去りにしてきてしまった【魔剣(まけん)・グラフィオ】。ガレオンのおっさんの傑作にして剣の階級で言えば三番目の物だがそれ以上のものであると思っている。


 剣にも階級はある。俺達が打っていた時代では、最も高位の物が神剣(しんけん)……神が創ったとされるもので連星刀剣もそれに該当する。次が、天剣(てんけん)。その次が聖剣と魔剣だ。


 しかし、【魔剣(まけん)・グラフィオ】は、おそらく天剣級だと思うほどの魔力吸収を誇る剣だ。そして、打ったのはガレオンのおっさん、神は関係してない。


 ならば、この剣が消される道理はない。ゆえに、逆転の一手である。しかし、それとともに、問題は残る。


「ふっ、何を出そうと、無駄よ」


 ミランダちゃんの槍が、俺の【魔剣(まけん)・グラフィオ】にぶつかった。


――ガキンッ!


 金属の衝突音が響く。消えていない、よかった、問題点は解決だな。

 そう、問題点とは、これも《古具》によって呼び出したのだから、白い部屋に還される恐れがあるということだ。だが、還されていない。


「【天冥(てんめい)神閻(しんえん)流】……奥義」


 上段の構えを取る。胴に隙が出来、その隙を逃さずミランダちゃんが槍を放ってくるが、槍を俺に届く前に技を放つ。


一式(いっしき)


 踏み込むと同時に槍に向かって剣を振り下ろす。しかし、槍には当たらない。ミランダちゃんが頬を上げ、笑っているのが分かる。


尖魔槍(せんまそう)


 振り下ろしと同時に、踏み出した足とは逆の足を引き、剣を後に引く。通常、剣を振り下ろすときは、剣を持っているのと逆の方の足を前に出すのだ。つまり、その逆の足を引けば、勝手に剣の振り下ろされる位置は後に下がる。

 そして、それをそのまま突き出す。


――ガキガキガキンッ!


 槍と剣が擦れあって、削りあっているのではないかと思うほどの金属音と火花を撒き散らした。


「ぐぅっ」


 ミランダちゃんの短い悲鳴。槍に当たる不規則で激しい振動は、逃がそうとしても逃がしきることは出来ない。

 そして、ここからは一気に畳み掛ける。


「見よう見まね……二式《黒演舞(くろえんぶ)》」


 二式は俺の習得してない奥義だ。しかも【天冥(てんめい)神閻(しんえん)流】の特徴でもある剣舞に重きを置いているから、真似が難しかったのだ。だが、ここで畳み掛けるにはこの技しかないのだ。


「一の型、優艶舞(ゆうえんぶ)


 優艶舞。優しく艶やかに舞うと書く通り、相手の攻撃を往なしながら、無力化するものであり、さらに、相手の動きを封じるものでもある。


 槍を剣の側面で受け流しながら、剣の柄と鍔で引っ掛けるようにして槍を地面に固定する。さらにそのまま、左脚をミランダちゃんの右脚に絡み付けた。これで、動きは完全に封じたはずだ。


「二の型、幽炎舞(ゆうえんぶ)


 幽炎舞。(かす)かな炎の舞と書く通り、獰猛な炎を幽かにしか見せないという意味で、見た目はなんてことはないが、実際はかなりヤバイ、という技だ。


 無劔(むつるぎ)と言う手刀を用いて……本来であれば脇差や短剣を使うのだが持っていないためである……点穴に微笑に攻撃を加える。

 一見、何ともないような感じだが、点穴と言うのは体のいたるところにあるが、ようするにツボと一緒であり、突かれると筋肉などの体の動かす部分に力が入らなくなるのだ。それを切るということは、治癒力で、傷を塞ごうとして、点穴が歪むことになる。無論、しばらくたてば直るが。なお、この二の型は、表向きは、相手を固定したところにただ攻撃するということになっている。また、俺の場合、見よう見まねのため、キチンと点穴を見抜けずに効果が多少薄れてしまう。


「三の型、勇閻舞(ゆうえんぶ)


 勇閻舞。勇ましく閻魔の前で舞うと書く通り、完全に攻撃するものだ。一の型で相手の動きを止め、二の型で相手の力を奪い、三の型でトドメをさすという必殺剣舞こそ《黒演舞(くろえんぶ)》である。


 力が入らないであろうから、剣での槍を固定するのも、もう意味はないだろう。そう思って、剣での固定を解除する。すると彼女の手から槍が滑り落ちた。


「……あ、……き……、ら……めな……ぃ」


 微かな声とともに、俺の首を絞めようと、手を伸ばして掴んだが、まったく力のこもっていないものだった。しまいには、するりと、手も外れてしまった。


「わたしは……あきらめないっ!」


 地面にペタンと座り込んでもなお、諦めようとはしなかった。流石は、《魔堂王会》とかいうところのリーダーだけあるな。


「《刻天滅具(こくてんめつぐ)》っ……!」


 金色と純白の入り混じった槍が再び召喚された。《刻天滅具》……普通の《古具》や《死古具》とは違った名称の付け方だが、まあ、そこは気にしてもしょうがない。


「ぐっ……、力が……。だから……《神滅の槍ペネトレイト・ロンギヌス》ゥッッ!」


 ロンギヌス、確かにそう言った。やはり、そうか。どうやら《神滅の槍ペネトレイト・ロンギヌス》と言うのが槍の本当の名前のようだ。


 しかし、点穴の切りが甘すぎたかな。もう、だいぶ動けるまでに回復しているし、気迫と根性でどうにかしているっぽい。


「殺す……コロスッ!」


 火事場の馬鹿力ってやつで、威力や速さに拍車がかかる。しかし、そのときだ。俺の視界に、蒼と紅、二色の入っていた。俺の眼線の先に、刀を持って男を引き摺り歩く静巴の姿だった。


――ドクンッ


 まるで、心臓を鷲掴みにされたような、そんな感じ。


――何だ、これは


 静巴も異常があったようで、手から男と刀をこぼし、うずくまるようにして、背中を庇うようにしている。


――槍が、スローモーションに見える


 そう、遅い。遅すぎる。


 その瞬間、眩い光りと共に、静巴が()()った。背中の何かを押さえるように、堪えるが、次の瞬間、右から紅の翼が、左から蒼の翼が生えていたのだ。


 そう、《紅天の蒼翼ヘブンズ・パラドックス》、それが、静巴の《古具》だった。それが、その力か……?!


 自然と、気がつけば、俺は【蒼刻(そうこく)】を発動していた。


――これは、何だ……


 違う、それだけではない。【蒼刻(そうこく)】以外に「ナニカ」も発現している。そして、俺は、《神滅の槍ペネトレイト・ロンギヌス》を弾き飛ばした。


 上手く表現は出来ないが、まるで、俺が魔法を使ったみたいだった。そして、《神滅の槍ペネトレイト・ロンギヌス》を弾かれたミランダちゃんは、今度こそ倒れた。


 静巴の方も収まっているし、俺も元に戻っている。一体、さっきのはなんだったんだろうか。

 え~、1.5話分くらいの量になりました。

 魔剣編と題打ってありますが、敵サイドで魔剣を持っている張本人が静巴との戦闘ってどういうことだ、という話ですが、紳司も今回、グラフィオという魔剣を使っています。

 アロンダイトとグラフィオと言う2本の魔剣のお話でした。


 あと、初めて《紅天の蒼翼》が明確に発動しましたが、能力の説明は後回し、と言うことで。紳司君も《神々の宝具》の力はこうじゃないかと検討をつけていましたが、果たしてアレは正解でしょうか。実は色々と設定はきまっているんです(←あたりまえ)。まあ、その辺は終盤に、ということで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ