128話:一休み……出来ずSIDE.GOD
さて、家に帰る途中に、姉さんと合流した俺が、家に帰って驚愕する。何に驚愕したかって言うと、家の前にリムジンが停まっていたことにだ。何故リムジン、と絶句している俺にスーツ姿の父さんが言う。
「これ着て、乗れ」
意味が分からないかったが、とりあえず受け取ったスーツ。高級感溢れるスーツで、どこと無く質のいいものだというのが分かった。
一方の姉さんは、と言うと、リムジンを見て、「ほら、やっぱり乗ることになったじゃない」とか誰に言っているか分からないことをドヤ顔で言っていた。
俺は、玄関でサッと着替えて出てきた。着慣れないが、まあ、こんなものだろうな。ネクタイを軽く締めて、リムジンに乗り込む。
「悪いな、修学旅行から帰って来たばっかなのに。俺と紫苑、そして、相棒のことを説明しようと思ってたんだが、パーティに参加することになっちまってな。そろそろ、お前等もパーティに連れて行ってもいい頃だろうし、連れて行くことにしたんだよ。残念ながら説明は明日な」
と、父さんが言った。そして、父さんは、姉さんの方を見て、溜息をついた。姉さんは、さっきまでと変わらない格好だった。
「いや、紫苑、これは、どういうことだ?暗音の着替えも用意してたんだろ?」
どうやら母さんが用意してたみたいなんだが、何かトラブルでもあったんだろうか。姉さんが肩を竦めて言う。
「胸囲が足らんちゅーのよ。最近、また大きくなったみたいで。修学旅行前にも新調したしね」
母さんが申し訳なさそうに、自分の胸を見た。明らかに自分の胸を気にしているように思うんだが。なお、母さんもドレス姿であり、胸は普通にある部類だというのが一目でわかる。
「紫苑、お前の胸が娘より小さいのは、この際どうでもいい。別に、俺は胸の大きさは気にしてないからな。問題は、暗音の服をどうするか、だが」
母さんは、うなだれた。ああ、まったく、父さんは相変わらずデリカシーの無いことを言う。
「大丈夫よ。服ならあるし」
ああ、そういえば、姉さんにドレスの心配はいらないんだったな。忘れていたが、姉さんは……
「《黒刃の死神》」
姉さんがそう呟くと、姉さんの服装が黒色のドレス姿に変わる。前に見たのとは少し違うタイプのドレスだな。あれだ、胸元が透けて見える、いわゆるデコルテシースルードレスだ。脚の方は、スリットが入っていて、そこから見える脚がたまらなくそそられる。俺は秋世の脚を見たときもそうだったが脚フェチなのだろうか。
「それが、お前の《古具》か……」
父さんが言う。そう、あれが姉さんの《古具》だ。てか、今日のパーティってどこで何のパーティなんだ?
「どうせ、その服だけじゃ、無いんだろうな。まあ、いいさ、その辺は明日聞こう」
父さんは、姉さんの《古具》に対してスルーを決め込んだところで、さっき抱いた疑問をぶつける。
「で、どこのパーティなんだよ?」
俺の言葉に、父さんは苦笑を浮かべながら言う。
「南方院財閥のパーティだよ」
その言葉に、そういえば、秋世が、秋世の教え子で面倒を見ていた南方院ルラと言う女性が居て、その人は父さんとクラスメイトだった、と言っていた気がする。
「へぇ……」
俺は、そんな意味を込めて、頷いた。クラスメイト……いや、おそらく、その後も付き合いがあったのだろう。父さんが呼ばれるってことは父さんがチーム三鷹丘の人間であることを知っているはずだし、てか、父さんの仲間ならチーム三鷹丘の人間なのかもしれないな。
「で、誰が来るの?」
この問いは姉さんから父さんへの問いだ。まあ、俺もそれは気になっていたんだが、答えを聞こう。
「ん、あー、南方院家のルラと、あとは、花月グループの当代と、不知火家の御曹司と、……まあ、挙げたらキリがないな」
静巴の父親が来るのか。ちょっと、会ってみたいがな。確か、静巴には、自分の結婚したい奴と結婚していいって言ってるとか聞いたような。そんな剛毅なことを言う父親ってのには会ってみたいな。いや、うちの父さんもいいそうだけどな。
「それにしても、お前等が、《古具》使いか」
父さんはどこと無く感慨深そうに言う。それに対して、姉さんが、何かニヤリと笑った気がした。
「あたしとしては、《古具》よりも、蒼子さんと、蒼衣父さんが結婚して生まれたってことの方に苦笑いしかでないんだけどね」
前世関係のワードだろうか。2人の視線が鋭いものになった気がした。そして、アイコンタクトをしてから、姉さんに聞く。
「て、ことは、闇音か」
やっぱり、父さんが姉さんの前世の名前をズバリと言い当てた。蒼衣父さんってことは、姉さんと父さんは前世でも親子だったようだ。
「ああ、うん、まあ、性格もそっくりですからねぇ」
母さんもそんな風に、感慨深そうに頷いていた。てことは、母さんの前世も姉さんの前世の関係者なのだろう。
「そっか、紳司は光ってことは無いだろうし、無関係か」
そうだよ、俺は無関係だよ。悪いか、この野郎。しかし、なんだろうな、この疎外感。1人だけ仲間はずれって言う……。
「俺の前世は、時間軸的に、時空間統括管理局が出来たころ……世界が違ったらあれだけど、剣帝大会ってのが俺のいた頃に出来たな」
その言葉に唖然とする家族の面々。どうやら、剣帝大会についての知識はあるようだ。ってことは、俺の前世よりも時間的に後なんだろうな。
「俺と紫苑の前世が七代目剣帝だ。母が二代目、父が三代目、祖母が初代だ」
母が二代目……ってことは、静の子孫にあたるのか。ちなみに、静は、英司と静葉の子で、二代目剣帝。初代が俺の妻である静葉だ。あと、俺の息子が結婚した五威堂弓歌ちゃんは五代目剣帝。
「あ~、ってことは、血のつながりは無いけど、祖父でもあるわけか」
俺がそう言うと、家族一同が、それは嫌だなと言う目で俺を見てきた。俺の所為じゃねぇし。運命に文句を言え。
「で、祖父ってのは?」
父さんが嫌々、俺に問いかけてくる。だから、嫌そうな顔をしないで欲しいんだが。ただでさえ疎外感が半端無いのに。
「俺の前世の妻、七峰静葉は、前世の俺の親友であった八塚英司と結婚して七峰静を産んだんだが、あいつは、俺とも結婚して六花紳っていう俺の息子を産んでるんだよ。つまりは重婚」
俺の説明で納得したのか、それでさらに顔を青くするのが母さんだった。それと同人に姉さんも「あー」と頬をかく。父さんも何かを察しているようだが。
「紫苑の前世、蒼子姉さんの婚約者は、六花竣。おそらく、お前の孫だ」
あ~、なるほど。しかし、そうなると、結局のところ、俺の血と英司の血が最終的にどこかで混じってるよな。……、ああ、そうか、それが蒼紅か。
「まあ、色々とあるだろうが、詳しい話はまた明日、だな。もう会場が見えてきている」
父さんが話を切った。大きなホテルが見えている。あのホテルのどこかのホールを貸しきってパーティが行われるのだろう。
リムジンが停まって、扉が開いた。俺たちは、そそくさと降りるとホテルを見上げた。めちゃデカイ。
「ちなみに、普通にパーティするだけだから、お前等は、適当に飲み食いしててもいいんだぞ。俺についてくるとお偉方の長話を聞かされることになるし」
それは面倒だな。俺は、適当にぶらつくとしようか。見知った顔に会えるかもしれないしな。
「あたしは、まあ、不知火とか、不知火がいるなら十月もいるでしょうし、その辺とくっちゃべってるわよ」
不知火の御曹司ってそういえば、姉さんのところの《古代文明研究部》の部長だったな。《古研》って名前久々に聞いた気がする。
「俺は、適当にぶらついて……」
と言ったとき、どこかから聞き覚えのある声が聞こえた気がした。はて、誰の声だろうか、と声の方を見ると、由梨果がいた。
由梨果が誰かと話している様子だったので、偶然通りかかったところなのだろう、とは思うのだが。とりあえずやり過ごそうと思ったそのとき、目敏く由梨果が俺を見つけてしまう。
「あら、紳司様ではありませんか」
そう言って俺の方へと寄ってくる。一緒に居た人もついてきたが、由梨果の言動を特に気にした様子はない。
「メイド長……、あ、いえ、由梨果先輩、お知り合いですか」
由梨果のことをメイド長と呼んだってことは、昔の由梨果の関係者なのだろうか。同業者と言うことなら、由梨果の言動に引かないのも納得だ。
「ええ、今の自分の主です」
そう言うと、由梨果と話していた人は、俺に恭しく頭を下げた。いや、別に主ではないんだが。
「何だ、紳司。いつ間にメイドなんて雇ったんだよ」
父さんは「へぇ」とかいいながら由梨果の方を見ていた。姉さんは面識があるためか無反応。
「あ~、由梨果、こっちが俺の父さんで、向こうにいるのが俺の母さんだ」
一応、俺の両親を紹介しておく。すると、少しだけ驚いたように2人を見て、それでも、ほとんど顔を変えなかった。普通、俺が両親を見せると、ミュラー先輩の様に驚くのが普通だ。あまりにも若すぎる外見に、一般的な常識を持つ者なら驚かないわけが無いのだが……、ああ、そういえば、シュピードの弟子だったんだっけ。なら、驚かなくても当然か。あいつ、一体何歳なんだよ。
なお、ウチの学園では、面談も家庭訪問も行われない。なぜなら人数が多すぎて、ものすごく時間がかかってしまうし、家庭訪問にいたっては、実家が海外なんていうのもざらにあるし、著名人は忙しくて日程を空けられないことも多いからだ。
「はじめまして、桜麻由梨果と申します。現在は、紳司様の副担任を務めると共に、紳司様のメイドをさせていただいています」
由梨果は、そんな風に、ウチの両親に自己紹介をするのだった。




