124話:最終日SIDE.GOD
昨夜、と言うべきなのか、今夜と言うべきなのか、些か迷うが、昨夜、と言う表現で問題は無いだろう。昨日の夜、守劔たちに連れられて「楽盛館」に帰る予定だったのだが、あちこちに引っ張りまわされた挙句、本日午前6時にやっと解放され、「楽盛館」の前にポイ捨てされたのだ。
あちこちを具体的に言うならば、居酒屋やカラオケなどであり、そこで、祐司さんによる、うちの両親のラブラブ具合を延々聞かされるという鬱陶しいイベントをこなしつつ、未成年なので酒は飲めないから、と焼き鳥を食べつつ、酔っ払っていく祐司さんや由梨果を見ていた。なお、祐司さんが酔っ払った後は、運転手が下戸で一切酒が飲めない八千代さんにバトンタッチされたので法律はキチンと守ってる。
と言うわけで、6時にとぼとぼと「楽盛館」に入った。するとロビーに居た秋世が、俺達を見て驚いていた。なお、姉さんは、外の自動販売機で眠気覚ましにコーヒーを買っているため一緒ではない。
「なっ?!」
秋世の大声が、まだ人の少ない静かなロビーに響く。うるさくするな、従業員に怒られるぞ。俺と由梨果が……もとい、由梨果を背負った俺がロビーにやってきて、驚いたのだろうが。何故、由梨果を背負っているかと言うと、酔いつぶれていたからだ。
今回の教訓は、由梨果に酒を飲ませてはならないってことだな。酒は飲んでも呑まれるな、って言葉の通り、呑まれちゃだめだろ……。
「ちょっ、紳司君?!」
大声を出して、俺の方へ駆け寄ってくる秋世。その視線には俺と由梨果しか入っていないらしく、缶コーヒーを買って、今ロビーから入ってきた姉さんは一切眼中に入っていなかった。姉さんは、俺と由梨果と秋世を一瞥して、そのまま「面倒ごとは勘弁」と言うようにスタスタと俺を置いていってしまった。薄情者めっ。
「何だよ、秋世。朝っぱらから大きな声を出すな。迷惑だろ?」
俺は平静を装って、事も無げに秋世に言った。秋世は、俺と、俺の背でくーくー眠る由梨果を見て絶句し、頭を押さえた。
ふむ、別段、変なことはないと思うのだが、もしかしたら秋世の脳内では、酔っ払った勢いであーんなことやこーんなことをやったあと帰って来た図に見えているのかもしれない。
「いやいや、紳司君。何で桜麻先生が貴方の背中でぐぅぐぅ眠ってんのよ?
あの、真面目な桜麻先生に一体何したのよ?」
掴みかかる勢いで迫ってくる秋世を往なしつつ、ロビーの椅子のあるスペースまで移動する。
「避けるなってのよ」
秋世がバシバシと打ってくる拳を避ける。てか、当たると由梨果にもダメージが行くから当たるわけにはいかんのだよ。
「落ち着けって」
俺は秋世にそんな風に言いつつ、椅子に由梨果を降ろした。由梨果は熟睡しているため、椅子に降ろされても起きる気配はない。まあ、むっちゃ飲んでたし。
そういえば、秋世も父さんの仲間だし、父さんの担任を務めたこともあるとか言ってたから、父さんの親友だった祐司さんのことは知ってるんじゃないか?
「こりゃ、ちょっと、飲んだだけだって」
俺の弁明に、秋世の怒りが頂点に達する。あれ、俺、おかしなこと言ったかな?
「未成年が飲酒とは何事ですか?!」
「俺は飲んでねぇ?!ゆ……桜麻先生の話だよっ?!」
由梨果と言いそうになって口を噤む。流石に、由梨果呼びはまずいだろうし、どうにかして言い直す。
「ああ、そうね。まあ、紳司君がそんな危ないことしない、か……」
ウチの両親や祖父母を見てきた経験則だろうか、そんな風に言った。まあ、その通り、まったく飲む気はないけどな。
「それと、祐司さんって人に会ったんだけど。月丘祐司さん。あと月丘八千代さん」
うんうん唸ってた秋世が、俺の言葉でピタリと止まる。やはり知り合いなのだろう。懐かし気な顔をして秋世が笑った。
「そっか、月丘夫妻と会ったのね。取材か何かかしら?」
祐司さんの仕事も知っているらしく、来た理由まで言い当てていた辺り、父さん同様に親しかったのだろう。
「前に言わなかったっけ?私が担任を持っていた王司君のクラスの話。クラスで王司君と仲がよかったのは、私が一時的に面倒を見ていた南方院ルラさんと、王司君の幼なじみの篠宮真希さんと、同じく幼なじみの月丘祐司君だったって。ああ、あと、後から転校してきた愛藤愛美さんも。
そんでもって貴方のお母さんの七峰紫苑さんと王司君の姉の様な人であった九龍彩陽さんが王司君の1つ上の学年。祐司君と恋人同士だった烏ヶ崎八千代さんが1つ下の学年」
南方院ルラと篠宮真希と言う名前に関しては聞き覚えがあるが……。しかし、「愛藤愛美」はやはり父さんの知り合いだったか。しかし、父さんの代と比べるとまだ、魔法幼女とか居ないあたりが、俺の代はマシってことか……、いや、魔法童女がいる。変わらんな……。
そして、その魔法童女を偶然にも、見かけた。たった今、帰って来たようで、くたくたな様子で全裸マントの幼女がロビーに入ってきたのだ。誰も止める様子が無いところを見ると、やはり、誰も全裸マントには見えてないらしい。
「あら、あれは……空美さんね」
流石に授業を持っているだけあって面識があるようだ。ほら、紫炎のクラスだから、紫炎のクラスで秋世が教科担当であることは、修学旅行前に紫炎を呼び出したときに見て知ってる。だから、必然的に同じクラスのタケルも秋世の授業を受けていることになるのだ。
「おい、タケル。こんな時間にどこに行ってたんだ?」
俺は軽くタケルに呼びかけた。すると全裸幼女タケルは、てとてと、とこちらにやってきた。
「どうもっす、兄ちゃん。それに、天龍寺先生もおはようございます」
秋世には、コイツがどういう風に見えているのだろうか。まあ、どうでもいいか。俺には全裸マントの幼女にしか見えん。
「ちょっと、旧友との親交を深めに……逃げられちゃいましたが」
逃げられたってのは、まあ、順当に考えて愛藤愛美に、だろうな。近くに居たから、出会っていても不思議ではないだろうし。市原家と「楽盛館」は直線距離的に考えても充分に近いと言える。
「あの人が仕事をしないせいで、ボクに仕事が回ってくるんですぇ?統括部長なんていう役職に付いたのがダメだったんでせうか?」
タケル、統括部長だったのか。随分と御偉いさんだな。まあ、最高責任者の愛藤愛美の下ではあるみたいだが。
「偉鶴んみたく統括副部長とかになってればよかったんかなぁぇ?」
どうやら、やっぱり、偉鶴とも知り合いなのである。あの明津灘家の人妻魔法幼女のことだ。てか、それ、階級1個しか違わないからあんま変わらんと思うぞ?
「相変わらず大変そうだな。まあ、三鷹丘に帰れば会えるだろうし、気を落とすなよ」
父さんの知り合いなら三鷹丘にいるだろうし。てか、ホント、父さんの周り、女が多いな。まあ、その女には「変な」と修飾がつくんだが。
「はぇ?三鷹丘?!」
タケルが素っ頓狂な声を上げた。知らんかったんだろう。灯台下暗しにも程があるっちゅーの。
「俺の父さんの友人なんだよ。魔法幼女うるとら∴ましゅまろんことマナカ・I・シューティスターこと愛藤愛美は」
一応、タケルとあったときに、確定ではないけど父さんの友人かも知れない、と言うことは伝えたはずだ。まあ、確定じゃなかったから気にしてなかったんだろうけど。
「うぉぅ~、灯台下暗し……」
タケルは、ヘトヘトになって、とぼとぼと自分の部屋へと向かっていった。秋世は、その様子をボーっとして見ていた。
「紳司君って空美さんと親しいの?」
秋世の問いかけに、俺は、どう答えたものか、一瞬考えたが、特に変なごまかしをする必要が無いことに気がつき言う。
「紫炎と……明津灘紫炎と同室だからな。その関係で親しくなっただけだ」
嘘は言っていない。全て事実だし、ほとんどそれ以上の関係はないのだ。少々込み入った事情を知っているだけで、それに関与してるわけでもあるまいし。
「でも、魔法幼女うるとら∴ましゅまろんの話もしてたじゃない?」
そういえば、愛藤愛美のことを知っているってことは魔法幼女のことも知ってるってことだよな。
「あいつは魔法童女だからな。魔法童女∥たるとぱいとか名乗っていたが」
あとはバンキッシュ・V・ヴァルヴァディアとも名乗っていたが、偉鶴曰く「VVV」とか。
「魔法童女ゆるたる∥たるとぱい……魔法少女独立保守機構の統括部長がこんな木っ端世界に来てるなんて……」
それよりも階級が上の最高責任者の愛藤愛美とやらもいるんだがな。てか「ゆるたる」ってなんだ?
「木っ端世界言うな。まったく、全部片付けた後の最終日、あとは帰るだけだし、特に問題も起こらなけりゃいいんだが」
魔法少女だか、魔法童女だか、魔法幼女だか知らないが、最後の最後で関わってこなきゃいいけどな。
「全部片付けたって、どーゆーこと?」
そういえば秋世には全く報告してないんだったな。市原を片付けた件について報告しておくか。
「市原家が《古具》使いを襲う件は、俺と桜麻先生で片付けてきた。家に乗り込んでな。その帰りに祐司さんたちと会ったんだよ」
俺の説明に、目を見開いて驚く秋世だが、「ま、一々驚いてちゃダメか」などと呟いて納得していた。
さて、と、まあ、こんな説明でいっか。さぁて、この後は、午前9時にバスで関空に向かって、そっから地元の空港まで行って、そこで解散だ。
部屋に戻って、静巴にもこのことのあらましを説明して、とっとと、その辺を済ませて帰ろうじゃないか。
家に帰ったら父さんの説明会もあるしな。
そういえば、すっかり忘れていましたが、twitterをはじめました。あたしのアカウントは、マイページの方に記載しておいたはずなので……。
もしくは、「@momohime_peach」で検索をしたらでます。特にフォローしてくださいとはいいません。と言うか、更新報告くらいしか呟かない気が……




