122話:幸福な夜SIDE.MIS
今日もよく【力場】を感じるいい夜だねっ。わたしは、京都タワーの天辺から京都を見回すの。よく見える……よく見えすぎる雅の都の夜は、よく見えない。
真っ暗って訳じゃないけど、他の都市と比べて見づらいんだよ。三鷹丘なんかは、ビルから住宅街から、明かりという明かり、光という光があっちこっちにあるからねっ。
そんなわけで、わたし、愛藤愛美は、京都の街に来てるんだよっ!皆さん、お久しぶりぃ!
お久しぶりでない皆さんは、はじめまして、だねっ。さぁて、れもねーどちゃんの実家がここら辺だからって聞いて、王司さんとに断ってからここに来たの。
わたし、愛藤愛美は、とある組織の最高責任者を担っているのだっっっ!
れもねーどちゃんは、その組織の一員で、統括副部長っていうお偉いさんなんだよ?まあ、わたしの方がお偉いさんなんだけどねっ!
れもねーどちゃんは、コードネームと言うか、お仕事ネームであって、本名じゃないんだよ。本名は……明津灘偉鶴ちゃん!
既婚者で、旦那さんとイチャイチャしてるんだけど、ずっるーいよね。わたしも王司さんとイチャイチャしたいのにぃ。
それにしても、わたしの部下……「魔法幼女ばーにんぐ!れもねーど」ちゃんは、お仕事サボってのん気だなぁ~。ま、わたしが言えたことじゃないっか。
そーいえばっ、最近は、統括部長ちゃんもお仕事サボって学生してるって言ってたなぁー。わたしの機構、仕事してなぁーいなぁー。
まっ、そんなことはどぉーでもいいよねっ!
と、言うわけで、改めまして、愛藤愛美こと、マナカ・I・シューティスターって言います!別名、魔法幼女うるとら∴ましゅまろん。「∴」は「故に」って意味だよ?
とある組織の最高責任者なんだけど、随分前に、ちょっとした騒動で、組織に戻れてなかったけど、まあ、そもそも組織自体が、石眼の白蛇の討伐で、石眼の白蛇が医務管理部長を含む300人もの魔法少女を石化させて体内に取り込んでいたせいで、わたしが代償を払って石眼の白蛇を倒した後も、石化が解けなくて組織が機能してなかったんだよね。
って、まあ、わたしが巻き込まれたトラブルも、予言で起こることは知っていたしね。管理事務長、わたしの失った友人が予言してくれてたから。そう、王司さん、わたしの運命の人と出会うこともねっ!
まあ、800年以上の時を生きるわたしは、人生経験も豊富だから、大抵のことでは驚かないし、そもそもわたしは死ぬことができないからね。そう、死ねない代償。石眼の白蛇を倒すには、それしかなかったんだよね。
……ちょっと寒いかな。
お尻に食い込んで、妙な感じになっている白いスクール水着を指を入れて、パチンと元に戻すの。うん、これで、よし。マントをくるりと、わたしの身体に巻きつけて、風から守るのっ!流石に夜は白スクだと寒いねっ。もう、夏なんだけどなぁー。
え、何で白いスクール水着を着てるのぉ、って?
そりゃ、もちろん、わたしが魔法幼女だからだよっ!魔法幼女……ううん、魔法少女も魔法童女も魔法幼女も、全部、こういった指定の変身後の服があるんだよ。
ちなみに、わたしは、白いスクール水着と白のハイニーソックス、ロングブーツ、そして、マントだよ。
これはわたしの趣味じゃなくて、ウチの組織の服飾デザイン企画担当部長が決めてるんだよ?わたしは変態さんじゃないんだよ、本当だよ?
服飾デザイン企画担当部長のあだ名は「変態デザイナー」だから。ちなみに、その変態デザイナーちゃん、本人の格好は、ウェディングドレスなんだよ、ズルいよね、自分だけそんな女の子の夢見たいな格好しちゃって。
まあ、【ウェスティアに婚姻を認められた者】、【ウェコムの嫁】、【ウィルシアを内包した者】だからね。ウェスト・W・ウェディングちゃん、本名は神楽野宮昏音ちゃん。昏は昏って読めるし、音は音ってもよめるから昏音、つまり婚姻とも読めるっていう、結婚に縁のある子だから、まあウェディングドレスも仕方ないかな、って思うんだけど。
まあ、そんなことはどぉーでもいっか。
それよりも、強い【力場】を感じたところに行ってみよっ。なぜなら、もしかしたら、あたらしい魔法少女候補がいるかもしれないからねっ!
魔法少女普及活動もまた、わたしの組織の仕事だもの、がんばらなくちゃねっ!
う~ん、と、【力場】はこの辺から感じたんだけどなぁ……。特に見当たらないよね。それに、もう、戦闘も終わったのか、【力場】は収まっちゃってるし……。
どうしよっかな?とりあえず、家の中を覗こうかな。魔法少女が誕生してるかもしれないしね。
「ひゃあっ!」
おっと、姿を見られちゃった。白衣を着たおねーさん。年齢は、20歳くらいかな。見た目どおりの年齢だよ。
見た目と年齢が違う人は結構いるんだけど、【力場】とかを可視できるようになると、それが実年齢かどうかは、すぐ分かっちゃうんだよね。特色ってゆーか、年輪みたいな感じかな?
「おっと、わたしは魔法幼女うるとら∴ましゅまろん。怪しい者じゃないよ?」
魔法少女達は、その正体を仲間以外にバラすのは御法度とされてるんだよ。え、わたしが名乗ってるのはいいのかって?いいんだよ、最高責任者は名前が知れ渡ってるからねっ!
「ま、まほう、しょうじょ?」
白衣のおねーさんがそんなふうに言うんだけど、違うよ、おねーさん。
「わたしは魔法幼女だよ?」
実年齢800歳でも魔法幼女なんだよ。魔法おばあちゃんは居ません。それに一線を越えると魔法少女じゃなくて魔女になるんだよ。でも、その一線は、年齢でもストレスでも穢れでもなくて、「見た目」なんだよっ!見た目が若けりゃ大丈夫なんだよっ!
「こ、コスチュームプレイの一環ですか?」
白衣のおねーさんは、どうやらわたしのことを信じていないみたいだねっ。悲しいな、ホント。
――ふわっ
【力場】を軽く操作して、塀の上からそっと降りる。世界の物理法則なんて、わたしの前では関係ないんだよっ!
「おねーさん、お名前は?」
わたしは、おねーさんに尋ねる。魔法少女普及活動は、魔法少女を捜すだけじゃないんだよ。困っている人を助けるのも、また、魔法少女のお仕事で、普及活動なんだっ!
「祭囃子祭璃、です」
おお、魔法少女向きの長い名前だねっ!ほら、魔法少女って本名がおかしな子が多いイメージあるでしょっ?
紫光坂とか明津灘とか冥光天院とか神楽野宮とか、そんな苗字ないよっ、って人がいっぱいだから。
「おねーさん、困り事は何かある?」
わたしは祭璃おねーさんに聞いてみた。さぁ、なんでも言ってくれていいんだよ、祭璃おねーさん!
「え、いえ。まあ、研究には行き詰ってますけど」
なるほど、研究かー。大変そうだなぁー。何か手伝えそうなものはあるかなっ、かなっ?
「何の研究なのかなっ?」
わたしの疑問に、祭璃おねーさんは「こんな子供に言っても」って目で見ながらポツポツ話してくれるよ。
「《人工古具》、何て言っても分からないですよね」
《人工古具》?
《古具》って言うのは、この世界だけの固有のもので、《神創具》とも呼ばれる、三神の1柱、蒼天の創ったものだよね?
それを人工的に再現しようってことかなっ、かなっ?だとしたら、【力場】を使えばどうにかなるかもしれないねっ!
「既製品ってあるかなっ?
たぶん、【力場】と【テルミアの奇跡】を併せたら出来ると思うけど、今までのと全然違っちゃっても困るしねっ!」
【テルミアの奇跡】って言うのは、わたしの組織がある時空座標を中心とした世界でよく取れる鉱石のことで、何故か分からないけれど、とても加工性の高いというより、【力場】と【思い】に反応して形を変えるんだよっ!
「これですよ」
そう言って見せてくれたのは、小さな刀の様なものだったんだよ。でも、刃は無くて、危なくない。
「《影に形はない》と言う《人工古具》ですよ」
これが《人工古具》……?これは、間違いなく、【テルミアの奇跡】によって作られたものなんだよっ!
「工房はどこにあるのっ?魔術工房。あるんでしょっ?」
こういったものを作る人は大抵、自分の工房を持っているものなのっ。うちの組織の「魔法の杖製作委員会」もそこのメンバーは全員、個々の工房を持っているくらいだからねっ。
「え、け、研究室なら、あちらですけど」
祭璃おねーさんの指差すほうへ、わたしはすっ飛んで行くよっ!【力場】で、スピードを上げながら、超特急で、研究所の中に入っていくの。
そして、辿り着いた、地下研究所には……【テルミアの奇跡】が置いてあったのっ!それも原石で、しかも純度のものすごく高い。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
慌てて後を追ってきた祭璃おねーさん。でも、そんなことを気にしてる場合じゃないのっ!
「ああ、もう、ちょ、それに触っちゃダメですよっ!」
祭璃おねーさんが、わたしが【テルミアの奇跡】に触ろうとしたのを止めたよ。止めないで欲しいんだけどなぁ……。
純度の高い【テルミアの奇跡】は、桜色を……最も純度が高いと「白桜」と呼ばれる色をしてるの。
「それは魔力伝達物質って言う、裕太様のお母様の実家の方で武器として使われていたとか」
実家……、武器……?
たしか、わたしの組織のある場所の近くの世界に、幽賊害蟲って怪物が蔓延ってる世界があって、その世界では【テルミアの奇跡】を武器にしてるって聞いたようなぁ……。
「なぁーるほどぉー。でも、これだけ【テルミアの奇跡】があるなら、ちょこっとできちゃいそぉーだねっ!」
祭璃おねーさんの制止を振り切って【テルミアの奇跡】を1つ手に取ってみたんだ。分かる、分かっちゃう。これは、間違いなく、純度の高いものだって。偽物何かじゃないの、間違いないのっ!
わたしでもものすごく久々に触ったほどに純度が高いよっ!
「これはっ」
大量に並んでた【テルミアの奇跡】の偶然手に取った1つにメモがくっついていたんだよっ!
「そっか……。設計図だよねっ」
それは設計図だったんだよっ。「YUINE」って書いてあるから「ゆいねぇ」さんだねっ!
「なるほどねぇ、名前は《やがて来る福音》か……っ」
ふふ、優しいんだね、ゆいねぇさんは。だからこそ、わたしは、これを完成させて挙げなきゃいけないよねっ。
「え、それに書いてある字が読めるんですかっ?!」
祭璃おねーさんは、驚嘆の声を出してるよっ!そんなに驚かなくてもいいんじゃないかなっ!
「うん。わたしの知り合いにもこの文字を使う子がいたからねっ」
ねぇ、春菊ちゃん。そんなことを思いながら、わたしは、【テルミアの奇跡】に、ゆいねぇの【幸せの思い】と【力場】を一気に込めるっ!
――パァアアアン
眩い光と共に、【テルミアの奇跡】は、形を成していくんだよっ。そう、この光こそ【テルミアの奇跡】と言う名前の由来なんだよっ。
テルミアと言う世界で女神が起こした奇跡のような眩い光と共に形を変形させることから、そんな名前で呼ばれているんだよっ!
「でぇ~きたっ!」
そう、出来たんだよっ。わたしは、その手に完成した、6つのリングが紐で繋がれているものがあるんだよっ。
リングはそれぞれ宝石がついてるんだよ。一番大きい輪には黒、二番目に大きい輪には赤、次の輪はピンク、次は小さな銀色、次は白、次は金。これはねっ、設計図の通り、それぞれ、家族を表しているんだって。
黒が「YUZOU」、赤が「YUTA」、ピンクが「YUINE」、銀が「YUI」、白が「YUNON」、金が「KANON」って書いてあったんだよ。祭璃ちゃんは「裕太様」と口にしてたから、これは、その家族なんだよぉぅ。
つまりは、これは家族への「愛」が産んだ「奇跡」の《人工古具》なんだよっ!
「愛は偉大なり」ってねっ。いい家族なんだよっ。わたしも、王司さんとこんな風にいつまでも続く永遠の「愛」に包まれたいなぁっ!
わたしは、出来た《人工古具》を、眩しさに目を瞑っていた祭璃おねーさんの手に、それを乗せて、【力場】で外に転移するっ!
さぁって、と、いいことしたなぁ~。っと、およ?この【力場】はれもねーどとたるとぱいだねっ!
ふぅん、じゃ、ちょっと、行ってみようかなっ。魔法少女大集合だねっ!




