25.どうやら俺の記憶じゃない記憶が……?
25話投稿です。 「16.どうやら、注目されているようだ。」関連の人物が出ます。
あの後部屋に戻ったら、既に銀髪の女の子はベッドに居なかったので帰ったのかもしれない。
まあ、部屋の前が騒がしかったので、いろいろと事情を察してくれたのかも?
時は過ぎ……時刻は夕方、既に妹は学校から帰宅済みだ。
今朝は大変だったが、それ以外は特に何ともない日だった。
「……やっぱり、良いな。 ゆっくりして居られるって言うのは」
俺はそう呟きながら、パソコンのディスプレイをぼーっと眺めた。
相変わらずアニメやゲームは乙女向けが多いけど、暇つぶしに眺めていたら何だか慣れたよ。
この世界に来てからの日常が……美少女に囲まれたハーレムアニメやゲームの主人公のような状況だから、二次元美少女関連が特別欲しいと言う欲求が薄れて……逆に、乙女向けの二次元コンテンツに興味が出てきてしまう程だ。
『私がお兄ちゃんの事を守るって、あの日からそう決めてたの……!』
動画サイトの公式配信乙女向けアニメをなんとなく見ていたら……ヒロインがヒーローの前に立って、悪女から守るシーンが流れた。 俺は元の世界でならヒロインとヒーローの立場が逆だろうなと苦笑いしながら、アニメの続きを眺めていると……突然脳裏に、こことは別の光景が思い浮かんだ。
『痛い……引っ張るのは、止めてよ』
『私のだから、その手を離しなさいよ!』
『なんですって……! その子は、私と良い事するの!』
『将来のお婿さんにするんだから、みんな手を離してよ!』
脳裏に浮かぶ光景は、子供の俺が複数人に身体を掴まれて痛いほど引っ張られる光景だった。 俺は必死に痛いから止めて欲しいと、周りの人達に言ってるけど……誰も俺の言葉に耳を貸さない。
他人の勝ってな欲望に翻弄されながら、子供の俺は親の言う事を守らずに、勝手に外に出てしまった事を心の中で後悔をしていた。
『えへへ……男の子って、こんなに良い匂いがするんだ? なんか匂い嗅いでたら、胸のあたりがドキドキするよ。 このまま、舐めたらどんな味がするんだろう? 舐めて良いかな? ねぇねぇ、舐めて良い?』
身体を掴んでいる子の中で子供の俺より少し大きい猫のような眼の女の子が、首筋に近づいて匂いを嗅いでいる。 耳元で女の子は、子供の俺に舐めて良い?と笑顔で問いかけ続けている様子は……子供の俺には、今まで以上の恐怖を煽るには十分だった。
『だ、誰か助けて……!』
恐怖に駆られた子供の俺は、大声で誰か助けてと口に発した。
この状況から誰か助けてくれるなら、誰でも良いと子供の俺はそう思う程追い詰められている。
『駄目だよ……? 大きな声出したら、誰か来ちゃうでしょ?』
『むぐぐ』
猫のような眼で、変わった色の瞳を持つ女の子は……子供の俺の口を、色白の手で塞いだ。
極度のストレスで過呼吸になっている子供の俺は、口元を塞がれてこのままでは意識を失ってしまいそうになると周囲に誰か助けてくれそうな人が居ないか目を走らせると……一人の見知った女の子が居る事に気がついた。
夕日が反射してオレンジ色に淡く輝いた艶のある黒髪に、色白の幼い女の子が目に涙を溜めながら……俺を囲んでいる女の子達を鬼の形相で睨みつけていた。
『私の兄さんを、いじめるなぁ!!!!!』
辺り一帯に響き渡るかのような怒声に、俺を掴んでいた子供達は驚いて思わず動きを止める。
その時俺はその場から逃げ出すチャンスなのに、女の子の方に目を向けたままだ。
『ユキちゃん……どうして』
『兄さんが居ないから、探しに来たの……学校から帰って来て兄さんが部屋に居ないから、心配したんだから、本当に心配したんだからね……ぐすっ……もう、大丈夫だから兄さん。 私が来たからには、兄さんをイジメテル奴らを……』
………。
俺をいじめてる奴らを、あの後どうしたんだろ……? そこで記憶が途切れている。 今脳裏に浮かんだ光景は、俺の記憶じゃないと思う。
だって俺の子供の頃に同年代の女の子達に、掴まれたり引っ張られたりされなかったし。
……これはまさか、この世界の小守コモルの記憶なのだろうか?
うーん、分からない。 最悪俺が一瞬で捏造した記憶であるけど……それにしては、鮮明な記憶だったのでそれは無いと思う。
『これで最後よ! お兄ちゃんと私の力で貴女を裁く! シャイニング、ソーーーード!』
『こ、これが……勇者の力!? ぎゃぁあああああああああ!』
何時の間にかパソコンのディスプレイに映るアニメも終盤になり、ヒロインとヒーローが力を合わせて悪女を勇者の力で滅したところだ。 ヒロインとヒーローは、兄妹なのに抱き締めあい愛の言葉を交わしてそのままエンディングに入った。
「うーん……兄妹でキスしてるけど、良いのかこのアニメ?」
「もちろん、問題ありませんよ兄さん。 むしろ、国民全員が見る事を義務付ければ良いと、私は思っています。 それにしても、兄さんもこのアニメを見ていたんですね♪」
何時の間にか部屋に入って来た妹が、背後から俺にそう言った。
俺はオフィスチェアを回転させて妹の方に、身体を向ける。
妹はきらきらと瞳を嬉しそうに輝かせて、俺を見下ろしていた。 俺と同じアニメを視聴していたのが、妹には嬉しかったのだろう。
「このアニメは、戦闘シーンが良く出来てるからね。 見ていて、全然飽きないよ。 でも……お話の方は、10人以上のとある事情で離れ離れだった兄と恋仲になって悪女を倒すとか意味が分からなかったが……」
「私は物語の方も、好きですよ? 兄妹の恋……まるで今の自分と兄さんと重なって、毎週主人公を応援してしまいました♪ くふふ♪」
頬を上気させて好きなアニメの良さを語る妹は、久しぶりに可愛らしいと思えた。 語ってる内容が兄妹恋愛アニメの話だが、何時もの独占欲まるだしの状態よりは今の方が良いね。
にこにこと笑顔で話す妹を見ていると、先程脳裏に浮かんだ事が気になってきた。
「そうだ、子供の頃……」
「子供の頃? 子供の頃、どうしたんですか兄さん?」
「俺が外に出た時の事、覚えている? ほら、俺が同年代の女の子達に、囲まれて居た時の事」
妹は俺の言葉に一瞬驚いた表情に、なって……今までの笑顔が消えて、少し暗い表情になる。 俺から視線を外すように目を伏せて、妹はあまり話したくない内容のようだ。
服の裾を妹は、ぎゅっと握る。
「忘れてなかったんですね……私もしっかり、覚えていますよ。幼い私が、兄さんの事をしっかりと見ていなかったせいで……兄さんが酷い目に遭ってしまった事ですよね? 当時は子供同士だったので、卑猥な目的じゃないと表沙汰になりませんでしたが……私は、今でもあの女達が赦せません。 特に、あの猫目の女は……!」
柳眉を逆立てて、妹はとても悔しそうに言った。
白魚のような手は当時を思い出しての事か、脇腹を抑えている。
「……いずれ私が兄さんの変わりに、あの女達に罰を与えるので兄さんはこの部屋で待っていてくださいね?」
「………」
俺は何と言えば良いのか……? あの記憶は、この世界の小守コモルの記憶で……俺が体験した事ではない。 罰とは何か知らないが俺は妹に犯罪まがいの事を、しないように釘を刺すべきか? そもそも、妹を止めるべきか?
「そんな事は、しなくても良いから……俺を想ってくれるその気持ちだけで、十分だよ」
「兄さん……でも、あの女達は今も平然と外を歩いているんですよ? いずれ兄さんの事を思い出して、また襲うかもしれませんよ? そんな事になったら、私は……私は、何をするか自分でもわかりません」
俺はこの後、瞳をうるませて心配している妹を宥めるのに時間を使った。
☆ ???
「えへへ、ついに小守君の写真を手に入れちゃったぁ♪」
私はネットで手に入れた小守君の写真を眺めて、口元をニヤニヤさせる。
だって……大好きな小守君を、何時でも見れる事が嬉しい。
小守君と出会った時は、大好きな気持ちで頭がいっぱいで写真を撮る事を思いつかなかった。
「小守君の写真は、手に入ったけどぉ……小守君自身は、どこに居るのかな? みんなが邪魔をするから、住所を聞きそびれちゃったよぉ……はぁ」
爪先で、写真に写る小守君の頬を突く。
「どこに居るの小守君? 私から隠れて、焦らして楽しいのかな?」
乾いた唇を濡れた舌先で、舐める。
目に焼き付けるかのように、じっと写真を眺めていたら……私は、何かが引っ掛かった。
「あれっ……? 小守君と私は、あの時は初対面だった筈だよね? でも……でも、私は小守君の事をずっと前に会っているような気がする。 うーん……うーん……分からないよぉ! まあ、良いか! きっと私と小守君は、前世で結ばれていたとかだよね?」
自分でもありえないと思う事を、口にする。
実際はきっと何処かで小守君と、私は会っているのだろう。
何時何処で会っていたか何て、別に気にならない。
「だって……私と小守君は、結ばれる運命なんだからぁ♪ 」
別に運命なんて、信じちゃいない。
私が現実にするんだから、運命と変わりないのだから。
「絶対に、見つけて会いに行くからね小守君!」
「……誰に会いに行くかは、お主の勝ってだが……独り言は、人が居ないところでお願いしたいのだ」
私は写真を手にいれて、浮かれていたけど……今は信号待ちしている最中。
隣に居る眼帯をした寝癖の酷い銀髪の女の子に、注意をされてしまった。
「ごめんね♪ 今、すごーく嬉しい事があったから。 ついつい、私の悪い口が思ってる事を勝手に喋ってしまったのぉ! 次からは気をつけるから……許して?」
私は頭を傾げ……顔に笑顔を貼り付けて銀髪の女の子に許して欲しいと言った。
銀髪の女の子は、私の事をじーっと見つめて小さな口を開く。
「我は寛大だから、その事については許すのだ……が、お主に一つ聞きたい事がある」
「何かな? 何かな? この私に何か聞きたい事があるのかな?」
「お主は……いや、何でもないのだ」
「そう……?」
何か言いたげな隻眼の女の子は、結局信号が青になるまで続きを口にしなかった。
あべこべ世界の小守コモルの記憶が、今の小守コモルの記憶に紛れ込みました。




