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閑話 どうやら、コンビニ店員のお姉さんの話らしい。

閑話です。コンビニのお姉さん視点のお話です。男の人=主人公。

「はぁ……」


 無意識に私の口から溜息が漏れる。

 今は仕事中なので、お客様が見ているかもしれないので溜息なんて本当はいけない……。

 でも……でも、溜息もしたくなる。


「どうしたの?そんな憂鬱そうな顔をして……悩み事?」


「悩み事じゃないけど……この頃、このコンビニに来てくれる男の人いるでしょ?」


「ああ……あの人ね。もしかして、今日はまだ来ないからそんな顔をしているの?」


「うん」


「はぁ……まあ、良いけど。お客様が来たら、そんな顔はやめなよ?」


 同じコンビニのバイトをしている子に、注意されてしまった。


 まあ、私も店内にお客様が居ないので、こうしていられる訳で……。

 お客様が来たら私も、お客様対応モードになりますよ?

 さて、さて、お客様はこないのかなーっと私は、ドアの外を見ていると……。


 ガラスドアの向こう側に、不意打ち気味にちょうど男の人の姿が映る。

 それを見た私は口から「ふぁ?」と変な声が漏れた……。

 どうやら私が気が付かない内に、男の人はこのコンビニの自動ドアの前に来ていたらしい。


 私は突然の事で、頭の中がパニック!


 ―――お、男の人が来たー!み、身なりは大丈夫かな!?今日の私の顔、変じゃないかな?あああ……時間がない!どうしよう……どうしよう私!そうだ!時間よ止まれ!……止まらない!


 馬鹿な事を考えるほど混乱真っ盛りの、私の状態も気にもせずに……無情にも自動ドアは男の人の反応を感知する。

 ガラガラ……と、自動ドアが開いた。


 私は混乱状態だったけど、何時もしている接客の習慣が功を奏したのか……顔に笑顔を貼り付けて、自然と口が開いた。


「いらっしゃいませ♪」


「………っ」


 男の人は私の声に反応してびくりと肩を震わせてから一度こちらを見たけど、直ぐに顔を前を向き直して……いつものお菓子コーナーに向かってしまった。

 混乱した状態だった私は、どうにか男の人に失礼な事を言わなくて良かったとほっとする。


「ふぅ……」


 ほっとすると心に余裕が出来る。


 突然の男の人の来店で、頭の中がパニックになってしまったけど。

 峠を通り過ぎると、わりと落ち着ける。

 だけど、未だに胸の奥がドキドキするけど……これは男の人を見ると何時もそうなってしまうので、どうにもならない。


 ―――少し……髪を切ったのかな?美容師さんが切った風には、見えないから……自分か家族に髪を切って貰ったのかな?


 男の人の姿を仕事をする手を止めて、じっと観察する。

 店内には男の人しかお客様は居ないので、こうしていても問題はないと思う。

 ここ最近の私の楽しみは、バイト先のコンビニに来店してくれている男の人の様子を観察する事だ。


 ―――きっと私だけが、男の人の髪を切った事に気が付くんだろうなぁ……♪ふふふ……私は、君が髪を切った事に気が付いているよ。


 男の人の髪の長さは、前来店した時とたいして変わらないが……だが、私には分かる。

 僅かに髪の毛が、短くなっているのを……。


 ―――男の人に言ってあげたい……もしかして、髪を切ったの?って!小さな変化を褒めると男の人は喜ぶって、男性にモテルハウツー本に書いてあったから。


 でも……でも私と、男の人は所詮他人同士。

 まだ知り合いでもないから、突然「髪切ったの?」と言ったら……驚いて、不安な顔をされそうで言う気にはなれない……。


 ―――まず、知り合いにならないといけないのかぁ……。コンビニ店員のお姉さんから、知り合いのお姉さんにランクアップするにはどうするの?直ぐそこに出会いがあるのに、何も出来ないのが歯がゆい!


 そんな事を思っていると、バシンっと突然背中を叩かれた……。

 誰よ?私の男の人観察を邪魔するのは?


 背後に振り返ると、同僚が胸の前で手をパーの状態にして私を見ていた。


「仕事、仕事、お客様が少ないからって、休んで良い訳じゃないんだから」


「むー、良いじゃない……今は例の男の人が店内に居るんだから、少しぐらい手を休めても……」


「馬鹿言ってないで、働こうか?」


 同僚の顔は、笑顔だったが目が笑っていなかった……。

 背中にじわりと、汗が吹き出たのが分かる。

 あれには、逆らっちゃいけないと本能が告げてきた。


 ―――別に貴女が怖いから、働くんじゃないんだからね?お金貰ってるから、真面目に働くんだから!勘違いしないでよね!ふんっ!


 心の中で目の前の鬼の雰囲気を纏った同僚に、働く良い訳をする。

 私の失礼な考えを悟ったのか、同僚はジト目でわたしを睨みつけた。


「その目……文句あるのかな?言ってみなよ?私は優しいから聞いてあげる?」


「も、文句なんてないですよ!真面目に働きます!」


「そう……分かれば良いの」


 要は仕事をすれば良いのだ、この同僚を怒らせないようにするには!

 ならば……仕事をしていれば、何も言われない……私ってば天才ね♪


 同僚の目を気にしながら、私は仕事をしていく。


 私の仕事はコンビニのレジ打ちだけが仕事じゃないので、他にも沢山やる事がある。


 サッ……サッ……サッ。


 私は手を動かして、仕事を消化していく……。

 だけど時々、男の人をチラチラと見る事も忘れない。

 もう、新人じゃないの私は……このくらいの事は、容易いわ!


「………」


 男の人はお菓子コーナーで、どのチョコを買おうか悩んでいるようだった。

 最近のチョコはどれも甘くて美味しいので、どれを選んで良いか悩むのは分かる。

 私も財布の中身と相談しながら、チョコを厳選している。


「はぁ……あの真剣な表情、良いよね……。私もあんな真剣な表情で……」


「……良くそんな惚けた顔をして、ちゃんと手は動かせるね。とりあえず仕事はしているから、別に良いけどさ……」


 同僚が呆れた顔で何か言っているけど、どうでも良い……今は脳内フォルダーに、男の人の様子を録画して保存しておかねばならない。


「ちょっと私……お菓子コーナーを整理するから……レジ任せるね?」


 初めはレジから男の人を眺めているだけで、満足をしていたのだが……ここ最近の私は、男の人を近くで見たいと言う欲求が強くなった。

 私は同僚に許可を求めるかのように、同僚の顔を窺う……。


「……行ってきなよ。でも、迷惑掛けちゃ駄目だよ?」


「了解であります」


 同僚のお許しを得た私はレジを出て、男の人の居るお菓子コーナーに向かう。

 男の人は未だにどのお菓子を買おうか悩んでいるみたいで、お菓子を手に持って裏に書いてある説明を読んでいる。

 そんな男の人に近づき……私はスッと足音を消して、自然に隣に立つ。


「すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……」


 隣に居る男の人の呼吸音が、私の耳に聞こえてくる。

 男の人はまだお菓子選びに忙しいのか、私の存在に気がついていない。


 ―――わ、私の直ぐ隣に、男の人が居るよー!なんか良い匂いがする!


「すーはー……すーはー…」


 私は男の人の良い匂いを肺に詰めるために、思わず深呼吸をしてしまった。

 だって、こんな機会めったに無いのだ……肺に匂いを貯蔵したいと思っても私は悪くない!


「!」


 やっぱり私の呼吸音の音が大きかったのか……男の人の身体が私の方を向いて、ビクンと身体を震わせた。


「……」


「すーはー……すーはー……」


 お互い無言で見つめ会う……男の人は驚いたけどただ呼吸音が大きいだけの私に、何を言って良いのか分からないのか……瞳が左右に泳いでいる。

 少しの間見つめ合っていたけど……男の人はどうにもならないと諦めたのか、顔をお菓子コーナーに戻した。


 ―――ああ……顔を逸らしちゃった。もっと、見つめ合いたかったのに……。


 私は少し残念な気持ちになりながらも、男の人の隣で売り物の整頓をする。

 最近、ポテチが少ないなーと思いながら……チラチラと男の人の横顔を盗み見た。

 女の顔と作りが違う男の顔に、私は胸の鼓動が強くなるのを感じる。


 ―――もっと近くで見たいけど……そんな事をしたら嫌われちゃうよね?


 そんな事を考えながら在庫が切れそうな商品をメモするために、ぽけっとからメモ帳を取り出す。

 次に私はメモ帳の白紙のページを取り出して、もう一回ポケットを探ってペンを探すが……無い!?

 ポケットの中を私の手が弄っていると……隣から私を呼ぶ声が。


「あの……その……もしもし?」


「はっ、はい!なんでしょう、お客様!」


 私を呼ぶ声は、隣に居る男の人だった!

 背筋がピンと伸びた。


 ―――何か用なの……!?もしかして……私の事が気になるから、連絡先を欲しいとか!?良いよ、お姉さんの連絡先を教えてあげる!連絡先じゃなくて、男と女の違いも……教えられるよ!


 ペンが見つからなく焦っていた事なんて、すっかり頭の中から消えている私は……目の前の男の人に声を掛けられた事で、混乱して不埒な事を考え始める。


「ペンを落としましたよ……これ、お姉さんのですよね?」


 ……連絡先を教えて欲しいとかじゃなくて、私が落としてくれたペンを拾ってくれていたみたい。

 べ、別に残念だとかじゃないし?拾ってくれて、ありがとうございましたって言いたいし?


「はい、私の落としたペンで間違いありません。拾って頂いて、ありがとうございます♪」


 私は男の人に心の底からの笑顔で、ペンを拾ってくれた事の感謝の気持ちを伝える。

 一時は不埒な考えをしていたけど、親切にして貰ったらお礼をちゃんしないとね。

 視線をペンに移して、男の人の手からペンを取り戻す。


 少し男の人の手に触れたのは、セーフだと思う。


「ど、どういたしまして」


 私は声に反応して、ペンから男の人の顔に視線を移すと……。

 何故か男の人が、頬を少し紅潮させて照れていた。

 それを見た瞬間……私の頭の中で、打ち上げ花火が打ち上げられた!


 ―――可愛い!男の人可愛い!


 今まで女として生きてきて、男の人の照れた表情を近くで見た事の無い私には刺激が強すぎた。

 強い刺激は毒となり、私の心臓が悲鳴を上げる。


「……っ!」


 ―――く、苦しい!心臓がバクバク言ってるよ!どうしてくれるの?男の人は、私にそんな可愛い顔を見せて萌殺す気なの……!?


 初めて男の人の照れた表情に、私は両手で胸を押さえる。私は……ドキンドキンと高鳴る心臓を、手で抑えてないと飛び出てしまいそうで怖い……!それほど、私の心臓の鼓動が激しいのだ。

 血流がドクンドクンと身体を凄い早さで巡り、身体の奥が疼いてくる。


「うぅ……」


 乱れた思考で、ある事が気になってくる。

 それは何故、男の人が顔を赤くしたのか?


 ―――……それにしても別に感謝を伝えただけなのだけど……私の今の行動に、男の人が照れる行為が合ったの?先ほどの光景を頭の中で再生しても、全然分からないよ……。


「はぁ……はぁ……」


 ところで今はその原因を探るよりも……私の烈情を抑えるのが、先決みたい。

 不意打ち気味に男の人の照れた表情を見た時から、私の本能が今すぐこの男を襲えと命令してくる。

 身体の奥がじわっと熱くなって来て、目の前の男の人に抱き付きたくなる。


 ―――うぅ……駄目よ。今男の人を襲ったら……知り合いにもなれずに、終了するのよ!我慢……我慢するの!


「……?どこか具合が悪いのですか?」


 突如胸を押さえる私を男の人が心配そうに、見ている。

 どうやら男の人に、私は心配を掛けてしまったらしい……。


「……いえ、大丈夫ですよ……お客様」


 私は耳まで赤くなっているのが分かる……。

 顔が熱い。

 ぼーっと男の人の顔を見てしまう……特に唇の部分を。


 ―――キスしたい……だ、駄目よ私!早くこの場を離れないと!


「そうですか?顔が赤くなって、すごく具合が悪そうですけど……?」

「そ、そうですか?うーん、お客様がそれほど心配されるなら……私は同僚に行って少し、休ませて貰います。ではお客様、引き続きお買い物をお楽しみください。では失礼します」


 私は早口で男の人にそう言うと、同僚が居るレジに向かう。

 同僚は私の様子がおかしいのに気が付いたらしく、心配そうに私を見てくる。


「どうしたのその顔?凄く真っ赤だよ?今お客さん一人しか居ないし、少し休んでも良いけど?」

「ありがと、少し休ませて貰うね?」

「忙しくなったら、直ぐ呼ぶからゆっくりしても良いよ」


 同僚に感謝して、私は更衣室に向かう。

 更衣室は狭いけど、我慢できるくらいなので休むには大丈夫だ。


「休む前に、取り替えとこうかな……ちょうど替えの下着あるし」


 ロッカーに、替えの下着を常備して置いて正解だったみたい……。

 このまま椅子に、座ると……後で同僚に呆れられてしまうから。

 私は着替えるために、ズボンのベルトに手を掛ける……がレジから聞こえる声につい、耳を傾けてしまう。


「あの……大丈夫ですかあの女の人は?具合が、悪そうでしたけど……」


「……様子見ですね。少し様子を見て、具合が改善しなければ……店長に言って、病院に連れてきますよ。だから、お客様が心配しなくても大丈夫です。ですが、同僚を心配して頂きありがとうございます」


 レジで、同僚と男の人の会話が聞こえてきた。

 失礼になるけど、私は少し嬉しかった。

 私の事がどうでも良いなら、心配なんてしない筈。


 だから……私は男の人に気に掛けて貰える存在に慣れたのだと、控え室のドアの隙間から男の人を見ながらそう思った。

何時もの人達とは、違う人の視点を書いてみました。

結構長くなってしまいました。

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