二十曲目『惨状』
「タケル殿、助太刀する!」
「__弓矢部隊、放て!」
ケンさんが俺たちに向かって叫び、タウさんの号令で弓を構えていたケンタウロス族たちが一斉に矢を放った。
鏃の雨がクリムフォーレルを襲い、堅い外殻に突き刺さる。クリムフォーレルは突然の襲撃に驚き、空中で身を捻った。
「__第二射、放て!」
号令と共にまた矢が放たれる。
ケンタウロス族の筋力とその筋力に耐える強靱な弦によって放たれた矢は、目で追えないほどの速度でクリムフォーレルに深く突き刺さった。
「グルル……ッ!」
顔をしかめたクリムフォーレルはギョロッとケンタウロス族を恨めしげに睨むと、翼を羽ばたかせてこの場から離れていく。
どうにか撃退に成功したようだ。安心感から深いため息が漏れる。
「ケンさんたち、ありがとな!」
大声でお礼を言うと、ケンさんは笑みを浮かべながら右腕を挙げた。今度改めてお礼を言いに行かなきゃな。
「タケル、エルフ族たちの様子を見に行こう」
「あぁ……そうだな」
心配そうな表情をしたやよいに頷き、俺たちはエルフ族の集落に戻ることにした。
「これは……」
集落に戻ると、酷い有様だった。
怯える子供を抱きしめる女性のエルフ族。全身にやけどを負い、包帯を巻かれている男性のエルフ族。
それぞれが怪我人を横に並べて治療しに走り回ったり、クリムフォーレルが倒した木を運び、倒壊したツリーハウスを撤去したりと忙しそうにしていた。
「……酷い」
やよいがその惨状に唇を噛む。
ウォレスも無言で拳を握りしめ、真紅郎は見ていられなくなったのかキャスケットを目深に被り直した。
サクヤはぼんやりとその光景を見つめている。その目には何を思っているのか、何を考えているのかは読めなかった。
「おぉ、タケル殿。無事じゃったか」
呆然としている俺たちにユグドさんが声をかけてくる。
「子供たちと怪我をしたエルフ族を助けてくれたようじゃな。ありがとう」
「いや……俺たちは何も」
「そんなことはない。もしもお主たちが助けなかったら、死者が出ておったわい」
優しく微笑むユグドさんに、俺は思わず目を逸らした。
自分の無力さが憎い。もっと俺が強かったら、クリムフォーレルを倒せる実力があれば、こんなことには……。
そこで、ユグドさんが杖を軽く振り上げ、俺の頭をコンッと叩いてきた。
「こりゃ! 何を考えているかと思えば、これはお主のせいではないじゃろう」
「……でも」
「でもじゃないわい。まったく……」
ユグドさんは深くため息を吐くと、両手を広げる。
「我らエルフ族はこの森__モンスターが住まうこの場所で生きておる。過去に何度もモンスターの襲撃はあったが、我らはそれを乗り越えてきた」
そして、ユグドさんは真っ直ぐに俺を見つめる。熟練の戦士が見せる鋭い眼光で。
「今回も同じことじゃ。例え相手がクリムフォーレルじゃろうと__我らは戦い、守る。お主が強かろうが弱かろうか、関係なくのう」
そう言うとユグドさんは俺に背を向け、エルフ族たちの方を向いた。
「__戦える者はワシの家に集まれ! 子供と怪我をしている者、戦えぬ者は避難するのじゃ!」
ユグドさんが指示を出すとエルフ族たちは慌ただしく動き始めた。エルフ族の男性は立ち上がり、エルフ族の女性は子供たちを集め出す。
ユグドさんの言う通りだ。
エルフ族たちはモンスターがいるこの森で何年も、何百年も生きてきたんだ。モンスターが襲ってくることなんて、過去に何度もあったこと。俺がいようがいまいが、いつでも起こり得ることだ。
仮に俺が強くてモンスターを倒したとしても、ずっとここにいる訳じゃない。
「だけど……」
考えていたことが思わず口からこぼれる。
でも、クリムフォーレルという強力なモンスターが襲ってきたことはないはずだ。
エルフ族だけでクリムフォーレルを倒すことは、正直難しいだろう。出来たとしても、多くの犠牲者が生まれてしまう。
「それは__ダメだ」
ギリッと歯ぎしりして呟く。
例えいつかここを旅立つとしても。例えエルフ族じゃない普通の人間だとしても。
ここでお世話になったことは変わりない。エルフ族に優しくして貰ったことを忘れられない。
だから__俺も戦う。
「タケル!」
「あだッ!?」
突然、やよいが俺の背中を思い切り叩いてきた。な、なんだよ、いきなり。
「また一人でやろうとしてるでしょ?」
やよいがため息を吐きながら呆れたように言ってくる。
続いて、真紅郎が俺の背中を撫でながら口を開いた。
「ボクたちだって、エルフ族にはお世話になってる。だから、考えてることは同じだよ」
次にウォレスが俺の肩をバンッと叩いてきた。
「ハッハッハ! オレだって戦うぜ! ここで逃げたら男が廃る!」
今度はサクヤが俺の服をクイッと掴んでくる。
「……やろう」
最後に、キュウちゃんが俺の頭に飛び乗ってきた。
「きゅー!」
全員が、戦おうとしている。エルフ族のために、俺と一緒に戦ってくれる。
あぁ、そうさ。例え相手が誰だろうと……俺たちなら、大丈夫。
「__やるぞ」
覚悟を決めて宣言すると、全員が「おう!」と返事をした。
じゃあ、作戦を決めようか。俺たちは向かい合い、話し合いを始める。
「……現実的に考えてボクたちとエルフ族が協力しても、被害を最小限に抑えて倒すのは難しいね」
顎に手を当てて考えながら真紅郎は言う。
たしかに、俺たちとエルフ族で戦っても有効な攻撃手段はない。空を飛ぶクリムフォーレル相手に俺たちは太刀打ち出来ないし、エルフ族の魔法でも射程距離が離れてて難しいだろう。
なら、クリムフォーレルを空から引きずり下ろすしかない。
「……どうやって?」
いい手が思いつかず、頭を抱える。
空にいる相手を魔法を使わずに引きずり下ろす方法、攻撃手段。
そこで、やよいが何かを思いついたのか「あっ!」と声を上げた。
「ケンタウロス族は!?」
ケンタウロス族は魔法を使わず、弓矢
だけであのクリムフォーレルを撃退していた。たしかに、ケンタウロス族の協力があれば、地面に引きずり下ろすことが出来るかもしれない。
でも__。
「協力してくれるか、だな」
ケンタウロス族はエルフ族と仲が悪い。そう簡単に協力してくれるとは思わないけど……一刻を争うんだ。
「どうにかして説得しよう。俺たちがお願いすれば、もしかしたら協力してくれるかもしれない」
俺の提案に、やよいたちが頷く。
ケンタウロス族は戦士だ。誰かを守り、戦う勇敢な者たち。だったら、きっと仲が悪いエルフ族のためだとしても、戦ってくれるかもしれない。
期待を胸に、俺たちはケンタウロス族の集落に向かった。
「__断る」
だけど、その期待は簡単に打ち砕かれてしまった。




