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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
最終章『漂流ロックバンドの異世界ライブ!』

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十八曲目『三英雄』

大変……大変長らくお待たせしました……ッ!

本当に申し訳ありません!!


 遠くの方で、何かの音が聞こえる。

 それがぶつかり合うような音だと頭が認識するのと同時に、音に合わせて自分の体が振動する感覚で、ようやく思考が動き出した。


(いや、俺が振動してるんじゃない。地面が、揺れてる?)


 何が起きているのか。そもそも、俺は何をしていたのか。

 動き出した思考で考えるも、どうにも考えがまとまらない。

 途切れ途切れで、バラバラになった記憶の断片を繋ぎ合わせるように、一つ一つ思い出していく。


(俺は……そうだ、戦っていたはずだ。闇属性と、黒い球体から出てきたダークエルフ族の男と。そして、えっと)


 フラッシュバックするのは、自分の腹部がダークエルフ族の男の腕に貫かれた映像。

 大量に噴き出た、致死量の血液。


(あぁ、そうか。俺は、死んだのか?)


 他人事のように、自分の死を受け止めていた。

 まるで温泉に浸かっているような、優しく暖かい何かに包まれている感覚は、痛みと死ぬ恐怖を誤魔化すための防衛本能か?


(戦わないといけないのに、力が入らないな。ここまで来たのに、終わりなのか)


 世界の命運も、元の世界に戻ることも、夢を叶えることも。

 いや、それ以上に__。


(もう、会えなくなるのか)


 薄れゆく意識の中で俺の目の前にいたのは、仲間の姿。

 サクヤ、ウォレス、真紅郎、そして__。


(やよい、ごめんな……どうやら俺は、ここで終わりみたいだ)


 全てを諦め、受け入れた俺は、ゆっくりと意識を手放していく。

 心地よい、暖かな何かに包まれた体はそのまま溶けるように、力が抜けていった。


 __諦めないで! タケル!


「__ッ!?」


 頭の中に響いた叱咤する声に頬を叩かれた気がして、止まりかけていた思考が一気に回り出す。

 その声は、幼い女の子のものだった。

 聞いたことがないはずの声なのに、何故かずっとそばにいたような、不思議な声だった。


「いま、のは……」


 掠れた声で呟くと、ぼやけていた視界が晴れていく。

 すると、うっすらと白い透明なフィルター越しに、ボロボロでひび割れた天井が見えた。


「これ、は、魔法か?」


 このフィルターみたいな物は、仰向けに倒れていた俺を繭のように包んでいる。

 ゆっくりと首を動かすと、俺の隣にロイドさんとガーディ、体が消えかけているアスカさんが倒れていた。

 三人がいることを認識すると、ぶつかり合う轟音と共に地面が大きく揺れ動いた。


「なん、だ……!?」


 音がした方に目を向けると、予想外の光景が広がっている。

 俺の腹部を貫いたダークエルフ族、そして__。


「きゅッ、きゅきゅッ!」


 キュウちゃんの姿が、あった。

 

「な、なんで、キュウちゃんが」


 白い光を纏ったキュウちゃんは、俺たちを守るようにダークエルフ族の男と向き合っている。

 白い毛を逆立たせ、苦しげな表情を浮かべながら、半透明の白色の魔力で出来た壁を展開するキュウちゃん。

 その壁に拳を、蹴りを打ち込んでいるダークエルフ族の男。

 壁に重い衝撃が叩き込まれる度に地面が揺れ動き、キュウちゃんは吹き飛ばされないように堪えていた。

 か弱い小狐のキュウちゃんの、必死に俺たちを守ろうとする姿に唖然とする。


「どう、して?」


 キュウちゃんがこんなこと出来るなんて、知らなかった。

 何が起きているのか、理解が追いつかない。

 すると、ダークエルフ族の男の拳が、魔力で出来た壁を殴り砕いた。


「きゅー!?」

「キュウちゃん!」


 拳の衝撃波にキュウちゃんの体が吹き飛び、地面を跳ねながら俺の近くに転がってくる。

 砂埃だらけになって横たわっているキュウちゃんに近寄ろうとしたけど、体が言うことを聞かない。


「きゅ、きゅ……」


 横たわっていたキュウちゃんはピクリと前足を動かすと、ふらふらの体で起き上がった。

 そして、おぼつかない足取りで歩き出すと、またダークエルフ族の男の前に躍り出る。


「きゅ、きゅー!」

__負けない。絶対に、負けない。諦めない!


 必死に威嚇するキュウちゃんの叫びと同時に、また頭の中に幼い女の子の声が響いた。


「もしかして、さっきの声は……キュウちゃんなのか?」


 死を受け入れて何もかも諦めた俺を叱咤したあの声の正体は、キュウちゃんなのかもしれない。

 いや、間違いなくそうだ。不思議とそう確信した。

 すると、俺の声に反応したキュウちゃんが振り返ると、体に纏っていた白い光が強くなる。

 眩い光に包まれたキュウちゃんの体が、人型を形成していく。


 そして、発光が収まるとそこにいたのは、一人の女の子だった。


「キュウ、ちゃん?」


 綺麗な白い長い髪、空色の瞳をしたクリッとした大きな目。

 白いローブ姿の小柄な体をした女の子は、幼い可愛らしい顔立ちに似つかわしくないほど、どこか神聖さを感じさせる微笑みを携えていた。


「そうだよ、タケル。私はあなたが知っているキュウちゃん。そして……」


 静かに瞼を閉じたキュウちゃんは少し間を開けると、ゆっくりと瞼を開けて口を開く。


「私は、光の属性神(・・・・・)。過去に闇属性に封印されていたんだ」


 衝撃的な答えに、思わず息が止まった。


「は? え、キュウちゃんが、光の属性神?」


 混乱する俺の問いかけに、キュウちゃんは頷く。

 最初は理解が追いつかなかったけど、ようやく今まで疑問に思っていたことが解消された。

 魔法にはそれぞれ、属性ごとに神様……属性神がいる。

 音属性なら音の属性神、つまりはアスカさんが該当する。だから、光属性にも光の属性神がいるとは思っていた。

 だけど、それがまさかずっと一緒にいたキュウちゃんだったとは、思いもしなかった。

 キュウちゃんはダークエルフ族の男を警戒しつつ、話を続ける。


「私は光の……始まりの二柱(・・・・・・)の一柱。光を司る、闇の対極に位置する属性神」

「始まりの二柱?」


 初めて聞く単語に疑問に思っていると、キュウちゃんは魔力の壁を展開させながらダークエルフ族の男をジッと見つめながら口を開いた。


「うん。私と闇属性はこの世界が出来たのと同時に生まれた。そこから派生するようにあらゆる属性神が生まれたの。つまり、私と闇属性は姉弟__彼は私の、()なんだ」

「弟……!?」

「人間で言うと、ね」


 俺とキュウちゃんが話していると、ダークエルフ族の男が壁に向かって拳を叩き込んでくる。

 まるで、それ以上言うなと言わんばかりに。


「ぐっ! 私は大昔に、闇属性によって封印されていた……あなたがよく知る、白い小狐の姿に……ッ!」

「どうして、そんなことに」

「それは……」


 キュウちゃんは苦悶の表情を浮かべながら壁を維持し続け、ダークエルフ族の男の攻撃を防ぐ。

 その表情は攻撃に対してじゃなく、過去を思い出してみたいだった。


「__ちょっとしたすれ違い、意見の相違、かな? 私は、彼を止めることが出来なかった。止めなきゃいけなかったのに、迷ってしまって出来なかった。でも、今は違う!」


 重い轟音が響き渡り、壁が砕かれる。

 だけど、キュウちゃんはすぐに壁を展開しながら、過去の後悔を吐き出すように叫んだ。


「私は、今度こそ彼を止めたい! でも、まだ封印が解けてない私には出来ない! だから__!」


 キュウちゃんは俺を真っ直ぐに見つめながら、歯を食いしばる。


「タケル! あなたの力を貸して欲しい! 私の代わりに、あなたが彼を止めてあげて!」

「俺、が」


 圧倒的な力の前に倒れた俺に、そんなことが出来るのか。

 腹部を貫かれた時に、俺の心は折れかかっている。

 キュウちゃんの必死の懇願に、一瞬だけ迷ってしまった。

 その迷いが伝播したのか、キュウちゃんが展開した壁が砕かれる。


「きゃあ!?」

「キュウちゃん!」


 衝撃波にキュウちゃんは吹き飛ばされ、地面に倒れた。

 倒れているキュウちゃんに、ダークエルフ族の男が近づいていく。

 メキメキと音を立てながら拳を握り締めた男は、倒れているキュウちゃんに向かって拳を振り上げた。


「キュウちゃん、逃げて! 逃げろ!」


 力が入らない今の体じゃあ、キュウちゃんを助けられない。

 いや、そもそも心が折れかかっている俺に、体が動けたとしても立ち向かえるかも怪しいものだ。

 だけど、キュウちゃんは逃げることなく、俺に向かって手を伸ばしていた。


「あと少しで、あと少しでタケルの体を治せるのに……ッ!」

「もういい! もういいから、逃げろ!」


 どうやら俺を包んでいる白い繭は、キュウちゃんが俺の体を治すための物のようだ。

 気づけばたしかに、貫かれていたはずの腹部が治りかかっている。

 だけど、それよりもまずは逃げることが優先されるはずだ。

 俺のことしか考えていないキュウちゃんに向かって叫ぶと、キュウちゃんは静かに首を横に振った。


「私は、いいの。私じゃ彼を止められない。止められるのはたった一人、タケルだけだから」


 優しく笑うキュウちゃんに向かって、男は振り上げていた拳を勢いよく振り下ろす。

 殺される。そんな状況でもキュウちゃんは、優しく微笑んだ。


「タケル__諦めないで。いつもそうして、あなたはあらゆる困難を突破してきた。諦めるなんて、タケルらしくないよ」

「キュウちゃん__ッ!」


 男の拳が、振り下ろされる。

 これから起きる惨劇に、思わず目をキツく閉じた。

 そして、男の拳がキュウちゃんの頭を潰す音が__。


「__させねぇよ」

「__させないよ」


 しなかった。

 代わりに響いたのは、ぶつかり合う鈍い金属音。

 目を見開くとそこにいたのは、キュウちゃんを守るように立つ二人の英雄の姿。


「ちっ、歳かねぇ。あの程度で気を失うなんてな」

「帰ったら鍛え直さないとね」


 振り下ろされた男の拳を、二本の剣が防ぐ。

 キュウちゃんを助けたのは、ため息混じりに口角を歪ませるロイドさんと、頬を緩ませるアスカさんだった。

 二人は同時に剣を振り上げ、男を弾き返す。

 すると、合わせるように男に向かって炎の球体が放たれ、爆発した。


「__まったく。お前たちはいくつになっても変わらないな」


 カツカツと靴音を鳴らしながら、倒れている俺を横切る男の姿。

 その男は二人に向かって呆れたようにため息を漏らすと、手に持っていた杖をクルリと回す。


「今は戦いの最中だぞ。軽口も程々にしておけと何度言ったら分かるんだ」


 ロイドさんとアスカさんはその男の言葉に、懐かしむように小さく笑みをこぼす。


「おーおー、ようやくお目覚めかと思えばいきなり小言か。お前だっていくつになっても変わってねぇぞ?」

「ふん、お前たちがいつもそんな調子だからだ。もう少し真面目にだな……」

「あー、はいはい。分かってるっての」


 男の小言にロイドさんは、小指で耳をほじりながら顔を背ける。

 そんな態度のロイドさんに、男は深いため息を吐く。

 アスカさんはそんな二人を見て、涙を流しながら笑っていた。


「おかえり__ガーディ」


 そこにたのは、ガーディ・マーゼナル。

 長い間、闇属性に体を奪われていた、マーゼナル王国の国王。


 そして、ロイドさんとアスカさんに並ぶ__英雄の一人だ。


 ガーディはアスカさんの言葉に鼻を鳴らし、杖を爆炎に包まれたダークエルフ族の男に向ける。


「さて、と。よくも私の体を好き勝手に使ってくれたな、闇属性。この借りはしっかりと返させて貰うぞ」

「あーあ、かわいそうに。ガーディは昔っから根に持つ奴だからな。気をつけた方がいいぞ」

「ロイド、お前が私の大事にしていた杖をへし折ったことは忘れてないからな?」

「はぁ!? お前、それは新しく杖をくれてやったからチャラだろ!?」

「私は昔から根に持つ奴らしいからな」

「こいつ……!」

「はいはいはい! 二人とも、そこまで! 今は戦闘中なんでしょ!」


 口喧嘩する二人の間に、アスカさんが割って入った。

 すると、二人は同時に鼻を鳴らしながら顔を背け合う。そんな二人に、アスカさんは「まったく」と腰に手を当てて頬を膨らませていた。

 こんな状況なのに、三人は余裕そうだ。

 ふと、若い頃の三人を幻視する。


 悪ガキのようにニヤリと笑うロイドさん。

 メガネをかけた神経質そうな顔のガーディ。

 その二人の間に立つアスカさん。


 これが、英雄と呼ばれた三人。この三人なら、どんなことが起きても大丈夫だと、そう思える姿をしていた。


「さーて、光属性の属性神様」


 首をコキコキと鳴らしながら、ロイドさんがキュウちゃんに声をかける。

 そして、剣を構えると爆炎の中から出てきたダークエルフ族の男を睨んだ。


「話を聞いてたが、あんたは今タケルを治療中なんだろ?」

「はい。でも、まだ完全に治癒出来てなくて」


 キュウちゃんは立ち上がりながら俺に向かって手を伸ばす。

 細かい傷は癒えてるけど、一番重症な腹部の穴はまだ塞がってない。

 すると、ロイドさんはニヤリと笑みを浮かべた。


「んじゃ、それまでの時間稼ぎをしてやるよ」

「そうだね。タケルは私たちの切り札。この体でも、もう少しだけなら戦える」


 魔力で構成されているアスカさんの体は、徐々に薄れてきている。長くは保たないだろう。

 それでも、アスカさんは剣を構えた。


「私たちなら、タケルの治療が終わるまでどうにか出来るはず!」

「ふんっ、老いぼれ三人でどこまで稼げるか分からないが……」


 皮肉を交えながら杖を構えたガーディは、倒れている俺を一瞥する。

 そして、口角を上げた。


「まぁ、救って貰った恩は返さないとならんな」

「けっ、偉そうに」

「私は国王だぞ?」

「操られていた国王だがな」

「なんだ?」

「んだよ?」

「だから、やめなさいってば! おっさん二人の口喧嘩なんて、見るに堪えないから!」


 睨み合う二人に、またアスカさんが割って入る。


「やかましい、勝手に神になった奴が」

「うるせぇぞ、勝手に神になった奴が」

「ぶっ飛ばすよ、おっさん共」


 声を揃えた二人に、アスカさんは頬を引きつらせた。

 こんな状況なのに、と呆れていると三人は慣れた動きで配置に着く。

 前衛にロイドさんとアスカさんが左右に分かれ、後衛にガーディが立った。


「そんじゃ、いつも通りに」

「ふんっ、今まで通りに」

「うん、これまで通りに」


 ダークエルフ族の男は警戒しながら拳を構え、三人は剣と杖をそれぞれ構えて笑みを浮かべる。

 睨み合う一人と三人、これから始まる戦いの火蓋を切ったのは__。


「__世界を救うために、頑張ろうか」


 アスカさんの、言葉だった。






 

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