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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第十五章『くだらない戦争に音楽を』

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二十六曲目『闇に堕ちた化け物』

 黒と紫の閃光が交錯し、大剣と剣が衝突した重い金属音が轟く。

 俺とフェイルは剣と大剣を振り抜いた体勢ですれ違い、背中を向け合いながら地面を滑った。


「__ガァァァッ!」

「__しぃぃぃッ!」


 振り向き様に体を右に半回転させながら、剣を薙ぎ払う。

 同時に、フェイルも振り向きながら体を左に半回転させて大剣を薙ぎ払ってきた。

 二本の刃がぶつかり、空気を破裂させるように衝撃波が弾ける。


「グルゥ……ッ!」

「ぐうぅ……ッ!」


 ビリビリと腕が痺れ、俺とフェイルは顔をしかめながらまた地面を滑って後ろに下がった。

 そして、また同時に地面を蹴って鍔迫り合いにもつれ込む。

 闇属性の魔力によって格段に上がった膂力で押し潰そうとしてくるフェイルに、ア・カペラで強化した俺は負けじと押し返した。

 額をぶつけながら力勝負をしていると、フェイルは歯を剥き出しにしながら獣のように喉を鳴らす。


「殺ス、貴様は、絶対ニ、このオレが、殺しテヤル……ッ!」


 ノイズが混じったような声で俺への殺意を口にしながら、フェイルは力任せに大剣を振り払った。

 剣を弾かれた俺は少し仰け反り、その隙にフェイルは大剣を思い切り振り被る。


「__フッ!」


 だけど、今の俺には__ア・カペラの効果で常時敏捷強化(アレグロ)状態の俺には、その攻撃は遅すぎる(・・・・)

 短く息を吐き、紫色の閃光を残しながら大剣を振り被っているフェイルの左側に移動した。

 目標を失った大剣は地面を打ち付け、その間に俺は剣を斜め上から斬り下ろす。


「グゥッ!? ガアァァァッ!」


 振り下ろした剣はフェイルの腕を斬り裂き、血が吹き出した。

 痛みに歯を食いしばったフェイルは、今度は大剣を薙ぎ払ってくる。


「シィッ!」


 横から殴りつけるように振われた大剣に対し、俺は足を踏み出して前に出た。

 向かってくる大剣を姿勢を低くしながら避け、後頭部を通り過ぎた大剣がチリッと俺の髪を焦がす。

 ギリギリで避けた俺はそのままフェイルに肉薄し、大剣を振り抜いた体勢のフェイルの腹を横一文字に斬りつけた。


「ゴホッ!? チョロチョロと、小賢シイッ!」


 体をくの字に曲げて吐血したフェイルだけど、そこまでダメージはないように見える。

 多分、体に纏っている闇属性の魔力が緩衝材になったみたいだ。

 すぐにフェイルは大剣を振り上げ、轟音を響かせながら振り下ろしてくる。


「てあぁぁッ!」


 今度は避けるんじゃなく、剣を振り上げて迎え打った。

 ア・カペラの効果で常時一撃超強化(フォルテッシモ)状態の俺の一撃と、フェイルの振り下ろした一撃が真っ向から衝突し、また拮抗する。

 金属が擦れ合う嫌な音と火花をバチバチと散らしながら、そのまま剣を振り抜いてフェイルの大剣を押し返した。


「グゥゥッ!?」


 体を仰け反らしたフェイルはギリッと歯を鳴らし、その場で背中を向けるように一回転してから俺に向かって右の後ろ回し蹴りを放ってくる。

 反射的にしゃがみ込んで回し蹴りを避け、膝を曲げた体勢のままフェイルの軸足に向かって足払いをかけた。


「チィッ!」


 足払いに気付いたフェイルは軸足で跳び上がると、振り上げていた右足を俺の頭頂部に向かって振り下ろし、踵落としをしてくる。

 慌てて横に転がるように躱すと、俺がいた地面に振り下ろされた踵が打ち込まれた。

 そして、爆音と共に地面が砕かれ、衝撃で地面が揺れ動く。


「避けルナァァアァッ!」

「避けなきゃ死ぬっての!」


 攻撃が避けられたフェイルが鬼の形相で怒鳴ってきた。

 理不尽な叫びに言い返しつつ、地面を蹴ってフェイルの懐に飛び込む。


「__はあぁぁぁぁぁぁッ!」

「__ガアァァァァァァッ!」


 下から振り上げられた大剣を鋭角な軌道で左に避けながら、剣を振り下ろす。

 俺が振り下ろした剣はフェイルの左肩を浅く斬り、仕返しとばかりにフェイルは大剣を薙ぎ払ってきた。


「くッ!」


 ギュッと地面を蹴り、加速しながら前に出てフェイルが大剣を薙ぎ払う前に剣を右斜め上から斬り下ろし、今度は右肩を斬り裂く。

 そして、すぐに側宙で薙ぎ払われた大剣を避け、着地と同時に次はフェイルの左足を剣で斬り付けた。


「クソがァァァァッ!」


 激昂したフェイルは、大剣を連続で振り回してくる。

 暴風のような剣戟をスピードで翻弄しながら避け、隙を見て反撃し続けた。

 現状、フェイルの方がパワーは上。だけど、スピードは俺の方が上だ。

 その証拠にフェイルは俺の速度に対応出来ずに、少しずつ傷が増えていっている。


「てあぁぁぁぁぁぁッ!」


 でも、ダメージはほとんどないに等しい。

 闇属性の魔力による防御力もあるけど、それ以前にフェイル自身の肉体が鋼のように硬い。

 こんな浅い傷をいくら刻んでも、フェイルを倒すのは無理だ。


「くぅッ!?」


 俺が与えるダメージは少し、対してフェイルの一撃はまともに喰らえば大ダメージ。なんて理不尽だ。

 ヒットアンドアウェーで攻撃してるだけじゃ、決定打に欠ける。


「なら、強力な一撃を叩き込むしかない……ッ!」


 強力な一撃。俺の必殺技__レイ・スラッシュ。

 それを叩き込めば、さすがのフェイルもダメージを喰らうはずだ。

 

 でも、問題は__その隙がないこと。


 フェイルは俺の攻撃を避けずに、暴風のように大剣を振り回しながら反撃してくる。

 そんな中で俺がレイ・スラッシュを放つのは__暴風に手を突っ込むようなものだ。

 

「ぐあッ!?」


 危険だ。だけど、それしか手がない。

 振り回された大剣に避けることが出来ずに剣で防ぐと、その威力にたたらを踏んでしまった。


「ヨウヤク、隙を見セタナァァァッ!」


 フェイルは口角を歪ませながら、全身のバネを使って大剣の切っ先を突き放ってくる。

 うねりを上げながら向かってくる大剣に、俺は体を大きく仰け反らせてブリッジして避けた。

 鼻先を幅広の黒い鉄の塊が通り過ぎ、襲いかかってくる暴風に唇がめくれ上がる。


「こ、のぉッ!」


 ブリッジの体勢から足を振り上げ、大剣を蹴り上げた。

 そして、体勢を崩したフェイルからバク転して距離を取る。


「危ねぇ……マジで死ぬかと思った……」


 今の攻防は本当にギリギリだった。

 ドクンドクンと鼓動が早くなり、冷や汗が頬を伝っていく。

 フェイルは決めきれなかったことに舌打ちすると、ミシミシと音を立てて大剣の柄を握りしめた。


「抵抗スルナ、雑魚ガ……」


 そう言って、フェイルは左手を俺に向けてくる。

 フェイルはニヤリと笑うと、人差し指と親指を擦り合わせた。


「__<ミュート>」


 ノイズ混じりの声で呟き、パチンと指を鳴らすフェイル。

 すると、フェイルを中心に闇属性の魔力と混じり合った魔力波が波紋のように広がっていった。


「まずい__ッ!」


 速度で叶わないと悟ったフェイルは、俺のア・カペラをかき消すつもりだ。

 慌てて襲いかかってくる魔力波を、顔を腕で隠して堪える。

 魔力波が通り過ぎると、フェイルは歪んだ笑みを浮かべ__。


「……何?」


 すぐに、訝しむように眉をひそめた。

 顔を腕で隠していた俺は腕を下ろしてから、ニヤリと笑い返す。


「どうした? ア・カペラが消えてない(・・・・・)ことが、そんなに不思議か?」

「貴様……何ヲシタ?」


 闇属性と混じり合ったミュートは、強引に魔法を塗り潰して掻き消してくる。

 だけど、俺が使っていたア・カペラは消えることなかった。

 忌々しげに聞いてくるフェイルに、挑発するように教えてやる。


「お前はミュートに闇属性の魔力を混ぜてるよな? だったら、俺も同じこと(・・・・)をすればいい」

「__マサカ、貴様ッ!」


 俺の説明でようやく分かったのか、フェイルはギリッと悔しげに歯を鳴らした。

 そうだ、俺がやったことはフェイルがやってることと同じ。

 その答えを、フェイルが呟いた。


光属性(・・・)を、混ぜタノカ……ッ!」

「ご名答」


 今の俺が纏っている、紫色の音属性の魔力。

 その魔力に、純白の魔力(・・・・・)__光属性が混じっていた。


「闇属性に対抗出来るのは、光属性しかない。魔法を塗り潰そうとする闇属性を光属性で相殺し、あとは今まで通り魔力波を乱してやればいい」


 今まで俺は、音属性と光属性を同時に使うことは出来なかった。

 でも、今の俺は出来る。


「まぁ、土壇場のぶっつけ本番だったけどな。でも、成功した__もう、お前のミュートは通用しないぞ?」


 ニッと笑いながら剣を向けてやると、フェイルはプルプルと肩を震わせて怒りを露わにしていた。


「ダッタラ、力で捻じ伏セルだけダ……ッ!」


 ドクン、と鼓動が響く。

 その音は大剣に侵食するように取り付けられた、赤い核からだ。

 闇属性の魔力を吸い取った核はまた鼓動を響かせ、吸い取った魔力を還元するようにフェイルの体に纏わりついている魔力が強くなる。

 同時に、フェイルは獣のように歯を剥き出しにして、うなり声を上げた。


「殺ロス、コロスコロスコロス……」

「相当、お怒りのようだな」


 殺意と怒りに呼応するように闇属性の魔力が蠢き、脈動する。

 今のフェイルは、暴走する一歩手前__ガラス瓶の中に入れられた爆竹のような状態だ。

 ほんの少しの切っ掛けで爆発し、完全に暴走してしまうだろう。


「__フェイル。お前の怒りや憎しみ、殺意……その全てを超えて、俺は先に行く」


 暴走すれば手が付けられなくなる。

 だから、その前に決着をつけないといけない。

 息を吐きながら俺は、剣を左の腰元に置いて上体を低くしながら居合のように構えた。


「ふぅぅぅぅぅ……」


 集中し、剣身と魔力を一体化させる。

 すると、フェイルは喉を鳴らしながら右足を前に出して半身になり、大剣の切っ先を後ろに下げて構えた。


「グルルルル……」


 俺と同じように剣身と魔力を一体化させたフェイルは、闇属性の魔力でどす黒く染まった、赤い閃光を迸らせた大剣を構える。

 俺は音属性の魔力がバチバチと紫電を迸らせた、純白に染まった剣身を構えてグッと足に力を込めた。


「__シィッ!」

「__ガァッ!」


 そして、俺とフェイルは同時に地面を蹴る。

 中庭を疾走する、黒と白の閃光。

 俺とフェイルは示し合わせたように力強く右足を踏み込み、腰を半回転させながら剣と大剣を薙ぎ払う__ッ!


「__<レイ・スラッシュ!>」

「__<レイ・スラッシュ>」


 純白の魔力を込めた一撃と、漆黒の魔力を込めた一撃がぶつかり合った。

 薙ぎ払われた剣と大剣がぶつかった瞬間、衝撃波が地面を砕きながら波紋のように広がり、遅れて轟音が大気を震わせる。

 バチバチと光属性と闇属性がせめぎ合い、耳をつんざくような甲高い金属音を立てながら俺とフェイルは歯を食いしばって堪えていた。


「う、お、お、ぉぉぉぉぉ……ッ!」

「グ、ル、オ、ォォォォォ……ッ!」


 威力は完全に、互角。ここからは、意地の張り合いだ。

 ここで押し負ければ、確実に負ける。だから、必死に耐えろ。押し返せ。

 俺のフェイルを中心に地面が陥没し、亀裂が走っていく。

 バチバチと紫電と赤い閃光が迸り、周りにあった花壇や木々を焼き焦がした。


「__ぐぅッ!?」

「__ガァッ!?」


 そして、拮抗していた俺とフェイルは同時に弾かれる。

 だけど、すぐに俺たちは右足を踏み出し、レイ・スラッシュを持続したまま剣と大剣を振り合った。


「はあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

「グルアァァァァァァァッ!」


 そこからは、剣と大剣のぶつけ合いだ。

 純白の軌跡を残しながら振り下ろした俺の剣と、漆黒の軌跡を残しながら振り上げられた大剣が衝突する。

 剣と大剣が接触する度に衝撃波が広がり、轟音が響く。

 振り下ろした剣と、薙ぎ払われた大剣。振り上げた剣と、振り下ろされた大剣。

 ぶつけ合い、せめぎ合い、拮抗し、弾かれる。それを何度も、何度も何度も繰り返す。


「__フェイルぅぅぅぅぅぅぅッ!」


 喉が張り裂けそうになるほど声を張り上げ、剣を振り下ろした。


「__タケルゥゥゥゥゥゥゥゥッ!」


 フェイルも声を張り上げ、大剣を振り下ろす。

 重い金属音が轟き、俺とフェイルは鍔迫り合いをしながら額と額とぶつけた。

 衝撃で額が割れたのか、俺とフェイルの顔に血が流れていく。


「はぁッ!」

「グッ!?」


 そこで、とうとう俺はフェイルの大剣を押し返した。

 ここしかない。懐に飛び込んで剣を薙ぎ払おうとして__。


「__ッ!?」


 ゾクリ、と背筋が凍った。

 本能が警鐘を鳴らしている。何かが、おかしい。

 フェイルは大剣を振り上げた状態で、仰け反っている。間違いなく、隙だらけだ。


 いや__あまりにも無防備すぎる(・・・・・・)


 何かがおかしいと感じていた疑念は、すぐに直感に変わった。


「__シネ」


 ボソッと呟いたフェイルは、ニヤリと口角を歪ませている。

 そして、頭上から殺気を感じた。


「う、おッ!?」


 自分の感覚を信じて、振り抜こうとした剣を止めてその場から飛び退く。

 その瞬間、頭上からまるで竜の尻尾のような黒い斬撃が落下してきた(・・・・・・)

 飛び退いたことで、その斬撃の正体が分かった。


 __それは、フェイルの背中から生えていた闇属性の魔力で作られた、触手(・・)だ。


 大剣が弾かれ、無防備を晒していたのは……。


「ブラフ、かよ……ッ!」


 この刹那の攻防の中で練り上げていた、俺を殺すための策だった。

 フェイルは悔しげに歯を鳴らすと、レイ・スラッシュを持続させたまま大剣を振り上げてくる。


「ガアァァァァッ!」


 大剣が振り下ろされると、三日月型の漆黒の斬撃が地面を一直線に斬り裂きながら向かってきた。

 それを見た俺は、すぐに剣を薙ぎ払う。


「てあぁぁぁッ!」


 漆黒の斬撃に対抗して、俺は純白の三日月型の斬撃を飛ばした。

 縦の斬撃と横の斬撃がぶつかり合い、爆音を響かせながら相殺される。

 爆風と砂煙が舞う中、俺は地面を蹴って駆け出した。

 砂煙を突っ切って、俺とフェイルが剣を横に構えた状態で向かい合う。

 大剣を薙ぎ払ってくるフェイルに、俺も同じように剣を薙ぎ払う__。


「ナッ!?」


 ことはせず、鼻先が地面に触れそうになるギリギリまで上体を低くして、大剣を避けた。

 大剣が後頭部を通り過ぎた直後に、俺は剣を薙ぎ払う。


「__喰らえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」


 そして、純白に染まった剣をフェイルの腹部に喰らわせた。

 メキメキと音を立ててフェイルの腹部に剣がめり込んでいき、フェイルは口から血を吐き出す。


「<レイ・スラッシュ>__」


 地面を踏み砕き、体を捻った反動を使って一気に剣を振り抜く。

 光属性と音属性の魔力が混じり合い、鐘の音が響き渡った。


「__<讃美歌(キャロル)!>」


 祝福の賛美歌が世界中に伝わる勢いで轟き、純白の斬撃がフェイルの体を飲み込んでいく。

 

「ゴ、ア、ガアァァァ……ッ!」


 そのまま吹き飛びそうになるのを、フェイルは必死に堪えていた。

 ヒビが入るほど歯を食いしばったフェイルは、ギョロリと赤く染まった瞳で俺を射抜くように睨みつける。


「貴様、モ、道連れ、ダ……ッ!」

「__ぐあッ!?」


 フェイルは僅かに残された闇属性の魔力で触手を作り出し、剣を振り抜いた体勢の俺の右肩を貫いた。

 そして、フェイルは純白の斬撃に飲み込まれて吹き飛ぶ。

 同時に、俺は貫かれた右肩を手で抑えながら倒れ込んだ。


「ぐ、あ、あぁ……ッ!?」


 防御性能が高い真紅のマントすらも貫いて、風穴を空けられた右肩から血が勢いよく噴き出す。

 頭を殴りつけられたような痛みと右肩の熱さに、俺はのたうち回った。


「あ、の、野郎……最後の最後に、やりやがったな……ッ!」


 最後の抵抗に、フェイルは俺に一撃を喰らわせてきた。

 死ぬほど痛いけど、死んでない。

 逆に、フェイルはレイ・スラッシュ・賛美歌(キャロル)で吹き飛び、城の中に突っ込んで瓦礫の下だ。


「俺の勝ちだ、フェイル……」


 俺は死んでないし、あいつは倒れた

 つまり、俺の勝ちだ。

 頬を引きつらせながらどうにか笑みを浮かべた俺は、ドクドクと血が流れている右肩を手で圧迫して止血する。


「うぐ……いてぇ……とりあえず、ポーションを……」

「きゅきゅーッ!」


 ミリアから貰った簡易ポーションを取り出そうとする俺に、キュウちゃんが必死に鳴いていた。

 どうしたのか、と俺がキュウちゃんの方に目を向けると__。


「おい、嘘だろ……」


 山積みになった瓦礫が、グラッと動いたのに気付いた。

 そして、ガラガラと瓦礫が崩れ、そこから一人の男が立ち上がる。


「ゼェ、ゼェ、ゼェ……」


 息を荒くし、血を流した__フェイルが。

 フェイルはギョロリと俺を睨み、ボロボロになった藍色のロングコートを掴んだ。


「邪魔、ダッ!」


 ボロ切れになったロングコートを、フェイルは力任せに破り捨てた。

 腹部に横一文字に痛々しい傷跡を残した上半身を見た俺は、目を見開いて愕然とする。


 褐色の肌をしたフェイルの胸元__そこに、赤い核が埋め込まれていたからだ。


「お前、それは……」


 大剣の剣身にあるのと同じ赤い核がフェイルの胸元に埋め込まれ、ドクンドクンと脈動している。

 さらに、フェイルの体を侵食するように、赤い核から黒い血管が浮き出ていた。

 震える指でその核を指差すと、フェイルはニタリと笑みを浮かべる。


「コレハ、闇属性の魔力ヲ限界まで増幅スル、物ダ……貴様を殺スためニ、改造手術シタ」


 間違いなく、あれは命を削る(・・・・)代物だ。

 悍ましいほどの魔力を放つ赤い核を撫でたフェイルは、瓦礫の下から大剣を持ち上げる。


「モウ、オレはオレを、制御出来ナイ……ソシテ、この戦イガ終わレバ、オレは死ヌ」


 大剣を振り回したフェイルは、ゆっくりとした足取りで中庭を歩く。

 そして、息を吐きながら空を見上げた。


「ダガ、それでもイイ……貴様を殺せレバ、オレの命などクレテヤル……」

「や、やめろフェイル!」


 フェイルは自分で暴走するつもりだ。

 理性を失った、ただ暴れるだけの獣のような姿に、自分の命を賭して。

 止めようとしたけど、もう遅かった。


「__あぁ、ガーディ様。オレも、あなた様の覇道の礎となります」


 その言葉は、フェイルの最後の言葉だ。

 ノイズ混じりじゃない、フェイル自身の声で呟くと__。


「__うぉぉぉ、オォォオォォォォォォォォォォォォッ!」


 月に向かって遠吠えするオオカミのように、フェイルは空に向かって吠えた。

 闇属性の魔力が爆発し、蠢きながら暴れ出す。

 フェイルの体から伸びたいくつもの触手が地面を砕き、侵食していく。

 

「カロロロロロ……」


 そして、血のように赤く染まった双眼(・・)で、フェイルは俺を睨んだ。

 獣のように四足歩行の体勢で、右手に握った大剣を肩に担いで構えるフェイル。

 闇属性の魔力で作られた触手がユラユラと背後で揺めき、まるで尻尾のようだ。

 

 もう、そこにいるのはフェイルじゃない。


 力に酔い、闇に堕ちた暴走するだけの__化け物だ。


「__馬鹿野郎が」


 ギリッと歯を食いしばってから、俺は魔装の収納機能で簡易ポーションを取り出した。

 蓋を開けてポーションを一気に飲むと、右肩の風穴が音を立てて熱くなり、傷が塞がっていく。


「ぐ、あ……」


 高速で治っていく傷の痛みを堪え、完全に治ってから剣を構えてフェイルを__化け物を睨みつけた。


「俺がやることは、変わらない。お前を倒して__闇属性をぶっ倒す」


 だけど、と俺は顔を伏せる。


「俺は、理性があるお前とちゃんと決着をつけたかったよ」


 ボソッと呟くと、フェイルは唸り声を上げながらメキメキと足に力を込めていた。

 俺の言葉は届かない。届くことは、もうない。


「__終わりにしよう。なぁ、フェイル」

「カロロロ……ガァアァァアァァァァッ!」


 そして、フェイルは雄叫びを上げながら、弾かれたように飛び出した。



  

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