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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第七章『漂流ロックバンドと霊峰の絆』

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二十八曲目『打ち破るは拳』

 サクヤは迫り来る紫電を纏った雷の槍を右に切り返しながら躱し、一歩足を踏み出す。


「は、速ッ!?」


 レンカは目の前にいる(・・・・・・)サクヤを見て驚愕していた。

 一足跳びで詰められるほど距離は近くなかったはずなのに、サクヤは一瞬でレンカに接近していた。

 あまりの速度に反応し切れていないレンカに向かって、サクヤは紫色の魔力を纏った右拳を突き出す。


「きゃあッ!?」


 ギリギリのタイミングで風の盾を展開したレンカは、風の盾を吹き飛ばして襲ってくる音の衝撃波に巻き込まれ、短い悲鳴を上げながら地面を転がった。


「クッ……このぉ!」


 地面を転がりながらライフルをサクヤに向け、引き金を引く。放たれた炎の槍をサクヤは紫色の魔力を纏った右足で蹴ってかき消した。

 その隙にレンカは地面に手を置いて一回転してから起き上がり、ライフルを構える。表情を険しくさせながらレンカは口を開いた。


「今の速度は何? 坊や、何をしたの?」

「……教えると思う?」


 音属性魔法を使った訳でもないのに一瞬で懐に飛び込む速度を見せたサクヤに、レンカは困惑している。

 サクヤは静かに拳を構え直しながら素っ気なく答えていたけど、俺には見えていた。サクヤが足を踏み出した瞬間、足下で音属性の魔力が爆発したのを。

 それとサクヤが踏み出した時、上下の重心移動がない無駄を極限まで省いた最適化されている動きだった。

 相対していたレンカからしたら、サクヤの動き出しが読めなかったはずだ。

 音の衝撃による急加速と、動き出しを読ませない動き。この二つが合わせることで、サクヤはレンカの目の前に一瞬で移動した。

 だけど、それがどれだけ難しいことか。足下だけに音属性魔力を爆発させ、移動する方向に調整する緻密な魔力コントロール。無駄を極限まで省く身体操作。

 どれか一つでも狂えば成功しない移動法を、サクヤは戦いの中でやってのけた。


「まぁ、いいわ。ちょっと油断したけど……これならどうかしら?」


 答えないサクヤに対して諦めたようにため息を吐いたレンカは、ニヤリと笑みを浮かべて炎の盾と風の盾を二重に展開する。

 接近される前に事前に作っておく作戦に出たレンカに、サクヤはゆっくり息を吐きながら拳を握りしめる。


「……例え何重に壁を作っても、今のぼくには無意味」


 そう言ってサクヤは両拳に紫色の魔力を纏わせていく。それは俺もよく知っているサクヤの必殺技のレイ・ブローで間違いない。

 でも、いつもよりも魔力量が少なく、洗練されていた。


「……シッ!」


 サクヤは短く息を吐き、足下に音属性の魔力を爆発させて一瞬でレンカに肉薄する。

 展開している盾に絶対の自信があるのか、余裕そうにしているレンカにサクヤは不敵な笑みを浮かべた。


「……<レイ・ブロー>」


 強く踏み込み、炎の盾に向かって紫色の魔力を込めた左拳を叩き込むサクヤ。その一撃で炎の盾が吹き飛んだけど、その後ろには風の盾が待ち構えている。

 だけどサクヤは止まることなく、左手を戻しながら続けて右拳を突き出した。


「<二分音符(ミニム)!>」

「え……ギィッ!?」


 ボクシングのワンツーのように二連続(・・・)でレイ・ブローを叩き込んだサクヤの拳は、風の盾を突き破ってレンカに向かっていく。

 盾が破られるとは思ってなかったのか、目を丸くさせるレンカはただでさえ目で追えないほどの速度に反応すら出来ず、サクヤの拳が左肩に直撃した。

 直撃した瞬間、轟音と共に骨が折れる鈍い音が響き渡る。音の衝撃波に吹き飛ばされたレンカが地面をゴロゴロと転がるのを見ながら、サクヤは鼻を鳴らした。


「……今のは、ニルちゃんの分」

「こ、の……ガキぃ……ッ!」


 左肩を抑えながら痛みと怒りに歯を剥き出しにして睨みつけるレンカ。その姿はさっきまでの余裕ぶった様子はなく、綺麗な顔立ちはまるで鬼のような形相に変わっていた。

 背筋が凍るほどの怒りの感情に呼応して体から魔力を吹き出させるレンカに、サクヤは気後れすることなく逆に睨み返す。


「……怒ってるのは、ぼくの方だ。ニルちゃんを殺し、ぼくの大切な人たちを傷つけた罪……全て、償って貰う」

「吠えるなクソガキ! たったの二枚の防御魔法を打ち破ったぐらいで、いい気になるんじゃないわよ!」


 怒号を上げたレンカは目の前に炎、水、風、雷の盾を連続で展開させ、ライフルの弾を交換して銃口をサクヤに向けた。

 油断も隙もなく、強固な壁に守られたレンカに対してサクヤは両拳と両足に紫色の魔力を纏わせていく。


「……全て、ぶち壊す」


 走り出したサクヤに向かってレンカは炎の槍を放ち、弾を交換すると即座に引き金を引いて雷の槍を連続で放った。

 サクヤは飛来する二つの槍をジグザグに走りながら躱し、一歩踏み出してまた一瞬でレンカに接近する。

 そして、短く息を吐くと目の前にある一枚目の炎の盾に向かい、左拳を振り上げた。


「……<レイ・ブロー・四分音符(クロッチット)!>」


 声を張り上げ、サクヤは左拳を振り下ろして炎の盾を打ち破る。

 続けて右拳を引きながら左拳を下から上に振り上げ、二枚目の水の盾を弾き飛ばす。

 そのまま流れるように右足を軸足にして、左回し蹴りで風の盾を切り裂く。

 蹴り抜いた左足を地面に置き、背中を向けるように回転してから右後ろ回し蹴りで最後の雷の盾を蹴り飛ばした。

 まるで舞い踊るような流れる連続攻撃。その一撃一撃に、音属性の魔力が込められていた。

 つまり、全ての攻撃が(・・・・・・)レイ・ブローということ。これが、サクヤがレンカに勝つために見出した答え。緻密な魔力コントロールと洗練された動きによって編み出した、レイ・ブローのバリエーションなのか。


「これで終わらないわよ!」


 全ての盾を打ち破られたレンカは、向かってくるサクヤから距離を取りながら追加で倍の八枚の盾を展開する。

 どれだけ重ねられるんだ、と驚いている俺とは違い、サクヤは怯むことなく一歩前に踏み出した。


「……ぼくだって、まだ終わりじゃない」


 紫色の魔力の尾を引きながら、サクヤは拳を強く握りしめる。


「……<レイ・ブロー・八分音符(クエーバー)!>」


 一枚目と二枚目の盾を左右の拳で突き破り、三枚目を右の前蹴りで蹴り飛ばす。

 前蹴りを放った状態で跳び上がったサクヤは、四枚目を空中で左前蹴りで吹き飛ばした。

 そのまま振り上げた左足を思い切り振り下ろし、かかと落として五枚目を押し潰す。


「この、クソガキがぁぁぁぁ!」


 ライフルを構えたレンカは引き金を引き、銃口から放たれた風の刃で着地したサクヤを狙い撃つ。

 向かってくる風の刃に気づいたサクヤは、左足を伸ばしながら姿勢を地面ギリギリまで低くして避けた。

 そこから伸ばした左足に重心を移動させ、跳ね上がるように体を起こしながら左拳を突き上げ、六枚目の盾を殴りつける。


「ーーシッ!」


 鋭く息を吐きながらコマのように回転し、右の裏拳で七枚目の盾を。その遠心力を使って鞭のように左足をしならせながら、最後の八枚目の盾を蹴り飛ばした。

 その姿を見たレンカは、悔しげに歯を食いしばる。


「やってくれたわね、クソガキ……だったら、私の限界展開数を見せてあげるわ!」


 そう言ってレンカが展開した防御魔法は……更に倍の十六枚。これがレンカが展開出来る限界の数のようだ。十六枚の防御魔法を同時に展開するなんて、人間業じゃない。

 これが、魔族の本気なのか。思わず身震いしていると、サクヤは気合を入れるように自分の両拳同士を打ち付ける。


「……十六枚。丁度いい(・・・・)


 サクヤはそう呟くと半開きにした右手を前に突き出し、左拳を腰元に置いて構える。

 その姿はーーデルトの構え。まるで生き写しのように構えたサクヤの姿に、デルトの姿が重なって見えた気がした。


「……ぼくが今出来る、レイ・ブローの連続攻撃も……十六発(・・・)。その全てを、叩き込むーーッ!」


 地面を踏み砕きながら、サクヤはレンカが展開した十六枚の壁に駆け出す。


「<レイ・ブロー・十六分音符(セミクエーバー)!>」


 行く手を阻む強固な盾を一枚、二枚と拳を振り上げて壊して進むサクヤ。その動きはデルトが主導になって練習していた、龍神祭で披露する予定だったダンスと同じだった。

 華麗だけど鮮烈に、荒々しくも流麗に舞うよう

に拳を、蹴りを放つサクヤ。砕かれた魔力の残滓が朝日に照らされてキラキラと輝く中、レンカに向かって突き進んでいくサクヤの姿は、戦闘中なのに思わず目を奪われる。

 途中でレンカが放った風の刃に頬を裂かれ、血を流してもサクヤの動きが止まることはない。


「オリン……お前は、そこまで成長していたのか」


 ふと、デルトが涙を流しながら呟いた。

 三十年。長い間離ればなれだった息子が成長した姿に、デルトは流れる涙を拭うことなくサクヤの背中を誇らしげに見つめながら、嬉しそうに……だけど、少し寂しげに微笑む。

 

「オリン! 俺たちの自慢の息子よ! 全てを出し切れぇぇぇぇぇ!」


 デルトは拳をサクヤに向かって突き出しながら、背中を押すように声を張り上げた。

 その声援を聞いたサクヤは、盾を殴りつけながら笑みを浮かべる。


「ーーはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 デルトに答えるように、気合一声。

 十六枚目の盾を拳で打ち抜いたサクヤは、トドメとばかりに右拳に全ての魔力を集め出す。

 だけど、それは大きな隙だ。レンカは口角を上げながらライフルを構えた。


「残念だったわね、クソガキ! これで、終わりよ!」


 ほぼゼロ距離で、レンカは引き金を引こうとしている。この距離で躱すには敏捷強化魔法(アレグロ)でも使わないと無理だ。

 だけど今のサクヤは全ての魔力を拳に集めてるせいで、他の魔法に費やす魔力が使えない。

 最後の最後で、届かないのか。十六枚という普通では考えられないほど重ねられた防御魔法を突破しても、レンカを倒すことが出来ないのか。

 絶望が頭を過ぎっていると、気づいた。


 サクヤが、笑っていることに。


「例え道が険しくても、膝を着かずに笑って進む……そうだよね、お母さんーーッ!」


 サクヤは右拳を構えながら自分の魔装ーー魔導書を展開して、叫んだ。


「ーー解放!」


 サクヤの魔導書は魔法をストックし、任意のタイミングで使うことが出来る。

 ストックしていたのは……敏捷強化魔法(アレグロ)

 急加速したサクヤが一瞬でレンカの懐に飛び込むのと同時に引き金が引かれ、風の刃がサクヤの頬を掠めていく。

 目を見開いているレンカに向かって、サクヤは全身のバネを使って最短距離で拳を突き出した。


「ーー<レイ・ブロー・全音符(セミブレーブ)!>」


 全魔力を込めた拳が、レンカの腹部にめり込む。

 あまりの威力に白目を向きながら口を大きく開き、胃液を吐き出すレンカに、サクヤは一歩前に踏み出した。


「ーーテアァァァァァッ!」


 絞り出すように声を張り上げて魔力を解放する。

 紫色の光を放って空気をビリビリと震わせながら爆音が轟き、音の衝撃波が打ち込まれた。

 レンカは声にならない悲鳴を上げながら弾かれるように勢いよく吹き飛んでいく。三メートルぐらい宙を舞ったレンカはボールのように地面を跳ねながら転がっていき、そのまま力なく倒れ伏した。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 拳を突き出したまま、呼吸を荒くさせるサクヤ。

 やよいと真紅郎、ダークエルフ族の戦士たちと戦っていたスケルトンたちが、倒れているレンカを呆然と見つめている。

 サクヤは天を仰ぐと、明け方の空に向かって拳を突き上げた。


「……ぼくの、勝ちだ!」


 勝利の声を上げたサクヤに、静まり返っていた戦場に雄叫びが響き渡る。

 サクヤは勝ち取った。世界を恐れさせている魔族相手に、勝ってみせた。


「オリン! さすがは俺の息子! お前は、俺の自慢の息子だぁぁぁぁッ!」

「……わぷっ」


 重傷を負っているデルトは興奮で痛みを忘れているのかサクヤに駆け寄り、折れてない腕で強く抱きしめる。

 苦しそうにしているサクヤを無視して抱きしめ続けているデルトに、サクヤは小さく笑みをこぼした。


「……苦しいから離れて、お父さん」

「お、おぉ! すまん……グッ!?」


 サクヤに言われて冷静を取り戻した途端、痛みが走ったのか顔をしかめて倒れそうになるデルトを、サクヤは自分から抱きしめて支える。


「……いいから、今は休んで」

「そう、だな。そうさせて貰う。オリン」


 意識が途切れ途切れになりながら、デルトはサクヤの頭に手を乗せて優しく撫で、微笑んだ。


「大きく育った、オリン。ラピスも、喜んでるはずだ」

「……うん」


 その言葉を最後に、デルトは気を失った。サクヤはデルトを静かに寝かせ、倒れているレンカの方に目を向ける。


「……早く、捕まえないと」


 今は気絶しているけど、いつ目を覚ますか分からない。そう判断したサクヤがレンカの方に歩き出そうとした時……スケルトンたちが動き出した。

 スケルトンたちがレンカの周りに集まると、ボスの黒いスケルトンがカタカタと顎を鳴らす。

 そして、レンカを連れて沼に沈むように地面の中に姿を消そうとしていた。


「……逃がさな、うぐっ!」


 サクヤは止めようと走り出そうとして、地面に倒れ込んだ。サクヤの体力はもう限界。これ以上動くことは出来なさそうだ。

 歯噛みしているサクヤを余所に、スケルトンたちは姿を消していく。

 魔族であるレンカを逃してしまい、不完全なまま戦いは終わった。

 だけど今はとにかく、脅威が去ったことを喜ぼう。

 俺は剣を杖にしながら立ち上がり、駆けつけたダークエルフ族に囲まれているサクヤの元へと向かうのだった。

 


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