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漂流ロックバンドの異世界ライブ!  作者: 桜餅爆ぜる
第七章『漂流ロックバンドと霊峰の絆』

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十七曲目『疑念、調査』

 竜神祭の開催を三日後に控えた頃。竜神様の御神体を祀る祭壇も出来上がり、ダークエルフ族たちは最後の調整としてダンスの練習をしている。

 だけど、誰もが浮かない表情で練習に集中出来ていなかった。その理由はやっぱり、モーラン様のことを心配してだろう。

 竜神祭で披露する新曲を演奏していた時、モーラン様の様子がおかしかった。それから二日経ったけど、モーラン様は家にずっと引きこもっている。

 モーラン様は家に誰も入れず、デルトも足を踏み入れることを許さないほど。唯一、キリは入れるけどモーラン様は顔を見せずに部屋にこもっているようだ。


「パパ、どうしたんだろう……」


 家にいることが気まずくて、最近キリはデルトの家に入り浸っている。心配だけど何も出来ないことにキリの表情は暗かった。

 今にも泣きそうな顔で俯くキリに、サクヤは無言で隣に座ると頭に手を乗せる。


「え? さ、サクヤ?」


 いきなりのことで戸惑うキリに、サクヤは何も言わずに頭を撫で始めた。サクヤなりにキリを気遣ってるんだろう。キリは頬をほんのりと赤く染めながら「……ありがとう」と呟いて笑みを浮かべた。

 そんな二人を微笑ましげに見ていたデルトが、深いため息を吐く。


「まったく、モーランめ。いったいどうしたんだ……せっかくの我が息子のらいぶだったというのに」


 息子であるサクヤのライブを楽しみにしていたのにお預けになったことが、デルトには不満だったみたいだ。モーラン様のことは心配でも、それとこれとは話しは別なんだろう。

 すると、キリの頭を撫でていたサクヤがデルトの方に目を向ける。


「……ライブは、何度でも出来る」

「……そうか。うむ、そうだな! 竜神祭でも披露することだし、その日を待つことにしよう!」


 サクヤの言葉で元気が出たのか、デルトは豪快な笑い声を上げた。

 最近、サクヤはデルトとキリに心を開いているように見える。前までなら二人を気遣うことなんてしなかったからな。

 そんなサクヤの成長に笑みをこぼしていると、デルトはサクヤの顔をジッと見つめながら優しく頬を緩ませる。


「それにしても、オリンはラピスにそっくりだったな。元から生き写しのように似ているが、らいぶの時の笑顔はまさしくラピスそのもの。まるで……ラピスがそこにいるような、そんな気がしたものだ」


 デルトは懐かしむように話すと、やよいが首を傾げた。


「前から思ってたけど、そんなに似てるんだね」

「あぁ、もちろんだ! 俺とラピスはいわゆる幼なじみでな、オリンを見ているとラピスの子供の頃を思い出す。眠そうな目とか、特にな」


 やよいの問いかけにデルトは嬉しそうに答える。今のサクヤを性別を変えたらそのままラピスさんになるのか。そう考えると、なんか面白いな。

 すると、サクヤは眉をひそめながら俺をジトッと見つめてきた。


「……タケル。何笑ってるの?」

「いや、別に? あぁ、そうだ。サクヤ、今度女装してみるか?」

「……真紅郎じゃないから、イヤ」

「待って、サクヤ。ボクに女装趣味はないからね?」


 そっぽを向いて断るサクヤに、とばっちりを受けた真紅郎が苦笑いを浮かべる。


「それにしてもよぉ、族長はどうしたんだろうな?」


 ふと、ウォレスがライブの時のモーラン様のことを聞いてきた。誰もが分からずに首を横に振る中……俺だけは顎に手を当てて考え込む。

 あの時、モーラン様の様子の変化を見ていたのは俺だけだ。やよいたち楽器隊は演奏に集中していたし、デルトを含めた観客たちはライブに夢中になっていた。

 俺だけは、観客の姿を……モーラン様の姿を見ている。モーラン様の様子がおかしくなったのは、サクヤを見た時。


 正確には、サクヤの笑顔を(・・・・・・・)見た瞬間だった。


 そもそも、モーラン様を呼びに家にいった時も変だった。モーラン様は人間の俺じゃなく、同族のサクヤに対して何か警戒しているような、怯えているかのように思えた。

 最初は気のせいかと思ってたけど、こうなってくると疑念が湧いてくる。

 サクヤの何に怯えている? 何を警戒している?


「そういえば……」


 思考を巡らせていると、頭にある光景が過ぎる。

 モーラン様の様子がおかしくなり、サクヤが心配して近づいた時のこと。

 その時、モーラン様は「その顔で(・・・・)ワシに近づくでない!」と叫んで手を払っていた。

 

「サクヤじゃなくて……もしかして」


 頭に電流が走ったように、ある考えに行き着いた。 

 デルトはサクヤの笑顔をラピスさんにそっくりだ、と言っていた。そして、生き写しのようだとも。

 一番最初に会った時も、モーラン様はサクヤのことをラピスさんと勘違いしていた。それぐらい、ラピスさんとサクヤが似ている。


 そうなると、もしかして……モーラン様は、ラピスさんに対して恐怖しているんじゃないか?


 そう考えると、俺の中ではしっくりくる。でも、どうして? ラピスさんにそっくりだからって、そんなに警戒して怯えることがあるのか?


「……タケル」


 こっそりと真紅郎に声をかけられて、我に返る。真紅郎は外に出るように指で合図し、みんなが話しをしている間に二人で外に出た。

 肌に突き刺さるような冷たい風が吹く中、真剣な表情をした真紅郎が口を開く。


「タケルも気づいた?」

「気づいたって、モーラン様のことか?」

「うん。多分、ボクとタケルの考えはほとんど同じだと思う」

「……モーラン様がサクヤじゃなくて、ラピスさんに怯えている」


 真紅郎はゆっくりと頷いた。やっぱりそうなんだな。でも、どうしてなのかまでは俺は分かっていない。

 すると、真紅郎は顎に手を当てながら自身の見立てを話し始める。


「まだ憶測の域を出てないけど……多分、ラピスさんの死に何かしら関わってる可能性がある。もしかすると、サクヤが王国で実験体にされたことも」

「は? 待て待て、それはさすがにどうだ?」


 ラピスさんがどうして死んだのかまでは、デルトに聞いていない。辛い過去だろうから、あまり踏み込まないようにしていた。

 でも、ラピスさんが死んだことに……そして、サクヤが王国の実験体にされていたことまでモーラン様が関わっているというのは、ちょっと考えが飛躍しすぎじゃないか?

 だけど、真紅郎はどこか確信を持っているかのように、どうしてその考えに至ったのか語った。


「もちろん、確証はないよ? でも、タケル。モーラン様の表情を思い出してよ。あの時、モーラン様は恐怖の表情を浮かべていたけど……そこには何か後ろめたいことが露見してしまいそうな、そんな感情が見えたんだ」

「露見する……ラピスさんの死とサクヤのことを、ってことが?」


 真紅郎は険しい表情で頷く。たしかに、恐怖の他に警戒しているようにも見えた。それが、何か隠していることが露見することへの警戒、と考えれば一応納得はする。

 でも……と、頭をガシガシと掻いていると真紅郎が真っ直ぐに俺を見つめながら、ニヤリと口角を上げた。


「タケル、ボクの観察眼を信じてよ。それに今は証拠がなくても、探し出せばいいんだから」


 たしかに、真紅郎の嘘を見抜く目と観察眼は凄い。それで何度も助けられたから、信じるに値する。

 ここは真紅郎の憶測を元に行動した方がいいかもしれないな。当たっていれば大問題だし、違っていたら何事もなく一安心ってだけだし。

 さて、そうなると……。


「証拠探し、だな」


 ラピスさんの死とサクヤが王国に来たこと、その二つにモーラン様が関わっているかどうかを調査しないとな。

 そう言うと、真紅郎は不敵に笑い出した。


「ボクに考えがあるんだ。まぁ、やり方としてはちょっと強引で美しくないかもしれないけどね」


 すると、真紅郎は魔装の収納機能を使ってある物を取り出す。それは、一枚の布。布には金の刺繍で獅子が描かれているその紋章は、マーゼナル王国のものだ。


「それは……マーゼナル王国の紋章だよな? どうしてそんなの持ってるんだ?」

「何かに役立つかなって思ってこっそり盗ん……借りてきたんだよ」


 今、盗んだって言い掛けたような……いや、気にしないでおくか。


「それをどうするんだ?」

「これをモーラン様の部屋の扉の隙間にでも差し込むんだ。それを見たモーラン様がどう動くのかを尾行する。王国と何か関わりがあれば、紋章を見れば絶対に行動を起こすだろうからね」


 なるほどな。ちょっと強引ではあるけど、効果的ではありそうだ。


「オッケー、やってみるか」

「そのためには忍び込まないとね」


 俺と真紅郎は二人で調査を始めることにした。

 誰にも不審に思われないように、俺と真紅郎は族長の家に向かう。周りには誰もいない。家にはモーラン様一人だけのはず。


「……ボクが行ってくる。タケルはどこかで隠れてて」


 声を抑えた真紅郎に何も言わずに頷くと、真紅郎は極力足音を殺しながら家の中に入っていった。

 俺は茂みに隠れ、様子をうかがう。それから一分ぐらいで真紅郎が家から出てきて、俺が隠れている茂みに素早く入ってきた。

 上手くやれたようで、真紅郎は親指を立ててくる。あとは、モーラン様がどう動くか、だな。

 五分ぐらい隠れていると、家の方から何かが倒れるような音が聞こえた。もしかして、王国の紋章に気づいたか?

 

「……<マルカート>」


 そこで、真紅郎が音属性魔法のマルカート……聴力強化の魔法を使った。目を閉じて耳を澄ましていた真紅郎が、突然目を見開くと俺の肩を押して上体を低くさせる。

 そして、家からモーラン様が出てきた。その手には王国の紋章が描かれた布を持ち、周りを警戒するようにキョロキョロと見渡しながら、コソコソとどこかに走り出す。

 俺と真紅郎は目を合わせ、モーラン様の尾行を始めた。


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