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カツとお酒の、味しかしない。  作者: ぎんはなあんず
カツとお酒の、味しかしない。前編
11/14

9.5

「......さっちゃん、もう寝た......?」


 返事がない。念のためもう一度呼んで確認する。


「さっちゃん......?」


 返ってくるのは静かな寝息だけ。完全に寝たようだ。時刻は午後十二時五分。布団に入ってからまるまる一時間経ってしまった。

 今日はさっちゃんが隣で寝ているから緊張して全く寝られない。


「......これぐらいはいいよね」


 ゆっくりさっちゃんの布団へ入り込み、背中にくっついてみる。あったかくて落ち着く。けどそれ以上に恥ずかしくてすぐ元の位置に戻った。

 すごくどきどきして、目がちかちかする。

 すぐに呼吸を整える。

 ......やっぱり私のことは何も感じてないのかな。


「......そうだよね、彼女さんいるし......」


 こうして隣で寝てしまっているのも、きっと何にも思ってないからだろう。胃の上の辺りが変に痛む。布団に入っているのに大きく身震いした。

 なんだろう。

 もう一度呼吸を整え、落ち着いてから寝ようとした。でもやっぱり寝られない。寝られるわけがない。

 何年も前からずっと、ずっと好きな人が隣で寝ているのだから。


「ねえ......さっちゃん......起きてなくてもいいから聞いてね」


 届かない、聞こえないと分かっていても話してしまう。


「私ね、人生で二回、おっきな後悔した。すっごく大きな。泣いちゃうほどの。一回目は、お母さんがお父さんと別れた時。......私は見てるだけしかできなかった。どうしようもなかった。......どうしようも......なかった......」


 軽く唇を噛んだ。


「私が何か言えば、変わったかもしれないんだけど。でもあの時の私は、隅っこの方で小さくなって、ただじっと見てた。自分に火の粉が降りかからないように、ただじっとしてた。今思い出しても後悔してる。どうしてあの時何か行動しなかったんだろうって......これは一つ目。さっちゃんには関係ないんだけどね」


 大きく息を吐いて、話を区切る。誰が聞いているわけでもない。私の考えてる事をまとめるために言う。

 聞いているのは、そう、私自身だ。


「もう一つはね......さっちゃんがあの、彼女さんに告白された時」


 また唇を噛む。血の味がうっすらと口の中に広がる。


「......私の方がもっと、さっちゃんの近くにいると思ってた。私の方がもっと、さっちゃんの心に入り込んでると思ってた。私の方が............もっと早く私の想いを伝えてたら、よかったのかな」


 こんなこと、人に言えない。けど、今ならなぜか、すらすらと言える。

 さっちゃん。

 私ね、


「私、さっちゃんのことが――」


 ごそっと隣から布団が擦れる音が聞こえて、言葉を引っ込めてしまう。

 心臓がどくどくと激しく暴れ、言うことを聞かなくなる。

 ......幸い、さっちゃんが寝返りをうっただけのようだった。


「......さっちゃん......?」


 寝息が近くで聞こえた。もう、寝よう。明日も学校がある。


「......おやすみ、さっちゃん」


 震える声でそう言ってから、ようやく私は、泣いた。

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