9.5
「......さっちゃん、もう寝た......?」
返事がない。念のためもう一度呼んで確認する。
「さっちゃん......?」
返ってくるのは静かな寝息だけ。完全に寝たようだ。時刻は午後十二時五分。布団に入ってからまるまる一時間経ってしまった。
今日はさっちゃんが隣で寝ているから緊張して全く寝られない。
「......これぐらいはいいよね」
ゆっくりさっちゃんの布団へ入り込み、背中にくっついてみる。あったかくて落ち着く。けどそれ以上に恥ずかしくてすぐ元の位置に戻った。
すごくどきどきして、目がちかちかする。
すぐに呼吸を整える。
......やっぱり私のことは何も感じてないのかな。
「......そうだよね、彼女さんいるし......」
こうして隣で寝てしまっているのも、きっと何にも思ってないからだろう。胃の上の辺りが変に痛む。布団に入っているのに大きく身震いした。
なんだろう。
もう一度呼吸を整え、落ち着いてから寝ようとした。でもやっぱり寝られない。寝られるわけがない。
何年も前からずっと、ずっと好きな人が隣で寝ているのだから。
「ねえ......さっちゃん......起きてなくてもいいから聞いてね」
届かない、聞こえないと分かっていても話してしまう。
「私ね、人生で二回、おっきな後悔した。すっごく大きな。泣いちゃうほどの。一回目は、お母さんがお父さんと別れた時。......私は見てるだけしかできなかった。どうしようもなかった。......どうしようも......なかった......」
軽く唇を噛んだ。
「私が何か言えば、変わったかもしれないんだけど。でもあの時の私は、隅っこの方で小さくなって、ただじっと見てた。自分に火の粉が降りかからないように、ただじっとしてた。今思い出しても後悔してる。どうしてあの時何か行動しなかったんだろうって......これは一つ目。さっちゃんには関係ないんだけどね」
大きく息を吐いて、話を区切る。誰が聞いているわけでもない。私の考えてる事をまとめるために言う。
聞いているのは、そう、私自身だ。
「もう一つはね......さっちゃんがあの、彼女さんに告白された時」
また唇を噛む。血の味がうっすらと口の中に広がる。
「......私の方がもっと、さっちゃんの近くにいると思ってた。私の方がもっと、さっちゃんの心に入り込んでると思ってた。私の方が............もっと早く私の想いを伝えてたら、よかったのかな」
こんなこと、人に言えない。けど、今ならなぜか、すらすらと言える。
さっちゃん。
私ね、
「私、さっちゃんのことが――」
ごそっと隣から布団が擦れる音が聞こえて、言葉を引っ込めてしまう。
心臓がどくどくと激しく暴れ、言うことを聞かなくなる。
......幸い、さっちゃんが寝返りをうっただけのようだった。
「......さっちゃん......?」
寝息が近くで聞こえた。もう、寝よう。明日も学校がある。
「......おやすみ、さっちゃん」
震える声でそう言ってから、ようやく私は、泣いた。




