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Aランクパーティー

 ここは【ホピュス】の冒険者ギルドの受付ロビーだ。

 冒険者達は二か月という長い月日をかけ、遂に主人公がいる迷宮の場所が見つけだした。

 現在、そこにギルドマスターと迷宮を見つけ出した冒険者、選ばれた選りすぐりの冒険者パーティーがテーブルを囲み、酒と食事を取りながら話し合いをしていた。


「まずは、迷宮について話してくれ」


 ギルドマスターが言う。


「あっしが見付けたのはここから南西に二〇キロ行った地点にある山の中、その麓に草木の覆われた洞窟がありやした。中を軽く覗くと迷宮独特の特徴がありやしたから間違いありやせん」


 迷宮の特徴と言うと一部を除けば気温が統一されていること、独特の雰囲気、魔力が満ちていること等が挙げられる。

 これは迷宮が魔力が溜まってできることと魔物が魔力から生まれることが分かる。

 迷宮の外に魔物が出てこないのは入り口に特殊な磁場のような物が出来上がり、特殊な状況下でない限り出てこない。


「で、俺達にその迷宮を見てきた欲しいっていうことかい?」


 一八〇センチほどの大柄な剣士がそういった。


「ああ、今のところ迷宮の強さが分かっておらず、二か月も放置状態となると相当魔力が溜まっているだろう。もしかするとボスは進化している可能性がある」


 それで主人公が戦ったボスは強かったのだろう。

 今度は白と金の装飾が付いた錫杖を持った神官の女性が訊く。


「では、進化していた場合は報告をしに帰ればいいですか?」

「いや、お前達なら倒せるだろう。一応このギルドでもA級パーティーはお前達だけだからな」


 そういうとこの場にいる魔法使いらしき女性が苦笑した。


「運が良かっただけ。実力はBしかないと思う」

「まあ、いいじゃねえか。で、マスター、俺達はすぐに出発した方がいいかい? 準備は元々依頼を受けようとしていたから出来てるぜ?」


 ギルドマスターは少し考えるとしっかりと頷き頼むと一言呟いた。


「じゃあ、お前等出発だ!」


 剣士が立ち上がり、剣を片手に出発しようとしたところへ隣に座っていた全身鎧の男性が止めに入った。


「ちょっと待て。報酬はどうなる。お前はいらないんだな? よ~く分かった。俺達に三人で分けるから外で待っていてくれ」

「い、嫌だな~。俺もいるに決まっているじゃねえか。ははは」




 この世界のパーティーは最大四人だ。

 これは迷宮の中で最大で動ける範囲が四人と言うのが適しているからだ。

 まあ、外ならば六人で組んでいるところもある。

 他にもレイドと呼ばれるパーティーを複数で組んだり、協力して依頼を受けたり迷宮を進む時等がある。


「ここが迷宮か……。確かに魔力が溜まってやがる」


 剣士が顔を顰めながらそういった。

 後ろでは魔法使いと神官が頷いていた。


「ま、やばそうだから早めに行こうや」

「そうだな」


 鎧戦士も短く返事をし出発をする。




「この階層は【スライム】だけだな」


 剣士が一階層の半分ほどまで入り【スライム】の核を切り裂きながらそういった。


「皆さん、これを見てください」


 神官が先へ進んでみたところは壁に天井まで届く破壊痕があり、ボロボロに焦げ、切傷が無数につけられ、変な隆起などがたくさんできていたのだ。

 そこの空間は迷宮にしてはとても歪だった。

 そして、近くに湧き水と穴倉があることから主人公がいた場所だとわかる。


 それを見た四人は眉間に皺を寄せ、じっくりとその場を確かめる。


「……こりゃあ、魔物の仕業ではねえな」

「確かに。これは火魔法と地魔法の痕。他にも微かに水魔法と風魔法も感じる」

「大きな切傷は気力の傷跡だ」

「ってことはよぉ、誰かこの迷宮に入ったってことか?」


 剣士の問いに神官が答える。


「そうでしょう。しかも、その人物は子供だと思われます」

「どうしてだ? 威力は駆け出し冒険者ぐらいはあるんだぜ?」


 神官は首を振って傷跡を指さす。


「この傷痕は下に多くあります。特に私達の腰辺りに多いですね。慎重は百センチほどと思っていいでしょう。この穴倉の中に生活した跡が見られます」


 そう言って指差したところは主人公の穴倉……家で、大きさは五〇センチほどの穴の通路、その先には開けた場所があるようだ。

 三人は交替で中の様子を見る。


 全員見終ると難しい顔で腕を組み考え出す。


 中にあるものは主人公がいらないと判断した【スライムの体液】や魔法で作った家具などが置いてあるのだ。


「確かに人が生活していた跡だな」


 剣士がそう呟いた。

 それに頷いて賛成する魔法使い。


「この穴に入れるのは十歳よりも下。七歳ぐらいが限界」

「だが、そのくらいの子供がこの迷宮で生きれるとは思えん」


 鎧戦士が言うように本当は【スライム】を倒すにはステータスが平均一〇はいる。

 これは一対一の場合だと思ってほしい。

 魔物によって異なるが【スライム】の複数戦となるとその一・五倍はいると思っていたらいい。


 主人公は特別だとして、通常の五歳児のステータス平均は凡そ五あればいい方だ。

 だから確実にこの迷宮で生き抜くことはできない。


「もしかして食われたか……?」


 剣士がそういうが神官は首を振って否定した。


「それも考えられますが、この湧き水を調べた結果【癒し水】でした。これさえあれば少なくともこの階層で生きていけます。【スライム】も動きは鈍いので倒せるでしょう」

「どうやって?」


 剣士がそう訊くが、神官は呆れたように頭を押さえきつい口調で辺りを指さして言う。


「この惨状を作ったのは誰になるのですか? 恐らくその子供ですよ? この威力があれば確実に【スライム】は倒せます。いえ、威力から見てDランクの魔物にダメージを与えられるでしょう」

「帰ったとも考えられる」


 そう言われて納得がいった剣士だが、信じられないと言ったように神官を見る。

 だが、それ以外考えられないので先に進むことにしたようだ。


 十字路まで来ると魔法使いが目を閉じ何やら探るように手を上げ右側の通路を指さした。

 これは『魔力感知』と呼ばれる魔法で、存在する魔力の塊を感知することが出来る魔法だ。


「よし、右か!」


 剣士を先頭に進んでいくと右端に大きな岩が現れ、剣士はその岩に手を掛けながら裏側を見て眉を細めた。


 そこにはあの男性の死体があり、この二か月間でさらに腐り迷宮に吸収されようとしていた。

 半分は迷宮が溶かしていたのだ。


「こりゃあひでえ……。歳は十歳ぐらいか?」


 三人も剣士と同じ場所に来て息を飲む。

 冒険者ならいつこうなってもおかしくはない。


「ここで力尽きたってことか?」


 何も考えずに剣士がそういうが魔法使いが首を振る。


「体が大きいから入れない。もっと小さい子供」

「うむ。それに剣で切り付けられたかのような跡がある」

「何かないか調べましょう」


 そう言って神官は錫杖を掲げると詠唱を始め『浄化』の魔法を掛け、男性の身体を灰にした。

 残った物はボロボロの鎧と服だけだった。

 その装備品を触り確かめるが、主人公が全てを取り尽くしたため何も残っていなかった。


「見た目から冒険者だと思うのだが、なぜカードがない?」


 あのカードは特殊な素材で出来ているためほとんど壊れることがない特注品なのだ。


「冒険者じゃないとか?」

「それはない。どう見ても冒険者だった」

「では、考えられるのは子供が取っていったということでしょう。この人の武器もありませんし、吸収されたにしては武器だけというのもおかしいですからね」


 四人は子供も一緒に探そうと決め、第二階層へ足を踏み入れた。



「ここが第二階層だな。魔物は……【キャタピラー】かよ」


 剣士は茂みの傍でもぞもぞと動き、繁みの下に生えているだろう【薬草】をむしゃむしゃと食べている【キャタピラー】を切り裂きながらそういった。


「ここにも跡がありますね。茂みの下の【薬草】が取り尽くされています。知識はあるようですね」


 神官は【キャタピラー】の吐く糸を避け、錫杖から白い閃光を放出し焼き付くし、茂みの傍に屈み手で探りながらそういった。

 三人もそう言われて辺りの茂みで【キャタピラー】を倒し、【薬草】の状態を調べていく。


 こういったアイテムは時間が経つと魔物と同じように復活する。

 だが、それは魔物よりも遅く半日ほどかかるだろう。

 他にも宝箱がそれに当てはまる。


「こっちの【薬草】の綺麗に掘られてるぜ」

「こっちも」

「俺もだ」


 四人は一カ所に集まり再び考える。


「恐らく、回復するとわかり採り尽していったのでしょう。痛み止め程度とはいえ、使えますから」

「だが、これで子供が下へ向かったというのが分かる。それもごく最近だ」


 剣士が真面目にそう言い、三人は急ぐように先へ向かった。




 第三階層へ降りた四人はすぐに【ゴブリン】に襲われ、これを魔法使いの火魔法で倒すことになった。

 主人公と違い詠唱をしているので、この世界は主人公が思った通り詠唱を必要とするのだろう。


「落ちたのは……チッ、【ゴブリンの腰布】かよ」


 【ゴブリンの腰布】。

 これは世界で一番臭く、汚く、使い道のない布で、買取されない不要なアイテムだ。

 だが、加工することで嗅覚の良い魔物にいやがらせをすることが出来る。

 まあ、使う人はほとんどいない。


 逆に牙は高値ではないが主人公が回収した通り売れる。

 一応アクセサリー等になるのだ。

 黙っていればわからない、というやつだ。


「ここにも痕跡が……」


 神官がそう言って指差したところには主人公が投げ捨てた【ゴブリンの腰布】があった。

 これもまた吸収されずに残ったようだ。


「この階層まで降りてきたようですね。どうして帰らなかったのでしょうか?」


 神官は改めて危険な方へ進んでいこうとしている子供に不可解だと悩む。


「子供だからではないか? 力があるのなら試したいと思うだろう」


 鎧戦士がそういった。

 剣士もそれに頷いて同意している。


「女の子だった場合は?」

「それは……」


 二人とも魔法使いの問いに詰まる。

 が、神官が代わりに答えた。


「奴隷……。奴隷ならば先に進む可能性があります。命令などです」


 奴隷は主の命令を聞かなくてはならない。聞かない場合首に付けている首輪が締り殺されてしまうのだ。

 国によって奴隷の使い方も違う。


「そうか……。さっきの死体が主だとすると死んで解放されたが、死にたくなったというのも考えられる」

「いや、それはあり得ない。あの強さもあるのに態々死ぬことはほぼあり得ません。冒険者となれば生きていけますからね」


 神官はそういうがそれは人それぞれだろう。


「とりあえず先に行ってみようぜ。まだ生きている可能性が高い。もしかすると保護できるかもしれんぞ」


 剣士の一言に三人は頷き合い主人公の元へ走り出した。

 その時、


『ああああああああああああああああああッ!』


 何かに阻まれたような壁越しから聞こえるくぐもった子供の大絶叫が聞こえた。

 その後に大爆発が轟き、迷宮を揺るがす。

 そして、


『ブギャアアアアアッ!?』


 と、今度は苦痛を越えたあり得ない痛みに苛まれたときに出る大絶叫が迷宮内に響き渡った。


 三人は脚を止めて顔を見合わすと魔法使いは目を閉じ、全力で『魔力感知』を放った。

 少しして指を上げると主人公が死力を尽くして戦っている【デブリン】の方向、ボス部屋の方を指さした。


 四人は頷き合い猛スピードで入りだす。


 そして再び、先ほどよりも大きな大爆発が起き迷宮を本当に揺り動かし、断末魔のような声が迷宮に響き渡る。


 三人は道に溢れる【ゴブリン】を蹴散らしてボス部屋まで辿り着き、主人公の入っていったボス部屋の門を力強く押して中に一歩踏み込んだ


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