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【スライム】

危な、試験官になってた……。

 体感五日目。

 この二日間、俺は一生懸命剣の腕と魔法の腕、気の腕を上げた。

 剣は素人ながらも早い斬撃と背後以外隙がなくなった……この辺りの敵なら。

 【スライム】は一撃だ。


 魔法は一応全部の属性を確かめ、まだ使い方がよくわからないがある程度の威力で放つことが出来るようになった。

 【スライム】は消し炭だ。


 気はある程度高速で持っていくことが出来るようになった。

 これで【スライム】に手を突っ込んでも気が身体を守り、俺に腕には全く被害がない。

 【スライム】は消滅だ。


 ……【スライム】しか倒したことがないんだ……。


 他にわかったことはあのゼリーだが名前を【スライムの体液】というらしい。

 そのまんまじゃん……。


 どうしてわかったかというと、あの男性から貰ったカードには鑑定機能のようなものが付いていたのだ。


 今まであのカードを単体で使っていたため分からなかったが、右上にあるレンズのようなもので覗くと簡単な説明が表示されるのだ。

 最初はボタンかと思って押すのを頑張っていたのだが、早々にそれは違うと考え魔力や気を注いだりいろいろ試し、光石を翳した時に文字が表示されたのだ。

 それで納得し、今はそのカードをポケットに入れている。


 と、言うことで今日は探索、いや、脱出しようと思う。

 せめて人に会いたい。

 この世界の人類が自分だけではないのはあの男性で確認済みだが、あの男性が最後の……やめておこう。


「ぼろの剣、OK! カード、OK! 準備万端!」


 俺は背後にフラッシュがたかれたかのようにぼろの剣を掲げ、ポケットをビスケットを割るかの如く叩いた。


 俺の装備品は右手にぼろの剣、左ポケットにカード、右ポケットにお金だけだ。

 いや、カードとお金は装備品じゃあねえか。

 ここでは使えません、という大事な物扱いだな。


 俺は最後に名残惜しそうに多めに湧水を飲み、四日間という短い期間だが俺のこの世界で初めての家に別れを惜しむのだった。


 実際、主人公は二カ月ほど住んでいたのだが……。




 男性の死体がある十字路までやって来た。

 まずここまではいいだろう。

 この洞窟が何なのかはわからないが、出口は必ず存在する。……生き埋めでなければ。


 棒倒しをしようにも棒がない。

 剣は無理だから……。

 洞窟なら左手に進んでいけば出れるんじゃね?


 迷路ならダメだろうが、こういう洞窟なら大丈夫だろう。


 俺は左手の壁に寄りながら前後左右上下全てに気を配りながら慎重に進んでいく。

 途中襲って来るのはやはり【スライム】のみで、感覚もそう短くないため大丈夫だ。


 そうそう、そういえば魔物がどこから出てくるのかというと、そこらの壁から出てくるんだよ。

 他の魔物がどうやんのか知らないが、【スライム】は岩の隙間や石の隙間から這い出てくるようにちゅるんっと出てくる。

 初めて見た時はこの世の神秘を見た気分だった。


 想像では霧のようなものが現れて形作るとばかり思ってた。

 まさか、地面から生まれるとは……。

 母なる大地とはこれ如何に。


「それにしてもこの洞窟はどうやってできたんだ?」


 この洞窟が人工物だとすると俺がいくら小さいと言っても大きすぎ、地面は歩きやすく、壁は武骨だが自然に見える。

 だが、自然物にしてはどこかどう出来上がったのか説明できない。

 あと【スライム】以外生物がいないことにも驚きだ。

 まさか動物が存在しないということはなかろう。


 俺は半分いろいろな疑問を考えながら、もう半分は警戒に当てていた。


 襲い掛かってくる【スライム】はもはや敵ではなく、同時に攻められても対処が出来るようになっていた。




 光石がぼんやりと照らし薄暗い中、ごつごつとした壁と踏みやすい地面に音を立てずに慎重に【スライム】を倒しながら進んでいくと前方に曲がり角が見えてきた。


 どうやら左手へ曲がれるようだな。


 まず前方の安全を確認すると顔だけ出して左の通路を確認する。

 【スライム】以外の知らない魔物が出てきてもおかしくない。

 それが出てきた場合の想像をし、すぐに対処できるようにする。


 多分、【ゴブリン】とか出てくるんじゃね?

 こういう時の定番の魔物だよな。


 俺は見つけた通路を曲がり、先に見えてきた小部屋に顔を出し安全を確認した後に入った。


「……どうやら、普通の小部屋だな」


 魔物がいないことを確認した後に改めて小部屋の中を見渡すと部屋の真ん中よりも端の方に箱のようなものを発見した。


 恐る恐る近づくとその箱は魔物ではなく、木の箱のような宝箱だった。

 普通此処でテンションが上がるのだろうが、俺は目を細めて考察した。


 ここに宝箱があるということは……普通の洞窟じゃねえな。

 もしかして迷宮とかダンジョンとかいうやつか?

 もし、そうだとすると罠もあったかもしれん。

 今度から地面にも気を付けて歩かないといけないな。

 あと、【スライム】しか出てこないのはここが迷宮で、そういう階層か仕組みなのだろう。


 俺はそこまで考えると距離を取って剣先で宝箱を開けた。

 慎重過ぎるかもしれんが、もし宝箱が爆発でもしたら防御力一の俺では即死だ。

 いくらこの頑丈な体でも無理だろう。


 まあ、宝箱は何事もなく開いたけど……。


「何が入ってるのかな……ん? 試験管?」


 宝箱の中に入っていたのは二〇センチほどの大きさのガラス瓶に入った試験管だった。

 中には少しドロッとした緑色の液体が入っている。

 想像からポーションの類だろう。

 ガラス瓶はシンプルでこの世界の技術で作れるのか? と思えるほど薄く、線はゴムではなく木だ。

 その辺は世界観に合ってるのかよ……。


 とりあえずその瓶をまだ空いているお尻のポケットに入れた。

 これで全てのポケットが埋まってしまったぞ。

 これ以上持てません、状態だ。

 前世から、モテませんでもあるけどな!


 とりあえず俺はその小部屋から出ると左手に付き、先ほどの通路を真っ直ぐ進んでいく。

 が、今度は部屋も湧き水も穴倉もない行き止まりについてしまった。


「こっちは違ったか。だが、良い拾い物をした」


 このポーションから余計にここが迷宮だと思える。

 なら、俺はどうして迷宮にいたんだ?

 やっぱり最悪な状況を考えてしまうからよそう。




 あの十字路まで【スライム】を倒しながら戻ると、次は左に曲がる。

 もと来た道から真っ直ぐ行く道だ。


 先ほどと同じように慎重に進んでいく。


 俺も力が分かればある程度安心感が持てるのだが……。

 あのカードは個人を認識するようで俺のステータスは反映してくれないんだよなぁ。

 まあ、鑑定らしき機能は使えるようだから助かってるが。


 暫く進んでいくと目の前に大きな部屋が現れた。

 今度も慎重に中へ入り、宝箱でもあるのかと中央まで剣を構えながら移動すると背後から何かが閉まる音が聞こえた。


 慌てて振り返り走り寄ると入ってきた通路に頑丈な格子のようなものが降りていた。

 剣で斬り付けたり、気を拳に溜めて殴りつけるが壊れる気配はない。

 いや、曲がってはいるが微かにだけだ。


 幸い【スライムの体液】が手元にあるため死にはしないが、どうにかしないといけない。

 壁でも壊すか……。


 と、考えたところに、


『キュアアアア』


 と、甲高い悲鳴のような声が何体分もこの大部屋の中に響き渡った。


 俺は襲い掛かられる前に背後に振り返り剣を構え、声の主【スライム】達を視界に収めた。


 敵の数は五!

 全て【スライム】だ!


 俺はまず一番近くにいた【スライム】に向かって上段に構えた剣を振り下ろし、体の中にある急所兼心臓の石ころを切り裂いた。


 その後消え去り地面の上へぽとりと紫色の石とゼリーが落ちた。


 俺はそれを一瞥すると飛び掛かってきた二体の【スライム】から地面を転がることで避け、手短な【スライム】の核に向かって剣を突き立て倒す。


 また二つのアイテムと化す。


『キュアア!』


 今度は後ろから襲い掛かってきたが声を出されたので気が付き、体の重心を落としながら右脚を回転させ剣を横薙ぎに振う。


『キュ~』


 気絶したかのような声を上げる【スライム】だが、こいつらと戦って分かったが気絶することはない。

 なので、切り付け地面へ落ちたところを切りつけてアイテムと化す。


 残り二体……。


 まだ地面に張り付き形状を戻そうとしている【スライム】に目もくれず、こちら向かってと近づき飛び掛かって来ようとしている【スライム】に向けて右手を打ち出し、ポンプの要領で魔力を押し出し魔法へと変換させた。


 俺の手からボウッと燃える音を立てて出てきたのは真っ赤な炎だった。

 これを『ファイア』と名付け、『ファイア』は飛び掛かった【スライム】の身体にぶつかり、水のような塊を燃やし尽くした。


『キャアアアア』


 最後に断末魔を上げて炎と共にアイテムと化した。


 俺はそれを見届ける前に形状を戻しこちらへ振り向こうとしている【スライム】に向かって剣を振り下し、石ころごと切り裂いた。


 残り……なし!


 そう思った瞬間に閉じられた入口の檻が開き、部屋の中心からちょっと離れた位置に先ほどと同じような宝箱が黒い煙と共に出てきた。


「うおっ」


 さすがのこれには驚き思わず声が出てしまった。


 宝箱を尻目にまずは【スライムの体液】と紫色の石を拾う。


 ゼリーは飽きはするが貴重な食料で、紫色の石は魔石だとすると売れるかもしれないので持っておく。


 どのようにして持っているかというと魔法の練習をしている時に小さいながらも異空間へ補完する魔法を編み出したのだ。

 やっぱり時空魔法のようだ。


 大きさはまだ一辺が五十センチほどの箱ぐらいだ。

 多分魔力の大きさに比例するのではないかと思う。

 少しずつ大きくなっていっているのが分かるからだ。


 気は体力を上げたりすると増え、魔力は使うことと精神力を鍛えると上がる。

 精神力を鍛えるのはきつい修行の忍耐やこういった環境でのことだろう。


 五体分の食料と石を入れると最後に出現した宝箱の元へ向かい、剣で慎重に蓋を開けた。

 今回も爆発することはなく、中身を無事に見ることができた。


「今度は……試験管だな」


 だが、今度は青色の液体が入っている。

 恐らくマナポーションといったところだろう。

 いや、アンチポイズンポーション? 長いから解毒薬でいいか。

 とりあえず、使わないので空間へ仕舞う。

 もう半分以上入っているので抜けるころには入りきらなくなっているかもしれん。


 俺は大部屋を隅々まで調べた後十字路まで戻り、今度は男性の死体がある通路へ向かった。




 大きな岩陰で息絶えている男性に感謝と安らかに眠ってください、と手を合わせておいた。


 男性より奥へ進んでいくと何やら空気が変わったかのような錯覚を覚え、ブルリと身震いをするのだった。


「な、なんだ今のは……?」


 俺は腕を擦りながら腰を落として今まで以上に慎重に先へ進んでいく。


 何も変わらない草木一本生えていない洞窟の中を緊張しながら渇いた喉を鳴らして進む。

 心臓が締め付けられるとは言わないが、それに近い感覚を感じている。


 手に握る剣が滑らないように握り直し、罠や敵がいないことを確認する。




 暫くすると先に階段が見え始めてきた。

 喜び慎重に歩きながら進んでいくとその階段は下へ向かいもので少しがっかりしたが、気を引き締めて下へ向かうことにした。


 戻って逆方向に進んでもいいが、この身体で人と会うのは今は避けたい。

 とりあえず、いきなり魔物も強くなることはないだろうから下へ進む。


 俺はこの暗闇になれた目で階段の手前に先ほどの罠のようなものはないな、と確信すると下へ向かう階段に足を踏み入れるのだった。


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