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お邪魔虫登場

 ドロシーヌ。

 身長一五〇センチ後半と俺達より少し高い位だが、歳は一五、薄いプラチナブロンドの髪と綺麗に整った美一文字の顔、スタイルがとてもいい女性だ。

 服装は純白の布に金の装飾が入った神官ローブ、サークレットのような物を頭に着けている。手に持つメイスは金属製でそれなりに攻撃力がありそうだ。

 現在E級の冒険者で職業は水魔法も使える神官らしい。

 魔力が一番多いようで腕試しに下の階層まで降りて来たのはいいが、魔物を倒している間に罠を踏んでしまい魔物に囲まれたそうだ。

 その後俺達が駆けつけどうにか助かったということになる。


 自分の丈に合っていない探索に怒りたくなるが、相手は女性なので優しく諭すように伝えると、


「あぁ、わたしの身を案じてくれるのですね? ありがとうございます。……お優しい、ソフィアノス、様」


 等と言い、俺の手を再び握りしめる始末だ。

 背筋に嫌な汗とつい顔を顰めたくなるのをやめ、その手をやんわりとのける。


 そりゃあ、こんなに美人な人に詰め寄られたり、手を握られれば嬉しい。

 だけど、性格に難がありそうだから俺がこの女性を好きになることはないだろう。


 俺はミューと共にその場を立ち去ろうとすると慌てた様子で俺の手を取り、「地上まで連れて行って下さいませんか?」等と言って来るので仕方なく地上まで連れて帰ることにした。


 その最中に出てくる罠に引っかかり俺が助ける度にキラキラとした目でみる。

 わざとやってるんじゃないのかと言えるほどだが、どれも引っかかるのは俺達が言っていない罠のためどうすることも出来ない。

 ミューの機嫌が悪くなり、俺がそれに付きっきりになると態々俺の腕に手を絡めて話しかけてくる。


 次第にミューは俺の声にも反応しなくなり、俺も内心険悪なっていくのが分かった。


 いろいろと腹が立つが一度引き受けてしまったので撤回することも出来ず、さっさとボスを倒しに行くことにした。

 ミューもその考えに賛成なのか今までにない力で倒している。


 その後一〇層のボスを倒し転移装置を起動させて帰るのだった。




「ありがとうございました。そのー……お礼と言ってはなんですが、私を使ってくださいませんか?」


 これで別れられると思ったが、地上に帰ると共にドロシーヌは夕日を背後に髪を掻き上げ微笑みながらそう言った。

 俺とミューは訳が分からず首を傾げるが、女性は気付いた様子もなく続ける。


 意味からして体を使えという意味でないことは理解できる。

 だが、あの戦闘を切り抜けて力を貸そうという意味が理解できない。

 足手纏いにはならないだろうが、俺達にメリットはほとんどない。


「お強いですが見たところ回復職がいない御様子。これでも私は神官ですからお役に立てると思うのですが……」


 ドロシーヌは少し俯いて下から覗き込むように俺のことを見てくる。

 周りからは冒険者や野次馬が集まり、何事かとおもしろがりながらこの成り行きを見ている。


 何でこんなところで言うんだ?

 そういうのは帰ってから言ってほしい。

 このままじゃあ、どうしようもなくなる。

 何故かミューも不機嫌になっているし、仕方ない!


「そういうことは後日話そう。今は疲れているから宿屋へ帰らせてもらってもいいか?」


 俺がそういうと周りの野次馬は少し残念がり、冒険者は野次を飛ばしてくる。

 そう言うとミューの服を掴む手が少し緩みその隙にその手を握り締めると、目の前で悲しそうにしているドロシーヌに向かって頭を下げ、集まった人の間を縫って外へ出て行く。


 ドロシーヌが俺達を追ってくるが後ろを見ることなく俺は手放さないようにミューの手を握り、商業区画にある【精霊の宿木】まで戻って来た。


 ミューの様子を確認すると早く走り過ぎたのか顔を赤くして息を整えていた。

 すまないと心の中で謝り、こうするしかあの時切り抜けられなかっただろうと思う。


「大丈夫か?」

「はぁ、はぁ、う、うん」


 息を付くと俺の元まで近寄り、宿屋の方へ入っていく。

 俺はドロシーヌが来ていないことを確認してから宿屋の中へ入り、ミューと部屋の鍵を貰って疲れた足取りで部屋の中に入っていく。


 この日はミューに平謝りし、許してもらうと明日の予定を詰めていくのだった。




 次の日。

 俺とミューはいつものように起き、空間から着替えを取り出し着替えると朝食を食べに一階の食堂へ向かった。


 あれから別々に着替えるようにしているので問題ない。


 昨日あんなことがあったので今日は休みにしようかと考えたが、宿屋にいてもすることがなく、ドロシーヌは得体が知れないので宿屋を見つけてくるかもしれない。

 そう考えるとやはり迷宮に挑みドロシーヌの来れない階層に挑むのがいいと思ったのだ。


 ドロシーヌはミューとも合わない様で昨日は許してもらった後、ミューには珍しく愚痴を俺に零す。

 俺はそれも同感だったのでいろいろと話が盛り上がった。


「お待たせ。今日のメニューは食パンとシチューよ」


 セリカがそう言って俺とミューの分の朝食を運んできた。


 目の前に置かれた朝食は良い匂いのする一口大の野菜がゴロゴロと入っている白色のシチューとこんがりと焼かれた食パンとジャムだった。傍には新鮮な野菜とドレッシング、スクランブルエッグが添えられている。


 いつもおいしそうだ。

 これを食べるから迷宮に行くのが楽しくなる。


「シチューはお代りできるからたくさん食べて大きくなって探索をがんばりなさい」


 セリカの応援に俺とミューは短く返事をし、セリカがいなくなると同時に朝食を食べ始める。


 今日の予定は一五層まで行くことになっている。

 ミューも一四層までしか行っていない為今回は一五層の下見と挑めるのなら一五層のボスも挑もうという話になっている。


 一五層のボスは【レッドスライム】と呼ばれる【スライム】の上位種が相手だ。

 こいつは火魔法を吸収し傷を癒す特性を持ち、自身も火魔法を使って来る強敵だ。また、【スライム】よりも動きが早く防御力も高く、皮膚に触れると解ける他にも火傷のような症状が出る為多くの冒険者が苦戦する魔物だ。

 ベンダー達もこの【レッドスライム】に苦戦しているそうだ。


 だが【レッドスライム】は水魔法に弱く、【スライム】同様体の中に核がありそれを壊すと倒せる。


 魔法を使う相手と初めて相対することとなるため躓くのだが、俺達にとってはいい訓練となるだろう。

 そのこともあり、何度か挑むことになると思うことを伝えてある。


「とりあえず一五層まで行ってみるが、その間の四層については大丈夫か?」


 四層に出てくる魔物はボスだった【ワイルドドッグ】と【ゴブリン】等の亜人や獣が多くなる。

 だが、二種類以上出てくることがないためそれほど苦戦することはないだろう。


 一一層が【ワイルドドッグ】と【グリーンキャタピラー】だ。

 【グリーンキャタピラー】というとあの粘着性のある糸が特徴で、今回はあれに掴まると【ワイルドドッグ】に食われてしまうだろう。

 そうならないように立ち回りこちらも連携を取らなければならない。


 一二層は【ゴブリン】と【モグラ】だ。

 これは特に問題ないだろうが、【ゴブリン】の力と数、【モグラ】の奇襲には気を付けた方がいいだろうな。


 一三層は【ビー】と呼ばれる二〇センチほどの蜂と【ウッドスティック】と呼ばれる【ウッド】の上位種に当たる魔物が出てくる。

 こいつらは火に弱いが素早いため中々攻撃が当たらないと言われている。

 俺達ならステータスと詠唱の無い魔法で奇襲をかけることで蹴散らすことが出来るだろう。


 一四層は【ワイルドドッグ】と【ゴブリン】ということで数が一番多い階層となる。

 体力の温存もしないといけなくなり少し苦戦することになるだろう。


 一五層は【スライム】と【プチレッドスライム】と呼ばれる【レッドスライム】の分身体が出てくるそうだ。

 大きさは【スライム】より一回り小さく吸収能力を持っていないが耐性はある。

 やはり核があるのでプレス攻撃を避け、出て来た核を切りつけるのが一番いいだろう。


「【スライム】はちょっと苦戦する。短剣、届かない」


 そうだな。

 確かに短剣でスライムの核を攻撃しようとしても届かないだろう。

 なら魔法ということになるが……今度少し長めの忍者刀の様なものを作ってもらうか?

 腰の後ろに横向きで括り付ければいつでも使えるだろうし、ミューなら使いやすいだろう。


 そうこう話しながら朝食を食べ終えた頃、ドロシーヌが現れた。


「やっと見つけました」


 俺とミューは顔を顰め、嫌そうな顔をするが気にした様子なく俺の隣へ図々しく座る。


 何なんだこの女は……。


「それで私を連れて行ってくれますか? 役に立てると思いますよ?」


 一〇層で躓いていたのについてこれるのか?


「悪いが他を当たってくれ。俺達はもっと下へ潜るつもりなんだ。実力が伴っていないのなら連れて行くことはできない」


 昨日のことからドロシーヌにはきっちり言わないと意味がないと理解したので、俺は思っていることをそのまま口にした。


 するとドロシーヌは目に涙を浮かべ俺の身体に抱き付いてきた。


「そ、そんなことを言わずに……。どうか、私を連れて行って下さい! 助けてもらったお礼がしたいのです!」


 だからこういう女は嫌いなんだ!

 ミューと雲泥の差があるぞ!


 俺は抱き着いてくるドロシーヌが悲しもうが引き剥がし、冷たい目を向ける。

 ドロシーヌは想像通り悲しそうな悲痛な表情となり、周りから見たら俺が悪役になっているのだろうか眉を顰めている者もいる。


 だが、普通に考えればこの女の方がおかしいんだぞ。

 勝手に恩義を感じ、勝手についてこようとする。

 迷惑だから付いてくるなとこっちは言っているのにな!


「お礼は別にいらない。お礼として魔石とドロップアイテムを貰っているからな。ミューもいいだろう?」


 そう訊くと返事をすることなく頷き、朝食を食べ終えて外に出て行った。


 クソッ、なんでこうなるんだ!

 またミューを怒らせたじゃないか!


「お願いします! なんでもしますから」


 ドロシーヌは今の状況を理解していないのか必死に頭を下げて懇願する。

 さすがにこれ以上続けても意味がないと俺は理解し、ミューの元へも行かないといけず、どうししたらいいのか考える。


「……それに、パーティー登録しちゃいました」

「……は?」


 思いもしなかった言葉に一瞬固まり、巣の言葉が出てしまった。


 何て事をしてくれたんだ、この女は……。

 これじゃあ、パーティーを組むしかないじゃないか……。


「で、でも回復できますし、魔法が使えるので役に立てます! どうか連れて行って恩返しさせてください!」

「……そこまで言うのならいいだろう。連れて行ってやる。だが、迷惑になることはするなよ」


 俺がそう言うとドロシーヌは目を輝かせて何度も頷き返事をする。

 周りの冒険者や客は頷き、俺に対して何が不満なんだという目を向けてくる。


 不満だらけだというのに……。


 すぐに宿屋を出てミューの元へ向かうと、ミューは宿屋の外で壁に背中を預け待っていた。


「すまない!」

「いい。さっさと行く」

「あ、ああ」


 俺はすぐに頭を下げて謝るとミューは怒ったように短く答え先に進んでいった。

 俺はそれを追い駆けるように追いつき、なぜか抱き着いてくるドロシーヌを剥がしながら先を進むのだった。




 迷宮に入り、第一〇層まで辿り着いた。


 ドロシーヌの戦い方は何かおかしい気がするが、想像していたよりも結構強いので役には立っている。

 ミューもそれには賛成のようだが何かちょっと不満そうで俺の周りからいつも以上に離れようとしない。


 手に持つ金属製のメイスを目の前の【モグラ】を叩き付けた姿はモグラ叩きのようだった。


 今日はこの辺りで連携の取り方を中心に行い、一か月間はこうして過ごすつもりだ。


 少々長い気もするが連携が取れていないとこれからの戦闘は苦しくなるだろうと考えたからだ。

 それに急造のパーティーとほぼ変わらず、俺とミューはドロシーヌにそれほどいい感情を持っていないので仕方ないだろう。




 地上まで帰ると明日の予定を簡単に説明し別れることになった。

 ドロシーヌと別れた俺とミューは手を繋いだ状態で【精霊の宿木】まで帰宅する。


「ミュー、すまんな。パーティーの解消は出来ないんだ」

「そうなの?」


 冒険者の冊子の中に書いてあった。


 パーティーは困難に立ち向かう、絆を高める、強敵と相対する、一人ではできないことを分かち合い高みを目指し、栄光を手に入れるためにあると共に死亡率の低下、戦争等の時に連携を図りやすくする、冒険者自体の仲間意識の向上などがある。


 このようなことからパーティーを組むと三か月ほど抜けることが出来ないのだ。

 パーティーに不利益――仲間の死亡、手引き等を起こせば解消可能だが、罠に掛かった、戦闘での負傷、報酬の減少などはパーティーの連携がまだ組み始めで満足に取れていないと判断され、解消するのはもう少し待ってください、となるのだ。


 恐らく俺達の場合それほど不利益がなく単なる私情によるもののため頑張れとなるだろう。

 確かに勝手な登録は腹が立つが悪い方へは進んでいないのでまあ、いいだろう。


 後で冊子を読み返しておくか……。


「まあ、そういうわけで無理なんだ。後三カ月すれば元に戻れると思うから我慢してくれ」


 俺は軽く頭を下げてミューにも我慢してほしいと伝える。

 俺と違って十歳と半年しか経っていないミューはまだ考えが子供だ。

 感情のままに動くことが良くあるのでその辺りを俺はしっかり支えないといけないのだ。


「……わかった。後もうちょっと我慢する」

「本当に済まないな」


 俺はそう言ってミューの頭を撫でるのだった。


私もこういうずいずい来る女性はきら……苦手です。


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